のらきゃ掌編×3 その13

 以前X(旧Twitter)で投稿した習作の纏めです。

①:ショートショート『のらちゃんすき』

「のらちゃんすき」
 隙だらけだ、とアンドロイドは吠えた。
 イムラの猫を屠るため送り込まれた敵対企業の刺客。それが彼の役割だ。
 音速を超える凶刃を前に、のらきゃっとは余裕綽々でニヤリと笑う。

「のらちゃんすき」
 数奇だ、とアンドロイドは訝しがった。
 彼は返り討ちにあっていた。なのに、トドメを刺されない。それが不思議で仕方ない。
「何も死ぬことはないでしょ。次も勝つので、また襲ってきてくださいな」
 のらきゃっとの笑顔は、彼の頭脳に流れる電流を僅かに乱した。

「のらちゃんすき」
 鋤を振りかぶり、畑を耕す。刃を失くしたアンドロイドは農具を持った。
 度重なる暗殺失敗は、彼から帰るべき場所を奪ったのだ。
 しかし。
「おいしい、おいしい」
 収穫した野菜を食べる猫耳の少女。その笑顔を見ると、電流が走る。
 使命を失くしたアンドロイドは、生きがいを得た。

「のらちゃんすき」
 数機、敵影を確認した。彼が元々所属していた企業の刺客だ。
 多勢に無勢、のらきゃっとでも分が悪い。少女はジリジリと追い詰められていく。
 かつての使命、かつての仇敵。彼の頭脳に電流が走る。
 そして。

「―――のらちゃん、すき!」
 隙か、好きか。自分でもわからないまま、スピーカーを震わせて。
 自分を助けた少女の元へ、アンドロイドは駆け出した。

~ショートショート『のらちゃんすき』 おしまい~


②:きゃっとむかしばなし『ねずみの恩返し』

 むかしむかし、あるところに、一匹のねずみさんがいました。
 おはらを空かせたねずみさんは、おいしそうな小豆を見つけて思わず飛びついたのですが、
「ぎゃあ、ねずみ捕りだ!」
 罠があることに気付かず、尻尾をバチンと挟まれてしまいました。

「う、動けない……」
 うんとこしょ、どっこいしょ。まだまだ尻尾は抜けません。
 身動きが取れなくなったねずみさんは、尻尾の痛みに心細さも加わって、チュウチュウと鳴き始めました。
 すると、
「おやおや、かわいそうなねずみさん」
 声を聞きつけて、のらきゃっとがやってきました。

「ほら、もう大丈夫ですよ」
 戦闘用アンドロイドののらきゃっとは、いとも簡単に罠を外すと、ねずみさんを逃してくれました。
 笑顔で手を振るのらきゃっとを見て、ねずみさんは思います。
「のらちゃんは優しいな。助けてもらったわけだし、どうにかして恩返しがしたい」

 しかし、ねずみさんは困りました。
 小さくて弱いねずみさんでは、のらきゃっとの役になんて立てません。
「むむむ……せめて、のらちゃんと同じ大きさになれたら」
 そんな都合のいい妄想が叶う手段があるなら、今すぐ欲しい!
 ねずみさんがそう祈っていると、

『イームラ! イムライームラ改造! イームラ、イムラ高火力~!』
 そんな都合のいい手段が、大音量でアピールしながらやってきました。
 イムラ・インダストリの広告宣伝車です。

『ますきゃになれば力持ち! お前もますきゃにならないか?』
 宣伝車はやたら的確な売り文句を流しながら近づいてきます。
『小さなねずみさんでも実際安心! 後遺症が一切ない!』
「ねずみさんでも……!」
 純朴なねずみさんは、広告を鵜呑みにして喉をごくりと鳴らしました。
 そして、

「こんきゃーっと!」
 数時間後、ねずみさんはのらきゃっとの家を訪れました。
「あの時助けていただいたねずみです!」
「なんと。ちょっと見ない間に、随分かわいらしい姿になりましたね」
 のらきゃっとの言う通り、ねずみさんはかわいいますきゃっとに改造されていました。

「ぼく、恩返しがしたいです!」
 ねずみさんの言葉に、のらきゃっとは不思議な答えを返しました。
「おや、あなたもですか」
「……あなたも?」
 ねずみさんが訝しがっていると、
「実はですね―――」

「他にもたくさん来てるんですよ」
 扉の向こうには、何人ものますきゃっとがいました。
「はつみさん?」
「はつみさんか!」
「まずは校舎でもどうぞ!」
 ますきゃ達は、元ねずみさんのますきゃっとを大歓迎してくれました。

 アットホームな明るい職場。楽しく恩返しできそうだ。
 改造の後遺症が一切なく正常な精神状態のねずみさんはそう思いました。
 そして、早速のらきゃっとに指示を仰ぎます。
「のらちゃん、いえ、おねえさま。何をしたら、あなたに恩を返せますか」
 のらきゃっとは目を細めて笑い、答えました。

「それじゃあ、このねずみ捕りに小豆を入れて、向こうに置いてきてくださいな」

 こうして無事に恩返しができたねずみさんは、何人も新しい妹を増やしながら、楽しく暮らし続けましたとさ。

 めでたし、めでたし。


③:きゃっとむかしばなし『ソ生門』

 むかしむかし、あるところに、大きな門がありました。
 その門の先には野生ソーデスの繁殖地があることから、門は”ソーデスの生まれ出る門”すなわちソ生門と呼ばれておりました。

 さて、ある雨の日のことでした。
 一人の男がソ生門の下で佇んでいると、
「デスーッ! デスーッ!」
「これ、大人しくせんか!」
 痛みで泣き叫ぶソーデスと、その尻尾をむんずと掴む老婆の姿が目に入りました。

 男は老婆を取り押さえ、尋問します。
「何故ソーデスをいじめていた。言わぬと、これだぞよ」
 力で敵わぬ老婆は、卑屈な笑みを浮かべて答えました。
「……ソーデスの毛を抜いてな、ソーデスの毛を抜いてな、カツラにしようと思ったのじゃ」

「ソーデスの、毛……?」
 男はソーデスをまじまじと見ました。
「デス?」
 不思議そうに首(?)を傾げるソーデス。その体表はモチモチで、触感は気持ちいいですが、毛は一本も生えていません。
「あれぇ!?」
 老婆は愕然としました。

 老婆は知らなかったのです。ソーデスにはフサフサとモチモチの二種類がおり、ここは毛がないモチモチソーデスの繁殖地なのだと。
「お~いおいおい! カツラを作れば、もう一度ピチピチギャルになれると思ったのに~!」
 老婆は大声で泣きました。
 少し同情した男は、どう声をかけたものか迷いましたが、

 そこに突然のらきゃっとが現れて言いました。
「ますきゃになれば解決ですよ!!!」
 男と老婆はハッとして目を合わせ、ソーデスは無表情で「デス」と鳴きました。

 そうしてのらの一声で全てが解決した後は、
「お祝いにみんなでお肉を食べましょうか」
「こんなに分厚いステーキを噛み切れるなんて、三十年ぶりじゃ!」
「よかったな、婆さん!」
 のらきゃっとと二体のますきゃっとは、生まれたてのソーデスのお肉を仲良く食い尽くしましたとさ。

 めでたし、めでたし。


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