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[レポート]京都・奈良の土壁めぐり ①奈良編「土地の人がつくった土壁めぐり」(奈良・山の辺の道)

山の辺の道をめぐり、その道中に点在する土でできた小屋を探訪した様子をおさめた「泥小屋探訪 奈良・山の辺の道」(INAX出版 (※)・2005年)。これは当時INAXギャラリー(※)で開催された企画展と併せて刊行された関連書です。この本の出版に関わり、土の魅力を知り尽くしたお二人をお招きし、再びこの地域を訪れ、土地の人の手による素朴な土壁や建造物をめぐりました。

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日本中のいたるところに、泥団子で壁をつくり、土を重ねた小屋がありました。畑の傍ら、母屋の脇に、あるいは集落の辻に。簡素なつくりの泥小屋は、用途にあわせ手ごろな大きさで点在していたものでした。
大和平野の東に連なるなだらかな山々の、その裾あたりを南北に長くのびる「山の辺(やまのべ)の道」は、奈良に都がおかれたころに官道として開かれた道のひとつで、歴史に登場する日本最古の道です。
万葉文化の面影をとどめた風景が広がるこの一帯はまた、泥小屋や泥壁の宝庫で、泥土で仕立てた屋敷の壁や塀、作業小屋や納屋などを今も数多く目にすることができます。

引用元 「泥小屋探訪 展 - 奈良・山の辺の道 -」展覧会情報
https://inax.lixil.co.jp/Culture/2005g/03dorogoya.html

案内人は、髙橋麻希さんと磯村司さん。髙橋麻希さんは、この企画に関わり取材にも同行され、撮影やインタビューなどにも立ち会われました。実に17年ぶりに山の辺の道をおとずれたという髙橋さん。冒頭の挨拶では、企画の背景を、著者の小林澄夫さんが「この地の土が良質なために、社寺の造営や土塀に多用される文化が育まれ、さらに庶民の住まいや小屋にも使われ受け継がれてきたのではないか」と分析していたことを教えてくださいました。
磯村司さんは2006年よりINAXライブミュージアム 土・どろんこ館の館長を務められています。各地の土に詳しく、探訪中もその知見から、建築技法、風土との関わりなどいろいろなことを教えてくださいました。

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画像5髙橋麻希さん。終始「泥小屋探訪」の本を抱き締めて歩かれていました

2111123_IMG_3987_NKのコピー磯村司さん

泥小屋は、保温性や素材調達の簡便さから、誰でもがつくったものと見られるそうです。竹の芯(コマイ)に泥団子を重ね、藁などの繊維質(スサ)や小石、漆喰も使い、作られています。

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壁の下から大石、小石、荒い土、細かい土が見られます。崩れたら直し、使い続けられた、くらしの横にある壁であった様子が伺えました。

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少し凝った意匠のものがまた目を楽しませてくれます。左官屋さんのお仕事であろう小屋もたくさんありました。

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ハイライトは、髙橋さんと、髙橋さんがいちばんお気に入りだった小屋との再会です。自動販売機のある小屋は、時を経てなんと、レトロな器や日用品を無人販売する雑貨屋さんになっていました。

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さいごに三輪神社で感想を交換し、解散しました。髙橋さんは、やはり小林澄夫さんがおっしゃっていた「土と泥を好きな人に悪い人はいない」という言葉を思い出したそう。土と泥のむすぶ縁のあたたかさを感じたそうです。参加者からは、壁を目近で見ての迫力や手ざわりへの驚きのほか

・自分たちも作ってみたい
・また5年後に来てみたい
・お金や手間を度外視したものづくりを見直したい
・人のいとなみがつくる風景への関心が高まった
といった感想が聞かれました。

なお、INAX出版が出版当時に開催した、小林澄夫さんの案内による山の辺の道歩きの記録をこちらから見ることができます。

(※)2012年にLIXILギャラリー、LIXIL出版へ名称変更。LIXILギャラリーは2020年に活動終了。LIXIL出版は2021年に活動終了。
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写真:衣笠名津美

* 泥小屋、土壁はいずれも個人の敷地内にある私有物であることを配慮し撮影しています。
* 令和3年度 文化庁委託事業「障害者による芸術文化活動推進事業(文化芸術による共生社会の推進を含む)」の一環で実施しました

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