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マル秘展 知る・見通す・ 触れる

東京ミッドタウン21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「マル秘展ーめったに見られないデザイナー達の原画」に行ってきた。(マル秘は〇の中に秘の文字が入ってるやつです)簡単にですがレポと感想を。

マル秘展はSNSで見かけて興味を持ち、タイミングを見計らって行こうと思っていた。お正月早々からデザイン展に行く人なんかあまりいないだろうと思い立ち、3が日明けに向かった。

私は今回東京ミッドタウンに初めて入ったんだけど、とにかくロケーションのすばらしさに驚いた。乃木坂駅から歩いてすぐの都内一等地にこんな綺麗な遊歩道があるなんて。おしゃれなベンチやモニュメントもあって、とてもいい雰囲気だ。近所にこんな遊歩道があったら最高だろう。犬を散歩させている高そうなダウンコートを着てらっしゃる方が結構いて、ああ近くのタワーマンションの住人かな、と想像が膨らむ。

21_21 DESIGN SIGHTに行くと、皆私と同じことを考えていたのか入場待ちの行列ができていた。ゲ。仕方ないので並ぶ。並んでいる人は20代とおぼしきカップルが多く、皆とてもおしゃれな格好をしていた。黒を基調としたシンプルな形のロングコートや凝ったアクセサリーを身に着けている女性、パーマや丸眼鏡でお洒落している男性が多く、ちょっと怖気づく。まぁ穴の開いたピンクのMA-1を着ているなんて私くらいのものだ。恥ずかしいので音楽を聴きながら待つことにした。行列の進みは意外と早く、4曲聞き終わる手前で受付までたどり着けた。入場券替わりの丸いシールを貰い、胸に貼る。お、なんか紋章っぽい。カッコいいぞ。

マル秘展は、日本デザインコミッティーのメンバーたちによる、デザインの過程において生み出されたスケッチ、図面、模型群を一堂に集めた展覧会だ。会場に入ると、まず日本デザインコミッティーの理念や、この団体が今までどのような活動を展開してきたのかがイベントビジュアルと共に紹介されていた。恥ずかしながら私は今までこの団体を殆ど知らず、デザイナーのためのサロン的な役割しか想像していなかったので、松屋銀座という公共の場を活動拠点としていることに非常に関心した。

専門職というのはとかく閉じた空間で仕事をしがちで、その専門分野とかかわりのない人間と接点を持たなくなることがとても多い。それらの積み重ねによって専門職を「具体的に何をしているのかは分からないけれどなんとなく高尚な仕事」に仕立ててしまうのはよくある話だ。
私も大阪で文化財の修復をしていた頃こういう問題にちょくちょくぶつかっていたし、やり手も受取手もベテランになればなるほどそこから抜け出せなくなる空気感をよく感じていた。

日本デザインコミッティーがハイレベルのデザインを提供できる場を公共の場に作ったことはデザイン業界の中でもかなりエポックメーキングな出来事だったかもしれない。何事もそうだが、知ってもらうというのは簡単なようでとても難しいし、人を集めて続けていくのはもっと難しい。本当にすごいことだ。

イベントビジュアル群に圧倒されつつ、次の展示へ。メンバー三人の仕事の紹介映像だ。するするすると、新しいイメージが手から生み出される瞬間が壁三面に大きく映写される。頭の中はどうなってるんだろう。映し出される案にも満たないほどの小さなイメージの数々。どんなベテランでも悩みながら、数を重ねながら仕事をしている。貴重な映像体験だ。
またこの展示室の後方壁面に「原画鑑賞の仕方」が例示されていて印象に残った。そう、デザインを勉強していない人間にはこういう案内がとてもありがたい。「デザインをみんなのものにしよう」という心意気が伝わってくる。
こういう視点って大事だよなぁ……なにかうちの業界でもできないかなぁ……。

そして、メインの展示室へ。広い展示室に設置されたケースに、各メンバーが手掛けたデザインのアイデア、原画がずらり。かなり混雑していたが、一つの展示に何分も粘る人がいないこともあり、スムーズに鑑賞できてありがたかった。展示内容の具体的な紹介は色んな人がnoteで投稿しているので省略するが、私が特に印象に残ったのは具体的なデザインイメージよりも構想段階のメモ関係で、特に建築家である内藤廣氏の手帳メモだ。

『アンチデジタル、手の修復』

驚いたのが、これが最近ではなく2002年のものだということ。2002年というとW杯日韓大会・アザラシのタマちゃんの年である。(今調べたら合ってた!記憶力よ。エッヘン)

これが2002年には既に考えうるものだったってのが、すごい。
建築物は構想段階から完成まで10年以上かかることなんてザラにあるから、よりスケールの大きな「先を見通す力」がデザインには求められることがなんとなく想像できる。それにしてもこの思考の大きさ、きめ細かさよ。
メモを読み込んでみる。「空間価値より時間価値」「金をたくさん持っていることが恥ずかしい」等、この感覚は2002年の若者だけでなく現代の若者にもかなりフィットするのではないだろうか。

他にも内藤氏のメモには興味深いものが沢山あり『25673 3.11のオマージュ』(5月11日時点での死亡者・行方不明者数のドットを並べて打ったもの)や『大家族の解体プロセス』(家系図と家の絵を重ね合わせて、家族のかたちが変わっていく過程をイメージしたもの)など、それら人々の暮らしそのものを見つめイメージを掘り起こす内藤氏の試みに、メモ郡を通じて触れることができた気がした。
かなり心惹かれたので、著作も読んでみようと思う。

最後の展示はアーカイブと、デザインされた椅子の実物。
なんと椅子は本当に座れる!この出ケツ大サービスを味わわんとお尻に全神経を集中させ(笑)、様々な椅子に座ってみたが皆心地良かった。一見座りづらそうな椅子でも案外ゆったり座れたりする。座ってみないと分からないもんだなぁ。


ギャラリーショップを一回りし外に出ると、イルミネーションが点灯していた。奥に東京タワーの灯りが見える。ロマンチックすぎて立ってるだけでなんだか照れたので、そそくさとメトロに乗って帰った。
今度はもうちょっとお洒落して行こうかな。


マル秘展、とてもかっこいいギャラリーで大御所たちの頭の中を覗けて贅沢な時間だった。
デザインを学んでいない私のような人間には、文字情報として浮かんでいる構想がどのようにビジュアルとして昇華されるのか想像がつかないものだが、1ステップ1ステップ細かく展示されているものも多くて、今回はその昇華の一片を知ることができた。デザイナーってすごいね。

知識がない人に向けた見方の案内もあるし「デザインとかなんかオシャレな感じでよく分からない」という人も絶対面白いと思う(いや、そういう人の方が寧ろ面白いかもしれない)のでお勧めしたい。

皆さんも行ってみてくださ~い。