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ねこ2021創作記

はじめに

本稿はTwitterにて2021/12/16に発表した新作「ねこ2021」の解説記事です。

これまで自分の折り紙作品についてつらつらと語ることはほぼしてこなかったのですが、今回の創作を機にやってみようと思い立ちました。

ほぼ、と言ったのは中学生の時分にしたためていたブログがあるためです。まさに年頃が書き散らした、今でも思い出すたび赤面するような記事の数々がそこにありました(すでにネットの海から消えていますのでアーカイブを漁るなどの詮索はよしましょう)。

この記事を書いている自分はもういい大人なので、まさか同じことにはならないはずです。

注意事項

・後半の展開図を用いた作品解説は有料です。
・折り方は載っていません。

この記事では創作の際の思考の流れなどを書くことで、普段折り紙や創作をしない方にもその過程を追体験していただくことを目指しています。今後の創作活動の励みになりますので、お口に合えばぜひご支援をお願いいたします。

折り紙とネコ

まずは作品そのものの解説に入る前に、ネコという題材について少し掘りさげます。

ネコは折り紙作品の題材、もっと言葉を広げるならばあらゆる創作・表現の題材として非常にすぐれたものであると私は思っています。いくつか理由をあげてみましょう。

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まずはその知名度。イヌに並び代表的な愛玩動物として広く認知されています。もちろん「題材がメジャーであること」は創作に必須ではないですが、作品が他者に鑑賞され、評価されることを見据えたときに多くの場合アドバンテージとなるでしょう。

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つぎに見た目の多様さ。さまざまな品種があることはもちろん、香箱座り、エジプト座り、横座りなど、名前のついた座り方が数多く存在します。どれを切り取ってもネコをモチーフとした作品になるわけです。お得ですね。

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そして愛くるしさ。創作対象に対して作者が抱く感情の多寡は、モチベーションを大きく左右します。全世界でネコに向けられ続ける愛の総量を考えれば、ネコを題材とした創作物が巷にあふれるのは必然でしょう。

私のネコとの付き合い

ご多分にもれず、私もネコの創作には繰り返し取り組んできました。ちょうどよい機会なので、過去の作品を何点か紹介します。

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これは記録の残っているものの中で最も古い2014年、私が18歳のころの創作です。全方位から鑑賞できる作品を目指して色々と取り組んでいた時期で、今見ると「やりたいことはわかる」といった印象。いかにもまとまってる感をかもし出していますが、細部の詰めはだいぶ甘いです。この路線への興味は後に豊村高志さんの「柴犬」で再燃し、キリンなどの創作のきっかけとなります。

こちらはその翌年の創作。四つ足で立つ姿に題材を変え、あまり細部は作りこまずにしなやかで曲線的な形状を目指しています。

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展開図です。22.5度系の構造ですが、足のカドを構成する折り線が一つの頂点に収束しておらず、どことなく掴みどころのない印象があります。

(おそらく)同じ基本構造から、仕上げかただけを変えたもの。こちらはだいぶリアル寄りの表現です。このころ抱いていた創作スタイルについての迷いがよく見えます。

これは2016年。創作時に骨格を意識するようになった時期です。仕上げも明快な折りを心がけているようで、徐々に今の方式に近づいてきています。

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構造にも多少の変化が見られます。以前は「折りにくさ上等」と言わんばかりに角度系の制約の中で好き勝手暴れるようなスタンスでしたが、この時期からメッシュ(前川紙)を大きく逸脱する折り線の発生を意図的に避けるような傾向が現れはじめます。

自らに課す制約を強化することは創作の幅を狭めてしまう危険をはらみます。しかしいたずらにアクロバットに走るのではなく、より調和の取れた世界で「極大」(テクニカルタームです)を探すような手法がかえって肌に合っていると当時の私は感じたようです。なお、2022年現在ではこれらの中庸と呼べる姿勢に落ち着いています。

足のカド配置は小松英夫さんのライオンと全く同じ。当時の思考の流れを正確に覚えてはいませんが、このスタイルの先駆者である小松さんへの憧憬の表れなのかもしれません。

こちらは前作の翌年、2017年の創作です。2014年のものと同じく前足を伸ばした姿勢(エジプト座り)を選択しています。比較的シンプルな構造で筋肉の隆起が細かく表現できたところはお気に入り。顔の仕上げかたで散々迷った末、満足できるものが見つからず打ち止めとなっています。

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展開図です。これまでの作品と比べると線が少なくなっています。前足と後ろ足のカドがそれぞれ67.5度と90度と太く折りだされているため、一見して何の展開図なのか分かりにくいと思います。この特徴が活きて、NHKドラマ『オリガミの魔女と博士の四角い時間』での展開図から元の作品を当てるクイズに使用されたことがあります。

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