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熟れたイチジクのような奥行きのあるブラウンレッド

某日

いつも使っているチューブタイプの豆板醤がなくなったのでスーパーで調達した。パッケージに「今だけ10%増量中!」とあり、それは大変ありがたいことだと思いながらカゴに入れて購入。家に帰って冷蔵庫に収納しようとしたところ、入らない。いつも扉側にあるポケットに収納しているのだが、高さが足りない。今だけ10%増量している分、今だけチューブが長くなっていたのだ。イラッとした。さっきは今だけ10%増量をありがたがっていたというのに、冷蔵庫のポケットに入らないだけでこんなにも腹が立つ。増量してんじゃねえよ、とすら思う。勝手な話である。市場調査が我が家の冷蔵庫のポケットの高さまで及んでいなかったというだけのことだ。致し方ない。豆板醤はポケットの中で寝ている。


某日

外を歩いていると、大きな声で電話をしている人がいた。「ほら、吉田さんっているでしょ! あの木梨憲武に似てる人!」と言っていた。私は今、木梨憲武の顔を思い浮かべているが、見ず知らずの吉田さんの顔も8割くらい思い浮かべることに成功しているのかもしれない。


某日

新しいリップを買った。少し落ち着いた色味を試そうと思い、巷で流行っていると聞くKATEのリップモンスターの色見本を見て、なんとなくピンときたダークフィグという色を選んだ。家に帰って早速塗ってみたところ、私の素の唇、すなわちスチビルとほぼ同色だった。道理でピンときたわけだ。リップモンスターの公式サイトによれば、ダークフィグとは「熟れたイチジクのような奥行きのあるブラウンレッド」らしい。つまり私のスチビルは「熟れたイチジクのような奥行きのあるブラウンレッド」だったらしい。突如才能を見出された気分である。今後は意識を高く持ち、他者を敬い、法を遵守し、質素倹約に努め、「熟れたイチジクのような奥行きのあるブラウンレッド」のスチビルを与えられし者として恥ずかしくない人生を歩んでいこうと思う。「熟れたイチジクのような奥行きのあるブラウンレッド」に「熟れたイチジクのような奥行きのあるブラウンレッド」を塗る。顔面には何の変化もない。



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