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ゲームの遺伝子解析記録vol.4『究極の達成感~DARK SOULS~』

はじめまして。「ゲームゲノム」ディレクターの西田です。今回私は第4回「究極の達成感~DARK SOULS~」を、“人間性をささげながら”制作させていただきました。と、このように時折、ダクソあるあるな表現や番組でお伝えした“ゲームゲノム”にたどり着くためのキーワードを紹介しながらの取材後記になります。その意味するところは(特にまだ番組をご覧いただいていない方は是非!)NHKプラスなどで照らし合わせていただければうれしいです。

ゲーム画面 番組完成までの死亡回数1587回

まずは全面協力してくださったフロム・ソフトウェアの皆様、そしてご多忙な中、メールインタビューにお答えいただいたゲームクリエイターの宮崎英高さん、この場を借りて改めてお礼申し上げます。

最初にフロムさんへご挨拶と取材に伺った際に、受付に飾ってあった「かがり火」と「アストラの上級騎士」を発見しました。「かっけぇ…」と見とれた勢いで「これ、スタジオに持っていってもいいですか?」とお願いしたところあっさりOKをいただき、騎士に見守られながら本田翼さんがMCをするという貴重な映像を撮ることができました。

番組画像 NHK 砧K2スタジオ
アストラの上級騎士が影のゲストになったスタジオ

今回の番組制作で特に大変かつ思い出に残らざるを得なかった体験―それは、本作を“初心者”と“中級者”、そして “少し上級者”としてプレイしなければならなかったことです。というのも、ゲームゲノムという番組では、ゲームのプレイ映像は、基本的に担当ディレクター自身のプレイをキャプチャーロケ(画面収録)するという手法で制作しています。そのため、今回でいうと私が撮りたい映像を狙うために…

★高難度のゲームであることを伝えるために“いい感じに”何度も死ぬ
★「強すぎる雑魚敵」を上手に倒すため、何度も死にながら動きを完全に見切る目を養う
★多くのプレイヤーが苦戦したボスに、全ての防具を外し裸で挑んで勝つ
★NPC(Non Player Character:プレイヤーが操作しないキャラクターのこと)のストーリーイベントを収録するため、何度もNEW GAMEからやり直す

※総プレイ時間は100時間を超え、セーブデータは8個作成することに…

といったように、自分が過去「DARK SOULS」をやっていた時よりも、負荷のかかった状態でプレイしていたため、番組でもご紹介した究極の達成感を得るためのキーワード「経験と学習」をひしひしと感じながら制作していました。しかし、やはり何回も死にますから途中「心折れた戦士」になりかけたのも事実です。「このボスが倒せないと仕事にならない」と追いつめられたのは初めての経験でした(本来、テレビディレクターのボスは、プロデューサーになるのですが)。

ゲーム画面 心折れた戦士

ゲストの野田クリスタルさんも、その存在に自身を重ねられていた、この「心折れた戦士」ですが、クリエイターの宮崎さんにはこんな質問をしていました。

Q:「心折れた戦士」というキャラクターを本作に登場させた意図を教えてください

(宮崎さん回答)
導入として、世界観の、特に過酷な側面をユーザーさんに伝え、また、ほんのりと序盤のゲームプレイの指針を伝えるキャラクターとして考えました。単に親切なキャラクターよりは、世界観にあっていると思いますし何というか、私がテキストを書きやすいんですよね(笑)。そういう意味でも、好きなキャラクターです。

このように番組内でどうしても紹介しきれなかった質問とお答えがありますので、ここでいくつかご紹介できればと思います。

ゲーム画面 不死人から亡者に

番組の中では、本作の世界観についても触れました。おさらいすると主人公は、何度肉体が死を繰り返してもよみがえる「不死人」の呪いを受けており、敵として立ちはだかる「亡者」は「不死人」が何回も死を繰り返すうちに理性を失ってしまった存在です。(※亡者以外の敵も存在します。)この設定について、宮崎さんは…

Q:本作の世界観を形作る上で、「不死人」や「亡者」という設定に込めた意図を教えてください

「死」を当然あるサイクルの一環として位置づけ、死にながら経験し学習し、困難を克服していくというゲームデザインにおいて、不死人は、その主人公に相応ふさわしいキャラクター像であると考えました。DARK SOULSのゲーム的なテーマを、世界観に溶かし、主人公の長い戦いが、ひとつの物語としてつづられるとき、そこに「死してなお諦めず、立ち向かう様」が含まれるようにしたかったのです。

ここで、プレイしていない方向けに「不死人」である主人公について補足させてください。番組内の映像では、主人公は全て、亡者のような、少し恐ろしい顔をしていたのですが、本作では「人間性」というアイテムを使用することによって「生者状態」になることができ、見た目も生きている人間のようになることができます。生者の状態だと一部の耐性が上がるなど、メリットがあるのですが、死んでしまうとまた「亡者状態」になり、生者に戻るにはその都度「人間性」を使用する必要がある、というシステムになっています。
 
2つの状態があるとはいえ、基本的にはよろいを身に着けている主人公の後ろ姿がプレイヤーには見えているため、生者と亡者の変化にあまり意識が向きません。正直、敵を倒すことに必死なのでそんな余裕がないというのもありますし…。しかし、一目で「自分が亡者である」ことを自覚させられる瞬間があります。それが番組内でもご紹介した「装備をはずし、裸になった時」です。

ゲーム画面 亡者になった主人公

私自身、初めて亡者になった主人公の裸を見た時には、「え、自分ってこんな姿だったの…?」と衝撃を受けたことを覚えています。そこで、宮崎さんにはこんなことを伺いました。

Q:死んでしまった状態で、裸にならないと亡者としてのプレイヤーの姿をきちんと認識できないことには何か意図があるのでしょうか?

自らの異常な姿に、ふと気づく瞬間が欲しいと考えました。明示されず、ひっそりと自分自身が変わっていた、という体験が、プレイヤーキャラクターが亡者であるという設定を、より印象的に、またユーザーさん自身の物語として、感じてもらえるのではないかと思ったのです。

(ここでいう「亡者」とは、先ほど補足した不死人である主人公の「亡者状態」を指していると思います。)

宮崎さんのお答えに「明示されず」という言葉がありますが、本作ではストーリーや世界観、主人公が何者で、何のためにここにいるのかなど他のゲームでは大体説明のある部分が謎に包まれています。「わかりやすく教えてよ!」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、この謎に包まれていることが面白いんです。探索の末出会うことができたNPCとの会話や、苦労して倒した敵がドロップした武器の説明文に、断片的な情報が散りばめられており、それを自分の頭の中でつなぎ合わせて想像を膨らませていくことも本作の大きな魅力の1つです。

番組画像 究極の達成感

今回番組では「究極の達成感」を全体のテーマに掲げ、各VTRを「繰り返される死の試練」「リスクを恐れない」「敗れし者の想いを継ぐ」という要素で構成しましたが、もしあと15分、いや10分…放送尺があれば「世界を解き明かしていく達成感」というVTRも作ってみたかったです。そういったこともあり、宮崎さんには次のような質問をしていました。

Q:ストーリーや世界観が断片的にしか語られていない意図を教えてください

断片的な語り方の理由は、大きく二つあります。
ひとつは、まずユーザーさんのゲームプレイそのものが、DARK SOULSの物語であって欲しい、ということです。そのために、固定された強い物語を押し付けることは、えてしていません。
もうひとつは、世界観や物語において、「なるほど、そういうことか」と、主体的に理解したときの気持ちよさを重視し、また、解釈や想像、あるいは妄想の余地を残しておきたい、ということです。私自身が、そうした物語体験が好きだ、ということもありますが、そうしたことが、DARK SOULSの物語がユーザーさん自身のものになる、その一助になると考えているのです。

番組画像 DARK SOULSから受け取ったもの

TV番組を制作していて常々感じることなのですが、より多くの人に受け入れられるものを作ろうとすると、ついつい「わかりやすい」ことを重視してしまいます。「よくわからない、つまらない」と思われ、見てくれた人が興味をなくしてしまうことが怖いからです。しかし、DARK SOULSではあえてプレイヤーに絶対的正解を提示せずに、一人一人のゲーム体験にオリジナリティを生み出しています。これが世界中のプレイヤーから支持され、「史上最高のゲーム」を決める賞で1位に輝いたことは、自分の中の価値観が揺さぶられたような気がしました。

「誰もがわかるように伝える」ことはもちろん大切なことだが、もしかしたらもっと見てくれる人に委ねる部分があってもいいのではないだろうか?
この感覚は私自身が「DARK SOULSから受け取ったもの」の1つだと思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。最後に、あと2つ、宮崎さんへの質問とお答えをご紹介して、終わりたいと思います。

Q:「面白いゲーム」とはどのようなゲームのことだと思いますか?

とても難しい質問だと思います。私は、ゲームをデザインする初期段階で、ユーザーさんが、そのゲームのプレイを通じて何らかの意味や価値を感じるとして、それをどのようなものにするのか?といったことを考えます。
DARK SOULSでは、それが「困難を克服する達成感」だった訳ですが、そうしたテーマと、その実現度合いが、ゲームの面白さに関係していると感じてはいます。ただ、それだけということはないでしょうし…何というか、面白いゲームは何か?ということを定義しすぎてしまうと、私自身がその定義に拘泥し、保守的になり、発想の飛躍や自由さを失ってしまうのでは、という恐れもあります。なので、そこはあまり深く考えず、曖昧にしているのかもしれません(笑)

Q:ゲームを作る上で大切にしていることは何でしょうか?

これも難しい質問ですが、「面白いゲームとは?」という文脈で触れた
「そのゲームのプレイを通じて、どのような意味や価値を感じてもらいたいのか」ということが、ここでも挙げられると思います。あるいは、より個人的な観点でいえば「自分が、それを作ることが面白いと感じるものを作る」ことですね。私は、元々からゲームが大好きですが、それを作ることも、とても面白く、まさにそのために、ゲーム制作を生業なりわいに選んでいますので

「ゲームゲノム」第4回は、2022年11月2日23:28まで「NHKプラス」で見逃し配信をしています。


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ディレクター 西田 万里

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