【web連載#3-1】NG騎士ラムネ&40 FX
■公式外伝「NG騎士ラムネ&40 FX」
・原作・監修:葦プロダクション
・企画・制作:Frontier Works
・本編執筆:十一屋 翠
■これまでのお話… 第1話 + 古代文明SS1,2
「スィーッと出航! ミントな香りは冒険の予感!?」あらすじ
ラムネスとダ・サイダーは、お小遣い欲しさにハラハラワールドでアルバイトをすることにした。依頼人であるモンエナ教授はワクワク時空研究の第一人者で、二人にはとある調査地への護衛を頼みたいのだと言う。モンエナの研究室で助手をしている少女・ペプシブと道中一緒にいられるとわかり、お金以外のムフフな報酬へ期待を膨らませるラムネス達。
しかし、そんな浮気心を察知したミルクら聖なる三姉妹と、改心した破壊戦士・シンゲーンとケンシーンも同行することになり、なにはともあれ一行は調査地・ウラウラの谷へと出発する。ウラウラの谷……そこは、かつてゴブーリキの巫女・マウンテンデューが根城にしていたパフパフ宮殿のあった場所だった。
■これまでのお話… 第2話 + 古代文明SS3
「パキャッ! モノクロエッグは破滅のタマゴ!?」あらすじ
パフパフ宮殿跡地のガレキの中から、地下へと続く通路が見つかった。通路を進んだラムネス達を待っていたのは、大きくそびえたつ謎の装置だった。未知の装置を目の前にして、貴重なシロモノだと興奮するモンエナ教授とペプシブ。コインを入れてレバーをまわすと、中からカプセルが排出されるシステムの装置だと推測したモンエナ教授は、守護騎士のメタルコインを使った究極の課金ガチャを提案する。「ガチャにメタルコインは使えない」と躊躇するラムネスだったが、古代グラビア本の入ったカプセルを見つけ、知的好奇心を刺激されてしまう……!
■第3話「反撃の糸口! 巨大ゲームで大特訓!」(その1)
――かつて、どこかにあった刻2――
「はぁ……ようやくウロボロスを安定させる事が出来た」
深夜の実験室に一人佇む主任の前には、白と黒の2体の巨大ロボットの姿があった。
「まったく、ここに至るまで随分とかかったもんだ」
幾度ものトライアルを重ねた主任達研究チームは、ウロボロスの機能を二つに分割させる事でエネルギー制御の問題を暫定的にだが制御することに成功したのである。
もっとも、そこまでの道のりで幾度もエネルギー暴走を起こしそうになった為、その度に主任は上司からお叱りを受けてきたのだが。
「でもこれでやっと実験の度にウロボロスを緊急封印しなくてもよくなりましたよね」
溜息を吐く主任にそう声をかけてきたのは金と銀の髪の少女達だ。
「ウロボロスは私達カンナギの力をもってしても制御できないものでした。分離させたのはある意味正しい判断だったかと」
「そうそう、それに神事でお披露目する事を考えれば2体に分けたのも丁度良かったんじゃない?」
「ウルドにシルビア! 二人共まだ起きていたのか!? 神事は明後日だろ? 体調には気を付けないと」
「「主任がそれを言います?」」
二人の少女が主任をギラリと睨みながら低い声で返すと、主任は反射的に身を縮こまらせる。
「す、すみません」
見た目は明らかに主任の方が年上なのだが、この三人……というか、二人と一人の間には明らかに力関係のようなものが見えていた。
「まったくもう、研究室に明かりが付いていると思ったらこれなんだから」
「そうそう、おかげで私まで起こされちゃったんだから」
ウルドと呼ばれた金髪の少女が主任に苦言を呈すると、シルビアと呼ばれた銀髪の少女がそれを茶化す。
「そ、それは貴女が勝手について来ただけでしょう!?」
「夜中にゴソゴソされたら、誰だって起きちゃうって。てっきり私はお姉様が夜中にお腹が空いて夜食でも作ってるのかなーって思ったんだけど」
「そんな体に悪い事はしません!」
どうやら二人は姉妹のようである。
「……けどまぁ、そうかもな。ウロボロスはただそこに存在しているだけで暴走の恐れがある危険な機体だったからなぁ」
二人の口喧嘩を穏やかな眼差しで見守りつつ、主任の視線は2体の巨大ロボットに注がれる。
「ええ、それゆえに機体の問題点を調査する事も困難でしたが、こうして分離させた事で安定するようになったおかげで、これまで以上に問題点の洗い出しが容易になりました」
「そうそう。だからウロボロスの完成もグーンと近づいたと思わない?」
「ははっ、そうだな」
二人に励まされ、主任の気持ちが上向きになる。
「そういえばこの2体の名前ってどうするの?」
「何?」
シルビアに質問されて、主任はきょとんとした顔になる。
「だってどっちもウロボロスじゃ区別がつかなくてややこしいでしょ?」
「あー、まぁそう言われれば……」
名前をどうすると言われて主任は内心で激しく慌てる。
(な、名前だって!? そんなの考えてなかったぞ!? そもそも俺はペットのネーミングセンスだって自信が無いんだ!)
かつて実家で飼っていた白犬を安直にシロと名付けた前科のある主任は、2体のロボットに名前を付けろと言われて動揺していた。
「く、黒い方をクロボロス、白い方をシロボロスでどうだ!」
「……んー、まぁ良いんじゃない?」
「変に突飛な名前を付けられるよりは……」
「うぐ……っ」
二人の気遣う視線が主任の心を抉る。
「で、では私達は明後日の神事の準備がありますので、お先に失礼しますね」
何となく居たたまれない雰囲気になった為にウルドがそそくさと部屋を出ていこうとするが、それは主任にとってもありがたい事だった。
「あ、ああ、頑張れよ」
そして部屋を出ていく二人に主任が激励の言葉をかけると、妹のシルビアが振りむいてこう告げた。
「主任も報告書を書いたらすぐに休んでよ! 明後日は私達の晴れ姿が見れるんだから! 疲れてボサボサの姿で来ないで体調を整えておいてよね! 風邪ひいたら承知しないんだから!」
「分かった分かった」
今度こそ仕事に戻ろうと机に向き直ると、そこには淹れたてのコーヒーとクッキーが置かれていた。
ウルドとシルビアが置いて行ったのだろう。
「こりゃ参った」
二人の気遣いに感謝する主任。
「しかしそうか。もう神事の時期か」
神事という言葉に、感慨のようなものを感じる主任。
「俺達が出会って、そんな経つんだな」
再び2体に分離したウロボロスに視線を向ける主任。
「アレの開発がここまで進んだもの、カンナギである彼女たちの協力のお陰だ」
(”彼”にとっても、俺にとってもな)
「ふむ、彼女達にも世話になっているし、これを機に何かプレゼントでも用意するかなぁ。だが何を贈ったものやら……」
しかし生憎と主任には年頃の女の子の好むようなものは良く分からない。
「あっちの世界ならともかく、こっち側だとなおさらだよな」
悩んだ主任は、気分を変える為にウルド達が用意してくれたコーヒーに手を伸ばす。
「ん?」
そこで主任は自分の腕に巻かれたブレスレットに目がいく。
ブレスレットと言っても、お洒落な装飾品ではなく、通販番組などで紹介されるような怪しい健康グッズだ。
「そういえば、二人共これに興味を示していたっけ」
(女っ気のない自分が洒落たものを身に着けているからって、彼女でも出来たんじゃないのかって随分問い詰められたなぁ)
その時の事を思い出しながら主任は腕のブレスレットを弄ぶ。
「いっそ下手にオッサンのセンスで決めるよりは、二人が興味を持った物を贈るほうが良いのかもな」
そう思い至った主任は、個人用端末を操作してさっそく商品の注文を行う。
「こんな時間でも商品の注文が出来るんだから、この世界も悪くないよな」
注文を終えた主任は、やり遂げた顔で作業用端末の操作を再開する。
「それじゃあ、キリの良い所までやりますかっと!」
気合を入れて作業を再開する主任。
「あっ、でもおっさんとお揃いは嫌って言われたらどうしよう……、そんな事言われたらおじさん泣いちゃうぞ?」
ちょっとだけ、反抗期の娘に嫌われたくないと思う父親の気持ちが分かった気がする主任だった。
――現代――
彼等は暗黒の世界に居た。
漆黒の世界に輝くのは巨大な二つの目。
それはココアが開発したドリータンク・ジュニアの眼差しだった。
「まさかドリータンク・ジュニアが宇宙を飛べたなんてなー」
ドキドキスペースの宇宙を飛ぶドリータンク・ジュニアに驚きの声をあげるラムネス。
「ドリータンク・ジュニアは~、もしもの時を考えて何でも出来るようになっているんですのよ~」
ラムネスに感心された事で、珍しくココアが誇らしげに胸を張る。……胸を張る!
「ねぇ、それよりもシンゲーン達は大丈夫なの!?」
そんなココアにミルクが心配そうな声を上げる。
ドリータンク・ジュニアの床には、ホロボロスと戦いで傷を負ってボロボロになったシンゲーンとケンシーンの姿があった。
彼等が特有の小型化能力を有していた事が幸いだった。
もしこの能力を持っていなかったら、負傷した彼等はドリータンク・ジュニアの移動速度についてこれなかっただろう。
「も、問題はありませぬミルク姫」
「さ、左様。この程度大した傷ではござらん……」
いかにも平気そうに言う二人であったが、それが強がりであるのは明白だった。
「そんな事言って、ボロボロじゃない!」
「アンタ達が体を張ってあたし達を助けてくれなかったら全員お陀仏だったわ。感謝してるわよ」
レスカの言う通り、ホロボロスの攻撃からラムネス達を守ったのはシンゲーン達だった。
彼等は負傷した体に鞭を打って合体すると、地面に穴を開けてラムネス達を地下に避難させてくれたのだ。
しかし攻撃の余波は穴の中にまで及び、彼等がその衝撃から身を挺して皆を庇ったのである。
そして勝利を確信したモンエナ教授がワクワク時空を解除するのを待ってパフパフ宮殿跡地から逃げ出したのだ。
「ここでは応急修理しか出来ませんわ~。どこか大きな工場に連れて行きませんと~。せめてアルミホエール号の格納庫なら、本格的な修理が出来たのですが~」
「うう、オレ様のアルミホエール号~っ!!」
ドリータンク・ジュニアの隅で丸まっていたダ・サイダーが号泣する。
何故なら彼の愛船であるアルミホエール号は、ホロボロスの攻撃の余波で大破してしまったからだ。
「つーかアルミホエール号はアララパパに作ってもらったあたしの船だっつーの」
元から自分のものだとツッコミを入れつつも、レスカの視線はダ・サイダーではなく、一人黙るペプシブに向けられていた。
「……」
何とか脱出に成功したものの、ペプシブは生き残った事を喜ぶでもなく、一言も喋らずに黙って俯いていた。
(まぁ育ての親があんな事になりゃしょうがないか……)
ドォォォォォォンッ!!
そんな時だった。突然ドリータンク・ジュニアが激しく揺れる。
「うわぁぁぁぁ!? 何だ何だ!?」
ドリータンク・ジュニアを操縦していたラムネスが驚きの声をあげる。
「たしか行きにも同じ事があった気がするんだけどー!?」
「また山賊!? それとも宇宙だから宙賊!?」
『いいや違う!』
ドリータンク・ジュニアのスピーカーから流れてきたのは、聞き覚えのない声だった。
『お前達に攻撃したのは我々だ!』
「皆モニターを見てっ!!」
ミルクの声に皆の視線がモニターに集まる。
そこには5体の巨大なロボット達の映像が映し出されていた。
真ん中に青いロボットが1機、更にその左右には同じ形をした2組4色のロボット達。
黄色と緑のロボット、そして紫と桃色のロボットがそれぞれ同じ形をしていた。
『ブルーブル!』
真ん中の青いロボットが名乗りと共にポーズをとる。
『イエローブル! グリーンブル! パープルブル! ピンクブル!』
続いて他のロボット達も名乗りと共にポーズをとる。
ただし喋っているのは青いロボットだけで、他のロボット達はポーズをとるだけだ。
『五人そろってバレットブルズ!!』
宇宙空間にも関わらず、バレットブルズと名乗ったロボット達の背後で大爆発が巻き起こる。
「ねぇ、五人組なのに赤は居ないの?」
『赤は駄目だ。偉い人に怒られる』
ふとTVのヒーロー番組を思い出したミルクが質問すると、ブルーブルと名乗ったロボットが慌てて手をパタパタと振る。
「誰に怒られるんだよ!」
『そんなことはどうでもいい! それよりもよくぞホロボロスの攻撃から生き延びたものだ! さすが勇者ラムネス!』
「ホロボロス!? って事はお前達、モンエナ教授の仲間か!?」
「っ!?」
モンエナ教授の名前が出た事で、これまで顔を伏せていたペプシブが顔を上げる。しかしその表情は決して明るいものではない。
『その通りだ! 我等はモンエナ教授の命を受け、貴様達にとどめを刺しに来たのだ』
そう言ってブルーブルと名乗ったロボットが武器を構える。
「くっ、ココア、ドリータンク・ジュニアの操縦は任せた! オレはあいつ等を迎撃する!!」
ココアの返事も待たずにラムネスは操縦席を飛び出す。
「わ、我々も共に戦いグゥッ……」
シンゲーンとケンシーンも共に戦おうと立ち上がろうとするが、先ほどまでの戦闘のダメージは大きく、とても動けそうになかった。
「アンタ等はおとなしく休んでな! ココア、船の操縦はあたしがするから、アンタはコイツ等を直してやんな!」
「分かりましたわ~!」
「タマQ!」
「ボックは準備OKだミャ! ラムネス!」
ラムネスがメタルコインをタマQの頭部スロットに挿入すると、タマQの口から手のひら大の卵が吐き出される。
「キングスカッシャァァァァァァ!!」
甲板に出ると同時に卵を投げ、キングスカッシャーを召喚するラムネス。
「シュパーン!!」
「行くぞキングスカッシャー!」
ラムネスは剣を構えると、ブルーブルへと突撃する。
「先手必勝! リーダー狙いだ!」
ラムネスの狙いは正しい。
仲間達が負傷している以上、数で劣る自分達が勝つには相手の指揮系統を乱すしかないと判断したからだ。
しかしここで重大な問題が発生する。
何故かキングスカッシャーの出力が上がらないのだ。
「あっあれ!?」
結果、力の入らない攻撃はブルーブルにあっさりと防がれてしまった。
「何だ? 勇者の力とはこの程度なのかっ!」
それどころか、ブルーブルに押し返されて吹き飛ばされるキングスカッシャー。
「どうなってるんだ!?」
「ホロボロスとの戦いのダメージが大きすぎるんだミャ! それにエネルギーの回復も十分じゃないミャ!」
キングスカッシャー達守護騎士は、タマQ内部にあるメタルコインワールドで自己修復とエネルギーの補充を行う事が出来る。
しかし脱出してからほんの数十分程では、十分な回復とはいえなかったのである。
「なんてこった! これじゃあまともに戦えないじゃないか!」
「ブールブルブル! どうやら弱っているようだな勇者ラムネスよ!」
ブルーブルの背中から生える大きな翼が広がったと思うと、それが分離して巨大なバトルアックスへと変形する。
「はぁーっ!」
戦斧を手にしたブルーブルが、キングスカッシャーに猛攻を開始する。
「うわぁーっ!?」
ラムネスはなんとか剣と盾を駆使してブルーブルの攻撃を凌ぐ。
「俺にばかり気を取られていて良いのかな?」
「何っ!?」
ブルーブルが指を差した先を見れば、そこには彼の仲間であるバレットブルズによって武器を突きつけられたドリータンク・ジュニアの姿があった。
「ごめーんラムネスゥ~」
完全に包囲されているドリータンク・ジュニアから、申し訳なさそうなミルクの声が聞こえてくる。
「仲間の命が惜しければ、おとなしく降参するんだな」
「くっ、卑怯な!」
「ブールブルブル、負け犬の遠吠えだなぁ! この状況ではどうしようもあるまい!!」
完全に場を支配したとブルーブルが得意満面の笑い声をあげる。
しかし彼は忘れていた。
ここにはもう一人の勇者が居た事を。
「クィーンッ! サイダッ!! ロォォォォン!!」
その雄叫びと共に漆黒の風がドリータンク・ジュニアを包囲していたバレットブルズを吹き飛ばす。
「何ぃっ!?」
予想外の事態に驚愕の声をあげるブルーブル。
「うぉぉぉぉぉっ! よくもオレ様のアルミホエール号を! 絶対に許さんぞーっ!!」
そこに現れたのは、ダ・サイダーの操るクィーンサイダロンだった。
アルミホエール号が破壊されたショックで呆然としていた彼だったが、レスカに蹴っ飛ばされた事でようやく我に返り、にっくきモンエナ教授の仲間であるバレットブルズに怒りをぶつけようと飛び出してきたのだ。
「ダ・サイダー!!」
頼りにならないと思っていた仲間の復活に思わず快哉をあげるラムネス。
とはいえまだまだ状況は好転したとは言い難かった。
何しろクィーンサイダロンもホロボロスとの戦いで損傷しており、そのダメージは目に見えて大きかったからだ。
「モンエナのジジイめ! 必ず吠え面かかせてやる!! 具体的には坊さんにしてやる!」
「お坊さん?」
突然お坊さんと言われてミルクが首を傾げる。
「絶対に許三蔵法師!」
「「「「だぁーっ!」」」」
あまりにくだらないダジャレで思わずずっこけるラムネス達。
「しょ、しょーもなー……」
「つ、つまらん……」
「ん?」
ふと見れば、あまりのくだらなさにバレットブルズまでずっこけているではないか。
「はっ! チャンス! 皆逃げるぞ!!」
「おわぁ!? な、なんだラムネス!?」
ラムネスはブルーブルに飛びかかろうとしていたクィーンサイダロンの腕をつかむと、ドリータンク・ジュニアに掴まる。
「任せな!」
そして準備万端だったレスカが即座にドリータンク・ジュニアのアクセルを吹かして全速力で逃げ出す。
これもダ・サイダーのダジャレを常日頃から聞かされていた事で他の誰よりも我に返るのが早かったおかげといえよう。
「い、いかん!! お前達、追え、追うのだー!!」
必死に逃げるドリータンク・ジュニアだったが、先ほどの攻撃によるダメージで思うように速度が出ない。
「このままだと追いつかれるよ!」
「お姉さま、右の赤いボタンを押してくださいまし~!」
「これかい!」
ココアの指示を受けたレスカがボタンを押すと、ドリータンク・ジュニアの後方から大量の黒い煙が噴き出す。
「な、何だ!? 目くらましか!?」
これでは迂闊に動けないと、バレットブルズ達も警戒して身動きが取れなくなる。
そして黒煙が晴れた頃には、既にラムネス達の姿はなかった。
「し、しまったー! ラムネス達を逃してしまったー!!」
ラムネス達はどの方角に逃げたのかと散開して全周囲を探索するバレットブルズだったが、360度ある宇宙空間を探索するにはあまりにも人数が少なすぎた。
更にこれは偶然だが、ラムネス達が小柄なドリータンク・ジュニアで脱出した事も追跡を困難にしていた。
宇宙空間といえど完全に何もないわけではない。
アステロイドベルトのような小惑星帯とは言わずとも、宇宙を漂ういくつもの岩石のかけらに隠れられては探すのは容易ではない。
そのせいでブルーブルはどこへ向かえば良いのか分からず、立ち往生してしまった。
『しくじったようだなバレットブルズよ』
「はうっ!? その声はモンエナ教授!?」
そこにモンエナ教授からの通信が入り、ブルーブルがビクリと身を震わせる。
「調子に乗ってダ・サイダーの事を失念していたようだな」
「な、何故それを!?」
「お前達の戦いはしっかりモニターしておったわ! 下らんミスで千載一遇のチャンスを逃しおって!」
「ひぃーっ! 申し訳ございません!」
モンエナ教授に叱られ、ブルーブルは教授がその場に居ないにも関わらず土下座で謝罪をする。
「やれやれ、これでは当分の間お前が出世する事はなさそうだな」
「うぐっ」
「私を引きずり降ろして頂点に立つなど夢のまた夢であろうよ」
「は、はは……生みの親であるモンエナ教授を引きずり下ろすなどそんな恐れ多い」
「おやそうだったのか? てっきり私はお前が私やマウンテンデュー姉妹様を押しのけて頂点に立とうとしているのかと思っていたぞ」
「はははっ、御冗談を。わたくし共はモンエナ教授の忠実な部下ですとも」
「だろうな。何しろお前達は生みの親である私に逆らえないように作られているのだからな」
そう、バレットブルズを創り出したのはモンエナ教授だ。
彼はホロボロスを制御する為の研究の一環としてバレットブルズと産み出したのである。
だからこそ、彼等は生みの親であるモンエナ教授に逆らえないようにプログラミングされていたのだ。
「はい! その通りでございます! マウンテンデュー姉妹様の忠実な部下であらせられるモンエナ教授様に忠誠を誓っておりますれば」
「そうかそうか……ではさっさと勇者共の首を私のもとに持ってこい!」
それだけ言うと通信が一方的に切られる。
「……くそっ! いい気になりやがってあの爺ぃっ! 何がマウンテンデューだ! いなくなっちまった連中をありがたがっても何の意味もねぇだろうに!」
『今マウンテンデュー姉妹様の悪口を言っておらんかったか!?』
「ひえぇぇぇぇぇぇ!?」
突然通信が復活して悲鳴をあげるブルーブル。
「な、ななな何のことでございますか!?」
「んー? 気のせいか? まぁ良い、早く仕事に戻るのだぞ」
「ははーっ!」
「地獄耳かあの爺っ!」
「今に見ていろよモンエナの爺ぃ! 必ずお前を引きずり下ろしてやるからな!」
言葉を紡ぐことのない同僚達の眼差しを受けながら、ブルーブルの野心に満ちた雄叫びがドキドキスペースの宇宙(そら)に響き渡ったのだった。
◆
「ふー、何とか逃げ切ったみたいだ。ダ・サイダーのダジャレに助けられたな」
「ふっふっふっ、オレ様の華麗なるダジャレ剣法に感謝しろよ」
状況を良く分かっていなかったダ・サイダーだったが、自分のおかげという言葉を敏感に察知してしたり顔になる。
「へいへい」
「でも~、さきほどの襲撃でドリータンク・ジュニアも限界みたいですわ~。一度どこかのワールドに降りて修理しませんと~」
シンゲーン達の応急処置を終えたココアは操縦をレスカに任せたままドリータンク・ジュニアの修理に勤しんでいた。
しかし彼女の技術をもってしても、現状の設備では応急処置が関の山だったようである。
「今度はドリータンクか」
「どこか追手から隠れる事が出来て、修理も出来る場所ってないかしら?」
「そんな都合のいい場所がある訳……」
「ん? 何これ?」
現状を打破する良い手段はないものかと頭を抱えるラムネス達だったが、それがレスカの声によってさえぎられる。
「どうしたレスカ?」
「なんか何処かから通信……じゃないわね。救難信号? でもない。なんか良くわかんないけど信号が届いてるのよ」
「良く分かんない信号? 一体何だろう?」
答えの出ない問題からの現実逃避とばかりに、皆がレスカのもとへあつまる。
そしてキャッチした信号をココアが調べると、その出どころが判明した。
「これは~、オニオニワールドからですわね~」
「オニオニワールドって言うと、確か七色の石板を探してシンゲーン達と対決した場所だよな」
「えっ!? あの、それって……」
ラムネスの言葉に今まで黙って俯いていたペプシブが初めて声をあげる。
「で、どうするの?」
だが弱々しいペプシブの呟きは、すぐにラムネス達の会話にかき消されてしまった。
「そうだなー……その信号ってのが気になるよな。どのみち追手から逃げる為にはドリータンク・ジュニアの修理もしないといけないし、何よりシンゲーン達をちゃんとしたところで治療してやらないと!」
方針が決まった事で、ようやく船内の空気が明るくなる。
レスカは気合を入れるようにドリータンク・ジュニアのハンドルを握りなおすと、全員に聞こえるように声を張り上げる。
「じゃあ逃げ込む先はオニオニワールドって事で決まりね! 超特急!……は無理だけどなるべく急いで行くわよ!」
「「「「「「おーっ!」」」」」」
(その2へつづく!)※次回は7/28(水)更新予定です
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(C)葦プロダクション