[レポート]障害のある人の表現と伝統工芸をめぐるリサーチシリーズ|木工④
11月12日(金)。ろくろ舎・酒井義夫さんとともに、曽爾村で木工作業の実験を行いました。金槌などの道具を、丸太や板の表面に対して思いおもいに使ってみます。
目的は、創作の手法を広げることです。最終的には、障害のある人のうち従来の作業にとりくみづらかったような人もできるようなことや、規格に収まりきらずともその人らしさが残せるような製品を作れることを目指しています。今日は実際に体を動かしながら、その可能性の端を掴めたらと考えました。
また、地域の素材、地域とのつながりを取り入れた仕事を創出する一歩でもありました。この日は、奈良県大淀に拠点を置く福祉施設 吉野学園からも参加していただきました。吉野学園はここ数年、綿花を栽培し紡ぐ取組みをおこなっています。材料には、おととい酒井さんと訪れた黒滝村で手に入れたさまざまな木材を用意しました。
産婆役の酒井さんや木材の紹介がひととおり済んだのちは、気分をほぐす自己紹介タイムです。一人ひとり、丸太の切れ端を棒で叩いて挨拶をします。「ポン!」だけでなく思いがけない叩き方がたびたび登場し、参加者みんなから笑いが飛び出しました。
ろくろ舎の「ろくろ車」の実演も拝見しました。集まった殆どの人は、木を削る道具「和ろくろ」の作業を見たことがありません。ましてや、車の中でお椀のもとが生まれるなんてこれまで想像したでしょうか。
さて、いよいよ実験の時間です。とは言っても、木といくつかの道具が準備されているだけで、あとはそれぞれの発想や興味にまかせて進めます。
酒井さんから道具や効果についていくらか説明を受けたのち…
みなさんあっという間に自分のやり方で熱中しだします。
「浮造り(うづくり)」は、木の夏目/冬目の硬さの違いをいかし、木材に凹凸のある表情をつける工法です。今回の調査でご訪問した工房で道具や具体的な加工方法をご紹介いただいたので、さっそく試してみました。柱や板の表面を木目に沿って専用の道具で削り出します。このタワシのような道具は、馬の毛や植物繊維など、硬さの違う自然繊維を束ねてつくられています。粗削りの荒目/中目/仕上げ磨き用があります。
全員が夢中になっています。あっという間に1時間半経ち、吉野学園のみなさんが先に帰る時間になりました。「これまで、木に模様をつけるという発想自体がなかった」「障害が重度の方でも取組みやすいかもしれないと感じられる作業があり、期待がふくらむ」「(今日あった道具のほか)釘打ちもしてみたかった」といった意見をいただきました。
木の表面にも、作業をするみなさんにも、想像していた以上にいろいろな表情が出てきました。酒井さんも刺激を受けられた様子です。ここから、どのような製品やしごとが生まれるでしょうか。
明日は、曽爾村で漆の植樹会に参加します。
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写真=西岡潔
実施日 2021 年11月12(金)
*この取り組みは日本財団の助成(「障害のある人の表現と伝統工芸の発展と仕事づくり」)で実施しています。
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