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公式外伝「NG騎士ラムネ&40FX」第2話まとめ

■公式外伝「NG騎士ラムネ&40 FX」
・原作・監修:葦プロダクション
・企画・制作:Frontier Works
・本編執筆:十一屋 翠


■古代文明SS3:姉妹の決意と夢見る鳥

fxゲストヒロイン告知2-復元_

「「あの人は主任じゃない」」

 ウルドとシルビアは真実に気付いてしまった。
 儀式によって研ぎ澄まされたカンナギとしての超感覚が、環の心を感じ取ってしまったのである。
 その結果、彼の中身が自分達の慕う主任でない事に気付いてしまったのだ。

「あの人から主任の心を感じなかった……それってつまり」

 シルビアの言いたい事をウルドは痛い程理解していた。
 肉体から心を、魂を感じ取れなくなったと言う事は、それはすなわち……

「っ!」

 その答えを妹の口から聞くことを恐れたウルドは、シルビアを強く抱きしめる。
 痛みを感じる程の強さに一瞬眉を潜めたシルビアだったが、逆にこの痛みのお陰で恐ろしい真実を口にしなくて済むと強い抱擁を受け入れる。

「どうすればいいのかな……」

 長い時間が経ち、ようやく落ち着いてきた所で、シルビアはウルドに問いかける。
 それは答えの出ない問いだ。だがウルドは姉として妹の問いに答えなくてはいけないと感じていた。

「あの人は……悪い人ではないわ」

「うん、そうだよね。だってあの人は、私達を大切に思ってくれているもん」

 環の心を感じ取ったウルドとシルビアは、彼の中にある自分達への愛情を見た。
 主任の肉体を乗っ取ってしまった事の罪悪感から、彼は姉妹を守らなければいけないと強く己を戒めていた事を感じた。
 そしてそれと同じくらいに、姉妹を守るべき家族として大切に思ってくれていたのだ。

「あの人は何も悪くないわ。悪いのは……」

「うん、私達だよね」

 ウルドとシルビアは環の存在を感知した事で、彼に何が起きたのかを理解した。

「私達がウロボロスの実験をした事で、あの人の魂は巻き込まれてしまったんだわ」

「そして私達を庇ってし……死んだ主任の、肉体に乗り移った」

「「私達のせいだ」」

 それは決してウルドとシルビアだけの責任ではない。様々な者達の思惑が重なり合った結果の話なのだから。
 けれど、それでも自分が環を巻き込んだことには変わりないと、姉妹は罪悪感に押しつぶされそうになっていた。

「どうする? 本当の事を話す?」

「……いいえ、止めておきましょう。あの人はとても優しい人。私達が真実を知ったと伝えれば、彼は自分こそが私達から主任を奪ってしまったと悔やむ事になるでしょう」

 環という人間の心を直接感じ取ったからこそ、ウルドとシルビアは彼がそう考えるであろうと理解していた。

「だから、これまで通りにしましょう。優しいあの人が、せめてこの世界を本当の意味で自分の居場所と思ってもらえるまで」

「そう……だね。あの人にはもう、どこにも帰る場所がないんだから。私達があの人の帰る場所になってあげないとね」

 心を決めた姉妹は、再び互いの体を強く抱きしめ合うのだった。
 それはまるで、指切りをして強く約束を交わす子供のように。

 ◆

「はー、意外と未来世界も俺の世界と変わらないんだな」

 仕事を終えた環は、すぐ家に帰らず繁華街を散策していた。
 というのも仕事と双子姉妹との生活に慣れてきた事で、この世界の事を知ろうと言う心の余裕が出来てきたからだ。

「らっしゃいらっしゃい! 良いのあるよー!」

「ウチの商品はそんじょそこらの商品とはわけが違うよー!」

「ぷっ」

 露店の客引きがあまりにも見覚えのある光景だったため、思わず笑ってしまう環。

「おっとそこのお兄さん、どうだい見てかないかい?」

 笑った事に気付かれたのかと思いドキッとした環だったが、店主としてはお上りさんのような浮世離れした彼の振る舞いが目に入っただけだったりする。
 とはいえ、環としても未来世界の露店でどんなものが売っているのか気になったので、ちょっとだけと思いながら並べられた商品を眺める。

「これは……アクセサリか?」

「ただのアクセサリじゃないさ。コイツはバイタルマシンとリンクして体調を整えてくれるヘルスサポートアイテムだよ」

「バイタルマシン?」

 何だそりゃと環が首を傾げると、逆に店主の方がは? と首を傾げる。

「何ってアンタの胸のソレだよ」

 店主が指さした環の左胸には、丸い円形の装飾が煌めいていた。

「ああ、これって機械だったのか」

 主任の記憶を読み解いた事で、胸に取り付けられた装飾が装着者の健康管理をしてくれるサポートメカだと気付く。

(へぇ、この世界の住人は皆これを付けて健康管理をしているのか。てっきり未来的なアクセサリだとばかり思っていたよ。そういやウルドとシルビアも頭に同じような物を身に付けてたな)

「バイタルマシンを知らないって、アンタどこのお坊ちゃんだよ」

 感心する環の沈黙に、店主は環をバイタルマシンも知らない世間知らずだと勘違いする。ある意味世間知らずではあるのだが。

「あ、いや。今言われるまですっかり忘れてたよ。なにせこの通り健康優良児なんでね。はははっ」

「はぁ、さようで」

 笑ってごまかした環は改めて並べられた商品を見る。

(ふむ、主任の知識だと、こういうのは大抵性能の低い詐欺と紙一重のなんちゃってアイテムか。けど面白いな。こんなサイズで健康サポートをする機械が作れるなんて)

「面白いな。一つくれ」

「え? あ、はいはい!」

 興味の沸いた環は、面白半分でブレスレット型の健康リングを購入する。

「まいどありー!」

「まっ、こういうのも面白いよな」


 ◆

「「誰に貰ったんですか!?」」

 家に帰って来た環に開口一番告げられたのは、問いかけの言葉だった。

「え?」

「え? じゃないです! その腕に着けたソレです」

「どこの女に引っかかったの!?」

 ウルドとシルビアの頭部につけられた髪飾り型のバイタルマシンの液晶モニターが(><、)や(‵Д′#)といった風に表情をコロコロと変えて二人の異常な興奮を警告している。   
どうやらウルドとシルビアは、環が買ったヘルスサポートアイテムを女性からのプレゼントと勘違いしたらしい。

「いやいや、違うって。これは自分で買ったんだよ」

「買った!? 主任が!?」

「自分でオシャレグッズを!?」

 環の言葉に信じられないと驚きの表情を浮かべるウルドとシルビア。

「ああ、露店で面白いのが売ってたからさ、中身を分解して性能を調べてみようと思ってな」

「「え?」」

 ウルドとシルビアはどういう事と首を傾げながら、環の説明を聞く。

「なーんだ、そういう事かー」

「ビックリしました……てっきり突然お付き合いしている女性が現れたのかと……」

 事情を聞いたことでようやく落ち着いた二人は、環の買ったヘルスサポートアイテムを彼の腕ごと手に取って眺める。

「オシャレの為じゃなく、研究の為に買っちゃうのが主任だよねー」

「でも割といいデザインですよね」

「だよね! いいなー。私もこういうの欲しいなー」

 環の腕を撫でながら、シルビアが上目遣いに見つめてくる。

「こらシルビア! はしたない真似は止めなさい!」

「えー、でもお姉様だって主任にプレゼントして欲しいでしょ?」

「そ、それは……まぁその」

 妹を叱った筈が、気が付けばシルビアの口車に乗せられそうになっているウルド。

「って、そんな事ありません!」

「あはははははっ!」

 そんな二人の姿を微笑ましく見つめながら、環はコーヒーを口にする。

「……まっず」

 どうやら今日のコーヒーを入れたのはシルビアだったようだ。

 ◆

 姉妹との団欒を終えた環は、自室に篭り3Dモデルで作られた図面を開いていた。

「ふーむ、こんな感じかな」

 そこに表示されたモデルは彼が開発に関わっているウロボロスではなく、鳥型のロボットだった。

「うーん、後々機体をアップデートする時の為に、もう少し内部のクリアランスを確保したいところだな」

 環がああでもないこうでもないと言いながら図面をいじっていると、コンコンと控えめにドアがノックされる。

「はいどうぞ」

 彼が返事をすると、パジャマ姿のウルドとシルビアが入ってきた。

「主任、まだ起きていたんですか?」

「ん? ああもうこんな時間か」

 ウルドに指摘された事で、結構な時間が経っていることに気付く環。

「早く寝ないと駄目だよー」

「ああ、すまない」

 注意されている環に苦笑しつつ、ウルドは机の上に展開されていた3Dモデルに気付く。

「あら? この図面は……ウロボロスじゃありませんね?」

「え? そうなの?」

「あー、いや、これはちょっとした息抜きだよ」

「「息抜き?」」

 環の言葉にウルドとシルビアは目を丸くする。

「息抜きでロボットの図面を引いていたんですか!?」

「仕事じゃないのに!?」

「良いだろ別に。休日くらい自分の好きなロボットを設計しても」

 二人に呆れられ、環が拗ねたように口を尖らせる。

「呆れた。お休みの日にまでロボットの事を考えてるなんて」

「だから休んでるって。これは息抜き、俺の趣味です」

「その息抜きに根を詰めたら本末転倒ですよ」


 めっ、と叱られて困ったように視線を泳がせる環。

「うっ……それはその」

「そうそう、もうすぐ神事が近いんだし、体を壊して参加できませんでしたーなんてのは無しだよ!」

 シルビアに言われて、環はカレンダーに目を向ける。

「ん、そうか。もうそんな時期か」

 カレンダーの暦は年末を刻んでおり、新年が近い事を彼に教えてくれる。
 姉妹がカンナギとしての役割を行う神事は毎年の始まりの日、つまり新年に行われるからだ。

「また二人の綺麗な姿が見られると思うと、今から楽しみだな」

「ふふっ、そんなにおだてても何も出ませんよ」

「そうそう、出るのはお姉様の不味ぅ~いご飯だけだよ!」

「シルビア!」

 綺麗と言われ、悪い気のしないウルドだったが、妹に茶化された事で怒りの声をあげる。

「あははっ、冗談だって!」

 環の前ではしゃぐウルドとシルビアだったが、彼女達もまた月日が流れる速さに驚いていた。

(あの日からそんなに経っていたんですね)

(この人を受け入れると決めてから、もう一年経ってたんだ)

 気が付けば、環との他愛ない会話を自然に楽しめるようになっていた事に驚くウルドとシルビア。
 気が付けば二人は環の事を本物の主任同様に……いや主任ではない『環』として彼の存在を受け入れていたのだ。
 それはとても良い事だった。だったのだが……

(けれど何故でしょう)

(とても嫌な予感がする)

 二人は神事が近づくにつれて言いようのない不安を、感じるようになっていたのだった。

(SS3:END……)

▽……NEXT NG KNIGHT LAMUNE&40 FX


■第2話「パキャッ! モノクロエッグは破滅のタマゴ!?」

ラムネ外伝サブダイ_1609デザイン_02


――かつて、どこかにあった刻――

 そこは音と光と目に見えぬ圧が荒れ狂う空間だった。

「だめです! ウロボロスのエネルギー上昇止まりません!」

 何らかの施設と思しき部屋の中は、緊急事態を告げる警報音と真っ赤なランプの輝き、そして肌を刺すような未知の圧力に包まれていた。

「緊急停止をかけろ!」

 危険を察知したスタッフが急ぎ緊急停止シークエンスを起動させる。
 だが分厚い強化ガラスの向こうにあるそれ(・・)は、全く止まる様子を見せず荒れ狂う力を放出させ続けていた。

「停止信号も受け付けません! このままでは超仮想空間が崩壊して外界に被害が出ます!」

 絶望的な報告に、職員達の顔が青ざめる。

「くっ!」

 そんな中、ただ一人諦めなかった男が部屋を飛び出した。
 彼が向かったのは安全であろう施設の外ではなく、寧ろ危険のただなかである実験室の方向だった。

「ぐぅっ!」

 実験室の中は万が一の事態が起きても大丈夫なように、特殊なエネルギーで形成された超仮想空間が形成されている。
 それゆえこの空間の中で荒れ狂うエネルギーの奔流は、管制室で感じた圧力の比ではなかった。

『危険……主任! 戻っ……くださ……っ!』

 スピーカーからノイズ交じりで避難を促す声が聞こえてくる。
 だが皮肉なことに、この声を聞いた事で彼は更にやる気を増した。

「俺があいつ等を守ってやらなくちゃな!」

 エネルギーの奔流を必死でこらえながら、主任と呼ばれた男は床を這うように掴んで前に進んでゆく。
 目指すはエネルギーの奔流を産み出しているモノの前に設置された、巨大な卵状の物体。
 幸か不幸か、ちょうどその卵のお陰で彼はエネルギーの奔流の直撃を受けずに済んでいたのだ。

(エッグをここに設置したスタッフには後でボーナスをやらないとな!)

 事実、この卵がエネルギーを受け止めていなかったら、管制室は既に全壊していた可能性すらあったからだ。
 そしてついに主任の手が卵に届く位置にまでたどり着く。

「バックトゥザカプセル!」

 卵に触れた主任が声の限り叫ぶと卵が眩く輝きだし、その光が卵から伸びたケーブルを伝わってゆく。
ケーブルの先に繋がっているのは、今まさにエネルギーを放っている物体だ。
 光が巨大な物体を包み込むと、エネルギーの奔流が徐々に弱まっていく。
 それと同時に巨大な物体の姿が霞みだし、卵へと吸い込まれていく。
そしてその姿が完全に卵に吸い込まれると、室内で暴れまわっていたエネルギーの奔流も次第に鎮まっていった。

「……はぁーっ、何とかなったぁー」

 事態が無事収束した事で安心したのか、主任は床に転がって大の字になる。

「「主任っ!!」」

 室内が安全になると共に実験室の中に飛び込んできたのは二人の女性だった。
 驚いたことに二人の容姿は全く同じで、唯一の違いはその髪の色。片方の女性は金色の髪、もう一人の女性は銀色の髪というくらいだ。

「大丈夫ですか主任! お怪我はありませんか!?」

「もう! 無茶し過ぎよ! 死んじゃったかと思ったじゃない!」

 どうやら違いは髪の色だけではないようで、金髪の女性は泣きそうな声で心配しながら主任の体に異常が無いか簡易診察マシンを使って身体検査を行い、銀髪の女性はこころなしか怒った口調で主任の無茶を諫める。
しかし主任の肩を掴む銀髪の女性の手は小刻みに震えており、間違いなく彼を心から心配している事が伝わって来た。

「心配をかけてすまない二人共。ただあの状況じゃ直接エッグを起動させて封印するのが確実だと思ったんだ」

「「だからって生身で飛び込んでどうするの!!」」

 二人の叱責が左右から主任の耳を貫く。
 耳元で響いた声にクラクラとしていた主任だったが、その後に聞こえてきた嗚咽に目を丸くしてしまう。

「本当に、”また”主任に何かあったらどうするんですか……」

「そうだよ、こんな無理を続けてたら”今度こそ”死んじゃうよ」

「……すまない」

 二人の涙を見て、主任は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
 だが同時に彼は心の中で二人に謝っていた。
(でも俺は、君たちを守る為なら何度でも危険に身を晒すと思う。いや絶対にそうするだろう)
 しかしそれを口にすれば二人がまた怒り出す事が分かっていた為、主任はあえて口を噤んだ。

「けど、これじゃあまた実験はやり直しだなぁ。次の実験までに更なる安全対策を考案しないと」

 話題を切り替えるように、主任は巨大な卵を見つめる。

「……今度こそ上手くいくと思ったんだがな」

 すると二人も気持ちを切り替えたのか、同じように卵を見上げる。

「はい、ウロボロスのエネルギー供給システムにはまだまだ改善の余地があるみたいですね」

「超空間に漂う膨大なエネルギーを取り出してそれを利用する燃料要らずの永久機関。上手くいけばあらゆるエネルギー問題が解決するのにね」

「まぁそんな都合の良いモノを好き勝手に使おうっていうんだ。そりゃあ難しいのも当然だよな」

 よろけながら主任が立ち上がると、二人の女性が直ぐに彼を左右から支える。

「だがまぁ、今はコーヒーが飲みたいな。徹夜明けで問題点の洗い出しは流石にキツイ」

「もう! また徹夜をしたんですか!? 夜はちゃんと寝てくださいって言ったでしょう!」

 金髪の女性に叱られ、主任がしまったと慌てる。

「まぁまぁ。どのみち始末書を書かないといけないんだからお説教は後で良いじゃないのお姉様」

「うっ、そうだった」

 その言葉を聞いて上司に実験失敗の報告をしなければいけない事に気付き、主任は深いため息を吐く。

「ほらほら、そんな顔しないの。主任が頑張れるように私がとっておきのモカを淹れてあげるから!」

 銀髪の女性からコーヒーを入れるジェスチャーと共に慰められた事で、主任は少しだけ笑みを取り戻す。

「ああ、眠気覚ましに濃い~のを頼むよ」

「糖分を摂取する為にお砂糖とミルクもちゃんと入れてください!」

「はいはい」

 こうして、なんとか実験失敗による暴走の危機を脱した三人は、安堵の笑みと共に実験室を後にしたのだった。


――現代――

 ワクワク時空を研究する学者モンエナ教授の依頼を受け、ラムネス達はパフパフ宮殿跡地へとやってきた。
 そこで彼等が見つけたのは、地下へと続く秘密の階段だった。

「意外と深いな、この階段」

 既に地上の光は届かず、ラムネス達はライトで足元を照らしながらゆっくり階段を降りてゆく。

「いっそエスカレーターにしてくれれば良いのに」

「でも~上が廃墟では電気は使えないと思いますわ~」

「それもそうか」

 騒々しくお喋りをしながら降りてゆくと、ようやく階段が終わり大きな空間に出る。
 すると突然、闇に包まれていた地下が光に満ちる。

「うわっ!?」

「ふむ、どうやら地下の電力は独立しているみたいだね。これは何か大きな秘密が隠されていそうだ」

 ようやく目が光に慣れたラムネス達が周囲を見回すと、そこは瓦礫となった地上部分とは別世界だった。

「うわー、何だこれ!?」

 まるで何かの実験施設と思わしきいくつもの実験器具。
そしてその中央に置かれた巨大な塔型の機械の姿。
機械はその半分以上が透明なガラスのようなものに覆われ、その中にこれまた巨大なカプセルの姿が見えた。

「なんかおもちゃ屋にあるカプセル玩具のマシンみたいだなー」

「おおっ! これこそ古代文明によって開発されたベンドラーマシン!」

 機械の姿を見たラムネスがそんな感想を口にしていると、突然モンエナ教授が興奮した様子で声を上げた。

「ベンドラーマシン!? 何それ!?」

「うむ、何でも古代文明で開発された貴重な発明品は、安全の為にカプセル型の容器に収納して保存されていたそうなのだよ」

「へー、なんか守護騎士のカプセルみたいだな」

 カプセル繋がりで思いついた言葉にモンエナ教授が興味深そうな顔をする。

「ふむ、案外勇者の駆る守護騎士も古代文明のカプセルを参考にしたのかもしれんな。いや、もしかしたら逆で、勇者のカプセルを古代文明が参考にしたのか? となれば守護騎士とは一体いつから存在していたのだ? ううむ、気になるぞ!」

「あ、あはは……え、えーとペプシブちゃん、これからどうすれば良いの?」

再び思考の海深くに潜ってしまったモンエナ教授から目を逸らし、ラムネスはペプシブに助けを求める。
 だがそのペプシブがどこにも居ない。

「あれ? ペプシブちゃん?」

 ラムネスが周囲を見回してペプシブを探すと、なんと彼女はベンドラーマシンにしがみついて調査を行っていた。

「うわーうわー! すっごーい! 教授、これ本当に古代文明の機械なんですか!? まるで作りたての新品みたいですよ! どうやって維持してるんでしょう!? こんな物を作りだせる文明が利用していたなんて、一体ワクワク時空ってどれだけ凄いモノなんですか!? 私のハートが好奇心で弾けちゃいそう!」

「ペ、ペプシブちゃん?」

 さっきまでのシリアスなペプシブは何処へやら、今の彼女はまるでおもちゃを見つけた子供のようだった。

「おーいペプシブちゃん、命綱もつけずにそんな所に登ったら危ないよー……(パンツ見えちゃうよー)」

 最後のセリフだけこっそり呟くと、ラムネスはペプシブが落ちても大丈夫なように下で待ち構える振りをしてパンツを覗こうと視線を上に向ける。

「ぐふふ……」

 だがそうは問屋がおろさなかった。

「バレバレだってーの!」

 ラムネスのスケベ心を見抜いたミルクがすぐさま彼の行動を阻止すべく素晴らしい勢いのラリアットをかまし、上で無防備にしているペプシブへ呼びかけた。

「ペプシブー! あたし達これからどうすればいいのー!」

「……へっ? あ、はいはいー」

 ミルクに呼ばれたペプシブは、腰の小型クリーナーを取り出すとまるでほうきに乗る魔女のようにまたがる。
 すると小型クリーナーからブォォォォと強い風の音がすると共に、ペプシブの体が浮き上がった。

「おおーっ!!」

「そんな事も出来るんだ!?」

 まさかの用途にラムネス達が興奮の声を上げる。

「今行きますねー」

 ペプシブが手元のスイッチを操作すると、まるでドローンのように小型クリーナーが動き、素早くラムネス達の前へと降りてきた。

「そうですねー、やっぱり中身を取り出して調査ですね! 教授、どうやって中身を取り出しましょうか!」

「いやいや、もしかしたらアルカナイカ文明と古代文明は違うものなのかもしれん。古代過ぎて資料がないが故に、研究者達は二つの文明を同じものと勘違いした可能性も……」

「……てぇーい!」

 いつまで経っても思考の深みから戻ってこない教授に業を煮やしたペプシブが、再び掃除機ライフルを教授にぶちかます。

「あいたぁー! ペプシブ君、掃除機のゴミを人に撃つのはやめなさいといつも言っているだろう!」

 ゴミ弾が痛かったモンエナ教授が文句を言うが、ペプシブはいつもの事らしくどこ吹く風だ。

「だって教授、考え事に夢中になるといっつも周りを置いてけぼりにしちゃうでしょ?」

「それにしたってもう少し優しく声をかけてくれたまえよ」

「じゃあお口にミントチョコを放り込みます?」

「……私はミントのスーッとした感覚が苦手なんだよ」

「それが良いのに」

「はー、まずは機械を操作する装置がないか調べてみよう」

「「「「「「はーい」」」」」」

 モンエナ教授の指示のもと、ラムネス達は手分けをしてベンドラーマシンの調査を始める。
周囲を回って何かないか探す者、上に登って下から見えない位置に何かないか探す者。

「この穴から中のカプセルが出てきそうですねぇ~」

「ダメー、蓋みたいなのがしてあって中には入れないわ」

 ミルクとココアはマシン側面に空いている人間が入れるほどの穴に入ってみるが、すぐに行き止まりになって奥へ行くことは出来なかった。

「こっちのこのハンドルみたいなの、全然回らねぇぞ」

 ダ・サイダーがカプセルを取り出すものと思しきレバーを回そうとするが、全力で回そうとしてもうんともすんとも言わない。

「この機械を壊して中身を出せばいいんじゃないのー?」

 調べるのに飽きたレスカが力づくでの解決を提案するも、慌てたココアに止められる。

「いけませんわ~。下手に刺激を与えて中身に何かあっては大変ですのよ~」

 その言葉に同意するように、モンエナ教授もまたマシンの破壊を止める。

「その通り、ベンドラーマシンに収納されたカプセルの中には、危険すぎて封印された品もあると聞く。無理に壊せば何が起きるか分からん」

「ひぇっ!? そ、そうなの?」

 マシンを破壊しようとパワードスーツを大きく振りかぶっていたレスカが慌てて手を引っ込める。

「あっ! 教授、ここに細長い穴が空いていますよ!」

 そんな時だった。調査を続けていたペプシブがマシンの正面に不自然なスリット状の穴が空いている事を発見する。

「むむ? ほう、確かにこれは何かの意図をもって開けられた穴のようだな。ふむ、ここに何かを入れるのか?」

 ようやく見つかった手掛かりに皆が集まってくる。

「何か鍵でも差し込むのでしょうか~?」

「鍵! よーし、何かちょうどいいサイズの物はないか探してみましょう!」

 ココアの推論を採用したペプシブが皆に鍵を探すよう呼び掛ける。

「うーん、ちょうど同じサイズの物はないなぁ」

「あっ、このボタン電池はどう?」

 大きなボタン電池を見つけたミルクはさっそくスリットに入れようとするも、電池の幅が大きすぎて入りそうもなかった。

「ちぇー残念」

「これなんてどうでしょう~?」

 ココアが持って来たのはメモリーカードと思しき部品だったが、こちらは厚みがあり過ぎてスリットには入らなかった。

「あらあら、駄目でしたか~」

「ドライバー突っ込んで中の機械を動かせないわけ?」

「おい、それはマズいだろ!」

 痺れを切らしたレスカがマイナスドライバーをスリットに突っ込もうとするも、慌てたダ・サイダーが必死で止める。

「ミントチョコとか……」

「「「「「「それは止めて!」」」」」」

 万策尽きたペプシブが物は試しにとミントチョコを入れようとしたため、慌てて皆に止められる。

「冗談ですって。機械でもミントチョコを食べればその美味しさに感動してカプセルを出してくれるなんて、さすがに思っていませんよ」

「……いや、思ってたと思う」

「やたら具体的だったよな、今の言い訳」

 冗談めかして笑うペプシブだったが、その眼がマジだった事をラムネス達は見逃さなかった。
 結局、全員で手分けをして地下室を探してみたものの、鍵になりそうな物は見つからなかった。

「入りそうな物は全部試したけど、駄目でしたね」

「うーん、おもちゃ屋のマシンだとここにお金を入れれば出て来るんだけどなぁ」

 と、半ばヤケになったラムネスがスロットにコインを入れる演技をする。

「お金、コインか。うーむ、残念ながら私はカード払い派なので現金は持ち歩かないのだよ」

「オレ様も手持ちがねーなぁ。手に餅が無ぇ」

「あたし達はお姫様だから現金なんて持ち歩かないのよー! おーっほっほ」

「本当は急いでついて来たから、手持ちのお金が無いだけなんですけどね~」

「黙ってなココア!」

「ショボーン」

 さらりと駄洒落を流され、ちょっぴり切なくなるダ・サイダー。

「コインコインと……ってこれは違うか」

ポケットの中の硬い感触からお金があった思ったラムネスだったが、取り出したものは日本の硬貨ではなく、彼が良く知るロボットの顔が描かれた銀色のコインだった。
銀色のコインに描かれていたのは、彼の頼もしい仲間の1人、いや8人であるポーン8兄弟のコインだ。いや、今はポーン八郎の恋人である九ノ一ちゃんも入って8兄弟+1だ。

「ほう、確かにこれはちょうどいいサイズのコインだね」

 さすがにこれは使えないとポケットに戻そうとした時、モンエナ教授が興味深そうにメタルコインに注目した。

「だ、駄目ですよ! これは守護騎士を呼ぶ為のコインなんだから!」

「守護騎士を呼ぶ為の? ふむふむ、となるとますます相応しいかもしれん」

「ええ? なんで!?」

 何故守護騎士のコインと聞いて相応しいと思うのかとラムネスは疑問を抱く。

「先ほど君も言っただろう? 守護騎士のカプセルとこのベンドラーマシンのカプセルは似ていると。もし本当に二つのカプセルに何らかの技術的繋がりがあるとしたら、そのコインでベンドラーマシンのカプセルを取り出すことができるかもしれん!」

「そ、そうなんですか!? あ、いや、でもなー……」

 学者らしいモンエナ教授の言葉に感心したラムネスだったが、やはり仲間のコインを良く分からない機械に入れるのはためらわれる。

「それにあれを見たまえラムネス君」

 二の足を踏むラムネスに、モンエナ教授はベンドラーマシンの透明な窓を指さした。

「あれってどれ?」

「ほら、あれだよ、あそこの半分青いカプセル。あのカプセルの透明な部分を見てみたまえ」

「透明な部分……ああっ!?」

 モンエナ教授の指さしたカプセルを見つけたラムネスは、思わず声を上げる。

「どうしたのラムネス?」

「う、ううん、何でもない。ちょっと教授とカプセルを取り出す方法を相談してただけだよ!」

「ふーん」

 強引に誤魔化したラムネスだったが、幸いにもミルクはお腹が減っていたこともあってすぐに手持ちのおやつを食べる事に意識を集中していた。

「きょ、教授、あれはもしかして!?」

 そして小声でモンエナ教授にカプセルの中に見えたモノの詳細を伺う。

「うむ、まさしくエッチなグラビアだ。おそらく古代文明時代の物に違いない」

 ラムネスが見たそれは、水着と思しき半裸のお姉ちゃんの姿が描かれた本、すなわちエッチなグラビア本だったのである!
 エッチなことに興味津々な中学生が、その本を前にして興奮しないわけがない。

「古代文明のエッチなグラビア……」

 もはやラムネスの頭の中は、本に隠された女の子達のことで埋め尽くされていた。

「しかも現代とはルールの違う古代文明の品だ。エロのルールも今とは比べ物にならないほどオープンかもしれないぞ」

「比べ物にならないほどオープン!?」

 更に欲望を刺激されたラムネスは、無意識のうちにメタルコインをベンドラーマシンの挿入口へと近づける。

「……で、でもコインが。しかし比べ物にならないほどオープン……!! ううーっ! 俺は今モーレツに迷っている!」

「駄目に決まってるミャーラムネス!大事なメタルコインをエッチなグラビアを見る為に使うなんていけないミャ!」

 だがそんなラムネスを止めたのは、彼の肩に乗っていた相棒のタマQだ。
 勇者一行の良心ともいえる相棒に諭され、冷静さを取り戻そうとしたラムネスだったが、そんな彼のハートを更にモンエナ教授が揺さぶる。

「……安心したまえラムネス君。ベンドラーマシンのコイン挿入口の横を見るのだ」

「横? 何か変な棒が出てるだけですけど」

「そう、そしてその上の文字を見たまえ」

「上の文字? ……コイン返……却?」
「その通り! あれこそはコイン返却ボタン! つまりあれを使えばコインは戻ってくるのだ!!」

「そ、そうなんですか!?」

 半信半疑のラムネスに対し、モンエナ教授は自信ありげに頷く。

「うむ! それにコインの規格が合わなければ下の返却口から戻ってくるだろうさ。おもちゃ屋の機械もそうだろう?」

「言われてみれば……」

 再び心が揺らぎだしたラムネスに、モンエナ教授が畳みかける。

「チャンスは今だけだよラムネス君。私の目的はワクワク時空の研究資料、だがそれ以外の品はどうでもいい。例えば……」

「古代文明のエッチなグラビアとか?」

 こくりと優しい笑顔でサムズアップをするモンエナ教授。

「分かりました! コインが戻ってくるならオレ、試してみます!」

「その意気だラムネス君! なーに、古代の貴重な本を手に入れる事も立派な研究資料だとも!」

「そうですよね! 資料資料! よぉーし! オレは今、モーレツにハンドルを回すぜ!」

「やめるミャーラムネス! 冷静になるんだミャ!」

だが完全にそそのかされたラムネスはタマQの言葉を右から左に流してベンドラーマシンにメタルコインを投入する。
そして大きなハンドルを全身の力を使って思いっきり回した。

「出ろぉーっ!」

 ガシャン……ポンッ。
 ベンドラーマシンの下部に空いた穴から、小気味よい音と共に車のタイヤ程の大きさの巨大カプセルが飛び出してくる。

「よーし!さっそく中身を確認だーっ!」

 ウキウキでカプセルを開封して中身を確認するラムネスとモンエナ教授。
 だが中身を確認した途端、ラムネスは失望の眼差しになる。

「ドキドキスペース料理大全……」

「え? 何々!? カプセルを取り出す方法が見つかったの!?」

 さすがに全員で調べていたマシンが動いたとあって、ミルク達がやってくる。
 そしてカプセルから出てきた本を見たミルクが目を輝かせる。

「うわーっ! すっごーい! なにこれ、こんな料理見た事無いわ! 絶対食べにいかなきゃ!」

「くっ、次だラムネス君!」

「は、はい! とりゃーっ!」

 今度はセイロームのコインを取り出しベンドラーマシンを回すラムネス。
 しかし次に出てきた本も、彼が望むグラビア本ではなかった。

「月刊ハラハラメカニック7月号……」

「あらあら~。これ丁度買いそびれた号ですわ~」

 本はココアに持っていかれてしまったが、どのみち興味のない内容だった為、ラムネスは次のコインを取り出す。今度はゼンザインのコインだ。

「次ーっ!」

 赤いカプセルから出てきたのは大人の女性が描かれた本で、ラムネスは期待に胸を膨らませる。だが本のタイトルを見てすぐに溜息をついた。

「……男を虜にする逆玉メイク術」

「あら、このメイク良いじゃない。今度試してみましょ」

 この本に興味を示したのは、やはりというかなんというかレスカだった。

「つ、次!」

 今度はブルマン、キリマンの描かれた二体一組のコインだ。ここまできたらラムネスも止まれない。

「もういい加減にするミャ、ラムネス!」

 次々とメタルコインを投入していくラムネスを必死で説得するタマQ。
 だがお目当ての本が手に入らない事に苛立ったラムネスはもはや出るまで回す勢いだ。

「ダジャレ! 大・百・科!!」

 完全なハズレに絶望の声をあげるラムネス。

「ほほう、オレ様に相応しいアカデミックな本棚……なんちゃって」

「本だなと本棚をかけた駄洒落がさりげなくて知的じゃん、ダーリン!」

「はーっはっは! そうだろうそうだろう!」

 その本はダジャレを言いながら現れたダ・サイダーによって回収されていった。

「くっ、まだ出ないのか!?」

「ラムネス君、例のカプセルはもう出口付近だ。あと一息だぞ!」

ベンドラーマシンによじ登って中のカプセルの動きを見ていたモンエナ教授がラムネスを応援する。

「よし!シルコーン、お前の力を信じるぜ!」

 勝手に信じられたシルコーンのコインが迷惑そうにベントラーマシンに吸い込まれてゆく。

「……白いカプセル?」

「おお! 中身の見えない厳重さ! これはまさしく私の探していたワクワク時空の資料に違いない!」

「本当ですか教授!? あれ? でもこれどうやって開けるんです? 他のカプセルと違って、開かないんですけど……むむむ」

 ワクワク時空の資料と聞いて飛んできたペプシブだったが、何故か白いカプセルが開かない事に首を傾げる。そしてなんとかして開けようと悪戦苦闘を始める。

「なーんだ。エッチなグラビアじゃないのか」

 しかしカプセルを引き当てた当のラムネスはエッチなグラビアが手に入らなくてガッカリだ。

「安心したまえ。お目当てのカプセルは次だよ」

「マジで!? よーし! アッサーム! お前のコインで決めてやる!」

「もー知らないミャア。こうなったら後でココアに頼んでコインを回収してもらうしかないミャア」

 いくら説得しても聞かないラムネスに、タマQが呆れる。
 実際ここまできたら、コインを回収する方法を考えた方がマシなのは確かだ。

「出ろぉーっ!……ってあれ?」

 だが最後に出たカプセルは真っ黒な色だった。
 どう見てもラムネスが欲しがっていたエッチなグラビアが入っているようには思えない。

「黒いカプセル? ちょっと教授! 話が違うじゃないですかー!」

 お目当ての品が出なかった事で、ラムネスはモンエナ教授に文句を言う。
 期待が大きかった分、不満も大きいのだ。まさにガチャ大爆死!

「いいや、あっているとも」

 だがモンエナ教授は満面の笑みを浮かべてラムネスの言葉を否定する。

「いや違うでしょ、オレが欲しかったのは青いカプセルのエッチなグラビアで……」

「あっているのだよラムネス君! 出てきたのは私のお目当ての白と黒のカプセルだったのだからね!」

「え? それってどういう意味?」

 訳が分からず困惑するラムネスを尻目に、モンエナ教授は二つのカプセルに手を触れると、禍々しい笑みを浮かべて叫んだ。

「目覚めよ! シロボロス! クロボロス!」

パキャッ!! っと、まるで卵を割ったかのような音が地下室に響いたと思うと、白と黒のカプセルに亀裂が走りそこから光が溢れだす。

「キャア!?」

「危ないペプシブちゃん!」

 溢れた光に触れたペプシブが吹き飛ばされ、慌ててラムネスが抱き留める。

「何だ何だ!?」

「え、何アレ!?」

「あら~、カプセルが光ってますわねぇ~」

「え? もう夜?」

 その怪しい輝きを受けた事で、ようやく本に夢中になっていたミルク達も異変に気付く。
そしてラムネス達の困惑をあざ笑うかのようにカプセルが弾け、巨大な何かが飛び出してくる。

『シャァー!!』

『ジャアー!!』

 現れたのは、まるで守護騎士のような姿をした白と黒の2体の巨大ロボットだった。
 2体のロボットは同型機らしく、色こそ違うものの非常に似た形状をしていた。
どちらも右腕には巨大な蛇の頭部を、左腕には銅鏡のような丸い盾を装備し、背中には一対のバインダーを装着していた。
唯一の違いと言えば、頭部の形状と右腕の蛇の頭に装着された装飾くらいだろうか?
なにより奇妙だったのは、体の節々を毒々しい紫色の輝きがまるで血液にように脈打っていた事だろう。 

「ロ、ロボットが出てきた!?」

「デ、デケェ……」

更にラムネス達を驚かせたのはその大きさだ。2体のロボットの大きさは実に20メートルを超えており、彼らの相棒である守護騎士を超える巨体だったのだ。

「ふはははははっ!! やったぞ!遂に復活した! やりましたぞマウンテンデュー姉妹様!」

「マウンテンデュー!?」

 モンエナ教授の口からかつての敵の名前が出てきた事にラムネスは驚きを覚える。 
 しかし今はそれどころではなかった。
 2体の巨大なロボットが出現した事で地下室の天井が破壊され、大量の瓦礫が降って来たからである。 

「きゃあーっ! 天井が!」

「このままじゃ生き埋めだ! 皆逃げろ!」

 ダ・サイダーの迅速な指示を受けて、ミルク達が地上への階段に殺到する。

「で、でもモンエナ教授が!?」

「いいから逃げるんだ!!」

 モンエナ教授の心配をして避難をためらうペプシブを、ラムネスが無理やり抱きかかえて逃げだす。

「教授ーっ!!」

「こ、これは一体!?」

パフパフ宮殿跡地の床が突然崩れ始めた事で、シンゲーンとケンシーンは何かしらの緊急事態が起きたと察した。

「いかん! ラムネス殿達が危ない!」

 すぐにラムネス達を助けに行くべきだと察したシンゲーン達だったが、さいわいにも地下室へ続く階段からラムネス達が姿を現した事で胸をなでおろす。

「おお、無事であったか皆様方」

「な、なんとかね……」

 無事地上に避難出来た安堵でラムネス達は地面にへたり込むが、しかし状況は彼等をゆっくりさせてはくれなかった。

「ぬ? アレは……!?」

 崩壊した床からせり出すように、巨大な二つの影が姿を現したのだ。

「巨大メカ!? まさかモンスカー……?」

 地下での出来事を知らないシンゲーン達は、2体のロボットが妖神ゴブーリキの先兵であるモンスカーなのではと錯覚する。

「ふん、こ奴らをモンスカーなどと一緒にされては困るな」

 しかし心外だという否定の声が、黒いロボットの肩から聞こえてくる。

「その声は、モンエナ教授!?」

 そう、黒いロボットの肩に乗っていたのは、地下の崩落に巻き込まれたと思われたモンエナ教授だった。

「教授、無事だったんですね!」

「ああ、無事だともペプシブ君」

 無事を喜ぶペプシブに鷹揚な態度で接するモンエナ教授。

「それよりも危ないじゃないかモンエナ教授! 地下でそんな大きなロボットを召喚したらオレ達が生き埋めになるところだったよ!」

 ラムネスが怒るのも無理はない。
 この2体のロボットの大きさは軽く20メートルを超えており、そんなロボットが突然現れたなら、彼等が先ほどまでいた地下室が崩壊するのも当然であった。

「おや、すまないねラムネス君。本当ならもっとうまく君達を生き埋めにしたかったんだが」

「ええっ!?」

 目つきこそ悪いものの、振る舞いは好々爺然としたモンエナ教授から、自分達を生き埋めにするつもりだったと言われてミルク達は驚きの声をあげる。

「生き埋めって……ペプシブちゃんを巻き込むところだったんだぞ!? お前は一体何を考えてるんだ!!」

 自分達を生き埋めにしようとしていた事は許せない。だがそれ以上にラムネスが許せなかったのは、彼にとって家族同然であるはずのペプシブを巻き込んだ事だ。

「私が何を考えてか……か。ふふふ、知らないというのは忌々しい事だな。だが良いだろう。冥土の土産に教えてやろう。この私の正体をな!」

 モンエナ教授はラムネス達に良く見えるように前髪をかき分けて叫ぶ。

「これを見よ!」

「ああっ! それは!?」

 モンエナ教授の前髪に隠されていた額、そこには見覚えのあるマークが刻まれていたのである。

「ドン・ハルマゲ印!?」

かつてラムネス達と戦ったゴブーリキの部下達の中には、このハルマゲ印を額に刻んでいた者達がいた。
そしてそれと同じものが、モンエナ教授の額に刻まれていたのだ。

「お前、ゴブーリキの残党だったのか!」

「否! 私はゴブーリキ様の部下ではない!」

だがモンエナ教授はダ・サイダーの言葉を強く否定する。
そして誇らしげに彼は告げた。

「私はマウンテンデュー姉妹様直属の部下よ!」

「ゴールドちゃんと!」

「シルバーちゃんの部下!?」

 モンエナ教授の衝撃的な宣言を受けたラムネスとダ・サイダーの脳裏に、マウンテンデュー姉妹の悩ましい姿が思い出される。

「「あ、あんな美人が上司だなんてうらやましい!!」」

「「あほかぁーい!」」

「「ぐはぁッ!!」」

思わず本音が漏れたラムネス達にすかさずミルク達がツッコミを入れる。
だがそれどころではない人物もいた。

「そんな! 教授があのゴブーリキの手下!?」

衝撃の事実を知って、ペプシブが真っ青な顔になる。

「はははははっ、秘密にしていてすまなかったねペプシブ君。だがそれもこのシロボロスとクロボロスを目覚めさせる為だったのだよ」

「シロボロスとクロボロス?」

呆然した顔で言葉を返すペプシブにモンエナ教授は満足気な顔になる。それは忘我の淵に遭ってなお知識欲を失わない生徒の姿に満足したからなのか、はたまた自分の成果を人に自慢できる喜びからなのか。

「その通り。この2体のロボットこそ、古代文明によって作り出された超兵器。その名もシロボロスとクロボロスだ!」

 不気味な威圧感を持つ巨大なロボットの姿にミルク達は思わず後ずさる。

「じゃあもしかして、モンエナ教授がベンドラーマシンから本当に出したかったのは……」

 ペプシブが信じたくないものを聞くように震えた声を絞り出す。

「くっくっくっ、そうだ、私が手に入れたかったのは、ワクワク時空の資料などではない。この2体の古代兵器だったのだよ!」

「そんなぁー! 次に出るのはエッチなグラビアじゃなかったんですかーっ!?」

「「「「「「「「だぁーっ!?」」」」」」」」

 あまりにも場違いなラムネスの発言に、思わずその場に居た全員がずっこけてしまう。

「ラムネスゥーっ! アンタそれが目当てだったのねぇー!」

「し、しまったぁー! 許してミルクさぁーん!」

「ゆるさぁーん!」

 怒ったミルクに首を絞められ、ラムネスの顔色がどんどん蒼くなっていく。

「コラァー!私を無視するなぁーっ!」

「「あっ、ゴメンなさい」」

 モンエナに叱られて、思わず謝ってしまうラムネス達。

「まったく、これだから勇者というやつは!」

「もー、ラムネスのせいで叱られちゃったじゃない」

 モンエナ教授に叱られた事でミルクがラムネスの脇を肘で突く。

「それを言ったらミルク達だって出てきた本に夢中だったじゃないかぁー」

 だがラムネスも負けじとミルクに突き返す。

「えーなんのことー?」

「だから人の話を聞けぇー!」

 ゴホンと咳ばらいをすると、モンエナ教授は高らかに笑い声をあげながら宣言する。

「勇者ラムネス、そして裏切者ダ・サイダー。貴様等はこの私が直々に討ち取ってくれよう!」

「なにぉーっ!」

「へっ、やれるもんならやってみやがれ!」

「ミルク、ペプシブちゃんを連れて下がっててくれ!」

「分かったわ!」

 すぐにミルク達はアルミホエール号の方へと駆け出してゆく。

「でも教授が!」

「いいからここはダ・サイダー達にまかせな! あの爺さんを叱るのは戦いが終わったあとだよ!」

 なおも残ろうとするペプシブをレスカが強引に引っぱって下がってゆく。

「よーしタマQ、キングスカッシャーだ!」

「分かったミャ!」

 ラムネスがポケットから黄金のメタルコインを取り出し、タマQの頭に開いたスロットにコインを入れると「ンミャッ」という声と共に手のひら大の卵が吐き出される。

「よし、オレ様達も行くぜメタコ!」

「任せるじゃんダーリン!」

 ダ・サイダーは蛇の意匠が施された横笛を取り出すと意外や意外、器用に笛を吹き鳴らした。
 その音楽に合わせヘビメタコが踊るように体を揺らしながら歌いだす。

「あ、ヘビヘビ♪、メタメタ♪、コッ。オェッ」

 そしてタマQと同じように、手のひら大の卵を口から吐き出す。
 ラムネスとダ・サイダーは互いの相棒が吐き出した卵を掴むと、綺麗なフォームでそれを放り投げた。

「キングスカッシャアァァァァァァッ!!」

 ラムネスの雄叫びと共に、天から雷が落ちる。
そして猛烈な勢いの竜巻が吹き荒れ、その中から人型のシルエットと力強い眼差しが輝いた瞬間、竜巻が弾け飛び中から黄金の巨人が姿を現した。

 これぞ妖神ゴブーリキを討伐した無敵の守護騎士キングスカッシャー!

「クィーン! サイダッ! ロォーンッッッ!!」

 ダ・サイダーの雄叫びに呼応するように雷を纏った暗雲が空に立ち込めると、雲の中から漆黒の巨人が降り立つ。
 これこそ妖神ゴブーリキを打倒した無双の守護騎士クィーンサイダロン!

「「とぅっ!!」」

 ラムネス達の体がエネルギー体に包まれ、金と黒の巨人の中へと吸い込まれていく。
 そして二人の体が巨人の内部に設置されたコクピットに現出する。

『シュパーンッ!!』

『ジュワッ!!』

 パートナーたる勇者と一つになったキングスカッシャーとクィーンサイダロンが雄々しい咆哮を上げる。

「よーし、行くぞキングスカッシャー!」

「ぶちかましてやるぜクィーンサイダロン!」

 ラムネスがコクピット内に設置されたゲーム機のコントローラーに酷似した操縦装置を操作すると、キングスカッシャーの膝から射出された黄金のブロックが展開して剣に変形する。
 同時にクィーンサイダロンもまた胸部から射出されたロッドが展開して長大なハルバードに姿を変えた。
武器を構えた守護騎士達が勢いよく敵へ向かって駆け出す。

「ふははははっ! 来るがいい勇者共!」

 モンエナ教授の命令を受けたシロボロスが右腕の蛇頭を構え、クロボロスが左腕の銅鏡型の盾を構える。

「とぉー!」

「おりゃー!」

 キングスカッシャーの振り下ろした剣をシロボロスの右腕の蛇頭が噛み付いて受け止め、クィーンサイダロンの振りかぶったハルバードをクロボロスが盾でいなしながら回避する。
 すぐにラムネスとダ・サイダーは体勢を戻そうとするが、キングスカッシャーの剣はシロボロスの蛇頭腕に噛み付かれたまま引き戻すことが出来ない。
更にクロボロスの盾が紐状に解け、鞭のようにしなってクィーンサイダロンのハルバードに巻き付く。

「くっ、この!」

「うぉぉ!?」

 シロボロスも盾を解き鞭へと変形させると、クロボロスの蛇頭と共に襲い掛かってくる。
 倍以上の体格差のある相手の攻撃を受ければ、妖神を倒した守護騎士といえど無事では済まない。

「させぬ!」

「たぁーっ!!」

 それを阻止したのは破壊戦士シンゲーンとケンシーンだ。
 2体の戦士は自らの得物である太刀と槍でシロボロス達の攻撃を上手く受け流したのである。

「大丈夫かラムネス殿、ダ・サイダー殿」

「助かったよシンゲーン、ケンシーン」

「ふん、破壊戦士も加わるか。だが無駄な事よ」

 シンゲーンとケンシーンが加わった事で4対2となり、数の上ではモンエナ教授の方が不利となる。だが、しかし彼に不安気な様子は見られなかった。

「モンエナ教授! こんなことをして何になる!」

「そうだ! もうゴブーリキは居ない! いまさら戦っても無意味だぞ!」

 シンゲーン達の説得を受けるも、モンエナ教授は戦いをやめようとはしない。

「無意味ではない。そう意味はあるとも」

「何の意味があるんだモンエナ教授!」

「お前達勇者を倒し、この世界をマウンテンデュー姉妹様に捧げる為にな!」

「ええ!? ゴールドちゃん達にこのドキドキスペースを!?」

「支配させる!?」

 まさかの野望に思わず驚きの声をあげるラムネスとダ・サイダーの二人。

「確かにお前達によってゴブーリキ様は倒された! だがゴブーリキ様の巫女であらせられるマウンテンデュー姉妹様は生きていらっしゃる! 今は行方不明になっているが、必ずや私がお二人を見つけ出してみせよう!」

 恍惚とした様子で語るモンエナ教授。

「さぁ、無駄話はここまでだ。我が野望の為に死ぬがいい勇者達よ! チェンジ・シロボロスネーク! クロボロスネーク!!」

 モンエナ教授の叫びに呼応し、シロボロスとクロボロスの蛇頭と鞭が分離する。
 そして背中のバインダーが胴体を包みこみ、鞭が下部に連結して尻尾に、上部に蛇頭が連結して一匹の巨大な蛇へと変形を完了した。

「あ、あれは!?」

「シロボロスとクロボロスが変形しやがった!?」

 なんとシロボロスとクロボロスは、巨大な大蛇の姿に変形したのだ。
 その長さたるや、キングスカッシャー達の実に4倍近いサイズである。
 一切の感情を感じさせない無機質なバイザー状の眼差しが、鎌首をもたげてラムネス達を見降ろす。

「なんという迫力!」

「お二人共油断されるな!」

 シンゲーンとケンシーンが警戒をあらわにラムネス達に警告をする。
 それと同時に大蛇となったシロボロスとクロボロスが飛び掛かって来た。

「うわぁ!」

「おおおっ!?」

 先ほどまでの腕だけによる攻撃ではなく、巨体全てを武器とした飛び込みを受ける止める事など不可能。
 ラムネス達に出来る事は回避だけだった。

「くっ、これじゃあ近づけない!」

「ラムネス! ブルマン、キリマンを呼ぶミャア!」

「そうか! ブレンドンに合体すればアイツを捕まえる事が出来る!」

 キリマンとブルマンは双子の守護騎士だ。
 1体1体は小柄だが、合体する事で強大な力を持ったブレンドンへと変身するのである。
 そのブレンドンの力なら、大蛇となったシロボロスとクロボロスの動きを封じる事も可能だとラムネスは理解した。

「よーしブルマン、キリマン! お前達の力を……ってあれ!?」

 ブルマンとキリマンを召喚しようとポケットをまさぐったラムネスだったが、何故かポケットの中には彼等を召喚する為のメタルコインがない。

「あ、あれ? コインが……って、あーっ!」

 そこに至ってようやくラムネスは自分が仲間達のメタルコインをベンドラーマシンに入れてしまった事を思い出す。

「しまったー! 守護騎士のコインはあの機械の中に入れちゃったんだ! 何で止めてくれなかったんだよタマQ!」

 ラムネスは何故止めてくれなかったのかとタマQを非難する。

「ボックは止めたミャー! それを無視してコインを入れたのはラムネスだミャー!」

「そ、そうだったっけ?」

 だがしっかり止めていたと反論され、ラムネスの声は小さくなる。

「ちょっと何やってんのよラムネス!」

 その光景に呆れたミルクが、アルミホエール号の影からラムネスを叱責する。

「そ、そうだミルク! ベンドラーマシンの返却ボタンを押してメタルコインを回収してきてくれ!」

ラムネスは先ほどモンエナ教授にそそのかされた時の会話を思い出し、ベンドラーマシンの返却ボタンの事を思い出す。

「もーしょうがないわね! ちょっと待ってなさい! チェインジ!」

ミルクは守護騎士型パワードスーツを装着すると、破壊された天井から地下へと飛び降りてゆく。
 そして無事だったベンドラーマシンの返却ボタンを押すが、何度押してもコインが戻ってくる様子はなかった。

「ダメーっ! コインが戻ってこないわラムネス!」

「な、何だってー!? 騙したのかモンエナ教授!」

 メタルコインが戻ってこないと聞いて、ラムネスはモンエナ教授に怒りの声をあげる。

「ふはははははっ! 当然だ。そもそも商品を買った後で返金ボタンを押しても、お金が戻ってくるわけがなかろう!」

「うっ、言われてみれば」

至極当然な反論を受け、逆にラムネスはしどろもどろになってしまう。

「ど、どうしようお姉様!?」

 慌てるミルクのもとに同じくパワードスーツを装着したココアとレスカがやってくる。

「決まってんでしょ! ぶっ壊せばいいのよ!」

そう言うや否や、レスカが見事な飛び蹴りを放りベンドラーマシンに大きなヒビを入れる。
「アンタ達も手伝いな!」

「「は~い!!」」

三姉妹が力を合わせてベンドラーマシンを攻撃すると、拍子抜けするほどあっさりとベンドラーマシンは壊れ、中の機械が露わになった。

「メタルコインはっと……あった! ラムネス! コインを取り返したわよ!」

 ミルクがパワードスーツの力で飛び上がり、キングスカッシャーに向けてメタルコインを投げつける。

「サンキューミルク、ココア、レスカ! よーし、来てくれ! ブルマン、キリマン!」

 コインを受け取ったラムネスは二つの顔が描かれたコインをタマQの頭頂部に入れることで力強い仲間が召喚される……筈だった。

「……あ、あれ?」

「どうしたんだタマQ!? 早く皆を召喚してくれ!?」

「それがおかしいんだミャー。守護騎士が召喚出来ないんだミャー!」

「な、何だって!?」

 一体何が起きたのかと、タマQは自身と守護騎士達の暮らすメタルコインワールドとの接続状況を走査する。
 そこで彼はある異常事態に気付いた。

「これは……!? 大変だミャ、ラムネス! メタルコインの召喚エネルギーが空っぽだミャ!」

「空っぽ!? どういう事だタマQ!?」

 守護騎士のメタルコインはただのコインではない。
 このコインはタマQとメタルコインワールドを繋ぐ鍵であり、同時にメタルコインワールドから守護騎士達を召喚する為のエネルギーを供給する触媒のような役割も果たしていたのである。
 だがそのコインに内蔵されている筈のエネルギーが、今は空っぽだったのだ。

「そんな! くっ、ならセイローム! アッサーム! シルコーン! ゼンザイン! ポーン8兄弟っ!!」

 ならばとラムネスは他の仲間達のメタルコインをタマQに入れるも、やはり守護騎士達は一体たりとも召喚される事は無かった。

「一体どうなってるんだ!?」

「はーっはっはっはっ! 不思議かねラムネス君!」

 困惑するラムネス達に答えたのは、クィーンサイダロンと戦闘をしているモンエナ教授だった。

「教えてやろう。メタルコインに内包されていた守護騎士召喚エネルギーは、ベンドラーマシンでシロボロスとクロボロスを復活させる為に利用させてもらったのだ!」

「な、何だって!?」

「くっくっくっ、ベンドラーマシンは古代の遺跡などではない。メタルコインのエネルギーを利用する為に私が作った偽りの遺跡だったのだ! だいたい、古代の遺跡に現代の本が入っているわけがないだろう!」

「「「……」」」

 自分達も思いっきり騙されていた事に気付いたミルク達が、思わず顔をそむける。

「ちっ、だからオレ様達に護衛を依頼したって訳か! セコいジジィだぜ!」

「ラムネス、コインのエネルギーが再充填されるには時間がかかるミャア! こうなったら守護騎士達の力を借りずに戦うしかないミャア!」

「くっそー!」

 期待していた援軍が頼れないと分かり、ラムネス達の士気は否応なしに下がる。
 だがゴネたところで状況は良くならないと、ラムネスは無理やり気合を入れてシロボロスに挑んだ。

「このままではジリ貧だ! まずは片方に狙いを集中して数を減らすべきではないか?」

「よし、それでいこう! 皆! シロボロスに全力で攻撃を集中だ!」

 シンゲーンからの提案を即座にラムネスは受け入れ、シロボロスに狙いを定める。
「いいぜ、シンゲーンの進言を受けるって訳だな」

「「「「……」」」」

 スカッ!

 戦闘中にもかかわらず飛び出したダ・サイダーのダジャレに、思わずラムネス達は固まってしまい、攻撃を外してしまう。

「シャァァ!!」

「ジャァァ!!」

 更に間の悪い事に、感情機能を持たないシロボロスとクロボロスにダジャレを理解する情緒が無かったため、彼等の反撃を思いっきり喰らってしまったのだった。

「「「うわぁぁぁぁぁっ!!」」」

「お、おお! よくやったぞシロボロス、クロボロス!」

 ラムネス達と一緒になって固まっていたモンエナ教授だったが、思わぬ戦果に上機嫌となる。

「ダ・サイダー! アンタこの非常時に何やってんのよ!」

余りにも酷いやらかしに、レスカが怒りの声をあげる。

「ス、スマン! オレ様のダジャレが面白過ぎたせいで!」

「んなわけあるかーっ!」

 何とか態勢を立て直したラムネス達だったが、状況は著しく不利になっていた。
 主にダ・サイダーのやらかしが原因で……いや、やらかしで言えばエッチなグラビア目当てにメタルコインを使ってしまったラムネスも大概ではあるが。
「くはははははっ! もう終わりかな勇者達よ! これではあまりにもあっけなさすぎるぞ!」

 大蛇達が勇者達に止めを刺さんとばかりに鎌首をもたげる。

「もうやめてください教授っ!!」

 そんな時だった。レスカの手を振りほどいたペプシブが戦場に飛び込んできたのである。

「こんなこと教授が本当にしたかった事じゃない筈です! 教授はいつも言っていたじゃないですか! 学者として、未知のエネルギーに満ちたワクワク時空の謎を解明したいって!」

「……ペプシブ君」

 未だ彼の中に情が残っていたのか、ペプシブの悲痛な叫びを受けてモンエナ教授の、シロボロスとクロボロスの動きが止まる。

「いつもの顔は怖いけど、優しい教授に戻ってください!」

 ペプシブがクロボロスの上に立つモンエナ教授に手を伸ばすと、モンエナ教授もまたためらうようにペプシブへと手を伸ばしかけ……その想いを握りつぶすかのように拳を閉じた。

「悪いねペプシブ君」

 モンエナ教授の眼差しがギラリと獰猛な輝きを放つ。

「私にとって一番大切な人は、君ではなくマウンテンデュー姉妹様なのだよ!」

 非情な言葉と共にクロボロスの攻撃がペプシブに放たれる。
そこには大切な教え子の命を奪う事へのためらいは欠片も見えなかった。

「キャァァァァァァッ!!」

「ペプシブちゃん!」

 ラムネスとダ・サイダーがペプシブを救おうと動くもそれをシロボロスが邪魔する。
 少女が絶体絶命の危機に晒されたその時、黒と赤の影が飛び出した。

「させぬ!」

 それはシンゲーンとケンシーンだった。

「「赤と黒のエクスタシー攻撃(アタック)!!」」

二体の破壊戦士達はドリルタンクとスパイクタイヤカーに変形すると合体してクロボロスの攻撃を迎撃する。

「「ぐぉぉぉぉぉぉっ!!」」

 シロボロスの攻撃をかろうじて防ぎきった2体だったが、その代償は大きかった。

「ぐぅ……」

 圧倒的体格差の攻撃を真正面から受け止めた為、2体の体は大きなダメージを受けてしまったのである。
だがそんな事を気にするシンゲーン達ではない。二人はロボット形態に戻ると、即座にペプシブを避難させるべく駆け寄った。

「ペプシブ殿、ここは危険だ。早く逃げられよ」

ペプシブが攻撃の余波を受けぬよう、自らの体で覆いながら避難を促すシンゲーン。
「っ……!?」

 だがそこで突然ペプシブの様子がおかしくなる。
 急に脂汗を浮かべて、真っ青な顔で震えだしたのだ。

「どうしたのだペプシブ殿? 早く逃げるのだ」

 ペプシブが戦いに怯えていると思ったシンゲーンは、彼女を抱えて避難を行おうとした。
 だがその瞬間、ペプシブが悲鳴を上げて怯えるように後ずさったのだ。

「い、いやぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ぺ、ペプシブ殿!?」

「こ、こないでぇぇぇぇ!!」

ペプシブの突然の拒絶に困惑するシンゲーン。

「どうしたシンゲーン! 早くペプシブ殿を避難させろ!」

 ケンシーンはシロボロスへの牽制を行いながらシンゲーンに早く避難するよう告げる。

「はっはっはっはっ、嫌われたようだね破壊戦士達よ」

 シンゲーン達の困惑に答えたのはまたしてもモンエナ教授だった。
 もしかしたら教育者である彼は人の疑問に答えるのが好きなのかもしれない。

「よもや貴様がペプシブ殿に何かをしたのか!?」

「私が? ふっ、ふふっ!! はははははっ!!」

堪えきれないとばかりにモンエナ教授が腹を抱えて笑い出す。

「何がおかしい!」
 モンエナ教授は笑いを堪えながら顔を上げると、愉快そうにシンゲーンの疑問に答えた。

「ふむ、いい機会だから教えてあげよう。ペプシブ君が君達に怯えた理由をね」

 モンエナ教授のもったいぶった態度に苛つきながらも、シンゲーン達は自分達に怯えたという言葉にわずかな動揺を覚える。

「君達も薄々察してはいたのだろう? ペプシブ君が君達を避けている事に」

「そ、それは……」

 確かに初めて出会った時のペプシブは、あからさまにシンゲーン達から逃げていった。
 それからも彼女はラムネス達とは関わるものの、シンゲーン達には近づこうともしなかったのだ。

「彼女はね、お前達破壊戦士にトラウマがあるのだよ!」

「な、何だと!?」

「そ、それはどういう事だ!?」

 驚きの内容に、シンゲーン達が衝撃を受ける。

「お前達がゴブーリキ様の部下として人々を苦しめていた頃に彼女はお前達破壊戦士と出会ってしまったのだよ。そしてお前達が暴れまわったせいで、可哀そうにペプシブ君は両親を失ってしまったのだ!」

「「なっ!?」」

 自分達が原因でペプシブが家族を失ったと聞いて、シンゲーン達が硬直する。
だがそれは敵を前にして致命的な隙でしかなかった。

「ははははっ! 隙ありだよ破壊戦士達!」

 隙だらけになったシンゲーン達に、クロボロスの攻撃が直撃する。

「「ぐあぁぁぁぁっ!!」」

 攻撃を受けたシンゲーン達は堪える事も出来ず勢いよく吹き飛ばされる。

「シンゲーン! ケンシーン!」

 負傷した仲間を気遣うラムネス達に、モンエナ教授の哄笑が響く。

「いやいや、ペプシブ君を連れてきて本当に良かった。こうして狙い通り破壊戦士達を無力化する手伝いをしてくれたのだからね」

 モンエナ教授の言葉にラムネスはハッとなる。

「まさかお前! わざとペプシブちゃんを巻き込んだのか!」

「その通りだよ勇者ラムネス。忌々しい裏切者共だが、こうして無様な姿を晒しているところはなかなか見ものじゃあないか。君もそう思わないかい?」

「きっさまぁーっ!! オレは今! 猛烈に怒っているーっ!!」

クロボロスの頭の上で不敵な笑みを浮かべるモンエナ教授の態度に怒ったラムネスが雄叫びを上げて突撃する。

「おい待てラムネス! 一人で突っ込むな!」

 慌ててダ・サイダーがクィーンサイダロンを駆ってラムネスの援護に動く。

「ダ・サイダー、ロイヤルスカッシュで一気にケリをつけるぞ!!」

 怒りに燃えるラムネスではあったが、状況が見えてないわけではなかった。
 守護騎士達の召喚も出来ず、シンゲーン達が倒された事で、彼は最強の攻撃を以って敵の数を減らす事を決断したのだ。

「それしかねぇみたいだな!」

 ダ・サイダーもまた同じ考えに至ったらしく、ラムネスの提案を即決で採用する。

「よーし! 熱血メーター全開だぁー!」

 その叫びと共に、ラムネスの勇者装束の胸に取り付けられた熱血メーターの目盛りが上昇してゆく。
キングスカッシャーがその力を最大に発揮する為には、搭乗者の膨大な熱血エネルギーが必要なのだ。
そしてメーターがレッドゾーンに達するとキングスカッシャーのコクピット上部から逆T字のレバーが出現した。

「よーし、今回は久々のバトルだからな。いつものヤツを使って……」

 一方ダ・サイダーが懐から取り出したのは使い慣れた筋トレ器具だ。
 彼は力いっぱいエキスパンダーを引っぱる事で踏ん張り始める。
更に鉄アレイ、ダンベルと次々に筋トレ器具を交換しながら血管が切れんばかりに力む。
 キングスカッシャーが必殺技を発動する為に搭乗者の熱血エネルギーを必要とするように、クィーンサイダロンもまた搭乗者の血圧を限界まで上げる必要があったのである。

「んぬぬぬぬぬぐぉーっ! 血圧アァーップ!!」

 ダ・サイダーの腰のベルトに搭載された血圧メーターがあっという間に上昇して∞(無限大)を叩き出し、クィーンサイダロンのコクピット上部からもキングスカッシャー同様の逆T字型のレバーが出てくる。
なお本当に体に悪いので、良い子の皆はダ・サイダーの真似はしないでね。
 二人は同時にレバーを掴み、前に向かって力いっぱい押し出した。

「熱血! チェインジ! サムライ、オォーン!」

「やぁーってやるぜ! ヤリッ! パンッ! サァー!」

 その掛け声と同時に、キングスカッシャーとクィーンサイダロンが変形を始める。
 全身の装甲が展開稼働し守護騎士達の手や頭が収納され、代わりに獣の頭、ツメ、尻尾が飛び出る。
連動して直立していた体が四足獣のシルエットへと移行してゆく。
そしてキングスカッシャーの肩に装備されていたシールドが背中に装着され、左右に展開して大きく翼を広げた。
またクィーンサイダロンが手にしていた盾から二門の二連装キャノンが展開する事で、その背に強力な武装が装着される。
今ここに、黄金の獅子と漆黒の豹が降臨した。

「「ロイヤルッ! スカァーッシュッ!!」」

 変形が完了したと同時に、ラムネス達は必殺の攻撃を放つ。
 2体の獣の体から溢れた紅と青のエネルギーが混ざり合い、巨大なエネルギーの奔流となってゆく。
 これぞかの妖神ゴブーリキをも打ち倒した合体必殺技ロイヤルスカッシュである。
 更にそれだけではなかった。
「ミルク、カフェオレお姉様、私達も聖なる三姉妹の力でラムネス達の援護をしましょう~」

「分かったわココアお姉様!」

「任せな!」

 ココアの号令の下、ミルク達は目を閉じ両手を組んで深く祈りをささげる。

――遥けき彼方より此方まで――

――此方より遥けき彼方まで――

――邪悪なる存在を退く者よ――

――我らに力を与えん――

 それはかつて初代勇者ラムネスと共に妖神ゴブーリキを封印した聖なる三姉妹の、そして二代目ラムネスと共に妖神ゴブーリキを討伐した二代目聖なる三姉妹の祈りの言葉。
 静かで荘厳な祈りの言葉と共に、三人の体が眩く輝き出す。
 そしてその光はサムライオンとヤリパンサーへ放たれた。

「これはミルク達か!?」

「やっちゃえーラムネス!」

「ぶっ飛ばしちまいなダ・サイダー!」

「おうよ!」

「二人共頑張ってください~!」

 守護騎士と聖なる三姉妹の力を合わせた最強の攻撃がシロボロスに迫る。
 これほどのエネルギーを受けては、いかな古代の超兵器といえどタダでは済まないだろう。
 だが驚いた事にモンエナ教授はラムネス達の必殺の攻撃を恐れるどころか、嬉々として受け入れたのである。

「ふははははっ! これを待っていたのだ!」

「何っ!?」

「連結せよクロボロス!」

 モンエナの命令を受け、クロボロスが攻撃の迫るシロボロスの尻尾に噛み付いた。
そしてシロボロスもまたクロボロスの尻尾に噛み付いて円環を形成する。

「え!? 何々!?」

「あら~、何をしているんでしょうか~?」

 シロボロス達の奇妙な行動にラムネス達だけでなく、後方で戦いを見守っていたミルク達も困惑する。
何しろクロボロスの行動は自分から攻撃の巻き添えを喰らいに行ったようにしか見えなかったのだから。

「待って、何かおかしいわ!」

 最初に異変に気付いたのはレスカだった。
 お互いの体に噛みついたシロボロスとクロボロス頭部のティアラに埋め込まれた宝玉と、蛇体の尾を連結していた三つの宝玉が輝き始めたのである。
 次いで気付いたのは攻撃を放ったラムネス達だ。

「なんだ!? 攻撃が吸い込まれていく!?」

 そう、ラムネス達が繰り出したロイヤルスカッシュのエネルギーがシロボロスとクロボロスの宝玉に吸い込まれていったのである。

「おかしいじゃん!? 何で壊れないんじゃん!?」

 ヘビメタコが疑問に思った通り、本来ならそのエネルギーはシロボロスとクロボロスの体を破壊する筈。だが2体はダメージを受けるどころかピンピンしていた。

「ありがとう勇者達」

 突然モンエナ教授から感謝され困惑するラムネス達。

「え、ええとどういたし……まして? ……ってそうじゃない! 何のことだモンエナ教授!」

「ふふふふふっ、これぞシロボロスとクロボロスの真の力、エネルギー吸収能力だ!」

「エネルギー吸収能力だって!?」

「そしてこれこそが私が君達を護衛に呼んだ真の理由だよ!」

「何だって!?」

「メタルコインの召喚エネルギーを利用してシロボロスとクロボロスは復活した。そして今、勇者達の必殺技のエネルギーという膨大な力を吸収した事で全ての準備が整った! さぁ、今こそ真の姿を取り戻すのだ!!」

 円環を描いていたシロボロスとクロボロスの体から、紅と青のエネルギーが溢れ出す。
 それはラムネス達から奪ったロイヤルスカッシュのエネルギーだ。
更にそこに聖なる三姉妹の黄金のエネルギーも混ざってゆく。
次いで5つの黄金のエネルギーと1つの銀色のエネルギーが加わる。
 これは守護騎士達のメタルコインの輝きに違いないだろう。
 それらのエネルギーがシロボロスからクロボロスへ、そしてクロボロスからシロボロスへと循環してゆくにつれ、幾多の色は混ざり合っていきシロボロスとクロボロスの体を彩っていた紫の輝きに染まっていく。
同時にシロボロス達が身じろぎすると体が円環から横向きの8の字の姿勢へと変化してゆく。
それはまるで数字の∞(無限大)マークのようだった。
そして纏っていたエネルギーが禍々しい輝きに塗り替わると共に、シロボロスとクロボロスが並んで宙に飛びあがり、互いに背を向ける。
両腕に装備された蛇頭と盾が分離し、更に蛇頭に装着されていたティアラ状のパーツが外れてゆく。
全ての武装が外れたシロボロスとクロボロスは、鏡合わせのように変形を開始した。
両腕を前に突き出すと前腕内部に手が収納され、そのままひじを曲げコンパクトに折りたたむと、バックパックが頭をまたいで反転し頭部と腕部が隠れる。
次いで脚部が外側を向きふくらはぎ部が連結されると、足の裏から巨大な手が出現する。
 そして脛だった部位に蛇頭のティアラ状パーツが連結され、巨大な腕部が完成する。
 だがしかし、それは奇妙な光景だった。
 シロボロスとクロボロスの本体が変形した事で巨大な両腕となった。
 だがそうなると残りの部位はどうだ?
 いまだ宙には蛇頭と盾が浮いているが、この部品だけでは腕以外の部位を構成するにはあまりにも部品が足りない。

「さぁ、本当の封印が解けるぞ!」

 そんな中、モンエナ教授がまるで預言者のように両腕を宙に広げながら叫ぶと、シロボロスとクロボロスの間の空間が歪み始める。
 そして空間から何かが抜けだすかのように形を浮かび上がらせる。

「来る! シロボロスとクロボロスに分離させる事で封じられていた、ウロボロスの本体が出てくるぞ!!」

「本体だって!?」

 ソレは現れた。
 ソレは胴と頭部、そして大腿部だけの奇妙なロボットだった。
 異様なのは、たったそれだけのパーツでありながら、既にシロボロスとクロボロスに匹敵する大きさという点だろうか。

「おおっ……遂に蘇った! 無限の力を生み出す神の心臓が!」

 現れたソレは、まるでこの世界に生まれ出た事を喜ぶかのように低い機械音をうねり響かせる。
 するとその音に誘われるように、宙に浮いていたシロボロスとクロボロスのパーツが胴体に吸い寄せられてゆく。
蛇頭が胴体の下方に位置すると、そのまま大腿部に連結され脚部となる。
 次いでシロボロスとクロボロスだった両腕が連結され、後頭部には盾が解けた蛇の尾が連結され長い髪を彷彿させる形状になる。
最後に両肩のバインダーが展開されたローブ姿は、まるで神に仕える聖職者のようでもあった。
ただし、頭部にギョロリと輝く蛇の眼差しのごとき紫の瞳がなければの話だが……

「ふははははっ! これぞ古代文明が生み出した機械巨人ウロボロス……否、復活したお前の新しい名はホロボロス! 我が主たるマウンテンデュー姉妹様の敵を滅ぼす破壊の巨神ホロボロスだ!」

ホロボロスと名付けられたその巨人の大きさたるや、キングスカッシャー達の実に5倍以上。
文字通り巨人と呼ぶに相応しい巨大さと迫力にラムネス達は気圧される。

「ホロボロス……!?」

「コイツ、合体しやがった!?」

 必殺の攻撃を封じられただけでなく、更には敵が合体して強化されたと知り、ラムネス達は驚愕した。

「さぁ、本当の戦いはここからだ! ワクワク時空!! 発生っ!!」

 モンエナが叫ぶとホロボロスの両目が怪しく輝き、周囲の空間が歪み出す。
 瞬く間にそこはかつてラムネス達が戦った恐ろしい戦闘空間へと変貌していた。

「ワクワク時空だって!?」

 ラムネス達の脳裏にかつてマウンテンデュー姉妹と戦った戦場が思い出される。

「何よこれぇー!」

「あらあら~?」

「でも何か違わない!?」

 レスカ達が困惑したのも無理はない。
モンエナ教授によって作りだされたワクワク時空は以前マウンテンデュー姉妹との戦いで経験した空間とは違い、何やら薄ら寒い気配を感じるものだった。
それともこれこそがモンエナ教授の言う、ワクワク時空の不安定性なのであろうか?

「これが……ワクワク時空? モンエナ教授が研究していた?」

 恐ろしさすら感じる空間を肌で感じ、これが師の求めていたものなのかと困惑するペプシブ。

「むぅ、何たる怪しき空間! 何やら得体の知れぬものを感じるっ」

「くっ、体が上手く動かん……気を付けられよラムネス殿!」

 負傷したシンゲーン達もまたモンエナ教授の生み出したワクワク時空に強い警戒を抱いていた。

「なんでモンエナ教授がワクワク時空を発生させられるんだ!?」

「言っただろう? 私はワクワク時空を研究していると。それは本当の事さ。もっとも……その理由はこの巨人を復活させる為だったのだがね! 見たまえこのパワーを!」

 モンエナ教授が手をかざすと、ホロボロスの後頭部に連結された二本の蛇の尾がラムネス達を叩き潰そうと襲ってくる。
 太く巨大な尾の早さは合体前を遥かに超えており、一瞬でラムネス達の眼前へと迫っていた。

「うぉ!?」

 慌ててラムネス達が攻撃を避けると、凄まじい衝撃と共に地面が大きくえぐられる。
 あまりにも高速かつハイパワーで叩きつけられた為、蛇の尾が音速を超えてソニックブームを巻き起こしたのだ。

「ひぇっ!? なんだあのパワーッ!?」

「見たかねこの威力を! ホロボロスはただ合体して強くなるだけではない! なんとワクワク時空内に満ちる膨大なエネルギーを自分の力に変換し、何倍にも強化する事が出来るのだ!」

 ホロボロスが蛇の尾を振り回すたびに、溢れ出た膨大なエネルギーが衝撃波となって周囲の地面をえぐり取る。

「ワクワク時空の力を自分のものにだって!?」

 モンエナ教授の言葉にラムネスは驚愕する。
 かつてラムネス達と争ったマウンテンデュー姉妹も戦う時にワクワク時空を発生させていたが、彼女達はこのような使い方をしていなかったからである。

「周りのエネルギーを自分のものにするたぁ、まるでDr.カタストロフみてぇな事をしやがる!」

ダ・サイダーが言ったのは、かつてマジマジワールドを支配しようとした悪の科学者の名前だ。
だがそれは正確な情報ではない。
何故ならばドキドキスペースで倒された筈のゴブーリキが裏で糸を引いていたからだ。
そしてDr.カタストロフは洗脳され、平和利用する為に開発した超巨大ロボット・ラストユンケラーをゴブーリキの新たな肉体として利用されてしまった、文字通りの被害者なのである。

「はははははっ、それはビクビクトライアングルの事かね? あのような不完全なステムと一緒にしてもらっては困るな」

「Dr.カタストロフを知っているのか!?」

まさかマジマジワールドで起こった出来事をモンエナ教授が知っているとは思わず、ラムネス達は驚きの声を上げる。

「当然だ。貴様達憎き勇者を倒す為、マジマジワールドで起こった戦いについても調査をしていたとも。あのシステムはあらゆる物からエネルギーを抽出するというなかなか面白い技術だったが、それでも個々の物質から引き出せる力には限界がある」

モンエナ教授の言う通り、ビクビクトライアングルは自然物、人工物を問わず周囲に存在するあらゆる物質からエネルギーを抽出する事の出来る画期的な技術だった。
 この技術の発表により世界のエネルギー問題は一気に解決すると思われたのだが、そこには大きな落とし穴があったのである。
 無限のエネルギーを抽出出来るかと思われたそれは、実際にはエネルギーを抽出すればするほど自然からエネルギーが失われていき最終的には世界を滅ぼしてしまう諸刃の剣だったのである。

「結果ただエネルギー切れを引き起こすだけではなく、支配するべき世界まで破滅させてしまう欠陥品だった。だが私のホロボロスは違う。ワクワク時空に存在している限り、無尽蔵にエネルギーの供給を受ける事が出来るのだ!」

「無尽蔵なエネルギーだって!?」

「しかもワクワク時空の空間内はドキドキスペースとは隔絶した別次元!! それゆえこの空間内のエネルギーをどれだけ使おうとも別の世界であるドキドキスペースには何の悪影響も及ぼさないのだ! まさに安心して使い放題の夢のエネルギーなのだよ!!」

「つまりエネルギー切れの心配なく攻撃し放題って事か! ズルいぞ!」

 かつてホイホイ城と暗黒大彗星で行われたゴブーリキとの二度にわたる決戦でエネルギー切れに悩まされたラムネスが不公平だと怒りの声をあげる。
一度目の決戦は無数の敵と罠が待ち受けるホイホイ城を駆け抜け、更には洗脳されたダ・サイダーとクィーンサイダロンとの激戦を繰り広げた後だった為に、そして二度目の決戦では頼りになる守護騎士達を封印された状態で戦わねばならなかったからだ。
完全復活したゴブーリキの強さにラムネス達は常にフルパワーで戦い続けなければならず、エネルギーがみるみる間に減っていったのである。
にも関わらず、今回の敵はエネルギー不足の心配がないと言うのだから、ラムネスが怒りたくなるのも仕方のない話だった。

「あんな攻撃をくらったらひとたまりもないぞ! 絶対当たるなよ!」

「そんな寂しい事を言わないでくれたまえ。ほらほら沢山召し上がれ、ヒュドラ・ビーム!」

 モンエナ教授の冗談めかした口調と共にホロボロスが両手を前にかざすと、巨大な指の一本一本が蛇の形へと変化していくではないか。
その光景はまるで神話に登場する複数の頭を持つ大蛇ヒュドラのようであった。
そして10本の蛇が口を開き、そこから機関銃のようにエネルギー弾がばらまかれる。

「「うわぁぁぁぁぁっ!!」」

 直撃こそ免れたものの、爆風と大量の破片がラムネス達を襲う。
 それはまるで嵐の中に居るかのようだ。
 ラムネスはビームの直撃を受けた地面が瞬く間に穴だらけになる様を見て肝を冷やす。

「くっそー! これじゃ近づけないぞ!」

 物陰に隠れたくてもワクワク時空内には壁になるものが無く、ラムネス達は必死で回避に専念する。

「どうすりゃいいんだ!?」

「ふはははははっ! あの勇者達がホロボロスの前では赤子同然ではないか! 見ておられますかマウンテンデュー姉妹様よ! 今こそ勇者達の首を貴方達に捧げましょう!」

 ホロボロスの圧倒的なパワーに酔い、恍惚とした表情でマウンテンデューへの祈りを捧げるモンエナ教授。
 だがその姿は敬虔な信徒のそれではなく、妄信する狂信者のそれだ。

「今だ!」

 勝利を確信したモンエナ教授が見せた僅かな隙を狙い、ラムネスはキングスカッシャーを再びサムライオンへと変形させ突撃する。
 そして彼の行動を即座に理解したダ・サイダーもまたクィーンサイダロンをヤリパンサーへと変形させてホロボロスの背後から突撃をかけた。

「「喰らえぇぇぇぇぇっ!!」」

だが彼等は忘れていた。目の前の巨人がどうやって生まれたのかを。

「甘いよ!」

ホロボロスの巨大な両手が突撃してきたサムライオンとヤリパンサーの前に突き出されると両手から白と黒のオーラが放たれる。
そして2体がそのオーラに触れた瞬間、コクピット内のエネルギーメーターがみるみる間に減少していった。

「し、しまった!!」

「学ばない奴め! 私の生徒なら落第だぞ!」

 エネルギーを失って制御不能に陥ったサムライオンとヤリパンサーをホロボロスが纏めてラリアットで吹き飛ばす。

「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」

 あまりの勢いにバウンドしながら地面に叩きつけられるラムネス達。

「う、うう……」

「くっくっくっ、万策尽きたようだな」

 地に付した守護騎士達の姿を見下ろし、モンエナ教授が満足気に頷く。

「遊びは終わりだ。偉大なる勇者達へのせめてもの情けとして、苦しまないように一瞬で終わらせてやろう」

 モンエナ教授が手をかざすと、ホロボロスが両腕を胸の前で突き合わせる。
 すると両の拳に接続されたティアラ状のパーツにはめ込まれた宝玉が輝き、拳と拳の間に光が生まれその光がホロボロスの前で∞(無限大)の軌道を描いてゆく。
 光が一周する度にその輝きが増し、その速度もまた上がってゆく。
 その輝きは瞬く間に絶望を感じさせるほどに膨れ上がっていった。

「あれは……ヤバいぞ!」

 損傷したクィーンサイダロンの中でダ・サイダーが叫ぶ。
だがホロボロスの攻撃をまともに喰らったうえに、エネルギーまで奪われたサムライオンとヤリパンサーは満足に動けない。

「クソッ! 動けキングスカッシャー!」

「立てクィーンサイダロン!」

 しかし守護騎士達が全身をショートさせながらようやく立ち上がった時には、もはやホロボロスの攻撃は発射直前だった。

「ふはははははっ! さらばだ勇者ラムネスとその仲間達!」

 ホロボロスの両腕から、白と黒の蛇を模したエネルギーが放たれる。
そのエネルギーは互いに絡み合うと一つの巨大な大蛇となってラムネス達を襲った。
それはまるで二頭の大蛇によるロイヤルスカッシュのようでもあった。

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 大蛇がラムネス達の無力をあざ笑うかのように無慈悲に襲い掛かる。

「ミルク! ココア!」

「レスカ! ペプシブ!」

 サムライオンとヤリパンサーが生身のミルク達を庇うように壁になる。
 残されたエネルギーでラムネスに出来る事はそのくらいの事しかなかったのだ。
 たとえそれがほんの数秒の延命だとしても。
 次の瞬間、大蛇が全てを飲み込んだ。
 同時にあらゆる命の存在を許さぬとばかりに巨大な爆発が巻き起こる。

「はーっはっはっはっ! 遂に怨敵勇者ラムネスを打ち倒したぞ! 見ておられますかマウンテンデュー姉妹様! 我が女神達よ!」

 戦場にただ一機だけ立っていた魔神の上で、モンエナ教授は勝利の哄笑をあげるのだった。



(第3話「反撃の糸口! 巨大ゲームで大特訓!」へつづく!)

<第3話あらすじ>

なんとモンエナ教授は、妖神ゴブーリキを崇拝する双子の巫女・マウンテンデュー姉妹の部下だった。
双子の忘れ形見である巨大ロボ・ホロボロスを復活させたモンエナ教授は、
孫娘同然の助手・ペプシブでさえも利用してラムネス達勇者一行への復讐を行う。
モンエナの放った追手・バレットブルズの追撃をかろうじて振り切ったラムネス達は、
謎の信号に導かれるままオニオニワールドの地に降り立つ。
オニオニワールドは、3年前のゴブーリキ戦役当時シンゲーンとケンシーンの悪行で
めちゃくちゃにされてしまった土地であった。


次回…満を持して登場「グランスカッシャー」!!!

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