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同じ未来を見つめる伴走者たちの素顔|vol.3

「小さな面積、少ない機械で、高収益がモットー」

NCL西条(愛媛県・西条市)/Fun to Farmプロジェクト パートナー
真木和親さん

《PROFILE》
Kazuchika Maki●1955年愛媛県生まれ。西条市で生まれ育ち、建設関係の会社勤務を経て、55歳の時に家業を継いで専業農家へと転身。西条のブランド野菜である「絹かわなす」を筆頭に、春の七草や水稲、すいか、キウイフルーツと多岐にわたって栽培。西条市の農業従事者への指導・育成に尽力している。

多彩な可能性を秘めたブランド野菜

西日本最高峰で、「四国の屋根」と呼ばれる石鎚山の麓に広がる愛媛県西条市。2018年、ここで新たな取り組みが始まっています。その名も『Fun to Farm』プロジェクト。四国最大の経営耕地面積を誇る西条市は、県内でも屈指の農業が盛んなエリアですが、高齢化や人手不足といった問題から、農業の担い手が減少する深刻な状況に直面しています。そんななか、行政・農業団体・先輩農家が連携して、新規就農支援および農作業ヘルパーのマッチングに本格的に取り組む決意をしました。

NCL西条もこのプロジェクトの一端を担っており、新規就農者と先輩農家をつなぐサポートをするとともに、新事業の展開も視野に入れています。それは西条における農業の課題を顕在化し、解決へと導いていくものでなければなりません。そのひとつに挙げられるのが、廃棄または規格外野菜の問題。付加価値のある加工品の開発や地産地消できるレストランの発掘などが考えられています。2つ目の問題は、農業人材の育成。たとえば、新規就農者が互いに切磋琢磨していける学校があってもいいかもしれないし、シェアハウスやコワーキングスペースといったコミュニティ空間があったら便利かもしれない。西条には農業を中心とした新事業の可能性が多彩に広がっているようです。

Fun to Farmプロジェクトにラボメンバー(起業家)として参加するにあたり、ノウハウを提供し、相談相手としても密に関わってくれる先輩農家のパートナーがNCL西条には存在します。そんな頼もしい存在の一人が真木和親さん。西条の伝統野菜であり、ブランド野菜としても人気の「絹かわなす」をメインに栽培しています。

「絹かわなすという名称で、JA西条によって商標登録されたのは8年ほど前。それまでは地元のおじいちゃん、おばあちゃんたちからは“ぼてナス”といった愛称で呼ばれていました」

このように真木さんが語る絹かわなすは、その名の通り果皮が絹のように薄くなめらかな、愛嬌のある丸なす。果実の標準サイズは重さ約350gと普通のナスと比べて大きく、果肉はアクや種がなくて柔らか。ジューシーでリンゴのような甘味があるんだとか。

「小学生の食育の一環として、ナスの嫌いな子どもに絹かわなすを料理して出したところ、おいしいと食べてくれまして。それ以来、ナスを食べ始めたという子どももいますね」

豊富な自噴水「うちぬき」のたまもの

西条市は古くから「水の都」と呼ばれており、石鎚山系から流れる豊かな伏流水が市内のいたるところで湧き出ています。この豊富な自噴水は「うちぬき」と呼ばれ、日本名水百選にも選ばれるほど。しかも、自噴水で選ばれているのは西条だけなんだとか。うちぬきは、市内の生活用水・農業用水などに幅広く利用されているといいます。

「うちぬきは、西条市を流れる加茂川の伏流水。西条市全体の地下に水の層があって、その上に土地があるんです。だから、田んぼに鉄管を打ち込めば水が湧き出るほど水に恵まれています。さらに西条は瀬戸内海が近く、洪水や台風といった大きな災害も少ない。農業に向いている地域なんです」

絹かわなすは、このうちぬき水を利用できる地域でのみ栽培されており、瀬戸内の気候とうちぬきが育む西条ならではの特産品といえるのです。

絹かわなす栽培のマニュアルを作るほどに

真木さんが専業農家になったのは、今から約8年前のこと。もともと建設関係の会社に勤めていましたが、父親が体調を崩したことを機に55歳の時に退職。後を継いで専業農家となり、絹かわなすの栽培をスタートしたそうです。

「専業農家をするにあたり、私が掲げていたモットーは“小さな面積、少ない機械で、高収益をあげる”ということ。メインで何を栽培しようかと探していたときに、絹かわなすは栽培農家が減少している一方で、もっともっと増産したいという状況にあると聞きまして。まさにこれだとひらめき、栽培することに決めました」

明治時代には栽培されていたという言い伝えが残る絹かわなす。先輩農家が代々種を自家採取して守り続け、品種改良されることなく栽培されてきたんだそう。それゆえに栽培はとても難しいといいます。

「皮が薄くて繊細なので、葉や枝で擦れてすぐに傷ができてしまいます。細部にわたって気遣いが必要になるんです。だから毎日確認しておかないと、1日作業を休めば元の状態を取り戻すのに3日かかります。最初の5年間は失敗ばかりで、販売できるような絹かわなすはできませんでした。イチから栽培のノウハウを積み重ねるのに5年かかったというわけです」

試行錯誤の連続だったという真木さん。絹かわなすを栽培する農家の状況も今とは少し違い、新参者はちょっと場違いのような田舎特有の保守的な雰囲気が漂っていたんだそう。そんな歯がゆい思いを自分が経験してきただけに、真木さんは新規生産者へのサポートを惜しみません。

「自身の失敗や協力してくれる先輩栽培者の指導をもとに、絹かわなすを栽培するマニュアルを作ったんですよ。5年かかったものが、やる気さえあれば絶対できるようになる。今年から新規栽培した2人は、これらを活用して、初年度から130%ほどの成功率でした。自分たちの予想を遥かに上回り、売り上げがあったと喜んでいましたね」

絶大な効果をもたらしたマニュアル。その内容が気になるところ。真木さんが編み出した絹なす栽培の秘伝が書かれているのでしょうか?

「これは“絹かわなす部会”に入っていただければ公表します(笑)。絹かわなすの栽培方法は一般のナスと同様ですが、ノウハウが違うんです。一般のナスであれば、花がついた、落花した、実がなった、虫がいるよ…くらいの話なんですけど、絹かわなすはその間にさらに細やかな工程が入ってくるんですよ。ナスは夏を過ぎると種が多くなって硬くなるのが一般的なので、絹かわなすならではの技術は長期間かけて確立されてきました」

JA西条には「絹かわなす部会」があり、生産者は現在14戸。この部会で監事を務めている真木さん。ここでも新規生産者を増やすべく積極的に働きかけています。

「絹かわなすがせっかくブランド化されて知名度もあがってきているのに、後継者は減っていく。絹かわなすを次世代に残していくには、若い生産者の育成が必要ではないんですか?と年配の農家さんたちを説得して。各々が持っているノウハウを教えてもらえるようにお願いしました」

その結果、栽培を辞めた人の中には忙しいなか、新規生産者の農場をまわり、技術指導をしてくれる先輩もいるんだそう。このようにして、少しずつ良い流れが生まれているといいます。

「新規参入するには資材等の問題も出てきます。栽培を辞めた方には、後継者のために資材を残してほしいとお願いしていて。それらをすべて預かり、新たな生産者に無償提供して、資材の初期費用がなるべくかからないように工夫しています」

新規生産者には収支すらもオープンに

いまどき珍しいほどの大家族で、にぎやかに暮らしているという真木さん。絹かわなすの栽培には、真木さんと、奥さん、長女がメインで従事するものの、繁忙期には次女夫婦と長男夫婦、その孫たちも自ら率先して手伝いに加わり、家族総出で農作業をしているんだそう。

「だいたい、絹かわなすの出荷時期は6~10月。最盛期は夏の暑い盛りです。日の出前から畑へ出て、涼しい時間帯に収穫し、お昼14時頃までに出荷して。出荷時間が決まっているので大忙しです。出荷後は一度帰宅して、シャワーで汗を流した後はひっくり返って夕方まで休憩。涼しくなったらまた作業へ出かけるといった1日の流れで。必然的にサマータイムを導入ですよ(笑)」

3枚の田んぼをローテーションで使いながら、1枚で絹かわなす、残り2枚で水稲をした後に春の七草を栽培。そのほか、キウイフルーツも栽培しているので、1年を通してほっとひと息つける時期は僅かだといいます。

ゼロから農業を始める人にとっては、体力的な心配もあるのではないでしょうか?との質問に、「体力は作業を続けていけばある程度慣れていくもの。それよりも心の不安を取り除いてあげることのほうが先決です。新しいことを始めるには不安が先立つものですから」と真木さん。

「決定的な安心材料として、私の確定申告書をオープンにしてすべて見せてあげます。まずは売上や収入が一番気になるところでしょうし。これらを見れば、先立つ不安も和らぐと思います」

ともに西条の土地を耕し、種をまき、実を結ぶこれからの仲間に向けて、「チャレンジする気持ちがあれば必ず成功します。本当にやる気のある人がいれば、部会でも、また個人的にもサポートしますから」と、真木さんは豪快に笑いながら、頼もしい言葉で締めくくってくれました。

募集中のプロジェクトはこちらhttp://project.nextcommonslab.jp/project/fun-to-farm/

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