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妖怪探偵仮



あっ、なつ先輩。
あっ、あかりじゃん。
あかりは動画を撮影していた。
なつはあかりが撮影に忙しい様子を
察して、じゃ、ば、ば、ばぁいと手を
骨踊りみたいにカクカクと振った。
あかりは隣にいた友人と並び、スマホ
に向かって、いないいないばぁに似た
動作をしていた。

男は公園にいた。セカイが逃げる、
ドラヤキが睨む、マサムネも睨む。
お気に入りの公園だ。散歩コースの
楽しみの場所だった。
誰かがエサを与えているらしく野良猫
がたくさんいるのだ。
男は猫達に相手にもされなかったが、
勝手に名前をつけて、その寝ている様
などを見て、ふーんとかいいなーとか
思っているのだった。
ベンチに座って地面を見るとアリが列
をつくって小さな羽虫の死骸を運んで
いる。男は頬にできたニキビの瘡蓋を
ぽりぽりとひっかきながら、これも
食べるかななどと思っていた。
草むらの中から片耳だけ垂れている
ペーちゃんがそれを見ていた。
潮風が触れる様に吹いていた。

ねぇなっちゃん!ねぇとなつは友人に
呼ばれて、はっとした。
あの子、さっきのあかりちゃんって
K高校で有名な子だよね?なっちゃん
の後輩だったんだ。
う、うん、そう。バズってる子だよ。
なつは慌てて言った。
やっぱり、そうなんだーかわいい!
うん、かわいいよね。
何度か動画見たよー。
だよね。人気だよね。と話題はあかりのことでしばらく持ちきりだった。
あかりには人を惹きつける魅力がある。
白眼が大きくて、声は何人かが歌う様
で不思議で。
あかりは一つ下の幼なじみだ。
幼稚園の時に知り合った、同じ団地の
住人。
なつは、またなんだかボーッとして
いた。熱でもあるのかなと思った。

じゃバイバイ、あかり。
うん、また明日ね。
あかりは友人と別れて、家に帰った。
最近、SNSにあげた動画に誹謗中傷
が多くなった。
人気が出てきたし、それも仕方ないか
と考えていた。
でも、本当に嫌な気持ちになる時も
あった。それでもかわいいとか面白い
といってもらえる方が、まだあかりに
とって大事なことだった。

男はインスタントのコーヒーをカップ
で飲みながら、スマホを触った。
様々なSNSをチェックしていた。
男はエサを探しているのだ。
ニヤリと不気味な笑みを浮かべると
部屋の中を生温い風が吹き抜けた。

あかりは最近、誰かに見られていると
感じていた。
動画のコメントを寄せてくる人に気味
の悪い人がいた。
いつも見ている。きをつけろ。だとか
動画をやめろ。危険だぞ。など変な
内容で気持ち悪い。
意識し始めるとなんだか、ちょっと
怪しい人がみんなそれらしく見えて
しまうのだ。
あかりはそれでも、なお明るい気分で
いたいと動画を上げ続けた。

なつは保健室のベッドにいた。
授業中に気分が悪くなり保健室に行く
と貧血と判断された。
テストの勉強で不規則になっていたかなと思ったが、実際は気になる人の
SNSを見てしまって勉強は思うほど
進んではいなかった。

男は深く息を吸い込む。
ゆっくり吐ききって、また吸い込む。
しばらくそれを繰り返した。
曇り、湿度が高かった。一雨くるかも
知れないなーとつぶやく。
誰もいない。また、何匹かの野良猫が
男を睨んでいた。
男はスマホをポケットから取り出して
動画を再生する。しばらく観ると停止
をタップした。
色々な角度から覗き込むように画面を
確認する。
エサが見つかったと、つぶやいた。

なつは早退した。
気分は良くなったのだが、ゆっくり
休みたいと思った。
それに少し気になることがあった。
あかりのことだった。
なつはあかりの動画が様々なSNSに
アップされるのをフォローしていた。
その中の一つにあかりが友人達と街で
買い物をしたり、食事をしたりする
動画があり、人気があるらしく何本
かの動画があった。
このひと月に週末、帰宅時に撮った
らしきものを合わせると五本ある。
なつはその中に奇妙な影をはじめに
見つけた。それは背の高い男のそばに
うごめいていた。
あかりが撮影している背景に映ってい
る男は五本全ての動画に映っていて、
影もいつもそばにあった。
なによりも不自然なことは五本全てに
同じ男が映りこんでいることだ。
ストーカー?あかりに知らせよう。
なつは思った。

あかり、バイバイ。また明日ね。
バイバイ。また明日。
あかりはテスト勉強をしようと寄り道
せず、学校から一番近いバス停で次の
バスを待っていた。
いつも学校へはバスで通学していた。
帰りに遊びに行かない限り、行き帰り
は同じ時間のバスになる。
バスが来て、あかりは乗車しようとした。
あかりーと後ろから声がした。
なつ先輩がこちらに向かって走っていた。
あかりはなつとバスの一番後ろの席に
座った。
バスが走りさろうとしたときに、
ちょっと待ってくれと男がバスのドアを叩いた。バスは止まり、男を乗せて
再び走りだした。

男は後ろから二番目の席に座った。
一番後ろの席に座っている男と女。
その男の方が探していたエサだ。
よく育っているじゃないかと男は
龍に言われて、そうだねと小さい声で
応えた。

なつは震えるあかりの手首をギュッと
強く掴んでいた。
なつはあかりのことが好きだった。
なつが高校一年生の時に告白した。
あかりには彼氏がいるらしくフラれた

それでも、あかりのことが好きだった

あかりが高校生になった時にもう一度
告白した。彼氏がいます。とまたダメ
だった。
その頃からあかりは動画で有名になり
、なつには手の届かないような遠い人
になった気がした。
なつは友達はいるが、そんなに明るい
性格なわけでもない。見た目も貧弱で
女子にモテるタイプではないと自覚
していた。
あかりへの想いは屈折して、なつは
ある頃からあかりの行動を隠れてつけ
まわしたりする様になった。
あかりに会えば挨拶くらいはした。
幼なじみで付き合いは長い。
なつはもっと深い関係を求めた。
あかりの事ばかりを考えるようになり
動画なども貪るように観た。
近くにいるのに、遠い。その思いに
苦しみ囚われた。
あかりをつける回数は日に日に増えて
、制御ができなくなりそうだった。
友人と遊んでいると偶然を装って、
近づいてみたり、動画撮影してる所を
隠し撮りしたり。
だから、動画を観て男の存在に気が
ついたときには自分のような男がいる
と思った。同時にあかりは僕のものだ
と思った。
あかりに対する執着が、なつを狂わせ
動かした。
なつは話があるとあかりに伝えると
バスに一緒に乗った。
なつは自分でもそんな気はないが、
あかりの手首をギュッと力いっぱい
掴んだ。身体が勝手にそうしたような
気分だった。あかりはいきなりの恐怖
で震えていた。
なつは動画のことを伝えに来ただけ
だったのにと思ったが、もう自分を
制御できなかった。涙が出てきた。
なつがあかりの手首を掴んでいる腕は
赤い蛇になっていた。
あかりの手首を蛇の身体がグルグルと
巻きつけていた。
急に前の席から身体を乗り出して男が
大丈夫だよ。と二人に言った。
動画に映りこんでいた男だった。

男は龍を飼っていた。ある晴れた日に
深呼吸をすると龍を吸い込んだ。
それからの付き合いだった。
龍は人の欲望や執着が大きくなり過ぎ
て妖怪の様な形になる、それを食べる
と言った。
あなたは運がない。不運であるが故に
あなたに吸い込まれた。不運のそばに
は獲物が多い。唯一の幸運は私がそば
にいることである。とも言った。
龍が獲物を食べて大きくなると幸運が
訪れるらしかった。
龍は男の身体になんとなく、まとわり
ついていてフワフワとしている。
普通は見えないらしいが、妖怪的な物
に取り憑かれた人には、ぼんやりと
見えるらしい。同様に男にもそれが
見える。飼っているとはいっているが
男は龍に取り憑かれているともいえる

例えば、そういった相手から男が狙わ
れる可能性もあるし、龍は大きくなる
まで男から離れていくつもりはないと
いっている。
男は幸運と龍が旅立ってくれる日が
訪れる時を待ちわびていた。
最近は欲の芽生えの様な小さいエサ
しか見つからずに龍は不機嫌だった。
そんなものはすっとすれ違いざまに
食べてしまう。
男が動画サイトの急上昇動画で大物を
見つけた。そういうものを見つける
所が不運なのかもしれない。
しかも、同じ市内だった。
龍は不思議とそういうもんだ、私に
とっては幸運だといった。
何度か同じ場所で撮影しているらしく
張り込んだ。一週間もしないうちに
投稿者のAKARIが現れて、しばらく
するとそれを隠し撮りしている青年を
見つけた。龍は今日食べるのはやめに
しようといった。あの欲は育つ、別の
形になってからにしようと。
おいしくなるらしい。発酵、熟成の類
であろうか。
隠し撮りをしている青年は動画の背景
に映りこんでいて、黒く蠢くモノに
取り憑かれていた。それを見つけた。
男はそれから何度か同じようにして、
観察をした。青年の欲望を煽る為に
わざと映り込む事もした。
その方が早く獲物にありつけるだろ。
と龍がいった。
投稿者のAKARIには一応気を付けろ
程度の文章をコメントした。
日曜日に黒く蠢くモノは青年を取り巻
く蛇の集団になった。
龍は明日、あれを食べようはといった。
月曜日、男は青年をつけていた。
青年は高校生だった。学校が終わるま
で待って接触しようと考えていた。
ところが青年は早退をした。
しばらく、家を張り込んでいると青年
が出てきた。そして市内にあるK高校
へ着いた。そこから少し移動したバス
停に走り出した。そこにいたのは投稿
者のAKARIだった。
龍はバスに乗れといった。
男は走ってなんとかバスに乗り込んだ

青年とAKARIは一番後ろに座っていた
。男はその前の席に座った。
龍がよく育っているじゃないかといった。男はそうだねと答えた。
で、どうするとそのままに訊ねる。
龍は後ろの席を確認した。赤蛇だ。と
いった。執着心が形になったもので、
取り憑いた人の体力や気力を少しずつ
奪う狡猾な蛇だ。人の世界ではマムシ
に近いかもな。栄養満点だ。
それは良かったと男はいった。
龍はお前の手で蛇の頭の後ろを掴め。
といった。そうすればそのまま私が
食べてしまう。男は頷く。
後ろに乗り出して大丈夫だよと声を
かけた。
そして、一気に蛇の頭の後ろを掴まえ
た。もがく蛇をすーっと吸い込む様に
龍は蛇を食べた。
男は次の停車場でバスを降りた。

あかりは少し落ち着くと状況を頭の中
で整理した。
なつ先輩と席に着くと、急に手首を
掴まれた。恐くて声が出ない。
身体がガタガタと震えた。何も見る事
ができなかった。ずっと同じ、時が止
まった感じ。
大丈夫だよと声が聞こえた。誰?
わからない。掴まれた手首にすっと
軽く冷たい風が吹いた。
腕が自由になった。しばらくすると
身体が動くようになった。
隣でなつ先輩は眠っていた。
夢?夢なの?違う。手首にはあざが
残っていた。少し痛い。
なんで?なつ先輩がと思うと気分が
悪くなり吐き気を覚えた。
あかりは次の停車場でバスを降りた。

なつは病院で目が覚めた。
ベットの横で母親が泣いている。
涙がなつの顔に落ちると温かい。
右手を見ると色々な事が思い出される

ぼんやりとまた眠気が来る。

男は少し暑いなーといって学生服を
脱いだ。学校はサボってばかり。
いつもの公園で新しい野良猫を発見
した。頭のてっぺんに明るい茶色の
帽子と背中からお腹にかけて同じ色
のコートを着たような不思議な模様
の猫だ。先住のグループを木の影から
偵察している。
男はタンテイだなーと呟いた。









































































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