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必要なのは決断力─Singapore 2

 私は、2011年1月から3月までシンガポールに滞在して、アジア、とくに東南アジアの社会と行政について観察し情報収集を行った。その作業はまだ途上であったが、3月11日の東日本大震災のために、その後の観察は断念せざるを得なかった。今、当時書き綴ったコラムを読み返して、今でも、多くの方に伝える価値があると思い、このNOTEに掲載することにした。その第2弾。

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 2011年1月23日の夜、NHKの国際放送を見ていたら、フランスの経済学者であり、作家であり、閣僚も務めたジャック・アタリ氏のインタビューを放映していた。
 ヨーロッパの財政危機についての発言のあとで、インタビュアーに、日本の財政状況をどう見るかと問われて、非常に厳しい状態にあると指摘した上で、さらにその状態から脱出する方法は?と問われて、次のような4点を挙げた。

 第1に、経済成長を図ること。そのために効果的な政策を実施することである。

 第2に、人口政策。将来を見据えて、人口増加策を講じるべきである。

これらは、長期的な政策であるが、短期的には、次の二つが必要である。

 第3に、歳出の10%削減を3年間行い、それに早急に取り組むこと。

 そして、第4に、同様に10%の増税を3年間実施すること。

 現在の財政状況の数字を見る限り、当然の策ともいえようが、第2の人口増加策についていえば、今から生まれる子供の数を増やしても、高齢化のピークには間に合わない。より長期的で入念な政策の検討が必要であろう。
 また、第4の策についても、ざっと計算した限りでは、10%の増税3年間では、財政状況を抜本的に好転させるには至らないであろう。
 それはともかく、10%の歳出削減と10%の増税を、国民が受け入れることができるだろうか。しかし、それをやらなければ、持続可能性はないであろう。
 シンガポールは、対極をなすような経済合理的な政策を躊躇なく実施する国のようである。比べるわけではないが、今、日本に必要なのは、現実をあるがままに受け止める冷静な判断力と、大胆な改革の決断であると思う。(2011年1月25日)

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このときから10年経ったが、日本の財政赤字は増え続け、昨年のコロナ禍による支出増は、財政赤字の規模を格段に拡大した。厳しい状態は続いているが、まだわが国の財政は破綻していない。アタリの心配は杞憂だったのか。しかし、外からみて、日本の状態はどれほど危機的か、鏡に照らして我が身を見ることも必要だろう。うちだけ見ていてゆでガエルになってからでは遅い。(2021年8月1日)