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[レポート]障害のある人の表現と伝統工芸をめぐるリサーチシリーズ|木工③

2021年11月。9月に続き、ろくろ舎・酒井義夫さんとともに、障害のある人の表現と木工との可能性をさぐる4日間の調査を行いました。前半2日間は、木材の産地、奈良県だからできることを考えるため、実践者の方々を尋ねます。造林から製品販売まで手がける銘木店、林業地域ならではの木工所、生き方をさぐるなかで木工や移住にいきついた方などからお話を伺えました。また、木を商う方だからこその中長期的な目線や、作業上の実践的な工夫に触れました。このことは、今回のレジデンス行程後半のワークショップに取り組む私たちの意気込みにはずみをつけてくれました。

ご訪問にあたり、たんぽぽの家としては今回の目的を下記のように先方にお伝えしました。
・たんぽぽの家だけでなく他の福祉施設でも枠組みが適用できるようになったり、より多くの地域の企業・団体と連携して、障害のある人の仕事づくりをしたい
・障害のある人のうち既存の業務に取り組みづらい人もいる。溢れ出る力をもっていたり、体を使った取り込み方が得意な人。そういった人にお願いできる業務を設けたい
・作業の出口としての商品の幅を広げたい

酒井さんはご自身の経験や、これまでのたんぽぽの家との交流を経て、
・障害のある人の、伝統工芸の担い手としての可能性
・融合して、新しい表現が生まれる可能性
・産地のエコシステムを使ったり、逆にそれに頼らなかったりするやり方
などを意識くださってると言い添えてくださいました。

11月10日(水)
銘木店と木工所に伺いました。触れる人の感性を力強く出すもの、決まった作業を落ち着いて取り組めるもの、2種類別の方向性で協力できる可能性のある企業とお話できました。

徳田銘木
自然木の製造に特化した専門メーカー。造林・育林から銘板・銘木の製造、そして様々な自然木・天然木を製品として販売されています。

スクリーンショット 2022-02-07 14.14.32吉野産や、他地域から仕入れた木材。量、大きさ、美しさに圧倒されます

代表の徳田浩さん、部長の博久さんがご案内くださいました。訪問1軒目から、取組みを後押しする心強い言葉をいただきました。
・木工はその人の感性が強く出る。2人の職人に同じ指示をしても、使う道具から違うし、まったく異なる仕上がりのものが出てくる。効率と仕上がりのうち、効率だけを取ることはない。どちらかがあるのが大切
・第三者が考えるよりも、木工をしたい本人らに素材を見て触れて考えてもらってはどうだろう
・銘木も「素材」なので何にでも柔軟に使ってほしい

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今後活用できる可能性がある素材として、余材を分けていただきました。

吉谷木工所
吉野檜の三宝や、「挽曲げ」加工を使った製品で大きなシェアを占めています。若手である吉谷侑輝さんは、粘りのある素材だからこそ可能な「曲げ」をいかしたマルチボックスやトングといった新しい事業の柱づくりに着手しています。

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吉谷さんは、障害のある人の手作業で曲げるキット開発を一緒に行うことを提案してくださいました。製造方法の道筋のついたキットには、藤井(Good Jpb!センタースタッフ)もいい考えだと賛同しました。就労支援の現場では、小さな達成感が度々あることで、安心する・心が落ち着く利用者さんも多いからです。
酒井さんは、鯖江は産地(材料はない・工程が分業)、吉野は材料がある・一社完結、という違いに気づいたそう。

11月11日(木)
木が製材されたのち製品になり一般消費者の生活文化に貢献するまでのありようについて、また、省かれていく人がいなくならない状況を見直すことと木工との親和性について、ご意見を伺うことができました。また、浮造り(うづくり)の手法、和ろくろと西洋旋盤の違いなど、技術面での情報交換ができました。

Moon Rounds
渡邉崇さんは旋盤加工による家具やうつわを作っています。作業場や作品の端正さももちろんですが、「僕は行動と同じ歩幅でしか考えることができない」という言葉に、訪問した私たちはぐっと引き込まれました。
渡邉さんは、職場や訓練所をへて木工の技術を身につけるなかで、器用さや技術だけが尺度であることに反発する気持ちを抱いた思い出を話してくれました。今も、省かれていく人のいる社会の現状に違和感をおぼえるのだそうです。時代と、木工という産業との共通点ー再構築や見直すことの必要性を感じているとも教えてくれました。

スクリーンショット 2022-02-07 19.44.14渡邉さん(右)のショールームにて

◯ アップルジャック
すでに昨年度より、春日大社境内の杉を使った製品でNEW TRADITIONALに関わってくださっていただいています。酒井さんの使用する和ろくろと仲間である旋盤加工のようすを拝見しました。

画像1実演してくださった小林兵庫さん

明日は 、木材の表面を実際にメンバーが加工してみます。
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*この取り組みは日本財団の助成(「障害のある人の表現と伝統工芸の発展と仕事づくり」)で実施しています。


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