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[レポート]ニュートラ トーク「世界と日本 玩具の魅力」2024.3.11

NEW TRADITIONAL(ニュートラ)」は福祉×伝統工芸の可能性に着目し、新しいものづくりのあり方や伝統工芸の可能性を模索していくプロジェクトです。
今回はGood Job !センター香芝日本玩具博物館の学芸員 尾崎織女(あやめ)さんにお越しいただきました。「日本玩具博物館」は兵庫県姫路市の郊外にあり、世界160カ国から集められた9万点もの玩具や人形のコレクションが6棟の土蔵造に収められています。
Good Job !センター香芝(以下、GJ)のメンバーやスタッフ、玩具に関心のある地域の福祉施設の方たちやボランティアの方などが集まって玩具の魅力についてお聞きし、最後には鳥の玩具による大合唱もあるなどとても楽しい会となりました。

◎ GJ見学

尾崎さんには午前中からGJにお越しいただき、トークの前にGJでのものづくりや障害のあるメンバーの活動を見学していただきました。
また、尾崎さんは仏像がお好きなこともあり奈良へは度々お寺などに足を運んだり、奈良県桜井市の出雲人形の職人さんとも交流があるとのことから、奈良の郷土玩具のお話をお聞きしたり、福祉と玩具の可能性について意見交換を行いました。

伝統のものづくりでは、職人の高齢化による人手不足が聞かれることがありますが、尾崎さんの周辺では、廃絶した産地の人形や玩具を復刻したいと、博物館や収集家のコレクションを熟覧して造形のあり方を調べ、採寸などを行い、再現活動に取り組んでおられる方々もあるそうです。
この「廃絶」という言葉が郷土玩具に関わる人の間ではしばしば言われます。残念ながらもう作られなくなってしまった玩具のことを廃絶玩具と呼ぶそうです。

一方、福祉施設では様々な形でものづくりが得意な人たちがたくさんいます。GJでもはりこづくりなどの工芸品制作に障害のある人たちが関わり活躍しています。尾崎さんとは郷土玩具と福祉のよい未来が築けたらとの話しになりました。

GJでは、この日もメンバーたちがはりこづくりに取り組んでいましたが、尾崎さんは3Dプリンターで出力した型に紙を貼る作業や絵付けの作業などを興味深く見学されました。

一般的なはりこは木型に紙を貼り付けていって貼り終えたら型を取り出すのですが、GJでは3Dプリンターで作った型を取り出さずに製品化しています。一つひとつの説明を聞きながら「へぇーかわいらしい」、「こんな工夫をしながらせっせと作っているのですね」と楽しんでいただきました。

続いて見学していただいた建物2階のGOOD JOBSTOREは全国の福祉施設から集まった刺し子や藍染も含め多彩な商品を販売、流通の業務をする現場で、近くにある北館はメンバー個人個人が好きなことをしたり、自由な表現活動をする場です。

「メンバーが楽しそうなのがとてもいいですね。こちらの様子を見ると一緒になにかやりたくなりますね!」とうれしい感想をいただきました。

◎ トークイベント 前半

午後からはトークイベント。会場には約30名が集まり、軽やかなリズムでポンポン弾けだすような尾崎さんの楽しいお話に聞き入りました。

尾崎さんの「織女」という名は、8月7日、月遅れの七夕の日に生まれたことにちなんでつけられたそうで、名前の導きによって七夕の人形や習俗に興味をもち、高じて現在の日本玩具博物館の学芸員になったという自己紹介からお話ははじまりました。

画像右が尾崎さん。これから楽しいお話しが始まります!(撮影:I )

「玩具」「おもちゃ」という言葉

私たちの使う「おもちゃ」という言葉は、14~15世紀、室町時代ころに成立したと考えられています。語源は「持ち遊びもの」。
これが「もちゃそびもの」、「もちゃそび」とつづまり、貴族の女性が接頭語の「お」をつけて上品に「おもちゃそび」と呼んでいたのが、やがて語尾が脱落して「おもちゃ」へと変化したようです。このことから「おもちゃ」は手に持って遊ぶものを指していることがわかります。
一方「玩具(がんぐ)」は元々貴族の男性が使っていた書き言葉でした。

「玩具」「おもちゃ」という言葉が共通語として定着するのは明治時代の終わりから大正時代のことで、それまでは「もちゃそび」「手遊び」「手守り」など、呼び方はさまざま。社会的階層や地域によって違いがありました。
明治28~29(1895~96)年にかけて書かれた樋口一葉の小説『たけくらべ』では、まだ ”手遊びや(おもちゃ屋)” という表記がみられます。

弾き猿:赤い猿人形を弾き上げて「災を弾きサル!」(撮影:I )

はりこ(張り子)は、紙を型に張って作られる日本の伝承おもちゃのひとつです。

福島県会津地方には「赤べこ」という赤い牛のはりこがあります。
赤べこの由来には諸説ありますが、江戸時代に天然痘が流行った時、赤い色の造形で天然痘の神をもてなし、病気を重くしないでほしいという祈りを込めて、病気の子どもの枕元に置かれました。赤べこを軽いはりこで作ることには、病気が軽くすみますように…との願いも含まれています。
遊んで楽しいおもちゃというより、お守りとしての意味合いが強かったと思われます。
他にも病気や不幸を遠ざける願いが込められた玩具はたくさんありました。

ところが、明治時代に入ると、時の政府は西洋列強と肩を並べる近代国家をつくるため、子どもに与えるおもちゃに「まじないを求めている時代ではない。合理精神あふれる子どもたちを育てたい」と、「手遊び」や「もちゃそび」などの方言を退け、「玩具」「おもちゃ」という上品な言葉を共通語に定めて、これらを子どもたちの知性や情操を育むための道具と位置づけました。
一方で、近世の「手遊び」や「手守り」の世界を受け継ぐ「郷土玩具」を残したいという流れも起こっていくのですが。

日本玩具博物館のこと

「日本玩具博物館」たてものは6号館まであり中庭で四季の花々も楽しめる

日本玩具博物館」は、現館長・井上重義氏が子どもに関わる小さな造形物が失われていく状況を知り、全国各地の郷土玩具の収集を行い、1974年自宅の一部で収集品を展示・公開したのが大きく発展した私設博物館です。
日本や世界の郷土玩具を地域ごとに紹介する常設展、近代玩具の歩みをたどる常設展に加え、季節ごとの企画・特別展、また玩具づくりの講座などを開催しています。
玩具づくり体験では「ご来迎」というおもちゃを作ることもあります。この「ご来迎」は『江都二色(えどにしき)』という江戸時代の絵本(大人向け)に記されていますが、今は作られていないおもちゃです。

日本玩具博物館:クリスマス時期の展示の様子
ご来迎。筒からニョキッと、何を出そうか考えるのも楽しい。(撮影:I )

休憩に入り、その間、尾崎さんの持って来られたたくさんのおもちゃを見たり触ったりさせていただきました。

日本玩具博物館のワークショップで再現された「ご来迎」も何種類もあり、自分だったらどんなのを作るだろうと想像したり、音の鳴る大きなコマを回して糸を引く強さによる音の違いを楽しんだりしました。
 同じおもちゃでも、遊び手によって、その動きや音などに個性が表れるのがとてもおもしろく、みんなで盛り上がりました。

色とりどりのおもちゃ。けん玉にもいろんな形があります。(撮影:I )
音のなるコマ 大きな音が鳴るかな? 


◎トークイベント 後半

休憩後は、スライドの写真や実物を見ながら、おもちゃの文化史にまつわるお話をお聞きしました。

おもちゃは私たちの暮らしの縮図

人形やお面、動物や乗り物の玩具、ままごとの道具、お祭りの玩具など、おもちゃの世界は時代性や地域性をもち、私たちの社会にある何もかもが小さくなって揃っています。まさに私たちの暮らしの縮図です。

日本のままごと道具を例にとると、明治・大正時代はおくどさん(かまど)や包丁、まな板など細かな台所道具が本物そっくりに小さく作られているのですが、陶器のお皿は陶器で、木の桶や樽は木、竹のかごは竹、金属の調理具は金属で、素材もまた実物をそのまま真似たものでした。
昭和40年代には「ママレンジ」という電気調理器で実際にホットケーキが作れるクッキングトイも登場し、素材はステンレスやプラスチックが用いられています。
おもちゃは私たちの生活史を語る資料でもあるのですね。

おもちゃはいつごろから作られ始めたのか?

ところで、おもちゃはいつごろからあるのでしょうか。
これは、考古学の出土品や歴史学の文献などから少しは考察できます。

ルーブル美術館には紀元前1,100年、つまり今から約3000年前のペルシャ(現在のイラン)の遺跡から出土したおもちゃが収蔵されています。台車の上にライオンやヤマアラシの乗った、今見てもとてもかわいいおもちゃです。同じころのエジプトの出土品には、ワニやトラのおもちゃがあり、どちらも仕掛けによって顎が動くようになっています。

現在でも世界の各地で、3000年以上前のそれらと基本的に同じ仕掛けのおもちゃが作られていて、おもちゃには時や国境を超える普遍性があることがわかります。

世界のおもちゃを写真や実物で紹介していただきます。(撮影:I )

時空を超えるおもちゃたち―普遍性と民族性と

日本でもおなじみのコマは、紀元前20世紀のエジプトにもあったことが出土品(木製の「叩きゴマ」)によって知られ、日本最古の出土品も古墳時代、6世紀後半から7世紀前半の叩きゴマです。
ちなみに16世紀フランドルの画家、ピーテル・ブリューゲルの代表作「子供の遊戯」にも叩きゴマで遊ぶ子どもの様子が描かれています。

一方、コマについて書かれた日本最古の文献は平安時代の『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』。「こまつくり(古末都玖利)」という名で、孔があると記されていることから「鳴りゴマ」であったと考えられています。
江戸時代には、バイ貝を半分に切って作った「バイゴマ」が上方で流行し、それが関東に伝わって江戸訛りに「ベーゴマ」と呼ばれ、やがては昭和時代の子どもたちに愛されたこと、いったん人気を失ったけれども、平成時代には「ベイブレード」として復活したこと、、、
ひとつのコマが時代の移り変わりに対応しながら生き続けていることには驚かされます。

更にはインドネシアにも日本の「こまつくり」と同じようなコマがあり、南米には動物の骨でできたコマ、イヌイットの人々は氷でできたコマで遊ぶなど、世界中に色んな素材、色んな回し方のコマがあることがわかりました。時空を超えるコマの生命力の強さと無限のバリエーションには圧倒されます。

けん玉もみんなが知っているおもちゃの一つです。

けん玉には2タイプあります。カップに玉を入れるカップ&ボール型と、ピンに玉を刺すピン&ボール型です。
江戸時代の日本ではカップ&ボール型のけん玉が主にお酒の席で用いられ、大人の遊び道具として親しまれました。
大正時代になって今のけん玉の形ができました。1本のピンと3つのカップで玉を受けるのが特徴です。これは日本独特の形で「KENDAMA」の名で世界に知られています。

こけしによく似たろくろ挽きの木の人形も世界各地に伝承されています。

古くから「ドイツこけし」といって日本人愛好家にも親しまれたドイツの「ドッケ」は、おくるみに包まれた赤ちゃんを表す木の人形で、近世のころには非常に愛されていました。ドッケのおくるみには赤いリボンが描かれているのですが、これは、ペストなどの病魔を除けるため。日本と同じように、ドイツでも赤い色に病魔を払う力があると信じられていたのですね。

一方、日本のこけしは、赤ちゃん、少女、成人の女性、男の子かも、、、と、持ち主それぞれの想い入れとともに位置づけが変わります。手足はおくるみの中に隠されているのではなく、省略されていることを知ると、ドッケに親しんでこられた欧米の方々は、「こけしは芸術的だ」と驚かれるのだとか。

おもちゃの祖先の姿は?

おもちゃの世界は深いです。おもちゃの祖先の姿をたどっていくと、遠い昔は遊びの道具ではなかったものもあるのです。

たとえば、パプアニューギニアやインドネシアの「鳴りゴマ」は、神や精霊の声を聞く道具として使われていましたし、カナダのイヌイットの人々の「アイヤガック」はカリブー(トナカイ)の骨でできたけん玉で、狩りを占う道具でもありました。
グリーンランド、ネパール、タイ、ギリシャなど世界中にある「ぶんぶんごま」も、昔は身体の痛みを癒すための道具だったり、魔女が好きな男性をふり向かせるまじないの道具として用いられていたり、、、と、おもちゃの中には、祖先たちの精神世界が閉じ込められているのかもしれません。

◎鳥のおもちゃの演奏会


それぞれにひとつづつ鳥のおもちゃを受け持ち、尾崎さんの指揮で演奏会 ♪

尾崎さんには日本のおもちゃだけでなく世界中のおもちゃについて実物や写真を見ながらたくさんお話ししていただきましたが、イベントの最後には会場のみんなで鳥のおもちゃの大合唱(合奏)となりました。

尾崎さんご持参の様々な国の様々な鳥を模した笛、カタカタ回って鳥がえさをついばむ様子を表す木製玩具、摩擦により音を出す「バードコール」、昭和時代の駄菓子屋で売られていた「尾舞鳥」など、素材も色もとりどりのおもちゃをみんなで楽しみました。

ちなみに、鳥笛については、日本人とヨーロッパ人の音の受容の仕方の違いについても興味深いお話がありました。

日本の鳥笛には「ホーホケキョ!」と言葉で聞きなす笛が多く作られるのに対し、ドイツやフランス、フィンランドやスウェーデンなど、ヨーロッパの鳥の土笛には、メロディーを奏でられるようにいくつかの指孔を設けた土笛が多くみられます。
日本人は鳥の声を左脳(言葉の脳)で、ヨーロッパなどでは右脳(音楽の脳)で受容するという研究があるそうですが、その研究に関連付けると、日本とヨーロッパ、鳥笛のおもちゃの特徴に違いがあるのもうなづけます。

紙コップの鳥は下から出るヒモをこするとにわとりのように「コココ」と鳴きます。(撮影:I )


いよいよ演奏会の開演です。

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おもちゃのフクロウが夜明け前に鳴き、鶏が朝を告げ、すずめがさえずり、鳩、カッコウ、、、
そしてすべての鳥たちがにぎやかに合唱して盛り上がり、
一羽、また一羽と寝床へ帰っていき、最後にはふくろうが夜の到来を告げる……。

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尾崎さんの指揮でとてもドラマチックな鳥の世界をみんなで表現できました。

尾崎さんのおかげで楽しくかわいい、そしておもちゃを通して世界の文化を感じるイベントとなりました。尾崎さんありがとうございました!

鳥のおもちゃとGJメンバー花谷さんのイラスト

レポート:小松紀子

ニュートラ トーク 「世界と日本 玩具の魅力」
講師:尾崎織女さん(日本玩具博物館学芸員)
2024年3月11日13:30~15:30 @Good Job !センター香芝 北館

主催:Good Job センター香芝 / 一般財団法人たんぽぽの家
*文化庁「令和5年度 障害者等による文化芸術活動推進事業」


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