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【6月11日】 もしも私が大いなる存在であったのなら

某日

定食が食べたい。時間はとっくにランチタイムが過ぎた15時半。定食が食べたい。白米、汁物、何かしらのおかず。定食が食べたい。一定の食事と書いて定食。しかし、私が定食を食べたくなるタイミングは一定ではない。半端な時間に食べたくなる日もある。

「定食屋」「現在営業中」を、Googleマップで調べる。少ないが、なくはない。一番近い店に向かって出発。近いので徒歩で行く。胃袋を震わせながら歩く。目的の店に着くと、看板がぶら下がっている。

「本日の営業は終了しました。」

よくあることだ。私はGoogleマップの「営業時間」を端から信用していない。よって、これしきのことでキレたりはしない。気を取り直し、次に近い店へと歩きはじめるのが得策である。しかし、次に近い店は、少し遠い。自転車で来るべきだった。一度、自転車を取りに戻ろうか。そうすれば、距離の制約がなくなるし、反対方向の店を選ぶことも可能だ。しかし、胃袋が震えている。定食を、今か今かと待っている。私は次の店へと歩きはじめた。振り返りはしない。自分の信じた道をゆく。しかし、自分の信じた道、思ったより遠い。胃袋が赤く点滅しはじめる。HPが限界だ。息も絶え絶え、どうにか目的の店に着いた。看板がぶら下がっている。

「営業中」

あ〜よかった。花*花を歌いそう。

ドアの取っ手の上に、右向きの矢印が書いてある。たぶん開き戸と間違えて押し引きする人が多いから、親切心で書いてあるのだろう。指示に従い、ドアを横にスライドさせる。開かない。空腹で腕力が弱まっているのだろうか。もう一度やってみる。開かない。右向きの矢印が書いてあるということは、右向きにスライドするドア、という認識でよろしいか。よろしいな。じゃあなぜ開かない。なんだこれは。方向という概念が失われた世界に迷い込んだのか? 右は左で、上は下なのか? 私はお前でお前はあいつなのか? 営業中は閉店中なのか?

結局、どう頑張ってもドアは開かなかった。私は店に背を向けた。さよなら、大好きな人。涙が出そう。もう独りで歩けない。これはForever Love。どうして、定食、くれない。

胃袋だけでなく脳みそも限界だったので、家に帰ることにした。くやしいよ、とても。悲しいよ、とても。しかし、そこで目に飛び込んできたのは、黄色い看板。あ〜よかったな、ココスがあって……(選べるおかずのジャポネギハンバーグ膳)。


某日

大喜利のイベントを見に行く。出演者の中にトンツカタンお抹茶の名前があったので、お抹茶が今年のR-1グランプリ決勝でやった歌ネタ「かりんとうの車」を久しぶりにYouTubeで見た。電車でニヤけた。

開演までの時間潰しでドトールに入った。豆乳ラテにしようと決めていたのに、口が勝手に抹茶ラテを注文していた。完全にお抹茶に導かれている。


某日

近所を歩いていたら、交番の前で警察官とおばあさんが世間話をしていた。ちょうど聞こえてきたのが、「△△町って榎本さんだらけですよね」という警察官の言葉。△△町というのは、私が住んでいる地域名である。私は榎本さんだらけの町で暮らしていたのか。知らなかった。


某日

電車で男子中学生に囲まれた。

一番端の席に座っていたら、学校帰りと思われる7人くらいの中学生がどかどか乗車してきた。2人が私の右隣に座り、その2人がやっているゲームを5人が吊革につかまって覗き込んでいる。近い。目の前に立っている奴は明らかに私のテリトリーを侵害しており、もし私が今、気まぐれに天に向かって正拳突きなどしようものなら、そいつの顎が砕ける、くらいの位置まで前に乗り出してきている。大変に邪魔である。黙って覗いているだけならまだいいが、中学生らしさ全開の調子こきバカデカ発声で「やめろっておまえー!」などと隣の奴とカスみたいなじゃれ合いを繰り広げており、目にも耳にも騒がしい。もしも私が大いなる存在であったのなら、彼らを一人一人ひょいっとつまみ上げて、一つの車両に一人ずつ配置したいものである。みんなでいるから気が大きくなっているだけで、一人一人はどうせ普通にいい子なんだ。


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