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Ben Watt / North Marine Drive (1983) +Summer Into Winter with Robert Wyatt (1982)

エヴリシング・バット・ザ・ガールでのデビュー以前のベン・ワットによるソロ・アルバム。繊細なタッチのアコースティック・ギターの音色、ボサノヴァやジャズを取り入れた音楽性は”ネオアコ”の象徴。ベンの寂寥感が漂う歌声も耳を引く。

”相方”のトレイシー・ソーンの前年リリースのソロは夏の海に一人出かけるときの音楽で、ベン・ワットのソロは冬の海まで一人ドライブするときの音楽という印象で、その共鳴と対比は興味深い。そしてあくまで”一人で”のニュアンスが肝になっている(タイトル曲では”二人きり”であるのだが)。

喪失感や慕情を捉えたその繊細な表現は普遍性を帯び、最後のディランのカヴァーも原曲の良さを素朴に伝え、その絶妙な選曲とともに唸らせる。

ジャケットの子どもたちの、甲板から海を眺め、波しぶきに逃げ出す構図の対比も、裏ジャケの一人冬の海に浸かるベンの姿(いかにも80年代的な佇まいだ)も、ヴィヴィッドにノスタルジックにこのレコードの音楽性を表現している。

CD版のボーナス・トラックにはロバート・ワイアットと組んで制作した最初期のEPを収録。こちらも研ぎ澄まされた静謐さの中に穏やかな詩情が光る。



良いアルバムだね。
過不足ない演奏で、心象風景を丁寧に端的に描いた名盤。

物悲しさは人生につきもので、身を任せられるような音楽(をはじめとした様々な表現や作品)がなければ、生きていくことはあまりに過酷だと思う。


才能に恵まれない僕が唯一誇れるのは感受性と親しい人たちだから、どんなことがあってもそれだけは失わずに生きていきたい。

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