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「Fagiversity」からプロダクト観を見直す 武庫川女子大学 宇野博武 講師 ~後編~

【この記事に登場する人】
宇野博武(うの・ひろむ)。2012年徳島大学総合科学部卒業後、Jリーグ徳島ヴォルティスにてクラブスタッフとして従事。筑波大学大学院にて体育学修士を取得後、高松大学経営学部助教を経て現職。プロスポーツビジネスを研究。

-宇野先生はどういう経緯で研究者になったのですか?
徳島大学を卒業後、Jリーグの徳島ヴォルティスに新卒社員として入社しました。
中学生、高校生と新体操に取り組み全国大会での優勝も経験しました。スポーツに育てられたという感覚があるので、なんらかのかたちで貢献したいという思いがありました。
3年勤務した後、筑波大学の大学院に進学し研究者の道に進み、現在に至ります。

-もともと研究者志望だったのでしょうか?
いえ、まったく考えていませんでした。
ただ、ヴォルティス在籍時にも徳島大学の恩師からのお声がけもあったので、共同研究を行い論文を出すことができました。
恩師の後押しもありましたし、実績を出すこともできたので研究の道に挑戦してみようかなと思い至ったという流れですね。

-現在、研究者として課題に感じられていることは何ですか?
私たちの研究が現場の方にとって「役に立つ」とはどういうことかを根本から見直す必要があると感じています。
研究結果を現場の方に説明する機会があるのですが、親会社有無、地域性、所属リーグなどクラブによって環境要因が大きく異なる中で、「その研究結果は自分たちに適用されるのか?」という疑問をいただくことがあります。
私たちも統計を取って体系的に研究を進めてはいるものの、国内のスポーツクラブのサンプル数が限定的な中で、この反応は不思議ではないと感じています。
即時的に役立つという研究も大切ですが、私の研究に関しては他の役立ち方があるのではと考えているところです。

-具体的に教えていただけますか?
一つは、リフレクティブの機会です。クラブの人が「よい反省の機会になりました」という話をされたんですよ。
クラブスタッフの方々は自分たちの理想やロジックを持ってクラブ運営されているのですが、日常業務が多忙な中で冷静に見つめ直す機会は少ないと思います。
口に出していただき、私たちが研究結果として整理し明示することで、現状を見直しどうあるべきかをあらためて考えるきっかけにはなっている部分もあるのかなと感じています。
それは短期的な収益につながるかはわかりません。しかし、立ち止まって見つめ直すというプロセスは良い意味で批判的な問題提起につながり、中長期的に有益な作業だと考えています。

-クラブスタッフ出身の研究者として意識していることはありますか?
少しアンケートをして終わりだ、というような研究ではなく、現場の切実さを大事にしています。
たとえば、コロナ禍で収入なく支出が続く状況を会計担当の方は「血液がドバドバ出ている状態」と実感を伴った表現をされるわけです。そうした切実さから目をそらさずクリティカルな調査、研究を行いたいです。
私個人的にはむしろ現場側の立場のつもりで、自分の中で解決できてない問題をお話しして一緒に解決策を探す、という感覚です。

-研究をどのように現場に活用してもらいたいですか?
社会を、スポーツ業界を良くしたいという思いは現場の方と研究者で同じ方向を向いていると思っています。研究で絶対的な正解を提示するということではなく、考え方としてとらえていただき、議論の契機としてもらいたいです。
すぐに役に立つことはすぐに役に立たなくなる、という考え方もあります。短期的によしとされることが、中長期的に社会の負債になるという事例は、スポーツ産業界にも見られます。両面を大切にしながら研究を続けていきたいです。



<取材・文>
佐藤大輔(Spoship編集部)
【関連リンク】
武庫川女子大学 宇野博武 講師紹介ページ


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