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【えいが】フェイバリットなアレルゲンとして。【感謝離 ずっと一緒に】

(あらすじとかにいっさい触れてない不親切な感想文のくせに、こまごまとしたネタバレはしてる。)

(なのでまだ見てないよって場合はとりあえず最寄りのイオンシネマにいったん寄ってから戻ってきてほしいと熱望する次第。)


この世には、不可逆的な影響、というやつがある。
たとえばええと、“ドルチェアンドガッパーナ”というフレーズをもう、瑛人の「香水」のメロディ付きでしか思い起こせないのと同じように、

★これからさき永遠に、「アニー・ローリー」を平静なきもちで聞くことはできない世界で、私は暮らしている。

何年後かの夕暮れに、ふいうちでどこかの角からあの曲が流れてきたら、自分が何を思いだしているのかもよくわからないうちにじんわり泣きだしてしまう気がする。
そんな体質になっちゃうとたいそう不便だし、ていうか外的要因で涙と鼻水が止まらなくなるとかそれはもうほとんどアレルギーだし、だからつまり『感謝離 ずっと一緒に』は、自分にとってはほんと容赦のないアレルゲンみたいな映画だったのだけれど、いや待て私、ほめるのヘタか。なんかもっとあるはずだった、言い方が。

とにかくすっごくいい映画だと思った。(語彙力)

まああれですね、どれだけ泣いたにしたところで、〈80分間ほぼほぼ尾藤イサオが映っていますよ〉という映像を、まっさらなこころもちで鑑賞できるはずもなく、お前さんどっちへ寄り道していくんだい、みたいな感想にしかならないとはおもうけれど、だいじょうぶ、これが私の平熱だ。

というわけで、何よりも先に! 忘れないうちに! まずもってこれだけは訴えておきたい、ことが、

■パジャマ…かわいいなぁ、おい。

あの、なんていうか、いわゆるパジャマなのだ。パジャマオブパジャマなのだ。ライトブルーのストライプだし、形状もとりあえず「メンズのパジャマですよ」って言われて大多数の人々が思い浮かべるようなやつ。そういうの。
…を、尾藤イサオが着てるの。しょっぱなから着てるの。〈ちょ…!〉てなるでしょ。
で、寝起きなの。目覚ましなって、中尾ミエさんが起きて、尾藤も起きて、おはよって言って、あくびする。
うむ。ひゃっぽゆずって、そこまでは良しとしよう。うんうん、萌えざるを得ないことは最初からわかっていましたよと、かわいいんでしょうそうでしょうわかってましたよと、言うとしよう、だがしかし!

目をね、こするのはね…
覚醒しきる前にむにゃむにゃした感じで目をこするのはね…
えぇえ…もう…それ…

【 何 の サ ー ビ ス な の か 。】

え、これいったいどう対処したらいいやつ、まだ始まったばっかだしとりあえず見なかったことにして受け流せばいいのかしら、ていうかぜんぜん受け流せないしなんなら動揺から立ち直れてないうちに、血圧はかりっこするのとか愛らしすぎるからやめていやむしろやめないでほしいんだけれどもおいうちをかけるように血圧はかられてるときの尾藤の憮然ぐあいとかツボすぎて冒頭からもう、
CPUがまったく足りてない。処理速度が追いつかない。
定年退職後の老夫婦…の平常運行の朝…て、こんなにキラッキラにかぁいらしいものなのだろうか。ほんとうか。こっちの血圧あがるわ。


…というように歓びがすぎてクレーマーみたくなっていられた初見時の自分に言いきかせたいことがあるのです。

そんなことゆってられるのは今のうちだけだからね、
のびのびと萌えていられるのは一回目だけだから。
気をつけて。ほんと気をつけて。
そのひとたちいっちいち“かわいい!”けれど、
その“かわいい!”らはぜんぶ罠だからな。
ひとつ残らず、例外なく、あまねくぜんぶぜんぶ罠なんだから。

★ 前半“かわいい!”って思った数だけあとから泣いちゃうシステム。

だからつまり、生きてる時間ってまるままぜんぶが、
いずれなつかしむための伏線かもしれないという気すらしてきて、
いとしいとか、もったいないとか、うれしいとかさびしいとかおもう。
中でもいっとう、かわいい、ということをおもう。
人間が生きてくってことも、いつかは死んじゃうってことも、もしかしてものすごくかわいいことなんじゃないかと。

それにつけても、

★ 茗荷を刻む尾藤の横顔がかっこよすぎる。一生見てられる。


そうだ茗荷といえば、予告段階からノックアウトされていた〈お庭でしゃがんでる尾藤(きゃわ!)〉が二階を見上げて話していたのは、〈茗荷の浅漬けについて〉だったので、たぶんもう二度と、茗荷の浅漬けに対しても平静ではいられないとおもう。…不便だな。


やっぱ着てるものが、みんなみんなかわいい。似合うし。

おじいちゃんぽさと、おじいちゃんぽくなさとが、ちょうどいいポジショニングでしのぎあっている。シャツの…柄の…絶妙なかわいらしさよ…。
お散歩のとき、パーカの裾からちょっとだけシャツのしっぽのとこ出しといてくれてありがとう! おかげさまで後ろ姿まで超絶かわいい!!
かといって不自然なほど衣装持ちでもないのよね、ちゃんと同じ服があとから出てくる。…笠井謙三の着回しコーデ1ヶ月、みたいな特集組んでる雑誌あったら迷わず買うよね。ついこないだまで木戸専務理事フォームのフォーマルスタイル(ピ ン ス ト ラ イ プ !)に悩殺されていた身としては、うってかわったこのプライベート感、ゆるかわオフな定年後ファッションにくらくら来る。
ていうか眼鏡ずるい。圧倒的にずるい。圧倒的にかわいい。ねえその文庫本なに、なに読んでるのさっきちょっとにっこりしたよね、何の本のどのシーンを読んであの表情なの!!!

とかなんとかね、尾藤がお着替えするたびにいちいちザワついていたわけなのだけれども、
…それすらも罠だったよねこれ。
と、あとから気づくことになり、
ああそうでしたか…旦那の服のセンスがいいのは、奥様の見立てがいいからでしたか…二人でショッピングに行っていたのですかそうですか…とか思い始めるともう、さっきまであんなにはしゃいでた、

★尾藤の服がかわいいことにすら、泣ける。

ので、もうどこにも逃げ場がない 。
ある意味うっすらホラーな映画よ。ゆるふわサイコホラーよ。嘘だけど。


ええ、恒例の(いやまだ二回目なので恒例でもなんでもないけど)、
〈転生するならどのポジションか問題〉
についてですが、感謝離界に於いてはもう、一片の迷いもありません。君嶋もいいけど、名もなきGMにもなりたいとか言いません。

★お鍋がいい、あのお豆煮てるお鍋。

(そもそも登場人物が少ないので人類を希望しにくい、ということは言えるにせよ、)
謝され離されるあまたの品をさしおいてなぜ鍋か、ということについては、もうほんとうに、まいど変態ぽいこと言ってすみませんて思うけど、
 あの音が…! すごい好き…! シリーズ…!
お豆を煮んとする尾藤が、お豆を煮るための昭和レトロな(花柄でホーローだぜ)お鍋を手にして、中尾ミエさんに聞くとおもってください、〈お鍋のご栄転て、行き先どこ?〉って。ね。その、ラスト二音の 〈どこ?〉 が、すきだ。
聞くたびに、ふるんと来る。

ええとね、この〈ふるん〉は、ワンコがとつぜん首から上をふるふるする、あの感じと思ってくれると近くてですね、おおよそにおいて私は、ビクターの犬的に好きなんじゃないかとおもう、尾藤のことが。なんか向こうからなつかしい音がするぞ的に。そんで尾藤はどちらかというと猫っぽいお顔だなーとおもう。いわゆるおめめバチバチの猫顔ではないけれど、顎下が華奢なかんじとか笑うと顔の中央にパーツが集まってくしゃっとなるハッピーなかんじとかが、洋物の猫ぽいとおもう。若い頃のジャケ写だとシャムとかアメショ感もあったりするけれども、個人的にはリーゼントのミドルエイジャーっていう〈それ実はすごいとんがってないですかと思うまもなくダジャレつうかオヤジギャグつうかでまるっとなかったことにしていなしきってるよ天才かな〉時代のルックが印象つよくてあの感じはピンピンにアビシニアンだとおもってて、などを、経て、現在はもうすこしふんわりしたソマリちゃんだな。あ、それた、話すごくそれたけどつまり、

尾藤の声がほんとうにほんとうに好きで、それはもう全曲において全セリフにおいてぜんぶぜんぶ好きなんだけれど、その中でも、そういうふうに
うわ、今なにが起こったの?ってなる、ふるんと好きな音があって、

★ 尾藤のてのひらの中で、あの〈どこ?〉が聞けるなら(骨伝導じゃんか!)私は、
次の瞬間に 離 されてもいい。

みたいなことを思うわけです。ああほら、案の定だいぶ物語の趣旨からズレてきたことであるよ。


しれっと映画の話に戻ってみよう。

私は特定の宗教をもたないので、
(なんとなく漠然としたかみさまへのかみだのみはよくするんだけれども)
人生というか、命というか、己というかね、そういうのは〈もち時間〉の別名だと、ややおもっていて、
だから、映画の冒頭から(そしてその後も何回も)、例のアニーローリー音の目覚まし時計が、ちょっと半端なとこで鳴るのがかわいくて仕方なかった。たぶん6時に設定してるんだと思うんだけど、長針がてっぺんに着ききるすこし前に鳴りだしてるように見えるから、そのふんわりした誤差に、〈ふふふ、時計も年期はいってる…〉て感じでにまにましちゃっていたのだけど、
なんか、ラストだけ、ほぼ六時ぴったりに鳴ってるように見えて、ん、これは、ここからほんとうの〈現在〉が流れるんですよ、って意味?ってちょっとおもったけど、単に角度のせいかもしれない。


あぁあ、もうほんと、あの目覚まし時計の凶悪さ(※ほめています)ったらね、
あんなに何回も何回も何回も聞いたアニー・ローリー!が、奥さんがいなくなっちゃったがらんとした状態で、というか夫婦のくらしのビフォーアフターみたいなものを見せられつつだね(ほんとうに語彙力をなんとかせねばならぬ)、〈今か…!〉〈今それをやるか…!〉って感じで、ここへきて、

やっと歌詞つきで歌われる。

劇中ではここまでずっと、ほぼほぼハミングされてきた+ものっすごいとぎれとぎれ(鼻歌内のワンワードだけ歌うとか。日常内ではよくおこなわれるけど、その〈日常内でよくおこなわれるかんじ〉の再現がなんか天才的だった)にしか聞こえなかったその歌が、やっと歌詞つきで聞こえてくるに際して、その、やっと聞こえた歌がおおよそ、

 冬が終わったらまた逢おうね、
 また逢えるって約束してね、

みたいなことを言ってるなんかさ、ただでさえマスクした状態でいいだけ泣いちゃってて呼吸が困難なのに、待ってほんと死んじゃうかも、ってなって。不織布のマスクは水を吸わないことを知った日でもあった。

私の記憶にあるアニー・ローリーは、たしかなんか、アニー・ローリーがすごく好きだぜ、彼女のためなら死ねるんだぜ、みたいな歌だったとおもうので、もしかしたらオリジナルな歌詞なのかしらとおもうのだけれど、
〈新婚のお祝いでもらった〉目覚ましが、ふたりのあたまの上でそれまでの毎朝、そしてひとりになってからの毎朝にも、また逢おうね、と歌ってきて歌ってゆくのだとしたら、

★生きていくことも、いつか死んでしまうことも、ほんとうに、ほんとうに、かわいい。

私たちっていつか死ぬけど、それは秋の次には冬が来るくらいにはだいたい確実なことだけれど、
 それが終わったらまた逢おうよね、また逢えるって約束してね。


みたいなことに、あまりにも衝撃を受けたので、二回目からは全鼻歌が〈やくそくね〉みたいに聞こえてきて明らかに変なタイミングで泣いてしまって恥ずかしい、的なめにあったこととか、
それはそれとして、あばれたあとの和子さんに謙三さんが歌うハミングバージョンが配信されたら秒でダウンロードして寝る前に聞くのになと思っているけどひょっとしたらそれでは眠れなくなってしまうかもしれないこととか、

他にもなにか、思っていることはもっともっとたくさんありそうなのだけれど、
どう考えてもまとまりに欠けているので(そんなものがあったためしはないにせよな)、とりあえずこのへんでおしまいにしよう。

■(結論)
『感謝離』が公開されてから毎日のように映画館に通っていておもうことは、

★どんなことがあった日も、どんな天気でも、自分がどんなコンディションでも、ぜったいに例外なく、いつもかならず、

【今日の尾藤がいちばんかっこいい。】

そんでもって次に見るときには、たぶんもっとかっこいいって知っているから、明日の朝も私はごきげんで目を覚ます。尾藤のいる世界に生まれてきてよかったな。
という意味では、尾藤イサオが私のアニー・ローリーである、というようなふうに言えなくもない。ううん、ギリギリ言えないか。

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