ママの好きな事

「好きなことだけしていられたらなぁ」

小学校に入学して、運動会の練習が始まった頃、
息子が言った。
のんびり屋でマイペース。
そんな性格の息子には、皆で揃える行進の練習が
たまらなく苦痛だったらしい。
「行進を揃えるのに何の意味があるの？」
と聞かれても、ママは答えられず…。
ママも大嫌いだったとも言えず。
息子は不満そうに「誰か一人が揃わないだけで
怒られて、やり直しするんだよ。何回も揃うまで」
と言った。


そして息子はある事に気づく。
「ママは毎日家にいる」と、
「仕事にも学校に行かなくてもいい」と。
息子は言った「ぼく将来主婦になりたい」。
家が大好きな息子らしい夢。

私は言った「主婦だってなかなか大変なんだよ」と。
すると息子が「でもママ毎日好きな事してるじゃ
ん」と言った。

私は「最近好きな事してたかなぁ」と
首をかしげた。
映画は好きだけど、子供が生まれてからは、
自分が好きな映画ではなく、もっぱり息子が好きなアニメの映画を観るし。
音楽だって息子が好きなアーティストの曲をかけて
ばかりだし。
考えてみたけど分からなかった。
息子に聞いた。「ママの好きな事って？」

すると息子が一言、「皿洗い」と言った。

「そんなの好きじゃないよ」
とは言えなかった。
もちろん好きでしてるわけじゃない。
むしろ家事では嫌いな方。

でも、考えてみると。
もしかして、私、すっごく楽しそうに皿洗いをして
るのかもな。それって、なんかいいかも、と思っ
た。
息子から見たら私って、笑顔なのか。
そう思ったら、なんだか幸せな気分になった。