見出し画像

公式外伝「NG騎士ラムネ&40FX」第1話まとめ

■公式外伝「NG騎士ラムネ&40 FX」
・原作・監修:葦プロダクション
・企画・制作:Frontier Works
・本編執筆:十一屋 翠


■古代文明SS1:刻を越えた世界

fxゲストヒロイン告知2-復元

目覚めた時、彼、環 十前(たまき じゅうぜん)は病院らしき場所に居た。
らしきと言うのは、目が全く見えなかったからだ。

「これだけの大怪我で良くもまぁ生き延びたものだ。正直信じられん」

医者の言葉を聞く限り、環はどうも大きな事故に遭ったらしい。
 近くで少女の泣く声が響き、環はうめき声をあげる。

「主任!? ああ、良かった……」

「私達を庇った所為で……」

「主任……? 誰の事だい? 誰か他にも怪我人が居るのか?」

「「えっ?」」

 環の言葉に周囲から困惑の声があがる。

「どうやら事故の影響で記憶が混濁しているようですね。なに、暫く安静にしていれば思い出すでしょう」

(事故? そういえば俺は何で病院に居るんだ? 交通事故にでも遭ったのか? それに主任って言ってたな。もしかして会社で何か事故が起きて俺はそれに巻き込まれたのか?)

環はハッキリとしない思考で何が起きたのかを推測する。

(上が不祥事をもみ消す為に俺の役職を昇格させたのだろうか? 二階級特進的な意味で)

 自虐的な思考に思わず笑ってしまう環だが、それはそれとして別の疑問もあった。

(けど俺を主任と呼ぶこの娘は誰だ?うちの会社には若い女の子なんて居なかった筈だが。それとも知らない間にバイトでも雇ったんだろうか?)

 思考を巡らせてはいたものの、どうにも思考が纏まらない。
 事故の影響か、彼の意識は次第に闇へと沈んでいったのだった。

 ◆

 環が目を覚まして数日が経過したが、彼の記憶がはっきり戻る事は無かった。

「参った、記憶があやふやすぎる」

 再び記憶が戻った環に医者はいくつかの質問をした。
 だが環にはその質問の答えがイエスでありノーのようでもあるという矛盾した認識を受けたのだ。
 なにより環を困惑させたのは……

(なんだか別人と勘違いされているような感じがするんだよな)

「主任」

 環がその困惑を最も強く感じさせるのが、この声の主達だった。

 「私の名前はウルド・ファラウェイマウントです。覚えていませんか?」

  環が最初に目覚めた時に泣いていた少女の声が、彼に聞き覚えのない名前を告げてくる。

(外国人だったのか。日本語が上手いからてっきり日本人かと思ってたよ)

「すまない、やはり分からないみたいだ」

「主任主任! 私の名前は? 私はシルビア・ファラウェイマウントよ!」

 もう一人の少女も自分の名前を名乗るが、やはり聞き覚えが無い環だった。

「ファラウェイマウント……」

「思い出した!?」

 何か思い出したのかと身を乗り出すウルドとシルビア。

「もしかして二人は姉妹なのか?」

「そっちかー」

 残念、と思っているのが分かるくらいシルビアの声が落ち込む。

「そうです。私とシルビアは双子の姉妹なんですよ」

「なるほど、双子だから二人共声が似ていたのか。正直落ち着いてから聞いた時は、同じ人が声色を変えて話しているのかと思っていたよ」

「双子ですからね。」

「でもこれじゃあ退院はまだ無理っぽいわね。ウロボロスの開発も暫くは開店休業状態か」

「ウロ……ボロス?」

 その言葉を聞いた瞬間、環の脳裏に引っかかるものがあった。

「やっぱりそれも忘れているんですね」

「あの事故の所為で主任は大怪我をしちゃったんだよ」

 どうやら環が怪我をしたのはそのウロボロスというものが原因のようだ。
 そして姉妹はその事を腹に据えかねているみたいだった。

「成る程、そういう事か。だがまぁ仕事ならそう言う事もあるさ」

 あっけらかんとした環の発言に、ウルドとシルビアが目を丸くする。

「あるさって! 主任は上層部が実験を強行した所為で死にかけたのよ! 何で怒らないの!!」

「そうですよ! 主任は被害者なんですよ!」

「まぁそうみたいなんだが、会社に勤めている以上、上の命令には逆らえないからな。現にそれが原因で俺も事故に……事故?」

「主任? どうしたの?」

 突然環が考え込むような振る舞いを見せた事で、ウルドとシルビアは困惑する。

「あ、あー、いや。なにか思い出しそうになったんだが、忘れてしまったよ」

「なーんだ。記憶が戻ったんじゃないのね」

「ですが、引っかかるものがあったと言う事は、記憶が戻る兆候なのでは?」

「きっとそうよ!!」

 ウルドの推測に、シルビアもそうに違いないと嬉しそうに同意する。
 その後も二人は病院の面会時間ギリギリまで環との思い出を語り、看護師に追い立てられてしぶしぶ帰っていったのだった。

「あと少しって感じなんだがな」

 結局何も思い出せなかった環は、モヤモヤを抱えたまま事故後何度目かの眠りにつく。
 そして彼は見た。
夢の中で事故に遭う自分自身の姿を。
 会社で使っていた整備不良のオンボロクレーンが落ちてきて下敷きになった環と、ウロボロスの暴走事故でウルドとシルビアを庇って重傷を負った主任の、二人の事故の記憶を。

「はっ!?」

 衝撃的な光景に思わず飛び起きる環。

「そうか、そういう事か!」

そこでようやく環は全てを思い出した。

「……俺の名前は環 十前、どこにでもいる40代サラリーマンのオッサンだ。だがそれはここにいる俺の事じゃない」

 そう、環は理解した。ここが自分の暮らしていた地球ではない事に。
 そして今の自分の体が環十前の肉体ではないことに。

「俺は……本当の俺は事故で死んで、同じように死んだ異世界の人間に憑依したのか!?」

 全てを思い出した事で、環は肉体の本来の主、主任と呼ばれる人物の事も理解した。
 そして肉体から与えられた主任の記憶を読み解きながら、自分の現状を把握する環。

「成る程、この世界は俺の暮らしていた地球よりも遥かに文明の進んだ世界なんだな。それこそSF漫画のような未来の科学に溢れた世界か!」

 予想もしていなかった展開に胸が高鳴る環。

「そして俺はこの世界の平和維持の為に開発中の防衛ロボット、ウロボロスの主任研究員だったと! 防衛ロボット! もうその言葉だけで胸がときめくな!」

 主任の記憶を理解した事で、環は興奮を隠しきれずにいた。

「ウロボロスは特殊なエネルギー源を有した画期的なロボットだったが、それが原因で快活は難航していた。そして進まなくなった開発に焦れた上層部がウロボロスの実験を強行。結果この体の主は事故に遭ったと。やれやれ、ウルドとシルビアが怒るわけだ」

 自分自身の事を思いだした環は、今度はウルドとシルビアの二人についての情報を主任の記憶から呼び起こす。 

「成る程、ウルドとシルビアは俺の助手にして副主任という立ち位置か。あの二人も若さの割には結構なエリートなんだな」

 必要な記憶を思い出した環は、主任の知識を頼りに現状を把握してゆく。

「記憶を失っていたのは、異なる肉体に憑依した事と、二人分の記憶が混ざった結果なのだろう。そしてどうやらこの体の持ち主であった主任も、かなりのエリート研究員だったみたいだな。まぁ巨大ロボットの主任開発員だからな。頭が良くて当然か」

 目覚めたら未知の世界のエリート研究員になっていたと知って、環は苦笑する。

「しかし、SF映画の世界に来てしまうとはなぁ……まさに現実は小説より奇なり……か」

 ◆

 それから数日後、環は視力を回復するサイバネ手術を受けた。
 さらりと視力回復手術が出来る当たり、この世界の技術力は地球を遥かに超えているようだ。

「ではカメラを起動しますね」

 医者の声と共に真っ暗だった環の世界に光が戻る。

「うわっ!?」

 久々の光につい目を庇ってしまう環だったが、そこに感じたのは肌の柔らかさでも暖かさでもなく。プラスチックのような硬く冷たい感触だった。

「どうですか? 見えますか?」

 医者の声にゆっくりと手をどかすと、環の眼前に病室の光景がはっきりと映る。

「はい、見えます」

「手術は成功のようですね」

手術が成功したお陰で、環は病院内限定ではあるものの、自由に動けるようになった。
彼がまず最初に向かったのはトイレだ。
といってもおしっこをする為ではない。
今の自分がどんな姿になっているのかを確認する為だ。

「おお、こりゃ若い!」

 主任の肉体は環の予想以上に若かった。
 おおよそ20代中盤と言ったところだろうか。社会人としては新人から一人前の中間といえる年齢だ。
 だが巨大ロボットの開発主任と言う役職を考えれば十分に若いのは間違いない。
 更に目を引くのは彼の目元を覆うように固定されたバイザー状のカメラアイだ。
 このマシンの目が、環の失った光を取り戻してくれた装置なのだ。

「いやー、これは凄い。SF映画の登場人物のようだな!」

 自身のメカメカしい姿にちょっぴり興奮する環。

「よーし、それじゃあ次は屋上だな」
 
 ◆

 屋上に出た環は、外の世界に興奮の声を上げる。

「はっ、ははっ!!」

 それは彼の想像以上の光景だった。
 彼が子供の頃に読んだ児童雑誌の未来予想図など目ではない程の未知の世界。

「……凄いな。空飛ぶ車どころか、ロボットが当たり前の様に歩いている! 車もタイヤじゃなくて宙に浮いているぞ!? エアカーって奴か!? それに空に浮かぶあれは……立体映像の広告か?」

 見る者全てが珍しい環は、子供の様にはしゃぐ。

「おおっ!? あっちじゃ人間が空を飛んでスポーツしている!! 反重力装置とかそういうヤツか!?」

最新のSFXでも再現不可能であろう光景に、環は思わず拳を握りしめて興奮する。
それと同時に、ここが本当に自分の知っている世界ではないのだと、環は思い知らされてもいた。

「俺の暮らす事になる世界なんだな……」

 もう二度と元の世界に帰る事は出来ないだろうという確信が、環の胸に寂しさを募らせる。
だがそれ以上に、どうしようもない程ワクワクしている事もまた、環は理解していたのだった。

(SS1: END)



■第1話「スィーッと出航! ミントな香りは冒険の予感!?」

ラムネ外伝サブダイ_1609デザイン_01

 一人の少年が戦っていた。
 彼の名は二代目勇者ラムネス。
 ドキドキスペースを妖神ゴブーリキから守る為に戦う正義の味方である。
 ラムネスの前には巨大な怪物、いやロボットが立ちはだかっていた。
 だがラムネスは恐れない。
 何故なら彼もまた巨大なロボットに乗って戦っていたからだ。

「行くぞ! ……スカッシャー!!」

 金色の巨人が剣を振るい敵に挑む。
 だが何故だろう。ラムネスはこの巨人が自分の知っている黄金の巨人とは違う気がしていた。
 敵はラムネスが駆る黄金の巨人に襲い掛かる。
ラムネスが攻撃を回避すると、近くに聳え立っていた山が砕け散る。
そんな凄まじい攻撃に臆することなく、ラムネスは挑みかかる。
黄金の巨人の攻撃もまた敵に回避されるが、その余波が大地を深く削り小さな谷を作る。
 まるで天地を創造したという神々のごとき激しい戦い。
 しかしラムネスに焦りも恐怖もない。
 何故なら彼には共に戦う仲間達がいるのだから。
 黒銀、黒、深紅の巨人が現れ、ラムネスと共に敵に挑む。
 その時だった。

「ラムネス! ……内部のエネルギーがトンデモナイ事になってるミャ! このままじゃドキドキスペースが被害を受けるどころか、この世界全ての……が滅茶苦茶になるミャ!!」

 敵に膨大なエネルギーが溜まりつつある事を察知した相棒が警告の叫びをあげる。

 ピッ

ラムネスは気合を込めてレバーを握る。

 ……ピピッ……

「オレ達は……を倒すんだぁー!」

 ピピピピピピピッ!!

「うわあぁぁぁっ!?」

 突如鳴り響いた音にラムネスは飛び起きる。
 するとそこに広がっていたのは彼が戦っていた戦場ではなく、いつも見慣れた自分の部屋だった。

「……ふえっ? 夢?」

ラムネスは寝ぼけた顔で目をこすりながら周囲を見回す。

「オレの部屋だ……」

ぼーっと部屋の中を眺めていると、次第に寝ぼけていた頭が回ってくる。

「そう……だよな。ゴブーリキはもうとっくに倒したんだもんな」

 そう、かつて勇者ラムネスは妖神ゴブーリキと戦っていた。
今から5000年前、ドキドキスペースと呼ばれる異世界では、邪悪な妖神ゴブーリキが世界を支配せんと暴れまわっていた。
恐ろしい強さを誇るゴブーリキだったが、勇者ラムネスと呼ばれる若者とその仲間達の尽力によって見事封印され世界は平和を取り戻した。
だがゴブーリキは現代に復活し、再びドキドキスペースを支配せんと侵略の魔の手を伸ばしたのである。
より強大な力を得て復活したゴブーリキに立ち向かった者こそ、二代目勇者ラムネスとその仲間達なのであった。
彼等は守護騎士と呼ばれる巨大ロボットと共にドキドキスペースを駆け巡り、ゴブーリキの野望を見事打ち砕いたのである。
そして使命を終えた勇者ラムネスは本来の自分である馬場ラムネに戻り、故郷であるこのマジマジワールドで平和な生活を送っていたのだ。

「コイツを作ってたせいで変な夢を見ちゃったなあ」

 ラムネは散らかった机の上に横たわるプラモデルを見つめる。
 どうやら彼はこれを作るのに夢中になって、椅子に座ったまま眠ってしまったようだ。

「プラモコンテストの締め切りが近いから頑張り過ぎちゃったな」

 ラムネはプラモデルを手に取り、それを横に置いてあったジオラマの上に乗せる。

「よーし完成だ! これでプラモコンテストの優勝は貰ったも同然! へへっ、優勝賞金5万円で何を買おうかな! 新しいプラモに新しいゲーム! 他にも欲しい物は色々あるもんね!」

どうやら彼がジオラマプラモデルを作っていたのは、賞金狙いだったらしい。
 自分のプラモデルの出来栄えにうっとりしていたラムネだったが、ふと疑問を覚える。

「そういえばさっきの夢の中のオレ、キングスカッシャーじゃなくて別のロボットに乗ってたような気がしたんだけど……気のせいかな?」

 奇妙な夢を見た事に首を傾げるラムネ。
 そんな彼に下階の母親が呼ぶ声が聞こえてきた。

「ラムネーっ! いつまで寝てるの! 学校に遅れるわよー!」

 その声に時計を見れば、時刻は遅刻ギリギリ。

「やっべー! 遅刻しちゃうよ!」

ラムネは慌てて制服を着ると、鞄に教科書を乱雑に詰め込む。
そして完成したジオラマプラモデルをバッグにそっと入れると、急いで部屋を出た。

「学校が終わったら急いでコンテストの応募受付しないとな!」

「ラムネーッ!」

「はーい! 今行くよーっ!」


 ◆

コンテストの結果発表当日、ラムネは枕に顔を鎮めていた。

「……」

 そんな彼の手に握られていたのは賞金5万円……ではなく。

「参加賞……紙ヤスリってなんだよぉ~」

 どうやらコンテスト優勝は逃してしまったようである。

「くっそー、賞金を当てにして今月の小遣い全額プラモコンテストの為の改造に使っちゃったよー!」

 だがそれも仕方がないと言えるだろう。
 プラモ業界と言えば下は幼稚園から上は隠居した老人まで、ありとあらゆる職業年齢の人間がハマるホビーなのだ。
 当然他の参加者達もまた腕に自信のある猛者ばかりであり、プラモ歴の浅いラムネが勝とうとするのが無理だったのである。

「あ~あ、せめてオレもバイトが出来ればなぁ~っ!」

 ラムネはまだ中学生。法律の問題でバイトをする事は出来ず、お金を手に入れる方法はもっぱら親から貰うお小遣いくらいである。
 だからこそ、プラモコンテストでお金を稼ぐという分の悪い賭けに出てしまったわけだ。

「今月の小遣いは全部使っちゃったしなぁ。でもあのゲームを手に入れないとクラスの話題に乗り遅れる!」

今どきの子供達にとって、流行の品を持っているかどうか、流行りのゲームをどこまで攻略したかの情報は必要不可欠なコミュニケーションツール。
 それが無ければ仲間達から孤立してしまう恐れがあるほど重要なものなのだ。
 勿論単純に流行りの品が欲しいという物欲もあるが。

「あ~、どこかに大金でも落ちてないもんか」

 などとありえない妄想に夢を膨らませるも、現実の厳しさをすぐに思い出してそんな事はありえないとため息を吐くラムネ。
 だがそんな彼の下に救世主、いや勇者が現れた。

「金が欲しいのかラムネス?」

「誰だ!?」

 突然自分の部屋に家族以外の男の声が響き、ラムネは驚きの声を上げる。
 同時にすぐさま体を反転させながら起こして後ろに下がる姿は、流石かつての勇者である。

「あ痛っ!?」

 ただし、勢いよく起き上がり過ぎて部屋の壁に思いっきり頭をぶつけてしまう迂闊さもまたかつての勇者らしい姿だった。

「はははっ、相変わらずドンくさい奴だな、ラムネス。もっとオレ様のように華麗に振舞えよ」

「お前は……ダ・サイダー!?」

 痛みを堪えながら顔を上げたラムネが見たものは、かつての仲間の姿だった。
 ヘヴィメタルミュージシャンを思わせる特徴的な髪形と改造コートを身に纏った彼の名はダ・サイダー。
 彼は初代勇者ラムネスの仲間である勇者サイダーの子孫で、ラムネス達にとっては共にゴブーリキを討伐した戦友と呼ぶべき存在だった。

「で? 一体何の用だよダ・サイダー?」

 しかしそんな戦友に対してラムネはややもすれば邪険な眼差しを見せる。
 確かにダ・サイダーは戦士としては頼りになるが、一つだけどうしようもない欠点があったからだ。

「ふっふーん、そんな邪険にして良いのかな? オレ様はお前にスッペシャールなニュースを持ってきてやったんだぜ?」

「スペシャルなニュース?」

 わずかに興味をひかれつつも、しかし相手はダ・サイダーとラムネは警戒を解かない。

「ラムネス、お前、金が欲しいんだろ? だったらバイトをしないか?」

「バイト!?」

 お金が手に入ると聞きラムネは思わず期待の声を上げるも、すぐに問題を思い出して冷静になる。
「ありがたいけど、俺はまだ中学生だからバイトは出来ないんだよ」

「ん? ああ、マジマジワールドはそうだったか」

 マジマジワールドとは、ダ・サイダー達ドキドキスペースの住人にとっての地球のことである。
 しかしそんな問題を聞いてもダ・サイダーは肩を落とさない。寧ろニヤリと笑みを浮かべてラムネに告げた。

「安心しろラムネス。これはハラハラワールドで受けた依頼だ。だからマジマジワールドと違って中学生でもバイトは出来るんだぜ」

「マジで!?」

 ダ・サイダーの言葉にラムネは目を輝かせる。
 中学生である自分がバイトを出来ない理由が払拭されたなら、この美味しい話を受けない理由が無いからだ。
 それがいまいち頼りたくないダ・サイダーからの紹介だという事も忘れ、ラムネは年相応にはしゃぐ。

「うぉぉぉぉぉ! ありがとうダ・サイダー! オレは今猛烈にお前に感謝してるぅーっ!!」

 喜びの余り、ラムネは思わずおなじみの決め台詞でダ・サイダーに感謝を捧げる。

「はっはっはっ、気にするな。年号も新しくなったことだしな」

「へっ? 年号?」

 喜びの余りラムネは失念していた。何故自分はやって来たダ・サイダーに対し、邪険な眼差しを向けていたのかを。

「令和(礼は)いいぜ、なんちゃってな!」

「…………」

 突然の寒いダジャレに思わずラムネは凍り付く。
 そう、ダ・サイダーの欠点。それはくだらないダジャレが三度の飯よりも大好きという趣味が原因だったのである!

「イェーイ! ダーリン最高じゃん!」

 ラムネが固まっていると、突然ダ・サイダーの肩アーマーが開き中からピンク色の髪の毛を生やした黄色い蛇が飛び出してくる。
 彼女の名はヘビメタコ。ダ・サイダーのパートナーであるアドバイザーロボットだ。
 彼女はダ・サイダーに対して献身的な愛を捧げており、ラムネが懸念していたダ・サイダーのダジャレすら容認する(ダ・サイダーにとって)天使のような存在だった。

「ははははっ、そうだろうそうだろう!」

 ヘビメタコのリアクションにダ・サイダーは上機嫌になる。

「よーし、それじゃあ依頼主の居るハラハラワールドに行くぞラムネス!」

「お、おぉう……」

 ひさびさのダ・サイダーギャグに脱力しながら彼について行くラムネ。

「……ラムネス」

 だがそんな彼らの会話を部屋の外から聞いている者がいる事に、ラムネ達は気づいていないのだった。


――ハラハラワールド――


「おー、ハラハラワールドも久しぶりだなぁ」

 ラムネがやって来たのはかつて仲間達と共に妖神ゴブーリキ討伐の旅を始めた出発の地、ハラハラワールドだ。
 そう呟いたラムネの姿はマジマジワールドの自宅で来ていた衣服ではなかった。
胸部に特徴的なメーターが付けられたフロテクターと膝を保護するニーパッドが付いた動きやすそうな衣服を纏い、腰のベルトにはナイフやポーチといったオプションを装備。
そして背中には様々な道具が入った小型バックパックを背負うというアウトドア風味な様相となっていた。
何より、そんな彼の頭部を守る角付きバイザーはまるでアニメや漫画のヒーローのようだった。
いや、まるでではない。今のラムネは文字通りのヒーロー、かつてドキドキスペースを救った伝説の勇者ラムネスなのである。

「オレは今! 猛烈にワクワクしているーっ!」

 久しぶりに勇者の装束を身に纏った事で、ラムネスは再び熱い冒険が始まるのではないかと軽い興奮を覚える。
そんなラムネスがダ・サイダーに連れられてたどり着いたのは、大きな城だった。
 この城の名はアララ城。かつてラムネスが繰り広げた大冒険のスタート地点となった場所だ。

「おーラムネス、久しぶりじゃのう」

 そんなラムネスを出迎えたのは頭に兜の様な冠をかぶり豪奢な衣装を身に纏った背丈の低い白髪の老人だった。

「王様っ!」

 この老人こそ、このアララ国を治める国王、アララ・コリャリャ・ヨッコーラ三世その人であった。
 彼は二代目勇者ラムネスの旅を後方からバックアップしたそれなりに頼りになる人物の一人でもある。もっとも、すぐパニックに陥るが。

「久しぶりだミャー、ラムネス」

「タマQ!」

 アララ王と共に現れたのは、薄緑色の饅頭のような生き物だった。
 彼の名はタマQ、勇者ラムネスのパートナーであるアドバイザーロボットだ。
 タマQは器用に飛び跳ねると、定位置であるラムネスの左肩に飛び乗る。
 相棒と再会した事もあって、ラムネスの心は更に冒険の予感に沸き立つ。

「バイトってもしかして王様の手伝いなの?」

 一国の王に対する態度ではないが、アララ王はそれを咎めたりはしない。
 それはこのアララ国の気風もあるが、なによりアララ王本人が大らかな人物だからだ。

 「いいや、ラムネス達に仕事を頼みたいと言ってきたのはわしの古い知り合いなんじゃ」

「王様の古い知り合い?」

(王様の知り合いって事は、別の国の王様とかかな?)

「そこから先は私が説明をしよう」

 ラムネスが首を傾げていると、聞き覚えのない男性の声が聞こえてきた。

「初めまして勇者ラムネス君、私の名前はモンエナ。メリケンブリッジ大学の教授をしている者だ」

「うわっ顔怖っ!?」

 ラムネスが驚いたのも無理はない。
 モンエナと名乗ったこの男は非常に目つきが悪く、更に目の周りは深い隈に覆われていたからだ。
控えめに言っても悪人にしか見えない目つきの悪さである。

「はははっ、驚かせてすまない。仕事が忙しくて徹夜続きでね。お陰で顔色が悪すぎると生徒達にも苦情を言われているんだ」

「は、はぁ……顔色ってレベルの問題かなぁ……」

 及び腰になりつつも、ラムネスはモンエナ教授が差し出してきた手を握る。

「そ、それでオレ達に頼みたい仕事って何ですか? えーっと……モンエナ、教授?」

「そーいやオレ様もその辺はまだ聞いてなかったな」

 するとモンエナ教授は嬉しそうに笑みを浮かべる。
 本人的には純粋に嬉しかったのだと思われるが、いかんせん徹夜続きで人相が凶悪になっている為、その笑顔は非常に怖かった。

((怖ぇーっ!!)) 

「うむ、よくぞ聞いてくれた! 私が研究しているのはあのワクワク時空だ!」

「「ワクワク時空?」」

(えーっと、何だっけ? 聞き覚えはあるんだけど)

(なーんだったかな。結構最近に聞いた気がする名前なんだが)

 聞き覚えのある言葉に、ラムネスとダ・サイダーは思わず小声で相談を始める。

「ワクワク時空とは不思議な亜空間の事でな、その内部には膨大なエネルギーが眠っているらしいのだ。しかしその空間の内は非常に不安定で、古代の資料の中には時間を超越して過去や未来に行ったという者もいるそうだ」

「過去や未来!?」

 信じられない話にラムネスとダ・サイダーは目を丸くする。

「なにそれマジで!?」

「はー、そいつはちょっとしたタイムマシンだな。あれ?タイムマシン?」

「時間を超越?」

 モンエナ教授の言葉にまたも記憶を刺激されるラムネス達。

「うむ。そのエネルギーを利用すれば人類は無限のエネルギーを手に入れる事が出来るだろう! そしてつい最近、ウラウラの谷にあるパフパフ宮殿にワクワク時空についての詳細な資料があるとの情報を得たのだ!」

「ウラウラの谷!?」

「パフパフ宮殿!?」

 その名前を聞いた瞬間、ラムネスとダ・サイダーの脳裏に刻み込まれた記憶が呼び起こされた。

「ゴールドちゃん!」

 ラムネスの脳裏にパフパフ宮殿で出会ったナイスバディの美少女ゴールドマウンテンの放漫な胸が思い出される。

「シルバーちゃん!」

 ダ・サイダーの脳裏に同じくパフパフ宮殿で出会ったナイスバディの妹シルバーマウンテンの魅惑のお尻が思い出される。

「そうそう、ワクワク時空と言えばゴールドちゃん達と戦った時に出てきた名前だっけ」

「ああ、そういえばそんな事言ってたな」

 ゴールドマウンテンとシルバーマウンテンのマウンテンデュー姉妹は、かつてラムネス達に助けを求めてきた美少女達だ。
 だがそんな彼女達の正体はラムネス達が敵対していた妖神ゴブーリキの巫女だった。
 そして彼女達は自分達の色香に誘われてやって来た自称勇者達のエネルギーを奪い、ラムネス達の愛機の試作品であるプロトタイプキングスカッシャーとプロトタイプクィーンサイダロンを復活させて彼等に襲い掛かって来たのだ。
 戦いは熾烈を極め、何とかラムネス達は勝利を得る事が出来たが、彼女達の執念は凄まじく、戦いに決着がついた後もなお生き残ってラムネス達に襲い掛かろうとしてきたのだ。
 幸いにもウラウラの谷にあった時限爆弾岩の爆発に巻き込まれた事で、彼女達は次元の狭間に流されていったのだが、死闘を繰り広げたラムネス達にとっては恐ろしい敵であった事は間違いない……のだが。

「あー、ほんとに可愛かったよなゴールドちゃん」

「ああ、敵だったのが惜しいくらいだぜシルバーちゃん」

 喉元過ぎれば熱さを忘れるの言葉通り、戦いが終わって彼女達の復讐から逃れる事が出来たラムネス達は姉妹の美しさとスタイルの良いボディを思い出してニヤけていた。

「……話を戻していいかね君達?」

 その言葉にラムネス達が我に返ると、目の前に子供が見たら漏らして泣き出しそうなほど怖い顔でこちらを睨みつけてくるモンエナ教授の顔面があった。

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁごめんなさーい!!」」

「うむ」

「あー、びっくりした」

 モンエナ教授の人相の悪さに心臓が飛び出そうになるほど驚いたラムネス達は落ち着くために深呼吸を繰り返す。

「クスクスクス」

 そんな時だった。
 突然男だらけの空間に鈴の音のように爽やかな少女の笑い声が聞こえてきたのである。

「え!? 誰?」

「ゴメンナサイ、驚かせちゃいましたか?」

 物陰から姿を現したのは、ハンディ掃除機を抱えた美しい少女だった。

「君は……っ!?」

 近づいてくる少女の姿を見たラムネスが固まる。

「ほう」

反対にダ・サイダーは感心したように少女を見た。

「か、可愛~い!」

 ラムネスが言った通り、少女はとても可愛かった。
 青く長いツインテールの髪がサラリと風に舞う様はまるで妖精の羽のようで、ラムネス達を見つめるミントブルーの瞳は彼等をドキリとさせた。

「私はペプシブ。モンエナ教授の助手をしているの。よろしくね!」

「は、はい! 僕はラムネスです! よろしくねペプシブちゃん!」

「ふふ、よろしくラムネス君!」

「君っ!?」

ペプシブの見た目はおおよそだが17、8歳くらいと、まだ成人していないようで少女特有のあどけなさが残っていた。
だがそれでもラムネスにとっては大人に等しい女性であり、そんな女性からラムネス君と年上ムーブをされたのだからラムネスの年上のお姉さん熱が高まるのは当然と言えた。

「オレ様はダ・サイダーだ。よろしくなペプシブ」

対してダ・サイダーはクールに挨拶を決める。
ラムネスに比べれば人生経験を積んでいるダ・サイダーであるし、彼にとってはペプシブは年上の女性ではなく同年代に近い相手だ。
ラムネスに比べれば落ち着いて対処のできる相手だった。
もっとも、内心では年齢が近い事を利用してペプシブを呼び捨てにすることで、ラムネスに先んじて密接な関係を築こうという打算が張り巡らされていたのだが。

「よろしくねダ・サイダー君!」

二人に挨拶をすると、ペプシブは腰のポーチから何かを取り出しラムネス達の手の上に乗せる。

「これはお近づきの印よ! スィーッとするわ」

「お近づきの印?」

「なんだこりゃ?」

 二人は自らの手のひらの上に置かれたものを見ると、そこにはミント色をした四角い物体が置かれていた。

「それはミントチョコよ! 私のお気に入りのおやつなの!」

「へー、ペプシブちゃんはミント味が好きなんだ!」

 女の子から手渡しでお菓子を受け取り、ラムネスは最高に興奮する。

「そうなの! このスィーっとした味が良いのよ!」

「あー、ミント味かぁー。オレ様はどうもこのハミガキ粉みたいな味が苦手なんだよな。なんか食い物を食ってる気がしねえんだよ」

 逆にダ・サイダーは味が好みでない為に微妙な表情になる。
 だがそれがペプシブの逆鱗に触れた。

「ちーがーいーまーすー!」

「は?」

 ペプシブは先ほどまでのにこやかな笑顔から一転、真剣な顔でダ・サイダーに詰め寄る。
 至近距離まで美少女の顔が近づき、大人の男ムーブを心がけていたダ・サイダーもさすがにドキリとしてしまう。

「ダ・サイダー君は間違ってます! ミントが歯磨き粉味なんじゃなくて、歯磨き粉がミントの味なの! 順番を間違えちゃ駄目よ!」

「は、はい……」

 ペプシブの勢いに押されたダ・サイダーに、これ以上反論するのは危険だと歴戦の戦士の勘が囁く。
 男には女に逆らってはいけない時があるのだ。主に彼と腐れ縁の女性が怒った時などに。

「ん、分かって貰えたなら良いんです。さっ、一緒に食べましょ!」

 そういってペプシブはアララ王とモンエナ教授にもミントチョコを手渡す。

「スィーっと頂きます!」

「頂きまーす!」

「へいへい」

 パクリとチョコを食べると、ペプシブは満面の笑みを浮かべる。

「んーっ! お口の中がスプラッシュしそうな爽快感! やっぱりミントチョコはサイコーッ!!」

 その弾けんばかりの笑顔は、これまでラムネスが出会った女の子達の中で一番爽やかさに溢れたものだった。
もっとも、新しい女の子に出会う度にそのデータは更新されるのだが。
 モグモグと貰ったミントチョコを食べつつ、ラムネスとダ・サイダーは自然な動きで近づいて囁き合う。

「ダ・サイダーさんダ・サイダーさん」

「ああ、分かっているともラムネスくん」

 二人は突然わざとらしく敬語でお互いの名を呼びあう。
 その眼は相手がなにを言おうとしているのかを既に理解している目だ。

「「この仕事、ミルク/レスカ達には内緒で出発しよう!!」」

 美少女と一緒の旅とくれば、腐れ縁の女性達に内緒で出かけたい。

((そして旅先で関係を深めムフフな展開を……))

と期待してしまうのは、若い2人ならばある意味当然なことと言えた。
 しかし、そううまくいかないのが世の中というものである。

「「「そうはいかないわよ!!」」ですわ~」

 アララ城の中庭に、三人の女性の声が響き渡る。

「「げぇっ! この声はっ!?」」

 これまで何度も聞いてきた馴染み深い声に、ラムネスとダ・サイダーの体が本能的に震え上がる。

「あたしに隠れて女の子と仲良くしようなんて、百年早いのよ!」

 現れたのはピンク色の髪の少女だった。

「ミ、ミルク!?」

「まったく、アンタって奴は!」

 次いで姿を現したのは金髪にメッシュをかけた美女だ。

「レ、レスカぁーっ!?」

「あっ、私は付いてきただけです~」

 最後に現れたのは、紫の髪に今時珍しい底の分厚いグルグルメガネをかけた少女だった。

「ココアァ~!」

 彼女達こそ、このアララ王国が誇る美少女三姉妹にして王位継承権を持つ正真正銘の姫君達であった。
ピンクの髪の少女は三女にしてラムネスと共に冒険を繰り広げた少女、ミルク姫。
元気で誰とでも仲良くなれる良い子だが、度を越した食いしん坊なのが玉に瑕。
ラムネスとは恋人のようで恋人でないような微妙な関係を続けている。いや恋人なのだろうか?
次いで紫の髪の少女は次女にして同じくミルクと共にラムネスの冒険を支えたココア姫。
 その知識はすさまじく、ラムネス一行の知恵袋にして様々なサポートメカを開発してきた天才発明家でもあった。
 唯一の欠点は驚くほどノンビリ屋なところであろうか。
 ちなみに分厚い眼鏡の奥はとんでもない美少女で、特定の恋人が居ない事もあって彼女の隠れファンは多い。隠れてないファンも多い。
 最後の金髪メッシュの美女は長女のカフェオレ姫。
 しかしある事情から仲間達からはレスカと呼ばれている。
 アララ国の次期女王として勉強の日々に悲鳴を上げているが、なんだかんだとピンチには長女として頼りになる女性である。
 なお、ダ・サイダーとは恋人のように見えていそうでないようでやっぱり恋人なのかなという、これまたいまいち進展しない仲だった。
 そんな彼女達はどこかで見た事のある動物の形をしたメカに跨って、アララ城の天辺からラムネス達を見下ろしていた。
 その構図はさしずめ裁判官と判決を待つ被告のようでもある。

「な、何故バレたんだ……!?」

「ふっふっふっ、このあたしに隠し事は通じないのよ!」

 などとミルクは誇らしげに語るが、実際のところは単にダ・サイダーがラムネスの部屋で騒いでいたのが原因である。
 何しろミルクはラムネスの実家である馬場家に居候しているのだから、あれだけ騒がれれば気付かない筈が無い。
 それが恋人の部屋であればなおさらだ。
 もっとも、その理由はラムネスが自分に内緒で美味しい物を食べているのではないかという食いしん坊特有の勘繰りからだったのだが。

「さぁ! お仕置きの時間よ、ラムネス!」

 ミルクが自分の乗る金色のライオン型メカの頭部に設置されたゲームコントローラー型ハンドルを握ると、ライオンが駆け出し宙へと飛び出す。

「あ、危ないっ!?」

 更にココアの乗る赤い馬型メカとレスカの乗る黒いパンサー型メカもそれに続く。

「チェインジ!」

 ミルクの掛け声に合わせ、三人の乗るメカの目が輝くと、その体が展開を始めミルク達の体に装着されてゆく。
そうして動物型メカだったそれらは、ミルク達三姉妹を守る鎧へと姿を変えていた。

「正義の姫騎士、プリンセスカッシャー!」

「なにそれカッコいい!?」

 あまりのカッコよさに、思わずラムネスが突っ込む。

「英知の探究者、プロフェッサームですわ~」

「そしてあたしが未来の女王、セレブサイダロンよっ!」

 器用に空中でポーズを決めるミルク達。若干ココアだけがバランスを崩していたが。

「ラムネス!」

「ダ・サイダー!」

「「お仕置きよぉーっ!」」

「「ひぃーっ!?」」

 空中から降って来たミルクとレスカがラムネスとダ・サイダーに飛び蹴りとラリアットを喰らわせる。
 パワードスーツとなった動物型メカによって強化された少女達の力は何倍にも増幅され、哀れ二人の勇者達は木の葉のように吹っ飛ばされた。

「「まだまだぁーっ!!」」

 だが二人の姫君の怒りがその程度で収まる事はなく、吹き飛んだラムネス達をすさまじい速度で追いかけ更なる追撃を行う。

「てぇりゃぁぁぁぁ! プリンセスカッシャーハリケーン!!」

「そいやぁぁぁぁぁ! セレブサイダロントルネード!!」

「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 二人のプロレス技を喰らい、ラムネスとダ・サイダーが悲鳴を上げる。

「っていうか、お姉さまだけ語呂悪くない?」

 ラムネスにお仕置きを続けながら、ミルクがレスカのパワードスーツの語呂の悪さに疑問を呈する。

「うっさいわね! 未来の女王でアララ国の全てを手に入れるあたしにぴったりのネーミングでしょ!」

「セレブって言うより、“それブス”の方がブスねーちゃんにはお似合いじゃん?」

 地面に突っ伏していたダ・サイダーの肩アーマーから姿を現したヘビメタコが、レスカのネーミングセンスに苦言を呈する。

「なぁーんですってぇ!」

「ぐあっ!?」

 しかし突然ダ・サイダーが苦しそうな悲鳴を上げた事で、もしかしてやり過ぎたんじゃないかとレスカが慌てる。

「え? 何!?」

「セレブじゃなくて、それブス! くぁぁ~!面白すぎるぞメタコ! 悔しぃ~!」

「照れるじゃんダーリン!」

 だがダ・サイダーが呻いたのは痛みが原因などではなく、単にヘビメタコのギャグに心からウケたからという下らない理由であった。

「うう、俺も何か素晴らしいダジャレを……!」

「ダジャレを! じゃなーい!」

 怒りが頂点に達したレスカは再びダ・サイダーにお仕置きの一撃を放つ。

「ぐぼぁっ!」

「とりゃぁー!!」

 更にレスカの追撃がダ・サイダーを襲う。

「ぎゃぁーっ!?」

「い、今のうちに……ペプシブちゃーん、助けてぇー」

 ダ・サイダーに皆の意識が向いている内に、ラムネスはペプシブに慰めて貰おうと這いずっていく。
 だがそれはあまりにも軽率な行動だった。

「へぇー、まだ反省が足りなかったみたいね」

 ラムネスの背後で、般若の形相をしたミルクが仁王立ちしていたのである。

「ギクッ!」

「お仕置き延長戦よぉーっ!!」

 再びラムネスへのお仕置きが行われ、アララ城に悲鳴が上がる。
 なおそんな光景には慣れているのか、アララ城の兵士達は慌てず平常運転だ。
 ああ、また勇者様達が姫様達にお仕置きされているよといった顔で通り過ぎてゆく。
 薄情なのか信頼されているのか微妙な対応だ。

「あらあら、二人共元気ですわねぇ」

 そんな姉妹達の姿を見ながら、一人ココアだけが優雅にティータイムを始めていた。
 彼女が纏っていた馬型パワードスーツは椅子と机が一体になった簡易デスク形態となっていた。
 どうやら彼女のパワードスーツは戦闘用というよりは、作業用の側面が強いもののようである。

「あっ、そうそう~、私達も調査に同行いたしますわぁ~」

 さらりとお出かけについて行くノリで、ココアはモンエナ教授に同行を宣言する。

「ワクワク時空に関しては~私も興味がありますから~」

「そ、それは構わないが……彼等は良いのかね?」

 困惑しつつもココアの同行を受け入れたモンエナ教授が、今もなおお仕置きを受けているラムネス達を指さす。

「おりゃりゃりゃりゃー!」

「ごめんなさい許してミルクさんっ!」

「許すかぁー!」

「ほんっとアンタってヤツは毎回毎回!」

「す、すまんレスカ! もっと良いダジャレを考えてやるから!」

「そうじゃねぇーっ!」

「ダーリンに酷い事するなじゃん、ブスねーちゃん!」

 そのカオスにも程がある光景に視線を向けたココアだったが、すぐに視線を戻しモンエナ教授たちに告げる。

「……いつもの事なので、気にしなくて大丈夫ですわ~」

「「は、はぁ……」」

 本当に彼らに任せて大丈夫なのかと、不安になる二人だった。

「実は最近ウラウラの谷の近くに山賊が出るらしくてね、調査の手伝いだけでなく護衛もお願いしたいのだよ」

 ミルク達がようやく落ち着いた事で、改めてラムネス達はモンエナ教授とバイトの打ち合わせをしていた。

「へぇー、山賊ねぇ」

「はっはっはっ! オレ様にかかれば山賊なんざ屁でもねぇぜ! 大船に乗ったつもりで任せな!」

「おーっと、このラムネス君を忘れて貰っては困るな。オレがいれば山賊なんてちょちょいのちょいだよペプシブちゃん!」

「期待してますねラムネス君!」

「うへへ、がんばりましゅ」

ペプシブの眩しい笑顔を受け、思わずデレデレになるラムネス。

「ラームーネースー!」

 だがそれ以上の接近は許さんと、ミルクがラムネスの首を絞める。

「ぐぎゅっ!? そ、それで、このメンバーでウラウラの谷に行くんですかぁ……?」

 青い顔になりながらラムネスが質問すると、モンエナ教授が否と首を横に振る。

「いや、君達だけではない。あと2人ほど助っ人を頼んでいるだよ」

「2人?」

「ラムネス達も知っておる相手じゃぞ」

 ラムネスが首を傾げていると、アララ王が会話に加わってくる。

「俺達が知っている相手?」

「「その通り」」

 その声と共に、巨大なモノがアララ城の中庭に入って来る。

「お前達は!?」

 ラムネス達が見上げると、そこには二体の巨大なロボット達の姿があった。

「シンゲーン! ケンシーン!」

1体は額飾りに地の文字が書かれ、二本角を生やした深紅のロボット、その名もシンゲーン。
もう1体は頭部に天と書かれ肩にドリルを備えた黒と紫のロボット、その名もケンシーン。

「助っ人ってのは破壊戦士の事だったのか!?」

 破壊戦士、それはかつて妖神ゴブーリキの手下としてラムネス達と戦った悪の戦士達の名前だ。
 彼等はラムネス達との戦いに敗れて大破したものの、ゴブーリキとの最終決戦の折にはミルク達聖なる三姉妹の祈りによって奇跡の復活を遂げたのである。
 実は彼等破壊戦士は守護騎士同様、勇者と共に戦う正義の戦士だったのだ。
 ゴブーリキの洗脳から解放された彼等はラムネス達に協力し、見事勇者達を勝利に導いたのである。

「久しぶりだなぁシンゲーン、ケンシーン」

 そんな複雑な確執を持った両者だったが、ラムネスは気にする様子もなくシンゲーン達に再会の挨拶をする。

「うむ、久しぶりですなラムネス殿、ダ・サイダー殿、それにカフェオレ姫、ココア姫、ミルク姫」

「おう!」

「ひっさしぶりー!」

「お久しぶりですわ~」

「元気そうじゃない」

 同様にミルク達も破壊戦士達に対してのわだかまりは無いようだった。
 ラムネス達との挨拶を終えると、シンゲーン達はアララ王に向かって膝を突き頭を下げる。

「アララ王、イースカー島の倒れかけた石像を元に戻す作業が完了した」

「同じくガンバレーの谷底の落石撤去が完致しました」

「おーおー、ご苦労様じゃったのう二人とも」

 シンゲーン達の報告を受けたアララ王が二人に労いの言葉をかける。

「「勿体なきお言葉」」

「二人ともそんな事をしていたんだ?」

 戦う為に生み出された破壊戦士達がそんな仕事をしていたと聞いて、ラムネスは驚きの声をあげる。

「うむ、ゴブーリキが倒され平和になったこの時代、我等に戦士としての出番はない」

「それ故私達は何でも屋を営んでアララ王に仕事を紹介してもらったのです」

「ゴブーリキとの戦いで色々な町や村が被害を受けたからのー、彼らの力は役に立っておるよ」

「へー、二人とも立派だなー」

 かつて敵対していた破壊戦士達が人々の役に立っていると聞き、ラムネスが我が事のように誇らしい気持ちになる。

「私も彼等の評判を聞いて仕事を頼もうと決めたのさ」

 ラムネス達との再会が一段落したところを見計らって、モンエナ教授が会話に加わってくる。どうやら彼はこういった細やかな気遣いが出来る人物のようである。

「お初にお目にかかりますモンエナ教授」

 シンゲーンとケンシーンがモンエナ教授に頭を下げて挨拶をする。
 この礼儀正しさは武人らしいキリリとした姿だ。

「ああ、実際に会うのは初めてだね、シンゲーン君、ケンシーン君」

「話は聞いております。仕事内容は調査中の護衛とガレキの撤去作業の手伝いとか?」

「うむ、その通りだ。それと私の助手も紹介しよう。ペプシブ君、こちらへ」

 挨拶と仕事内容の確認を終えるとモンエナ教授はペプシブを呼ぶ。

「……っ」

 しかし呼ばれた当のペプシブは何やら様子がおかしい。

「どうしたんだねペプシブ君?」

「っ!? あ、はい! ペ、ペプシブです!」

 モンエナ教授に再び呼ばれた事で、我に返ったペプシブは慌てて挨拶をする。

「コレは可愛らしい御嬢さんだ。よろしくペプシブ嬢」

 挨拶を返そうとシンゲーンとケンシーンが手を差し出す。
 しかしなぜかペプシブはシンゲーンの差し出した手から逃げるように下がる。

「えと、よ、よろしくお願いします。あの、私まだ調査の準備がありますから、それじゃ失礼します!」

 そういってペプシブは逃げるように去っていってしまった。

「「……」」

 差し出した手が空しく宙をさ迷うシンゲーン達。

「我等、ペプシブ殿に嫌われてしまったのだろうか……?」

 心なしかションボリしてしまうシンゲーン達。

「初対面ですから~、そんな事はないと思うのですけど~」

「アンタ等図体デカくて威圧感あるんだから、普段は小さくなってなさいよ!」

 シンゲーン達には体の大きさを変える特殊機能があるのだが、彼等はついついそれを忘れてしまっていたのだ。

「も、申し訳……」

「ございませぬ……」

自分達の気遣いの無さを指摘されシュンとなるシンゲーンとケンシーン。

「まったく、あたしみたいに可憐な女の子をびっくりさせるんじゃないわよ」

「「「「「「え?」」」」」」

 レスカの言葉に思わず皆が目を点にする。

「えっ? てなんじゃーい! あたしが可憐じゃないっていうのかー!?」

「え、えーと、それじゃあ皆出発だー!」

「「「「「おおーっ!!」」」」」」

 返答に困ったダ・サイダーが慌てて出発の号令をあげると、皆も巻き込まれてはたまらないとそれに乗っかる。

「誤魔化すなぁーっ!!」

 すったもんだの騒動があったものの、ラムネス達はウラウラの谷へと出発した。
 今回のラムネス達の移動手段はいつものハルク砲艦ではなく、ダ・サイダーとレスカの乗艦であるクジラ型宇宙戦艦アルミホエール号に相乗りだ。

「そういえばあたしアルミホエール号に乗るのは初めてだわ」

「ですわねー」

「ところでさ、ペプシブちゃんはなんで掃除機を持ち歩いてるの?」

 ミルク達が船旅の景色に夢中になっている隙に、ラムネスはにこやかにペプシブに話しかける。
 まずは世間話から始めて共通の話題を確保しようとするラムネス。
 ストレートに口説いていた昔に比べ、中学生になった彼は小賢しいテクニックを身に付けていた。あまり役に立ってはいないようだが。

「これ? これはね、私の武器なの!」

 だが意外にもペプシブはラムネスの話題に嬉しそうに食いついてきた。

「掃除機が武器!?」

 掃除機が武器だと言われ、これを敵に叩きつけるのかと首を傾げるラムネス。

「そっ、この掃除機の使い方はね、まずこうやってゴミを吸い込みます」

 そういって普通に掃除を始めるペプシブ。どう見てもただの掃除風景である。

「普通に掃除機じゃん」

「ふふ、それはどうかしら。この集めたゴミをね……」

 と、その時だった。
突然轟音と共にアルミホエール号が大きく揺れたのだ。

「な、何だ!?」

「敵襲だ! 気を付けろ!」

 驚くラムネス達にアルミホエール号を操縦しているダ・サイダーが敵襲を告げる。

「敵!? 一体誰が!?」

「見てラムネス!あいつ等が犯人じゃない!?」

 窓から外を見ていたミルクが地上の一点を指さす。
 そこに居たのはバズーカ砲を構えた山賊のような格好の背の低い男とノッポの男の二人組だった。

「んん?あいつ等どっかで見たことあるような…・・・」

「奇遇だな、オレ様もだ」

 ラムネスとダ・サイダーは二人組の山賊を見て奇妙な既視感を覚える。
 それもその筈、ラムネス達を襲った二人組はかつてパフパフ宮殿へ向かう時に戦った自称勇者達の一組、バンディとデーズの山賊兄弟だったのだ。
 ラムネス達との競争に負けた彼等は、そのままウラウラの谷を根城にして山賊行為を行っていたのである。
 ここを根城にしていれば、マウンテンデュー姉妹目当ての男達が自分からやってきて入れ食い状態だと思いついたのである。
 残念なことに、あてにしていたマウンテンデュー姉妹が行方不明になってしまった為に、すっかり彼女達目当ての旅人は通らなくなっていたのだが。
 それなら別の場所に移動すればいいものだが、それに気づかないからこそ彼等は山賊に身を落としたのかもしれない。

「へへへっ、あの船を落として金目の物を奪えば俺達ゃ大金持ちよ!」

「兄貴、あのクジラ食えるかな?」

 腹をすかせたデーズがアルミホエール号を見ながら涎を垂らす。

「馬鹿! ありゃ機械だ食えねぇよ! 目的は金と船の部品だ!」

「ちぇ、美味そうなのにな。アレを落としたらご馳走食べようぜー兄貴!」

「おうよ!」

 再びバンディとデーズがバズーカ砲を構えてアルミホエール号を狙う。

「はっ! オレ様の華麗なテクニックを見せてやるぜ!」

 ダ・サイダーは巧みな操艦でバンディー達の砲撃を回避する。

「なにぃ!? 俺の攻撃を避けた!?」

しかし見事攻撃を回避したものの、アルミホエール号は巨体の戦艦。
このままではいずれ当たってしまうだろう事は誰の目にも明らかだった。

「よーし、ダ・サイダーは船の操縦で忙しいし、ここはオレの出番だ! オレの活躍見ててねペプシブちゃん!」

 さっそくペプシブの前で良い恰好が出来るとラムネスが出撃しようとするが、それをペプシブが止める。

「待ってラムネス君。ちょうど良い機会だから私の掃除機の使い方を教えてあげるね」

「え?」

言うや否やペプシブはアルミホエール号の背中に設置された甲板へと飛び出る。

「掃除機を使うってどうするのさ」

「こうするのよ」

 ペプシブはハンディ掃除機をライフルのように抱えて地上のバンディとデーズに向ける。
 するとハンディ掃除機の上部にスコープがせり出した。

「私の掃除機はね、吸い込んだものを内部で圧縮して……スプラーッシュ!」

 バシュッ、とよく振った炭酸飲料のキャップが開いたような音と共に、掃除機の吸い込み口から何かが高速で飛び出す。

 そしてそれはアルミホエール号を狙っていたデーズとバンディのバズーカの銃口に飛び込み、その中の弾薬に直撃した。
 次の瞬間、地上で大爆発が起きた。

「「うぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 哀れ、彼方に吹き飛ぶバンディとデーズ。

「と、こんな感じで圧縮したゴミを弾丸として射出する事が出来るの! 凄いでしょ!」

「う。うん……凄いね」

 まさかの凄腕スナイパーぶりに思わずラムネスは後ずさる。
 だがそこに油断があった。
 バンディ達の攻撃を受けて損傷したアルミホール号から爆発が起き、船体が大きくバランスを崩したのである。

「キャアァァァァァ!?」

 完全に油断していたペプシブの体が宙に投げ出される。

「ペプシブちゃん!」

 対するラムネスの行動は迅速だった。
彼は躊躇う事無く船から飛び降りるとペプシブの手を掴んで抱き寄せる。

「だめ! ラムネス君まで!?」

「だーいじょうぶ!」

 その言葉と共に、地上に向けて落下していたラムネス達が突然空中で静止した。

「え?」

 驚くペプシブに、ラムネスは上を見ろと目で指示する。

「あれは、ロープ?」

 見ればアルミホエール号から細いヒモが垂れ下がっており、紐の端はラムネスの手に収まっていた。
 これこそかつてラムネスがゴブーリキとの戦いで活用していた武器、アストロヨーヨーである。
 ラムネスは船から飛び降りる直前にアストロヨーヨーを巻きつけておいたのだ。

「すっごーい! さすがは勇者ね! ありがとうラムネス君!」

 感動したペプシブが更に密着してきた事で、ラムネスは思わずにやけてしまう。

「でへへ、それほどでも」

 だがヒーロータイムはここで終わりだった。

「ラームーネースー! いつまでデレデレしてるのよ!」

 戦いが終わった事でラムネス達を出迎えに来たミルクが怒りの形相でアストロヨーヨーの紐を揺らす。

「あっ、危っ! 危なっ! ミルク! 紐、解ける!? ごめんなさーい!!」

慌てたラムネスが急いでミルクに謝罪を始める。
どこまでも締まらない勇者であった。

「はぁ……あれ、あたし達が護衛としてついて行く意味あるのかしら?」

怒りが収まったミルクは必死で昇ってくるラムネス達を眺めながらも疑問を感じていた。
最後にトラブルはあったものの、ペプシブ一人だけで無事バンディ達を退ける事が出来たからだ。

「いや、ちゃんとあるとも」

 ミルクの疑問に答えたのは同じく甲板にやって来たモンエナ教授だった。
 同時にラムネス達も甲板にたどり着く。

「資料によればワクワク時空は不安定な空間でね、何が起きるか分からないのだ。というのも私は幾つものワクワク時空の資料を調べたのだが、空間内でとある実験を繰り返したところ同じ実験内容であるにも関わらずその全てが違う結果になったというものがあったのだ」

「全部違った!?」

「え? それって何か失敗しちゃったって事?」

 同じ実験をしておきながら、結果が違う事などあるのだろうかとラムネスとミルクは首を傾げる。
 成功にしろ失敗にしろ、同じことをすれば同じ結果になる筈だ。

「いや、本格的な実験の前の失敗する筈もないような簡単な実験だったそうだ。例えばライターを付けたら火が付くのは我々にとって常識だ。しかしワクワク時空でライターを付けたら火の代わりに水が出てきたと言えば、専門家でない君達にもその結果がおかしいと分かるだろう?」

「「それは確かに!」」 

 明らかにありえない結果を聞いてラムネス達も納得する。

「確かに。ライターから水が出てきたらビックリしますよね」

「じゃあお菓子が出て来るライターともあるのかしら?」

「ミルク、そういう事じゃないって」

 お腹を鳴らせながら、ミルクが見当はずれな発言をする。

「はははっ、だがワクワク時空ならそんな実験結果が出るかもしれんな。お菓子がわんさか出て来るライターがあるかもしれんぞ」

「やったー! ラムネス、早くパフパフ宮殿に行きましょ!」

 これから向かう現場がかつてラムネスが浮気をした場所だったこともあって内心機嫌の悪かったミルクだったが、お菓子がわんさか出て来る実験が出来るかもしれないと聞いて途端に上機嫌になる。

「そういう訳だから、ラムネス君達にはワクワク時空で不測の事態が起きた時の為の護衛を頼みたいの」

「なるほど、確かにそんなわけのわからない空間なら、二人だけだと心配になりますよね」

「それだけじゃないのよ」

 と、ペプシブがモンエナ教授の方を見ると、彼はなにやらブツブツと呟いていた。

「しかしお菓子の出るライターか。素人の考えとはいえ、その柔軟な思考は研究者の凝り固まった頭には良い刺激かもしれん。やはり研究室には新しい風が必要だな。いや待てよ。同じ実験をして別の結果が出るのなら、逆に別の実験をして同じ結果が出る法則を見つけ出せば新しい論文の鍵になるかもしれん。おお、これは良いアイデアだぞ! これはワクワク時空に秘められた新たなる可能性が見つかるかもしれ……」

「はいそこまでー!」

「ウギャッ!?」

 思考の深みにはまっていたモンエナ教授が、至近距離でペプシブの掃除機弾を頭に叩き込まれ甲板に倒れる。

「ひ、ひぇー」

「う、撃ったーっ!?」

 そのショッキングな光景に腰を抜かすラムネスとミルク。

「痛いよペプシブ君っ!」

「「うぎゃーっ! 動いたー!!」」

 死んだと思ったモンエナ教授が立ち上がった事で、ラムネス達はお互いを抱きしめ合いながら悲鳴を上げる。

「あっ、大丈夫よ。これは威力を弱めたヤツだから」

「そ、そうなんですか……?」

「それでも至近距離から撃たれると痛いんだよペプシブ君! もっと離れた位置で撃ってくれといつも言っているだろう!」

「「撃つのは良いんだ」」

 その会話に愕然となるラムネス達。

「教授、まーた考えが異次元にいっちゃってましたよ。ごめんなさいねラムネス君。ウチの教授は研究に夢中になるとこの通り周りが見えなくなっちゃうのよ。だから教授がトリップしてる間の護衛が欲しいの」

「は、はぁ……」

 でもそれなら別に撃つ必要は無かったんじゃないかなと思うラムネスだったが、彼も中学生になってそれなりに成長しているので、余計な事は言わずそっと心に秘めておくことにしたのだった。

「ゴホン、とまぁそんな訳でワクワク時空の調査では何が起こるか分からない。だからこそ、あの妖神ゴブーリキを倒した勇者ラムネスとその仲間達に護衛を頼みたかったのだ。頼むぞラムネス君!」

「はぁ……」

 ワクワク時空の危険性を強調しつつラムネスに護衛の重要性を語るモンエナ教授だったが、ペプシブのゴミ弾を喰らって腫れあがった額がどうにも信憑性に欠けるのだった。

 途中山賊達の妨害はあったものの、ラムネス達は無事ウラウラの谷にあるパフパフ宮殿へとたどり着いた。
 正しくはガレキとなったパフパフ宮殿跡地だが。

「いあー、大変な旅だったなぁ」

「オメーらはオレ様の船で寛いでただけだろ。大変だったのは操縦していたオレ様だぞ!」

「へへ、お疲れさんダ・サイダー」

 ダ・サイダーが不満げに文句を言うと、ラムネスが軽いノリでダ・サイダーをねぎらう。

「それでは調査を始める前に瓦礫を撤去する!」

 いつもならここで二人の喧嘩が始まるところだが、モンエナ教授の良く通る声がそれを制止する。

「諸君って言っても、これをオレ達だけで?」

 モンエナ教授の指示を受けたラムネス達だったが、周囲を見て苦笑いを浮かべる。
 何しろパフパフ宮殿はラムネスとマウンテンデュー姉妹の戦いでこれ以上ない程の廃墟になっていたからだ。
 しかも中途半端に残っている大きな瓦礫は近づくだけで危険そうだ。

「オレ様達がやった事だが、デカイ瓦礫がそこら中に散らばってるせいでシンゲーンとケンシーンが手伝ってくれても時間がかかるぜ?」

 ダ・サイダーの言う通り、本来瓦礫の撤去には結構な人手が必要だ。
 現代のように少人数でも短時間で作業が行えるのは、人間の何倍もの力で活躍をする重機があればこそだ。

「それは大丈夫ですわ~。こんな事もあろうかと用意しておいたものがありますの~」
 ラムネス達が途方に暮れていると、アルミホエール号のスピーカーからココアの声が聞こえてきた。

「用意していたもの?」

「はい~これですわ~」

 アルミホエール号のハッチが開き格納庫から一台のブルドーザー的な車両が姿を現す。
「これはテリータンク!?」

 その姿はマジマジワールドでゴブーリキが再復活した際に活躍した万能戦車テリータンク・スピニングトーホールド号に酷似していた。

「いいえ~、これは~テリータンクの兄弟機で、ドリータンク・ジュニア・スピニングトーホールド号という新型万能作業マシンですわ~」

「ドリータンク・ジュニア!?」

「っていうか相変わらず名前が長いな!?」

 ドリータンク・ジュニアと呼ばれたそのマシンは確かにテリータンクに比べると小柄で別の機体である事がわかる。

そして武装が排除された代わりに、車体側面に大きなマジックアームの姿が見える。
 そして最大の特徴としてドリータンク・ジュニアの前面は角の様に尖っており、更に戦闘機のシャークマウスを思わせる目と口が付いていた。

これはかつてのラムネス達の乗艦全てに共通する意匠で、凶悪な表情ながらもどこか愛嬌を感じさせる姿だった。

「それでは~ドリータンク・ジュニア号出動ですわー」

 早速動き出したドリータンク・ジュニアは、前面のブレード部で瓦礫を綺麗に押しのけていき、更に両側面のマジックアームが離れた位置にある大きな瓦礫も器用に回収していった。

「おお、素晴らしいメカだ! シンゲーン君、ケンシーン君、君達はあのタンクでは撤去できない大きなガレキを頼むよ」

「承知した」

「お任せあれ」

 モンエナ教授の指示を受け、すぐにシンゲーンとケンシーンも動きだす。

「「よいさ、ほいさ」」

彼等はドリータンク・ジュニアでは運べない大きすぎる瓦礫を担いで端に寄せていく。

「それじゃーあたし達もやりましょーか! チェインジ!」

 ミルク達もアルミホエール号の格納庫から出した守護騎士型パワードスーツを装着してガレキの撤去の手伝いを始める。
 普段なら肉体労働など面倒くさがりそうなミルク達だったが、新しく手に入れたオモチャで遊びたがる子供のようにパワードスーツを使っての作業に勤しんでいた。

「すいすーいすーい」

 同様にペプシブも手にしたハンディ掃除機で小さな瓦礫を次々に吸い込んでいく。
 普通ならとっくに満杯になってしまいそうな量を吸い込んでいるが、これらの瓦礫はバンディ達山賊兄弟を撃退したゴミ弾同様内部で圧縮されている為、意外とゴミの内包量は多かったりする。

 そんな光景を眺めながら、ラムネス達はノロノロと手作業でガレキを運んでいた。

「……なぁ、何でオレ様達だけ生身で運んでるんだ?」

「だよなぁ。ココアー! オレ達にもそのパワードスーツないのかよー!」

「ごめんなさい~、三人分で予算切れですわ~」

 あっさりと無慈悲な答えが返ってきて、ラムネス達は肩を落とす。
 やはり予算不足はどこも同じなようである。

「「ガッカリ」」

「キングスカッシャーを呼ぼうにも、シンゲーン達も居るから逆に狭くなっちゃうしなぁ」

「レスカ達を踏んづけちまわないように気を使わないといけないのも面倒だ」

「しゃーない、普通に運びますか」

「だな」

そんなこんなで瓦礫の撤去を続けるラムネス達。

「ひーひー、疲れたー」

「こ、腰が……っ」

 だが機械的なサポートのあるミルク達に比べ、ラムネス達は生身での作業。
 さらに言うとミルクの腹時計も正確に正午を告げて食事を要求していた。

「お腹空いたー!」

「ふーむ、そろそろ休憩にしようか。ペプシブ君、食事の用意を頼む」

「はいはーい! お任せあれー!」

 モンエナ教授が休憩を宣言すると、皆が作業を中断してアルミホエール号の傍に設置された休憩スペースに集まる。

「はー、ようやく休憩出来るわ」

「疲れましたわねー」

「もう汗びっしょり」

 青空の下で作業をしていた為、ミルク達はすっかり汗をかいて服の下がベタベタになっていた。
 思わず服の胸元に指を入れパタパタと空気を入れようと動かすが、そうすると色々と大変なものが見えてしまいそうになる。
 そしてその隙を見逃すラムネスではない。

「チラッ、チラッ!」

 ラムネスはゲームで鍛えた動体視力を活かして、ミルク達の服の隙間から見える光景を全力で脳裏に焼き付けようとする……が。

「ふー、熱い熱い!」

 たまたま汗をかいたモンエナ教授がタオルで体を拭こうと上着を脱いだせいで、ミルク達の胸の谷間ではなく、男の上半身の裸が彼の脳内メモリーに記録されてしまった。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 見たくもないむさくるしいものを見せられて、ラムネスが悲鳴を上げる。

「うう……オレは今、とんでもないものを見てしまった……って、あれは?」

 必死で脳内に記録されたモンエナ教授の裸の記憶を消そうしていたラムネスだったが、そのモンエナ教授の背中に大きな三本線の傷がある事に気付く。

「なんだあの凄い傷?」

「あれはね、私を守ってくれた傷だよ」

「ペプシブちゃん!?」

 ラムネスの疑問に答えたのは、大きな鍋を抱えたペプシブだった。

「あっ、手伝うよ」

 さすがに女の子にこんな重い物を持たせて自分だけ休憩するのも気分が悪いと、ラムネスは反射的に鍋を代わりに持つ。スケベだが紳士なのだ。

「ありがとうラムネス君。これはこっちのかまどの上に置いて」

「うん、わかった」

 そのままなし崩しにペプシブの料理を手伝うラムネス。
 ラムネスがこのままさっきの話題は流れちゃうのかなと思っていると、ペプシブは料理の手を止めずに静かに会話を再開した。

「私ね、お父さん達と一緒に教授の調査について行った事があるの。でも子供だから出来る事もないし、でも見ているだけなのも凄く退屈だったの」

「分かる、じっとしてると退屈で遊びたくなっちゃうよね」

「うん、だからこっそりキャンプベースから抜け出して冒険しに行ったの」

 ラムネスが相槌を打つと、ペプシブもそうなのと頷く。

「へー、ペプシブちゃんって結構勇敢なんだね」

 しかしそんなペプシブの表情が曇る。

「そのせいで、私は大きな獣に襲われたの」

「ええ!? 大丈夫だったの!?」

「うん、私が居なくなった事に気付いた教授が助けてくれたの。でもその代わりに教授が怪我をしちゃって……」

「それであの傷が……」

 モンエナ教授の怪我の理由がペプシブにあったと知り、ラムネスはどうフォローしたものかと慌てる。

「うん、さいわい他の研究員の人達が獣を追い払ってくれたから助かったけど、自分のせいで教授が死んじゃうかもしれないと思ったらもの凄く怖くなって、私わんわん泣いちゃったの」

「そりゃしょうがないよ」

 そんなショッキングな事が起きたなら誰だって泣きたくもなるだろう。
 ラムネスはそう言ってペプシブを慰めようとしたのだが、しかしペプシブは静かな笑顔を浮かべてこう続けた。

「でもね、教授ったら『なーにベソをかいとるんだ。男にとって女を守った傷は勲章だ。なーんにも申し訳なく思う必要などないぞ』って言ったのよ。真っ青な顔で全身脂汗を流してそんな強がりを言われたって安心なんかできないわよ。だから私もっと泣いちゃって、そのせいで教授を困らせちゃったわ」

「へー、あんな怖い顔をしてるのに、凄く優しい人なんだね」

 ラムネスの言葉を聞いて、ペプシブはクスクスとおかしそうに笑う。

「ふふっ、そうね。教授ったら何度言っても徹夜を止めないから、あーんな怖い顔になっちゃってるのよ。いい加減年なんだから、自分の体を大事にしてくれてもいいのにね」

「ねぇペプシブちゃんってそんな小さな頃から教授と一緒に行動してたの? もしかして教授ってペプシブちゃんのお爺ちゃん?」

「私が!? 教授の孫!?」

 ラムネスの言葉を聞いて、ペプシブが笑いだす。

「違う違う。私と教授に血のつながりは無いわよ。私のお父さんとお母さんが教授の弟子だったの。あの頃の私はまだ小さかったから、お父さん達が教授の許可を貰って調査に連れていってくれたのよ。うん、でもそういう意味じゃ教授は私のお爺ちゃんかもしれないわね」

「なるほど、それでかー。ところで今日はペプシブちゃんのご両親は一緒じゃないの? あっ、別にご両親にご挨拶とかそういうのじゃないから」

「……」

 と、ラムネスが次なる話題として両親の事を聞いた途端、ペプシブの表情が硬くなる。
(あれ? ペプシブちゃん不機嫌になった? もしかしてご両親と仲が悪いとか?)

「ねー、ご飯まだー!?」

 ラムネスが危険を感じたその時、空腹が我慢できなくなったミルクの声が緊迫した空気を引き裂いた。

「あっ、は、はーい! もう出来ますよー!」

 ペプシブが慌てて料理の仕上げに入る姿を見て、ラムネスは心の中でミルクに感謝の言葉を捧げるのだった。


 ◆


 食事を終えたラムネス達は、瓦礫の撤去を再開する。
 そして暫くした頃にミルクが声をあげた。

「ねー、皆ー! なんか地下に続く階段があるんだけどー!」

「え? 階段?」

 全員が作業を中断して我先にとミルクのもとへ殺到すると、彼女の言う通りそこには地下へと続く階段があった。

「ふむ、元々は床に偽装した隠し階段だったみたいだが、建物の崩壊と共に偽装していた床も壊れてしまったようだな」

「へー、って事はこの下はシルバーちゃん達が秘密にしたいモノが隠されているって事か」

 隠された地下への入り口を見て、ダ・サイダーがそこに何かがあると確信する。

「ゴールドのちゃんの隠したいモノ……それって、なんだろぉ~!」

 隠された秘密という言葉に、思わずエッチな妄想をしてしまうラムネス。
 だが迂闊なことに、彼の目の前にはそれを許さないミルクが居た。

「ラーム―ネースー!! 今いやらしい事を考えていたでしょーっ!」

「い、いやいやいや! そんな事全然考えてませんよ! いやホント!」

「本当でしょうねー!」

「ホント! ホントだって! それでモンエナ教授、ここを降りて調査するんですよね!」

 何とかミルクの追及を振り切るべく、ラムネスはモンエナ教授に地下の調査を提案する。

「そうだな。ようやく手掛かりが見つかったんだ。調査しない手はない。シンゲーン君達は引き続き瓦礫の撤去を続けてくれたまえ。何かのはずみで地上の建物部分が倒壊したら地下の私達が危険だからね」

「ううむ、残念だが承知した」

「気をつけてくだされ皆様方」

「よーし!それじゃあ秘密の地下空間に出発だぁー!」

「「「「「「おおーーっ!!」」」」」」

 シンゲーン達に見送られ、ラムネス達は未知の地下空間へと降りて行くのだった。


(第2話「パキャッ!モノクロエッグは破滅の卵」へつづく!)

ラムネ外伝サブダイ_1609デザイン_02

< 新キャラクター&新メカ登場予定! お楽しみに♪ >

fxゲストヒロイン告知2-復元

画像3

■古代文明SS2:双子の巫女達

fxゲストヒロイン告知2-復元_


「ここが俺の家か」

 無事病院を退院した環は、懐かしの我が家へと帰って来た。

(まぁ本当は『俺』の家じゃないし、会社の所有する社宅なんだけどな)

「お疲れ様です主任。お疲れでしょうから、コーヒーを淹れますね」

「ああ、ありがとうウルド」

 家に帰って来た環を迎え入れたのはウルドとシルビアの双子姉妹だった。

「それじゃあ私は主任のベッドの下にエッチな本がないかチェックを」

「待て待て、何自然に人の部屋を漁ろうとしているんだ」

 環は寝室へ潜り込もうとするシルビアの首根っこを掴んでソファーに座らせる。

「って、何で二人がここにいるんだ!?」

 そこに至ってようやく環は双子が家の中に居る事に気付く。

「主任気付くのが遅ーい」

「それについてはこれからご説明しますね」

 と、ウルドが人数分のコーヒーとお茶菓子をテーブルに並べながら語り出す。

「実は主任のお世話をする為に同居の許可を本社から頂いたんです」

「同居!?」

 予想外の展開に環は驚きの声を上げる。

「だって主任はちょっと前まで大怪我して寝込んでたんだよ。自覚がないだけで体は間違いなく衰弱してるんだから」

「むっ、それは……確かに」

 事実、環は病院から家に戻ってくるまでに結構な体力を消耗した事を実感していた。

「だからといって、嫁入り前の若い娘が家族でもない男と一つ屋根の下で暮らすのは問題だろう」

 ウルドとシルビアはまだ若いが、それを補って余りある程美しい。
 そんな少女達が、男と同棲していると知られたら、世間的に大変よろしくないだろうと環は心配したのだ。。

「主任は古いなぁー。今どき同棲くらい珍しくないって」

「えっ!? そうなのか?」

もしかして地球での常識とこの世界の常識は違うのか? と環は慌てて主任の記憶からこの世界の常識について確認する。特に男女の関係について。

「って、そんな訳ないじゃないか!」

だがそのあたりの常識が地球と大差ない事が分かり、環は声を荒げた。

「ちぇー、引っかからないか」

「お前なぁ……」

「主任のお気持ちは分かりますが、私達は主任のお役に立ちたいのです」

 と、今度はウルドが環を説得すべく前に出てきた。

「そうそう! 要は主任が私達に手を出さなければいいんだよ!」

「いや確かにそうなんだが……それ、俺が摂生できる事を前提としてないか?」

 あまりにも自分頼りの提案に環は眩暈を覚える。
 なぜこれほどまでに双子達は自分を信用するのだろうと、環は困惑する。

「お願いします主任! 私達は主任に恩返しがしたいんです!」

「そうだよ! 私達は主任に守られるだけの子供じゃないよ! あんな目に遭ってまで私達を助けてくれた主任の役に立ちたいんだよ!」

「いや、しかしだな……」

「「うるうるうる……」」

 二人の少女達が泣きそうな目で環を見つめてくるため、彼は必死で惑わされないようにと意志を強く持つ。

「「じー……」」

 双子の視線から目を逸らしながら耐える環だが、それでも背中に姉妹の視線は刺さり続ける。

「「じー……」」

「わ、分かった分かった! けどそれは俺の体力が元に戻るまでだからな!」

「「やったーっ!!」」

 結局耐えきれなかった環は、条件付きで双子との同棲を受け入れた。
(だってしょうがないじゃないか! あんな捨てられた子犬のような目で見つめられたらさ!)

 己の甘さに嘆きながらも双子の好意自体は嬉しく思う環であった。
 
 ◆

 はじめはおっかなびっくりと双子と接していた環だったが、時が経つにつれ少しずつ三人で暮らす事に慣れていった。

「はーい! ご飯を運ぶから、机の上の書類を片付けてー」

 そして環にとって意外だったのは、妹のシルビアが料理上手だったことだ。

「うん、今日も美味いな!」

「へへー、そうでしょ!」

彼女の料理は一流シェフもかくやという腕前で、店を出せば一等地でもやっていけるレベルだろう。

「うっ! この料理はウルドが作った奴だな……」

「……はい~」

対して姉のウルドの料理の腕は、壊滅的だった。
それはもうびっくりするくらい不味くて、シルビアとは違う意味で環を驚かせたほどだ。
だが代わりにウルドの淹れるコーヒーは絶品で、専門店のバリスタを思わせるレベルだった。
なお料理の時とは真逆で、こちらではシルビアがコーヒーを入れるセンスに欠けていた。

「見た目はそっくりなのに、中身は真逆だなぁ」

そう面白がる程度には、双子の姉妹との同居生活に慣れてきた環だった。

 ◆

 双子達と暮らしに慣れてきた環は、リハビリも兼ねて久々に職場へと顔を出すことにした。
 職場に入った彼は、復帰を喜ぶ職員達との挨拶もほどほどに、お目当ての場所へと向かう。

「これが……ウロボロス」

 環がやって来たのはウロボロスの開発ドックだった。

(全長50メートル越えの超巨体、まるでアニメの世界の存在が現実に飛び出てきたかのようなリアリティのない漫画チックな姿!)

「これこそロマンだ!」

「主任!? 急にどうしたの!?」

 本物の巨大ロボットを見た興奮で、思わず声が漏れてしまいシルビアを驚かせる環。

「あー、いやなに。もう一度コイツの研究が出来ると思うと嬉しくてね」

「主任、事故で生死の境をさまよったのを忘れたんですか!?」

「そうだよー、またひどい目に遭うかもしれないんだよ」

興奮する環にウルドとシルビアが呆れた眼差しを向ける。

「ははは……」

(いかんいかん、あまりはしゃぐと俺の正体を疑われてしまうかもしれないか)

 ついうっかり秘密が漏れそうになった事で慌てた環だったが、周囲の反応は彼の予想外だった。

「いやー、良かった。いつもの主任だ」

「えっ?」

 双子達に呆れられている環の姿を見た職員達が、突然そんな事を言い出す。

「ほんとほんと、死にかけたって聞いてたから心配してたけど、全然大丈夫そうだな」

「「「「はははははっ!!」」」」

 どうやら『主任』本人も環と大差ない性格だったらしく職員達に笑いながら受け入れられる。

「ところで、ウロボロスの再テストはいつするんだ?」

 何とか話題が逸れたと安心した環は、話をウロボロス開発に切り替える。

「あーそれはその……」

 だがその話を振られた職員達は何故かバツが悪そうに視線を逸らす。

「その件なんですが、まだ問題が解決していないんですよ」

「問題?」

「はい。主任がその……」

「俺が死にかけた事故が原因か?」

「ええ、あの時のトラブルを解決する方法が見つからなくて……」

 どうやら環が巻き込まれた事件の原因が解決出来ず、それで開発が頓挫しているようだった。

「図面を見せてくれないか?」

「はっ、はい」

 環は開発室に戻ると、すぐに最新のデータを確認する。
 そこに書かれていた理論や設計図は、本来の環ならチンプンカンプンだったのだろうが、主任の知識を得た今はその全てが理解できるようになっていた。

「ウロボロスが超空間から抽出したエネルギーが膨大過ぎて、回路が耐えきれなかったのが事故の直接的な原因です。しかし現状このパーツが最も性能の良い物なので、別のパーツに変更する事が出来ないんです」

 既に使用している部品が最高グレードな為、生半可な考えでは問題を解決できないと環は察する。

「回路を増やしてエネルギーを分配する事も考えたんですが、何故か増やした全ての回路に同量のエネルギーが流れ込んでしまって分配する意味がなくなってしまうんです。まったく、超空間ってのは訳が分かりませんよ」

ウロボロスのエネルギー源である超空間は彼等の知識をもってしても尋常な物ではないらしく、一同は頭を抱える。

「やはりカンナギに頼らずに超空間のエネルギーを利用するのは無理なんじゃないか?」

「けど上層部がそれに納得してくれるとは思えないしなぁ……」

「ふむ……」

 環は部下達が悩んでいる問題の部分を確認する。

「これは……いっそ物理的に切断できるようにしてしまえば良いんじゃないか?」

「「「「え?」」」」

「ここの回路が耐えきれないから暴走事故が起きたんだろ? だったらシステムが限界を感知したら、物理的にウロボロスの動力を分割して強引に動作できないようにしてしまえばいい」

「そ、そんな手段が!?」

「いや、ありかもしれないな。エネルギー供給機関の核を切り離せば最悪の事態は回避できる」

「主任! これならいけそうです!」

「ああ、流石は主任だ! やっぱりウチは主任がいないとな!」

 環の提案したアイデアを聞いた部下達が一気に活気に満ちる。

(……実のところ、このアイデアは子供の頃に見たロボットアニメから来てるんだよな。
 昔のロボットってよく変形合体してたし、ならこいつも分離すれば問題を解決できないかなってさ)

 子供っぽいアイデアだったがこれが見事に成功し、ウロボロスの最終安全装置として採用される事になった。
 そして後にこのアイデアがウロボロスを完成に導くきっかけになるのだが、それはまだ遠い先の話である。
 
 ◆

 この日、環はとある大掛かりな施設へとやって来た。
ここは彼が飛ばされた世界の中でも、最も神聖とされる空間だった。
そんな環の目的はウルドとシルビアのお役目の見学だ。
 実はこの二人はカンナギと呼ばれる一種の巫女であり、年に一度の大事なお役目を担っていたのだ。
 祭儀場で待機していると、雅な音楽と共に祭殿の奥からカンナギの意匠に身を包んだウルドとシルビアが姿を現した。
 その装いは神々しく、まさしく巫女と呼ぶに相応しい姿だ。

『お姉様、主任が来てるよ!』

『こらシルビア、キョロキョロしない!』

 そしてウルドとシルビアもまた、祭儀場に環が居る事を察していた。
というのも彼女達カンナギは儀式を行っている間限定ではあるものの、テレパシーなどの超感覚を得る事が出来るからだ。
しかし、それが二人に悲しい事実を知らせる事となってしまう。

『え?』

 会場に居る環の心を感じ取った時、ウルドとシルビアは衝撃を受けた。

『お姉様、これ、どういう事……!?』

『シルビア、落ち着いて。今は神事に集中するのよ!』

 ウルドとシルビアは必死に動揺を抑えながら神事を遂行し、何とか無事に終わらせる事が出来た。
 しかし控室に戻って来た二人の表情は暗い。

「お姉様、あの人……」

 シルビアが不安げな顔でウルドに語り掛ける。
 ウルドもまた、妹の感じたものと同じであろうものを感じ取っていた事はカンナギの超感覚で伝わっている。

「……ええ、私も感じたわ」

 ウルドとシルビアは、お互いが感じ取った感覚をゆっくりと言葉にする。
 出来る事なら、自分の勘違いであって欲しいと願いながら。

「「あの人は、主任じゃない」」

(SS2: END)




■「ラムネ&40 FX」上巻ワクワクセット12月22日発売!

≪商品情報≫
■商品名:
【プラキット「グランスカッシャー」付き】
「NG騎士ラムネ&40 FX」上巻・ワクワクセット
■商品内容:
1)小説「NG騎士ラムネ&40FX」上巻 …1冊
2)プラキット「グランスカッシャー」 …1個
3)ワクワクディスク …1枚
※内容は全て予定です。予告なく変更になる場合がございます。
■発売元・販売元:フロンティアワークス
■価格:税込9,900円(税抜9000円+税) ■品番:FWZ-09304
■発売日:2021年12月22日 <メーカー推奨予約〆切:2021年9月1日>
※メーカー推奨予約〆切は、本商品を確実にお求めいただける推奨予約期日となります

【 「フロンティアワークス通販」「あみあみ」限定商品 】
●フロンティアワークス公式通販(アニメイトオンライン)予約ページ
更にヘビーユーザー向けFW通販(アニメイトオンライン)限定バージョン!
●大盛【プラキット2個付き】 / ●特盛【プラキット3個付き】 

バナー

●あみあみ予約ページ(限定特典アクリルキーホルダー付き) 

(C)葦プロダクション