のらきゃ掌編×3 その14

以前X(旧Twitter)で投稿した習作の纏めです。

①:きゃっとむかしばなし『イ矛盾』

 むかしむかし、あるところに、武器商人のねずみさんがいました。
 ある日、のらきゃっとの家へやって来たねずみさんはにんまりと笑って言いました。
「のらちゃん、見て見て。これはどんな盾でも貫ける最強の矛。こっちはどんな矛でも防げる無敵の盾だよ!」

「ワオ。すごいですね、ねずみさん」
 のらきゃっとはカッコいい武具を見て大喜び。試しに矛を振ってみたり、盾を構えて写真を撮ったりしています。
 きゃっとのはしゃぐ姿にのらのらしつつ、ねずみさんはセールストークを続けました。
「それでね、のらちゃん。今ならこれを2つセットで格安に、」

「すみません、ねずみさん。わたし、一つ疑問に思ったんですが」
 のらきゃっとの言葉がねずみさんのトークを遮りました。
 ねずみさんは思わず飛び跳ねます。まさかムジュンに気付かれた!?
 心臓を高鳴らせながらビクビクしていると、
「この”どんな矛でも防げる無敵の盾”って―――」

「―――殴るのに使えば、矛と盾で二倍最強じゃないですか?」
 のらきゃっとは攻撃のことしか考えていませんでした。
(のうすじ……)
 ねずみさんはそう思いましたが、なんとか口に出さずに飲み込みました。

 こうして両手に最強の装備を構えたのらきゃっとは、
「イムラ流ムジュン殺法! イヤーッ!」
「グワーッ! サ・ス・ノ・ラーッ!!!」
 ねずみさん製の矛と盾で全ての敵を打ち破り、伝説ののうすじアンドロイドとして歴史書に逸話を残されましたとさ。

 めでたし、めでたし。


②:きゃっとむかしばなし『ウサデスとカメデス』

 むかしむかし、あるところに、二匹の仲良しソーデスがいました。
「ウサデス!」
 頭にウサミミのついたウサデスと、
「カメデス」
 背中に甲羅のついたカメデスです。

 ある日、ウサデスはカメデスに言いました。
「早デス、走デス?」
 カメデスは言い返しました。
「争デス」
 こうして二匹のソーデスは、向こうの小山のふもとまで、どちらが速いか競争することになったのです。

 よーい、ドン!
 二匹のソーデスは同時にスタートし、
「ウサデス、ウサデス!」
「カメデェェス」
 圧倒的に速いウサデスが、カメデスを置き去りにします。
「ウサデス♪」
 勝利を確信したウサデスはニヤリと笑い、もしゃもしゃと道草を食い始めました。

 そして、案の定。
「ウサデzzz……」
 調子に乗りすぎたウサデスは、昼寝をしてしまいました。
 その間もカメデスは、ゆっくりと歩みを進めます。
「カメデェェス、カメデェェス」
 ゆっくりと、眠るウサデスを追い抜きます。
 ゆっくりと、小山のふもとへと向かいます。
 そして、

「―――デスッ!?」
 ウサデスはようやく目を覚ましました。
 キョロキョロと辺りを見回しても、カメデスの姿はどこにもありません。
「ウ、ウサデス……!」
 しまった。もしや、先にゴールされたデス?
 ウサデスが歯噛みしながら跳ねていくと、
「こんばんは、こんばんは」

「のらきゃっとです」
 ゴールには何故かのらきゃっとがいました。
 他には誰もおらず、カメデスもおらず、グツグツと煮える鍋だけがありました。
「デス?」
「あなたのお友達? さあ、どこでしょうね。それよりおはらが空いたでしょう、一緒にウミガメのスープでも食べませんか」

「デス、デス」
 そうしてスープをごちそうになったウサデスは、
「……デス?」
 これは本当にウミガメのスープデス?
 それだけ言い残すと、突然命を落としてしまいました。
「いったいどういうことでしょう?」

「マイヤー」
 そう言ったのらきゃっとはカーボンブレードから血を拭うと、
「次は野ウサギのスープを食べましょうか」
 グツグツと次のお鍋を煮込み始めて。
 ウサデスは、ようやくカメデスに追いつくことができましたとさ。

 めでたし、めでたし。


③:きゃっとむかしばなし『幸福の王子きゃっと』

 むかしむかし、あるところに、心優しい王子様の像がありました。
 像は元々、全身金箔に覆われ眩く輝いていたのですが、
「ツバメさん。僕の肌を剥がして貧しい民に分けてやってくれないか」
 王子は文字通りに身を削り、ボロボロになっていきました。

「王子様、もう金箔がありません」
「それじゃあルビーの瞳をくり抜いてくれ」
「あなたの目が見えなくなってしまいます」
「いいんだ。民を救う方が、ずっと大切だ」
 こうして王子は友達のツバメを見ることすらできなくなりました。
 ツバメはわんわん泣きましたが、王子は優しく微笑んでいました。

 ツバメは王子の足元で泣き続けました。
 涙で濡れたツバメの頬をびゅうと冷たい風が打ちました。そろそろ冬がやってきます。
 しかしツバメは暖かい国へ渡ることもせず、泣き続けました。
(友達を置いて行けない。このまま王子様と一緒に眠ろう)
 そうツバメが決心した、その時でした。

「イームラ、イムライームラ改造! イームラ、イムラ高性能~!」
 王子様とツバメの元に、イムラの宣伝トラックがやってきたのです。

 宣伝トラックから降りたイムラの猫は王子様を見て言いました。
「ワオ、なんてボロボロな像! このままでは街の景観を損ないます!」
 そして呆然とするツバメを尻目に像を車内へ運び込むと、
「かわいいますきゃっとに作り直してあげましょう!」
 銅像を溶かして、生まれ変わらせたのです。

「これが、僕……?」
 男性から美少女に姿が変わり、王子はたいそう困惑しました。
 しかし、すぐに気付きました。目が見えてる、喋れてる!
 ますきゃっとに生まれ変わったことで、ボロボロの体は完璧に治っていたのです。
 更に、
「おやまぁ、王子様! いつの間にかめんこい姿になって」

 異変を聞きつけ、民がわらわらと集まってきました。
「毎日磨いてやんねばなぁ」
「綺麗なおべべも着せてやんべ」
「んだ、王子様には世話さなった。冬越し用にあったけえ服こさえっか」
 元王子様のますきゃ像に温かい声をかける民達。
 彼らは王子様に受けた恩を忘れていなかったのです。

「……よかった」
 民に囲まれて笑う王子を見て、ツバメは安堵の声を漏らしました。
 身を削るだけだった王子様はもういません。一人寂しく朽ち果てていく王子様は、もういません。
「これなら、僕も安心して旅立てる」
 大きく羽根を広げると、ツバメは風に乗って空高く舞い上がりました。
「またね。幸福な王子様」

―――数カ月後。春になり、遠い国からツバメが戻ってくると。
「キャー、王子様かわいい! 写真いいですか?」
「もちろんだとも! さあ、カワイイ僕を存分に撮りたまえ!」
 再会した王子様は、なんか思ったのと違う感じでハッピーになっており。
 ツバメはフッと空の彼方を見つめましたとさ。

 めでたし、めでたし。


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