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沖縄の珈琲生産から学んだ適正価格

日本最南端である沖縄県。今回の「NIPPON FOOD SHIFT」では、沖縄が舞台となり、土地に根付き、自分たちらしい農業に携わる生産者を、Z世代と呼ばれる学生さんたちと取材しました。

私たちが訪れたのは、沖縄県浦添市湊川にある「沖縄セラードコーヒー」。外人住宅が多く立ち並ぶエリアに焙煎工房を構え、隣接する「Beans Store」では、世界のコーヒー生産国からとどいた豆を焙煎し、販売しています。
そして、コーヒー産地の様子や味の特徴、自宅での美味しいコーヒーの淹れ方までをレクチャーしています。

私たちが普段口にするコーヒーは、コンビニやスーパーでお手頃に購入できるものから、コーヒー生産の総ての段階において、一貫した体制・工程・品質管理が徹底している「スペシャルティコーヒー」と呼ばれるものまで、その価格帯はさまざま。

コーヒーの背景にはどんな生産活動があるのでしょう。
その多くは赤道付近のコーヒーベルトと呼ばれるエリアが主な産地ですが、なんと、沖縄でもコーヒーが栽培されていることをご存知ですか?

沖縄産コーヒー栽培の挑戦

「沖縄セラードコーヒー」では、100パーセントの沖縄産コーヒー「アガリバルコーヒー」を栽培・販売しています。
今回の取材では、沖縄県名護市にある「アガリバル農園」を訪れました。

周囲の木々の伐採も光の当たり具合を見ながら調節

軽トラック1台がなんとか登る山道をぐんぐんと上がった先に「アガリバル農園」はあります。木々の間に青空がポカンと見え、心地良さを感じます。
かつてパイナップル畑として活用されていたこの土地は、扇状地で水捌けもよい場所。収穫のことを考え、背丈は2メートルほどにとどめたコーヒーの木には、赤くなるのを待つ実がなっていました。

次第に熟すと赤みを増していくコーヒーの実

「沖縄セラードコーヒー」が自社農園でのコーヒー栽培に着手したのは2010年のこと。日本でのコーヒー栽培に関する文献もほとんどなく、末吉さんは全て独学、目前のコーヒーが育つ様子を見ながら、手探りの状況で、栽培を開始。初年は台風に見舞われ、約900本もの苗木が倒れてしまうというアクシデントにも見舞われたそうです。

アガリバル農園でコーヒー栽培に勤しむ末吉業久さん

コーヒーの実が品よく育つためには、土壌の調整、肥料の選別やあげるタイミング、最適な日照時間や風のとおり道など、周辺環境の整備が大切。

この畑を管理する末吉さんは、一本一本の木の状態を見ながら、光のあたり具合や、成長の様子を観察していました。

いよいよ実が赤くなったら、タイミングを見計らい収穫。精選後は天日でじっくりと乾燥し、熟成、果肉の除去、乾燥、脱穀、焙煎…と、私たちが日頃目にするコーヒー豆として完成するまでに、収穫から2ヶ月ほどの時間と労力を要します。
「正直な商売が大切。どんな工程もひとつひとつ丁寧に向き合い、お店で淹れるハンドドリップで、コーヒー生産の裏側を伝えたり、魅力を伝えることも、購入してくださる人への誠意」だと、末吉さんは話します。

沖縄産100%の「アガリバルコーヒー」

沖縄産100%のアガリバルコーヒー

「アガリバル農園」で収穫できるのは、約300キロのコーヒー果実。果実からコーヒーの種子を取り除くと、なんと1/10の30キロまで目減りし、さらに焙煎すると25キロにしかならないという、希少なコーヒー豆です。アガリバルコーヒーが登場するのは春のみ! しかも期間限定ですぐに販売完了してしまうほどの人気ぶり。

「食」にまつわる価格を考えてみよう

食の生産工程を知ると、私たちが口にする「食」の価格について考えさせられます。農業の機械化や IT化によって、ますます食の生産現場は成長を遂げていて、それにより手軽な価格での購入ができる「食」があることは、消費者にとっては嬉しいメリットです。
その一方、生産者の顔が見え、生産工程が見える「食」は、生産者と消費者間における、食の信頼関係に繋がるということを、一連の取材を通して実感しました。