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ゲームの遺伝子 解析記録 vol.12 ストリートファイター

皆さん、こんにちは。「ゲームゲノム」シーズン2にて「ライバル〜ストリートファイター〜」を担当しました、ディレクターの佐藤圭介と申します。我らがMCの三浦大知さんも読んでくれているという、このnote連載。気合いを入れすぎてとても長くなってしまったので、「ガイル」よろしくゆっくりコーヒーでも飲みながら、ご笑覧いただけるとうれしいです。
 
ちなみに私は金髪のアメリカ人キャラクター「ガイル」推しなのですが、意図せず番組にもそれがにじみ出ていたようで、制作中いろいろなセクションの方から「ガイルが好きなんですね」と、ご指摘を受けました。
ガイルびいきしすぎてもよくないので、このnoteはガイル要素を薄めにしたいと思います。
 
実は私、「ゲームゲノム」を制作するのはこれで2回目。シーズン1では、とても思い入れのある作品『バイオハザード』を取り上げ、制作させていただきました。
 
自分の思い入れが深いゲーム作品で番組を作れる…ゲームが大好きな私にとって制作していてこんなに楽しい番組はありません。前回に続き、今回も「どうしても扱いたい作品がある!」と手を挙げさせていただきました。ほかのどのディレクターにも渡したくない、どうしても私が扱いたかった作品…それが『ストリートファイター』です。
 
私は1989年(平成元年)生まれで、スーパーファミコンの1年先輩にあたります。ゲーム好きの兄がいたので幼い頃からゲームに囲まれて育ちました。そして幼稚園に入る前からスーファミのコントローラーを握りしめて、夢中でプレイしていたのが『ストリートファイターⅡ』でした。

格闘ゲームの金字塔『ストリートファイター』シリーズは、技を繰り出して相手の体力ゲージを先にゼロにしたほうが勝ちとなるゲームです。“ストⅡ”と言えば誰でも通じる『ストリートファイターⅡ』(1991)をはじめ、最新作の『6』(2023)まで数多くの作品が存在しますが、さまざまな技を繰り出し相手の体力ゲージをゼロにすれば勝利という基本システムは、どれも変わりません。
 
当時の私はコンピューターを相手に【ジャンプ強キック→しゃがみ強キック】を繰り返し「俺TUEEE」と悦に入っていましたが、4歳上の兄からすれば私はよき練習台です。いつもボコボコにされていましたが、そのくやしさが各キャラの必殺技を練習する原動力となりました。兄は「ケン」を使用していたので、似たような性能をもつ「リュウ」では(兄との年齢差で)勝ち目がないと思い、以来「ガイル」を使い続けています。『ストⅡ』だけでなく『カプエス2』でも、『ストⅣ』や『Ⅴ』でも、ガイル一筋30年です。そろそろリアルでソニックブームが出せてもいい頃です。最新作『ストリートファイター6』でも、先日ようやくガイルでマスターランクに到達することができましたが、大の苦手なザンギュラにスクリューパイルドライバーを決められまくるなど、マスター帯の猛者たちのおもてなしを受けています。しゃがみ大パンツでの対空もそろそろ限界です。

左がガイル。右がザンギュラ。近づいてこないでください。

いろいろ書いてしまいましたが、つまるところ私は30年間ずっと『ストリートファイター』のとりこということです。そんな昔から大好きな作品である『ストリートファイター』を、どうしても取り上げたい…!この面白さをたくさんの人に届けたい…!そしてあわよくば、私と闘ってくれるファイターを増やしたい!そんなよこしまな思いにもやや背中を押されながら、企画書をしたためることにしました。
 
この番組では必ず、プレイヤーが作品から受け取ったもの、そしてクリエイターが作品に込めたものを1つの大きなテーマとして掲げ、VTRやスタジオトークを交えながら少しずつひも解いていきます(これらを我々は“ゲームゲノム”と呼んでいます)。今回の『ストリートファイター』でいえば“ライバル”がそれにあたります。この大テーマは毎回番組の副題にもなるものです。そして視聴者に切り口を示すための重要なメッセージであり、取材や収録、編集などの指針にもなります。
 
今回のこの「ライバル」というキーワード…実は私が生み出したものではなく、ある人物の発想から生まれたものでした。その人物こそ…シーズン2の初回となる「天地創造~ファイナルファンタジーXIV~」回を制作し、番組の総合演出も担う平元慎一郎ディレクターです。 

平元慎一郎ディレクター(許可をもらってSNSの投稿から拝借) 服装も番組作りもスタイリッシュにキメます

当初私は、『ストリートファイター』の大テーマを“相手の心に思いをせる”と掲げようと考えていました。「殴り合うゲームなのに“相手の心に思いをせる”ってどういうこと?」…そんな意外性を突こうとしていたわけです。
 
春のうららかな陽気漂うある日。番組プロデューサーと平元ディレクターとの会議で、私は得意げに『ストリートファイター』回の構成イメージの説明をしていました。「チョー余裕っす!」私はピンク色の服を着ていました。

佐藤:ストリートファイターって、一見ただの殴り合いのゲームじゃないですかぁ? でも勝つためには“相手の心に思いをせないといけない”んですよぉ!(ドヤ)
平元:ふむふむ。なるほど、いいですね。でも…佐藤さんの話を聞いていて感じたのは… たぶん『ストリートファイター』の【ゲノム】は“ライバル”です。
佐藤:えっ…。
平元:『ストリートファイター』って、なにより対人戦が面白いですよね。勝ってうれしい、負けてくやしい的な。じゃあ…誰に負けて悔しいか、誰に勝ちたいか…たぶんプレイヤーそれぞれの“ライバル”です。佐藤さんもそうですよね?
佐藤:…はい。

K.O.!
見事にやられました。思いきり飛び蹴りをかましにいったら、「真・昇龍拳」で対空されたくらいの衝撃です。平元ディレクターの言うとおり、このゲームの面白さの根底にあるのは対人戦であり、同じぐらいの技量の相手=ライバルに勝つことこそが醍醐だいご味なのです。
「なんのまだまだ1ラウンドとられただけ!」…しかし平元ディレクターの勢いはとまりません。
 
平元:“ライバル”っていうワードに包括すると、ゲーセン文化とかの過去の『ストⅡ』ブームにも触れやすいと思うんです!
平元:ライバルは生きていく上でも普遍的な存在だし、ゲストの人生におけるライバルの話とか引き出せたら、スタジオ収録でのトークも盛り上がりそうですよね!
佐藤:…はい。
 
パーフェクトなK.O.です。画面端で柔道されました。親父ィィィ!
※柔道…連続で投げを行うこと
 
「ずっとプレイしてきたのに、どうして“ライバル”というキーワードが思いつかなかったんだ…。」さっきまでの浮ついた気持ちから一転して反省するのと同時に、ふつふつとこみ上げる思いがありました。「そうか、俺にとってのライバルは平元さんだな…!」

実は平元ディレクターと私は同い年。同じディレクターでありながら、ゲーム好きの同志でもあります。プレイしてきた作品に違いはあれど、ゲームの進化を目の当たりにしてきた「ゲームネイティブ世代」として、ゲームへの愛では負けたくない!「平元さんの回に負けないような面白い番組を作ってやる!」…そんな気持ちが湧き上がりました。
そして、さらにもうひとつ「“ダン”にはなりたくない!」(ダン好きの皆様申し訳ありません)。
“ライバル”という大きなテーマが、ライバルの平元ディレクターによってもたらされたのは少し悔しかったですが、彼に追いつけ追い越せの気持ちで番組制作に臨み始めることができました。

大テーマこそ平元ディレクターから生まれたものの、それを構成する中身は私のイメージしていたものから大きくズレることはありませんでした。となれば早速、スタジオ収録で流すためのVTRの制作に取りかかります。「ゲームゲノム」ではどの回も、基本的にディレクター自身のゲームプレイをキャプチャ(画面収録)し、それを編集してVTRを作ります。と、ここで大きな問題に気がつきました。それは対戦相手がいないとイイ感じにヒリついた対戦シーンが撮れないということ。
 
コンピューターと対戦することもできますが、人間とはやはり動きが違います。オンライン対戦で出会う見知らぬ人とのバトルでは、VTRを作るために欠かせない説明パートはもちろんのこと、本作が持つかっこよさやヒリついた闘いを収めることはできません。そこで私は、ある友人に連絡をしました。高校・大学と同級生であり、同じサッカー部に所属していた親友です。そして私と同じくらいゲーム好きで、ゲームの腕前も同じくらい。まさに“ライバルなロケを生み出せる”うってつけの相手です。
 
繰り返しになりますが『ストリートファイター』は、同じくらいの技量の相手(=ライバル)にギリギリで勝てたときが何よりも楽しい瞬間です。勝負事ですから、結局勝てないと面白くありません。相手が弱いと歯応えがなくて面白くないし、相手が強すぎると「これは勝てないや」と、そもそも勝ちに対する気持ちが起こりません。そもそも相手がいないと対戦することすらできません。だから対戦してくれる相手がいるということは、とてもありがたいことです。友人がいなければ、いい感じに熱を帯びた対戦シーンは撮れませんでした。協力してくれた友人に改めて感謝です。

少し話が脱線しますが、動画配信サイトで最新作『ストリートファイター6』関連の動画を見ていると、これまで格ゲーをやったことのない人たちも本作を遊んでくれていることを強く感じます。
 
新たに格ゲーに参入してくれる人が増えるのは、我々古参の格ゲーマーにとっても大変うれしいことです。人が増えなければ対戦界隈かいわいは盛り上がらず、未知の強豪と出会うことも難しいからです。『スト6』が格ゲープレイヤーを増やしたのは、「モダン操作」と呼ばれる、はじめて格ゲーに触れる人にも優しい操作方法が導入されたことも大きな要因です。例えば「波動拳」という必殺技を出すのに、従来であれば「↓↘→」とキー入力し、最後にパンチボタンを押す必要がありました(「コマンド」と呼ばれる技の入力操作です)。ですが、「モダン操作」であれば複雑な入力を必要とせず、どんな技でも簡単に出すことができます。波動拳なら「△」のワンボタンで繰り出せます(そのかわり、コマンド入力に比べて威力が低くなるというデメリットもあります)。
 
番組中でも読み合いこそストリートファイターの最も面白い部分と紹介しましたが、これは技を適切に出せることが前提条件です。例えば相手がジャンプで近づいてきた場合、「昇龍拳」などの対空技で迎撃をしたいのですが、そもそもこの「昇龍拳」などのコマンド入力が初心者には大変難しく、なかなか思ったように出すことができません。これがままならないと、面白いはずの対戦が途端にストレスになることもあります。つまり読み合いの面白さを実感するには、対戦のスタートラインに立つための“訓練”が従来の作品では必要だったのです。
 
これを解決したのが「モダン操作」というわけです。技を簡単に出せるだけでなく、これまた難しいコンボ(連続攻撃)もボタンを連打しているだけで自動的に叩き込んでくれます。尺の都合で番組内では惜しくも扱えなかったこの「モダン操作」。「格ゲーは操作が難しいからできない」と思っている人に、新たなゲーム体験を与えてくれるに違いありません。

格ゲーの醍醐味は読み合い!たくさんの人にこの面白さを体験してほしいです

VTRを無事作り終えると、いよいよスタジオ収録です。そこに『ストリートファイター』の開発者である中山貴之さんにご出演いただけることになりました。
 
私は、本シリーズの開発元であるカプコンの広報さんから「中山は子供の頃に『ストⅡ』を夢中でプレイしていました。弊社に入ったのも『ストリートファイター』を作るためなので、作品への熱意は誰よりも高いです。トークも慣れています」と聞いていました。そして、その言葉どおり、中山さんは抜群のトークスキルと情熱で、本シリーズの魅力を語ってくださいました。特に印象深かったのは《お弁当とお箸》の例え話です。
 
ここで、本シリーズの30年以上に渡る歩みについて触れたいと思います。社会現象にもなった『ストリートファイターⅡ』以後、『ZERO』シリーズや『Ⅲ』シリーズが誕生し、シリーズはさらに進化を遂げていきます。一方で、もともと必殺技のコマンド入力が難しいことなど、ある種の敷居の高さは残り続けていました。加えて、新たな作品が生まれるにつれ、システムも変わっていきます。もちろん、それは説明書に書かれてはいますが、具体的にどうすればうまく扱えるのかといった手ほどきはゲーム中には存在せず、トレーニングモードにもって練習し、戦いの場で実践して身につけるほかありませんでした。
 
もともとの敷居の高さに加え、ゲーム中で上達の方法が提示されない―――。
 
格ゲーは次第に一部の限られたプレイヤーだけが遊ぶものになりつつありました。そして格ゲーの“プレイヤー離れ”が進んでいく肌感覚が、開発陣の皆さんのなかにもあったそうです。ですが中山さんたち開発陣は、この問題と真摯しんしに向き合います。
 
ストリートファイター』は、なにも一部の熟練プレイヤーだけのものじゃない。たくさんのプレイヤーにライバルとの闘いを楽しんでほしい。」
 
そんな思いから、初めて格ゲーに触れる人にもわかりやすいように、丁寧に作り上げたのが『スト6』だと語ってくれました。「対戦自体はどの作品でもとても面白い、でもその楽しみ方を提示できていなかった」。それを「おいしいお弁当に、お箸がついていなかった」と例えて表現してくれた中山さん。こういった“パワーワード”を引き出すことが番組ディレクターとしての腕の見せどころなのですが、中山さんのようにトークが上手だと、とても助けられてしまいます。

『バイオハザード』の竹内潤さんもそうでしたが、カプコンの皆さんはトークがうますぎる…研修があるのかな?

秀逸な例えで聞く人をうならせ、時にはユーモアを交えたサービストークで場を盛り上げてくれた中山さん。そして、この作品を扱うことが決まる前からすでに自ら『スト6』をプレイし、深い考察まで導いてくださったMCの三浦大知さん。幼い頃にゲームセンターで『ストⅡ』をやりこみ、当時の盛り上がりや原体験を熱く語り込んでくれた横山裕さん。それぞれのトークが見事に混ざり合い、すばらしいスタジオ収録となりました。

VTRも完成し、スタジオ収録も無事終わった!さぁ、あとは完成に向けて編集するだけだ!…いいえ、そうではありません。本シリーズを取り上げるにあたって、絶対に欠かすことのできないピースがもうひとつだけありました。それこそが、“BEAST”こと梅原大吾さんです。

プロゲーマー梅原大吾さん。ゲームだけでなく、お話も恐ろしく達者です。

梅原さんは、日本人初のプロゲーマーであり「世界で最も長く賞金を稼いでいるプロゲーマー」といった3つのギネス記録を保持する偉大なプレイヤーです。史上最も多く視聴された対戦型ビデオゲームの映像としてギネス認定された「背水の逆転劇」以外にも、「ゲームセンターで286連勝」といった数々の伝説を持ち、格ゲー界隈かいわいでは“王”と呼ばれています。もちろん世界大会での優勝経験も多く、名実ともに誰もが認めるレジェンドプレイヤーです。
 
『ストリートファイター』を扱うのに梅原大吾が出ないのは、画竜点睛がりょうてんせいを欠くのと同じ。そして私自身も梅原さんのファンです。梅原さんが長らく使ってきたアーケードコントローラーを手放し、レバーレスコントローラーに移行したときには、私も自分のアケコンを改造してレバーレスコントローラーを使い始めました。少年がプロ野球選手にあこがれる、そんな感じです。そんな梅原さんにぜひお話をうかがいたい!梅原さんのマネジメント会社の問い合わせフォームから依頼を送りました。やきもきしながら返事を待つこと1週間、1件のメールが届きました。
 
件名「梅原大吾オフィスよりご挨拶」なになに…「是非とも出演させていただきたいと存じます。」
 
うおぉぉぉ!よっしゃー!!昇龍裂破!!!

しかし、浮かれていたのもつかの間、ここから一筋縄ではいきませんでした。
 
佐藤:では早速、撮影日程のご相談を! 梅原さんは大変お忙しい身かと思いますが、撮影日のご希望はありますか?
マネージャーさん:8月中旬頃だとどうでしょうか?
佐藤:8月中旬だとスタジオ出しのVTRに入れ込めないので、7月中旬頃でお願いしたいのですが…
マネージャーさん:7月中旬だとちょっと難しいですね… 大変残念ですが、今回は出演をお断りさせていただきます。
 
一気に汗がにじみました。せっかく出演に前向きになってくださっているのに、日程の問題で出演してもらえないなんて、なんともったいないことか!ですが、それもそのはず。8月の上旬には「EVO」と呼ばれる大きな世界大会があり、プロゲーマーにとっては1年の中でもとりわけ力が入ります。7月は、その大会にむけた最後の追い込みともいえる大事な練習期間です。
 
しかし私もここで諦めるわけにいきません。なんたって梅原大吾です。
「ちょっと待ってください!撮影日程を変更するので、考え直してもらえませんか!?」
「スタジオ出しのVTRには入れられないけど、梅原さんの声を視聴者に届けたいんです!」
「俺には梅原さんが必要なんです!梅原さんじゃなきゃダメなんです!」
3時間をかけて、長く熱いラブレター(メール)をしたためました。女性にだってこんな熱い思いを書いたことはありません。おかしなところがないか何度も読み返したあと、意を決して送信ボタンを押しました。
 
上に書いたのはちょっと大げさですが、実際のメール文でも同じようなことを書きました。絶対に諦めきれなかったその理由は、やはり梅原さんでなければならなかったことに尽きます。梅原さんはシーンに火がついたゲームセンター時代から今日に至るまで、ずっと『ストリートファイター』と向き合ってこられた方であり、いまも第一線で活躍されている唯一無二の存在です。まさに本作が持つ“ゲノム”の生き証人。梅原さんに出ていただければ番組の完成度がグッと上がる確信もありましたが、もし出ていただくことができなければ、潔く諦めるつもりでいました。
 
熱いラブレターを送ってから1時間ほど経った頃、メールの受信を知らせる音が鳴りました。梅原さんのマネージャーさんからです。「俺の思いは、届いたのだろうか…」おそるおそる開きます。
 
…「ご丁寧なメールをありがとうございました。ご提案の日程でしたら是非とも出演させてください」
ヒャッホー!でんぐり返しで喜びました。
 
 
梅原さんのインタビューロケは、高田馬場にあるゲームセンター「ミカド」で行いました。『ストⅡ』をはじめとしたレトロなゲーム筐体きょうたいが所狭しと並べられている、今では数少ない昔ながらのゲームセンターです。

私が投げかけた抽象的な質問や的はずれな質問にも、言葉の魔術師である梅原さんは、すばらしいお言葉で返してくれました。短いセンテンスの中に、きっちりと“響く言葉”を交えて答えてくれます。番組で扱うことのできたインタビューはほんの少しで、まだまだ面白いお話がいっぱいありました。そして実は、放送尺に収まりきらなかった関係で撮ったのに使わなかった別シーンの素材が他にもまだあります。梅原さんのプロゲーマーたる細部へのこだわりを収めた素材です。『バイオハザード』のときと同様に、『ストリートファイター』拡大版を作る機会があれば、こちらもぜひお届けしたいと思います。
 
テレビ番組は通常、スタジオ収録の前に制作するVTRとスタジオ収録素材を組み合わせて番組を仕上げます。ですが、梅原さんのインタビュー素材はスタジオ収録時点ではVTRに組み込めていませんでした。「絶対に番組に入れたい!」という諦めきれない思いから、最後の最後にハメ込むことのできた、かけがえのないピースです。梅原さんはラスベガスでの「EVO」を終えたあと、続けてサウジアラビアでの大会にも出場され、撮影時は時差ボケが治り切っておらず大変お疲れだったと思います。そんななか、番組にご協力いただきましたことをこの場を借りて改めてお礼申し上げます。本当にありがとうございました。
 
番組の制作もいよいよ終わりが見えてきました。仕上げをしていくなかで、どうしてもこだわりたい部分がありました。番組のラストシーンです。なぜかというと、シーズン1で放送されたいくつかの回で作品のシーンをうまく使って番組を素敵すてきに終わらせていた回があり、自分もそれに負けたくないと思ったためです。「俺も絶対にエモい締め方をしてやる!」と機会をうかがっていました。しかし、ゲームにひもづけた素敵な締め方など、そう簡単に思いつくわけもありません。
 
決定的なアイデアが見つからないなか、梅原さんの著書を読んだり配信を見たりしているうちに、梅原さんがあるキャラと似ているように思えてきました。「リュウ」です。

「リュウ」はシリーズの多くに主人公として登場するキャラで、真の強さを求めて修行を続ける格闘家です。闘いに勝利しても決して満足せず、自分が求めている強さとは一体何なのかを常に探し続けるストイックな求道者。そして、梅原さんは日々自分自身が成長すること・強くなることを第一に生きているといいます。強くなるためなら、どんな苦労もいとわない―――。梅原さんは「もちろんうれしいです」と語っていますが、世界大会で勝利しても表情がほころばないところなんか、まるで「リュウ」。『ストⅡ』のキャッチコピー「俺より強い奴に会いに行く」を地で行く姿も「リュウ」そっくりです。
 
「梅原さんって“リュウ”じゃん」
 
そのことがわかると、番組のラストシーンを思いつくのに、そう時間はかかりませんでした。
 
そうだ、梅原さんとリュウを重ね合わせよう。
 
―――こうして、ゲームセンターを去ってゆく梅原さんの背後のカットから、『ストⅡ』・「リュウ」のアーケードモードクリア時の映像にオーバーラップする、いまのラストシーンを描くに至りました。これは梅原さんの撮影日がスタジオ収録よりも後だったので、じっくりとイメージを膨らませる時間が作れたのも大きかったと思います。諦めずにもがき続けた結果、神様がプレゼントしてくれたラッキーなアイデアでした。

シーズン2の他の放送回でもラストシーンにこだわるディレクターがたくさんいると思います。ある意味、大喜利大会になっています。この先の回もぜひ注目してご覧になってみてください。
 
長々と書いてきましたが、出演者の皆さんはもちろんのこと、私のやりたいことに全力で応えてくださったカプコンの皆さん、「ゲームゲノム」のテーマ曲だけでなく実はほぼすべての『ストⅡ』の音楽を手がけられ、音楽でも番組を彩ってくださった下村陽子さん、素敵なイメージイラストを描いてくださった天野喜孝さん、聞きやすくわかりやすいナレーションで、作品の魅力を存分に引き出してくださった神谷浩史さん、副音声で番組をさらに盛り上げてくださった2BRO.の皆さん、ストⅡ時代からシーンを取材し「両国国技館全国大会」映像をお貸しくださった渡辺浩弐さん、番組制作スタッフの皆さん、私の友人に至るまで、どのピースが欠けてもこの番組は完成しませんでした。この場を借りて改めて感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。
 
そしてライバルというキーワードで解剖した『ストリートファイター』、気づけば私もライバルの存在に感化され成長できました。この先もライバルたちに負けないよう、そして見た人に「面白かった」と言ってもらえるようなよい番組を作っていきたいです。
 
 
 
しんの テレヒ゛マンを めさ゛すため
かれは、あらたなる は゛んく゛みをもとめて いった・・

最後までお読みいただき、ありがとうございました。実は記事のなかで、あえて誤字にしている部分が3箇所あります。
ひとつはあるキャラクターの名前、もうひとつは「しゃがみ〇〇〇〇」
最後のひとつは…ぜひ自分の目で「確かみてみろ!」
 
 
 
「ゲームゲノム ライバル〜ストリートファイター〜」は、1月24日(水)23:28までNHKプラスで見逃し配信をしています。


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