交通システム ─ Singapore 7
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交通システム ─ Singapore 7

一般社団法人次世代基盤政策研究所(NFI)

 私は、2011年1月から3月までシンガポールに滞在して、アジア、とくに東南アジアの社会と行政について観察し情報収集を行った。その作業はまだ途上であったが、3月11日の東日本大震災のために、その後の観察は断念せざるを得なかった。今、当時書き綴ったコラムを読み返して、今でも、多くの方に伝える価値があると思い、このNOTEに掲載することにした。その第7弾。

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 シンガポールは小さな国である。国内は発達した都市を形成しており、交通システムはよく整備されている。とくに中心部は、地下鉄MRTとバスのネットワークが張り巡らされ、移動は非常にしやすい。

 この国は島で外国からの出入りをコントロールがしやすいこともあり、また、自動車の総数が保有権の数をコントロールすることによって制限されていることもあって、交通渋滞は朝夕のラッシュ時に一部でみられるものの、日本の大都市のように、ほとんど動かなくなるような渋滞はないようである。

 円滑な道路交通が実現している理由の一つとして考えられるのが、IT技術をフルに使ったロード・プライシングの仕組みである。「ERP」と呼ばれているが、あちこちの主要な道路に設置されていて、車が混んでくると、そこを通るのに、乗用車は$2.00、バスは$3.50、トレーラートラックは$5.00等と表示板に示される。また、車のカーナビにもそれが示され、運転手は通行料が高い道路避けて道を選択することになる。

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 システムの詳細は分からないが、かなりきめ細かく交通量がモニターされていて、料金はかなり頻繁に変わる。運転者は、その情報に気をつけながら、通る道路を選ぶため、交通量がコントロールされることになる。

 MRTは駅も明るくきれいである。路線は、2011年当時は4路線あり、さらに計画路線があった。東京の大江戸線のような環状線も建設中であった。都心部は地下を走るが、郊外に出ると地上の高架を走る。間隔は、ほぼ終日5から10分くらいで、駅には、次の電車があと何分でくるか表示されている。

 バスもそうだが、時刻表はない。次の電車までの間隔だけが示されている。したがって、電車が定刻通りに走るという観念自体がないのか、日本の地下鉄や都市の鉄道のように、「定刻より3分遅れて○○駅を発車しました。乗客の皆様には、お急ぎのところご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。」といった弁解じみた車内放送などはない。車内は、日本の地下鉄と比べてやや小さい感じがするが、清潔で明るい。次の駅やその他の注意事項を、英語だけでなく、この国の公用語である他の言語でも頻繁にしている。

 MRTのネットワークも発達しているが、きめ細かく地域を結んでいるのがバスである。どれくらいの路線があるのか分からないが、市内のほぼ全域をカバーしているらしく、どこにでも行けそうである。

 停留所は、道路から切り込む形で作られており、バスが乗客を乗降させている間も、他の車の走行を妨げないようにしてある。停留所には、たいてい屋根があり雨期の豪雨時にも濡れないでバスを待つことができる。詳細な路線案内も掲げてあり、その路線のバスが、だいたい何分間隔で走っているか、目的の停留所まで何キロくらいあるか、分かるようになっている。

 バスの路線は、すべて番号で表示されており、行き先はバスの前にも表示されているが、途中の経由地点の名称は書いていない。路線も、停留所もすべて番号で示されており、○○ショッピングセンターに行くには○○番、MRTの○○駅に行くには、○○番のバスに乗り、○○○○○と5桁で示された停留所で降りればよい、ということになる。

 したがって、バス停では、乗りたいバスの番号をみて、手を挙げてバスを止め乗り込むことになる。そして目的地に来ると、車内の停止ボタンを押し、止めてもらって降りることになる。

 このようにシステムはよくできているが、初めてこの国に来てバスに乗るものにとっては、必ずしも親切ではない。そもそもどの番号のバスに乗ればよいのかすぐには分からない。しかし、バスを利用するときも、行き先について、事前に準備をしておけば、乗るべきバスの番号も降りるところもすぐに分かる。というのは、それが分かる非常に便利なホームページhttp://gothere.sg が作られているからである。また、あちこちでガイドブックも売っている。また、スマートフォンでも調べることができる。

 ただし、困るのはバスに乗ったあと降りるときである。アナウンスはないし、番号しか書かれていないからどこで降りればよいのか、容易にわからない。私も乗り過ごしたことがあるが、これについては運転手に予め聞いておくしか方法はないようである。

 ところで、MRTもバスも、東京のSUICAやPASMOと同様のプリペイドのez-linkという共通のカードを使うことができ、非常に便利である。料金も、日本に比べるとはるかに安いように思う。しかも、このような料金システムによって、きめ細かい距離別料金制度が導入されている。

 料金が安いといえば、タクシーも、日本に比べると非常に安い。タクシーそのもの基本料金は$3であり、日本円で200円ほどである。距離で加算されるが、その他ERP等の料金も加算され、混雑時や夜間はメーターの数字よりもかなり多くなる。

 このように料金が安いこともあって、タクシーは非常に多いし、便利である。サービスの質は、他国と比べて平均的であるが、便利で多数走っているため、庶民の一般的な足となっている。バス停で乗りたいバスが出たあとなど、授業に遅刻しそうな学生もさっと手を挙げてタクシーに乗っていく。

 なぜこのような安い料金で営業することが可能なのか分からないが、いずれにしてもこの国の交通システムはよくできており、便利である。 (2011年2月2日)

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ここで述べているのは、10年前のシンガポールの姿である。この分野の技術進歩は日進月歩なので、現在では様相は大きく変わっているであろう。その後、2度ほど訪れたが、街のERPのシステムも、路上に掲げてあった大きな電光掲示板方式ではなく、カーナビに表示されるようになっていると聞いた。しかし、利用者の利便性、効率性を追求する基本的な姿勢は変わっていないと思う。むしろそのGの姿をご存じの方がおられれば、ご教示いただきたい。



一般社団法人次世代基盤政策研究所(NFI)
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