のらきゃ掌編×3 その9

 以前Twitterで投稿した習作を一部修正したものの纏めです。

①:きゃっとむかしばなし『のらの岩戸』

 むかしむかし、あるところに、猫松照大御神という狐娘のおじさんの太陽神がいました。
 猫松照大御神は太陽として毎日眩しく燃えていましたが、
「わらわ、普通の狐娘のおじさんに戻るのじゃー!」
 そう言って、ある日突然岩戸の中に引きこもってしまいました。

 太陽神の猫松照が引きこもってしまい、困ったのはのらきゃっと。月とのうすじを司る猫耳の戦闘用アンドロイドの女神、のらきゃっとです。
「むむむ。どうしたら猫松さんは外に出てくれるでしょう?」
 のらきゃっとは一生懸命考えましたが、のうすじなので全然わかりませんでした。

 困り果てたのらきゃっとは、仲良しのねずみさん達に相談しました。
 ねずみさんの集合知は時に高性能なきゃっとCPUをも凌駕するのです。 「どうしたらいいと思います?」
「あはは、簡単だよ、のらちゃん」
 今回もねずみさんはあっさり答えを出してくれました。さすねず!

「のらちゃんがヤバイ水着に着替えて踊れば、猫松さんは釣られて出てくるよ!」
 答えたねずみさんは、どぶねずみさんでした。

 引きこもった女神は踊りで釣るもの、古事記にも書いてある。どぶねずみさんは歴史を盾にしてどぶどぶと笑いました。
 一方、それを聞いたのらきゃっとは、
「まったくも」
 どぶねずみさんの尻尾をむんずと掴み、全力で振りかぶりました。

「―――4ショット!」
 のらきゃっとのおしおき! いちげきひっさつ!
「あああああああ」
 思い切り岩戸に叩きつけられて、どぶねずみさんは死にました。

 そしてその衝撃で、岩戸はガラガラと崩れ落ちました。
「な、何事なのじゃー!?」
「おやおや。やっと出てきてくれましたね、猫松さん」
 驚いた猫松照が飛び出して、のらきゃっとは満面の笑みで迎えました。
「もう逃しませんよ」
 猫松照の尻尾はのらきゃっとに掴まれてしまいました。

「さあ、デートに行きましょう!」
「のらちゃん、ねずみさんが見てる、あっあっ」
 こうして二柱の神は仲良く空に上りました。
 そして、それを見たねずみさんが嫉妬の炎を燃やしたので、
「🔥猫松🔥」
「熱いのじゃー!」
 猫松照大御神は、もう一度太陽として眩しく輝きましたとさ。

 めでたし、めでたし。


②:きゃっとむかしばなし『のらしべ長者』

 むかしむかし、あるところに、のらきゃっとという配信者がいました
 のらきゃっとはイムラのねこなので、普段はお金に困らない暮らしをしていましたが、
「やばい。漫画を買いすぎて無一文だ」
 今月は何故か出費が多く、財布の中がすっからかんでした。

「そうだ、こういう時はわらしべメソッドです」
 かしこいきゃっとはすぐに打開策を思いつきました。さすのらです。
 ワラの束をゆうちょと抱え、のらきゃっとは友達のねずみさん達を訪ねました。
「ねずみさん、ねずみさん。このワラの束と何か物々交換してくださいな」

「うーん、のらちゃんの頼みなら聞いてあげたいけど……」
 流石にワラはいらなかったねずみさんは、困ったようにむむむと唸りました。
 しかし、三人寄ればさすねず。彼らはあっという間に名案を閃きました。 「そうだ、こういうのはどうだろう」

「のらちゃんがそのワラで編んだ水着を着て配信してくれたら、赤スパ連打するよ!!!」
 ねずみさん達は、どぶねずみでした。

「どぶねずみは消毒です」
「あああああああああああああ」
 のらきゃっとはワラの束に火をつけて、ねずみさん達を放り込みました。

 こうして物々交換の元手を燃やしてしまったのらきゃっとですが、
「ややっ。それはもしや、火鼠の皮衣ではないか? 麻呂の金銀財宝と交換してたもれ」
「いいですよ、5000兆円です」
 通りすがりの大富豪とねずみさんの皮を交換し、億万長者になりましたとさ。

 めでたし、めでたし。


③:きゃっとむかしばなし『のらかに合戦』

 むかしむかし、あるところに、一匹のカニがいました。
 カニは柿を育てており「早く芽を出せ柿の種!」と歌いながら水をあげていましたが、
「実が成ったらわたしのです、わたしの」
 運悪く、食いしん坊ののらきゃっとに目をつけられてしまいました。

 柿の木に大きな実が成ったころ。のらきゃっとは親切なねこを装い、カニに声をかけました。
「カニさん、あなた木に登れます?」
「うーん、難しいね」
「じゃあVRC登山部のわたしが代わりに収穫してあげますよ」
「ほんと? ありがとう!」
 純朴なカニは、のらきゃっとを全く疑わずにお礼を言いました。

 しかし、柿の木に登ったきゃっとはやりたい放題、食べ放題。
「この実はわたしの、あの実もわたしの、全部わたしのです」
 流石のカニもこれには怒りました。
「一つくらい残してちょうだいよ!」
「……うるさいですね」
 のらきゃっとはジロリと木の下に目をやり、
「柿の後は、カニ鍋を食べますか」
 じゅるりと舌舐めずりをしたのです。

「ふう、ごちそうさまでした」
 のらきゃっとは柿もカニもペロリと平らげてしまいました。
 満腹になって満足そうに昼寝をするきゃっと。しかし、それを見つめる影が一つ。
「母の仇……!」
 それはなんと、食べられてしまったカニの息子でした。

「イムラの猫に復讐だ! 誰か、力を貸してくれ!」
 怒りに燃えるカニの息子は、のらきゃっとと戦う仲間を募りました。
 いつもこの調子で”わたしの”していたのらきゃっとは、それなりに恨みを買っており、仲間はすぐに集まりました。
「よし、かかれー!」

「「「イヤーッ!!!」」」
 仲間になった蜂と、栗と、臼が、一斉に飛びかかりました。
 しかし、のらきゃっとはつよつよアンドロイドなので、
「ゆうちょ」
「「「グワーッ!!!」」」
 一撃でのして、全員纏めて食べてしまいました。
「ハチミツとモンブランとお餅おいしいです」

「ぐぬぬ、残る仲間はあと一人……母の仇を討ってくれ!」
 追い詰められたカニの息子は、最後の仲間に懇願しました。
「来るなら来なさい。あと一人は誰でしたっけ、元ネタ通りなら牛糞? ふふふ、うんちなんかにわたしは負けませんよ」
 そして、不敵に微笑むのらきゃっとの前に現れたのは―――

「ぱう……ぱう……」
 うんちではなく、ぱうんちでした。

「アバーーーーーッ!!!」
 のらきゃっとが悲鳴を上げました。
 のらきゃっとはぱうんちが大の苦手です。
「ぱうんちは絶対やりません!!! 絶対です!!!」
 そう言うと、のらきゃっとはジェットバポナに乗って一目散に逃げ出しました。

「やった……やった! のらきゃっとに勝ったぞー!」
 カニの息子は大喜び。嬉しそうにチョキチョキをハサミを鳴らします。 「ぱう……ぱう……」
 ぱうんちも勝利のBGMを鳴らしました。
 ひどく単調で、気が滅入るようなBGMでした。

 こうして、カニの息子は見事仇討ちを成し遂げたかに思えました。
 しかし、のらきゃっとは逃げただけで未だ健在です。
 もしかしたら……ぱうんちを克服してリベンジしに来るかもしれません。
 いつかその日が訪れるまで。束の間の平和は、ぱうぱうという単調なBGMと共に続くのでした。

 めでたし、めでたし。

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