[Discussion]これからのものづくりを考える4つの視点 ②白水高広さん

2020年度もNEW TRADITIONALをつづけるにあたり、さまざまな立場の方と、ものづくりについて対話・議論する場をもつ企画。
二人目は、白水高広さんです。

白水さんは、現代風もんぺで知られる「"地域文化商社" うなぎの寝床」を7年前に創設。うなぎの寝床は、新型コロナウィルス感染拡大防止のため2020年は4~6月まで実店舗を閉鎖しオンラインショップのみの営業を選択するなど、難しい決断を迫られる時期をすごされていました。

ー NEW TRADITIONALで昨年度取り組んだ「実例づくり」では、白水さんと一緒に取り組んだもんぺのほか、津屋崎人形とグッドドッグの交換や、緞通の開発などがありました。どう思われましたか

もんぺ、津屋崎、緞通で、違いがすごく見えて面白い。もんぺは、様式があるものを相手先に渡して、相手のものを載せてもらう、一方方向のやりとり。津屋崎の場合は、津屋崎人形とグッドドッグと、お互いに様式があって、それを双方向交換する。緞通の場合はフォーマットの変換が3回ぐらい行われていると思うんです。さらに緞通は、3種類がどれも同じようでちょっと手法が違う。

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織布の世界には、各織り屋さんの持っている特製の機械を知ってる人がいて、この柄ならばこの工房に頼んだらいいねというような人がいます。福祉施設のことをよくわかってる人が、意図的にそのような引き合わせを行ったのだとしたら、それはかなり重要な工程だったと思うのですが、どうだったのでしょうか。
そうやって福祉施設の現場で生まれた柄をさらに緞通の工房の人が図面に落とす。図面から職人が織る。この変換工程が3パターン(回)あるというのが面白い。フィルターを通す回数の設計が、今後ヒントになるのではないかなと思います。ある意味もんぺや津屋崎人形は仕上がりの予想がつきやすいですよね。だけど、粘土をもとにした緞通の場合は、変換が多すぎて誰の表現かもう分からなくなっているのが面白い。そういうのも、伝統工芸にある、誰が作ったかが明確という側面が揺らがせるようで、興味深いです。


ー 私たちの中でそういう整理の仕方がなかったのでかなり新鮮な気持ちです
作家性が消えてアノニマス性が高く、インテリア的なもののほうが、生活空間になじみやすいということもある。うなぎの寝床で扱うとしたら、緞通のほうが売りやすい。ギャラリーのような個性を引き出したものをお客さんが求めるお店の場合は、また違うものが売れるでしょうね。


緞通の今後の販売については決まっていますか


ー まだ決まっていません。ほかの福祉施設を巻き込んでの柄の開発、現地家具工房の椅子とセットでの販売など、検討したいです。


開発にあたっては、耐用年数(機能的な意味ではなく、視覚的に普遍性があるのか?という意味において)という観点も持ちたいですね。長く見ても飽きなさそうみたいなものが新たな伝統になりうる可能性が高いと、自分の感覚では思っています。

経済圏、KATAプロジェクト

緞通の例の面白かった点のひとつは、経済圏です。現地の福祉施設、絨毯工場、家具工房で回るものづくりです。今回コロナウィルスのため大打撃を受けたのは、グローバルサプライチェーンです。こっちが駄目になるとこちらもダメになる、みたいな連鎖反応が出ていて。
今後、どのくらいの距離で生産や販売の各経済圏を回すかが重要だと思います。今回、僕らは経営的にはトントンくらいにできましたが、もし実店舗だけで営業していたら潰れていました。経済圏を、実店舗、オンラインショップ、卸売、といくつか持つことでリスク回避できました。緞通は今後も山形の中で育て、購入者は違う(距離の長い)経済圏のなかで作ってみてはどうでしょう。
今、KATA(かた)プロジェクトという、ものづくりの循環のしくみを構想中なので、紹介しますね。もんぺは、商品と知的財産に分かれてるんですよね。このKATAっていう知財とフォーマットをいろんなところと組みながら、他の産地の生地とかでやったりしてるわけですね。たんぽぽの家との場合も、B品もんぺの上に載せる装飾のフォーマットを一緒に開発していったわけです。
これをもんぺだけでなく、割烹着を踏襲した上着や、羽織、開襟、風呂敷などについても展開したいと考えています。そして、仕組みを利用することでうまく行く、価値付与される、とコラボレーターが感じられる水準まで高めたい。
そのために、型紙という概念の解釈 ー食の型紙はレシピ、家具の型紙は図面といったように ーや、知財の管理、権利使用料、憲章や認証制度などによる品質管理、オンラインを含めた販売プラットフォームなども含めた制度を検討中です。

◇ 参考記事(編集部より)
大地震で廃棄されそうになったチーズを、リゾットのレシピという「型」が救った話 https://initiative.zenb.jp/voices/Massimo_Bottura/

ー NEW TRADITIONALについても、ゆくゆくの開発や販売について、誰にどのように還元できるようになるか、考えています 

その整理は結構難しそうですね。知財を守り収益を得ることは正当ですが、社会としては開けばもっと良くなる可能性があったり。でも開きすぎるとただのボランティアになってしまう。そこのバランスは議論がいりますよね

フローを売る

たんぽぽの家は、ものそのものでなく、ものづくりのフローを売ってはどうでしょうか。この福祉施設とこの素材とこの工芸とで、どんなことがやれるという組合せをつくる。そのフローで開発することで商品の価値が高まるような、制度をつくる。出来上がった物についてはそれほど権利を主張しない。物に固執するのは、結果として真似された、などの思いにとらわれがちですから。
みんなが知りたいものフローなんです。たんぽぽの家やGood Job! センター香芝センターの強みはそのフロー作りの実験をいろんなジャンルの人と行いたくさんトライアンドエラーを経験していること。僕自身はこの2年ぐらいのお付き合いでそう思っています。フローをブックにまとめたり、解決までを手助けしたり、そしてたんぽぽの家が収益を得る。それにより福祉施設がより主体的にものづくりや仕事に取り組むことに寄与できるかもしれないです。

実店舗の再開、変えるものと変えないもの

ー オンラインショップの売り上げが増えたにあたり、実店舗の価値や地域とのつながりの価値について考えたことはありますか

商い自体はインターネット販売や卸で賄えると思うんですが、実店舗を閉めてしまうとあまり面白くないだろうなと想像されます。以前は実店舗とECサイトの延長線上にインターネット上のコミュニケーションをとらえてたんですけど、でも今はインターネットはインターネットなんだなと思っています。
もし実店舗がなかったら何のためにやっているお店か分からなくなってしまいます。うなぎの寝床は地域文化に立脚しながらやっているというのに、ただ物理的な商品を卸すだけなら、普通の商社と変わらなくなってしまう。インターネット上でコミュニケーションを取った人達にも、最終的には八女に足を運んでもらうのが狙いです。ものに紐づく実店舗が無いと、インターネットで買っている人にとって商品も情報としてのモノでしかなくなってしまう。
ウェブサイトはウェブサイトで会社にとって役割があるのでリニューアルは続けるが、まだまだ得られる情報としてはリアルの方が多いように思っています。同時に、インターネットの可能性は自分にとって以前より実感できるものになってきたとも思っています。オンラインショップ、冊子、もんぺといった媒体をそれぞれ独立的に運用し、顧客とていねいでささやかなコミュニケーションを保ちたいです。

*実施:2020年6月5日(金)   聞き手:岡部、中島、(一般財団法人たんぽぽの家)、森下、藤井(Good Job! センター香芝)

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白水高広(株式会社うなぎの寝床 代表取締役)
1985年佐賀県生まれ、大分大学工学部卒業。2012年7月にアンテナショップうなぎの寝床を立ち上げる。活動の幅はメーカー、コンサルティングなど広がり地域文化商社と業態を変更させ活動を続ける。




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