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[レポート]ニュートラ談義②「ものをとおして人がつながる、人をとおしてものがつながる」

1月23日(土)につづき1月30日(土)に、「NEW TRADITIONAL展 in 常滑」の一環としてのニュートラ談義を開催しました。産地でのものづくりの文化を伝えたり、伝統を学び合う機会はどう作れるのでしょうか?美術館での焼き物をとおした交流事業を実施している佐藤一信さん、障害のある人や子どもたちと土に触れる機会を作ってきた経験をもつ鯉江明さんともに、焼き物をとおして人とつながることの意義について語りました。お二人と同じくやはり実践者である高橋孝治さん(本展ディレクター)も半ば進行役として加わり、常滑の土と地続きの今 ー 福祉と伝統工芸との関わりのありようを再確認しました。それにとどまらず、純粋に「土」のおもしろさや、芸術が社会・福祉とどう隣り合うべきかという問いを感じる時間となりました。

スクリーンショット 2021-02-03 17.08.28正面左より 高橋さん、岡部、佐藤さん、鯉江さん

談義をお送りした会場は、土・どろんこ館の中でもとびきりくつろいだ雰囲気の小上がり。土を石灰やセメントなどと混ぜて突き固めた、高さ30cmほどの“三和土(たたき)”でできていて、INAXライブミュージアムならではの空間です。

まずは、高橋孝治さんより展覧会「わたしのニュートラ」について、その趣旨やみどころの説明がありました。
高橋さんが、会場から歩いて10分の就労支援施設「ワークセンターかじま」でお仕事をするようになったのは3年ほど前からです。ぐうぜんにワークセンターかじまの敷地内から粘土が出てきたのは昨年の初夏でした。足元から粘土が出てくるのを目の当たりにし、あらためて常滑の土地のもつ力に打たれた高橋さんは、焼き物にもちいる土を「素材」としてとらえなおし、福祉施設の仕事づくりを考えてみようと思い至りました。それ以来、土を紙に漉きこむ、土で綿布を染める、染めた毛糸で帽子を編む、など、陶芸ではない手法をいろいろと試してみました。
この展示の一部は、これらの作業がはたして、ワークセンターかじまの利用者にとって楽しくやりがいのある「仕事」になり得るだろうかということを検証するものになっています。
タイルの絵付けも、建材=数量のある仕事という狙いや、窯業地である常滑の特色がおりこまれたものです。

画像6△1/23(土)の談義より タイル展示のようす〈写真:河合秀尚〉

展覧会のさらに詳しいご紹介は、ぜひとも1月23日(土)の動画をご覧ください。
▽アーカイブ動画 ニュートラ談義①「やきものの産地で試みる、福祉とものづくりのあたらしい関係」

「地でニュートラをいっている人」

陶芸家の鯉江明さんを談義の場に呼んだ理由を、高橋さんはそう表現しました。同じく佐藤一信さんも、談義の計画段階ですぐに頭に浮かんだ人なのだそうですが、知多半島に移住したのち鯉江さんとの時間を通じて素材としての土に着目するに至った高橋さんは、鯉江さんの日々の常滑での作品制作についてこの場で話してほしいと考えたのです。

画像5昨年秋、鯉江さんの釜を訪ねて見せていただきました(撮影:衣笠名津美)

鯉江さんは学業では保育や介護を修め、特別支援学校などにも通っていました。しかし、父である陶芸家・鯉江良二氏の窯づくりを手伝う事から、やきものに関わりはじめます。
焼きものと自分との関係に確信を抱いたのは、知多半島の穴窯発掘調査に参加したおりでした。道具や機械もない時代、すべて手で触って仕事をしていた時代の陶器や、中世の人の失敗をおそれない態度に出会い、これなら自分もできると思ったのだそうです。そして常滑は、足元から採れたもので焼きものをつくることを、ひとが1000年以上続けている土地。自分でできることと、常滑でできることが重なってきたと感じました。
韓国の陶器づくりにも非常に刺激を受けているそうです。15年以上通う先生の家は、農家と焼きものづくりを兼業されています。米、水、土がつねに暮らしのそばに巡っています。

スクリーンショット 2021-02-03 17.16.37鯉江さんプレゼンテーションスライドより 韓国での登り窯づくりの様子

みんなが手を出して、感じて、考えられるものを

佐藤一信さん(愛知県陶磁美術館 副館長)は学生時代、日本における鑑賞教育の先駆的存在といわれる齋正弘さんの講義に心を打たれた経験がもとになり、卒業後就職した陶磁美術館で子供を対象にした事業に挑むようになりました。そこで講師として招いたうちの一人が、鯉江さんのお父様である良二さんでした。佐藤さんがプログラムへの参加者公募を計画した際、「募集するなら(一般の小中学校だけでなく)障害のある子にも声をかけて」とおっしゃったのは、良二さんだったのだそうです。

この日会場でも実施されていた野焼き(土器焼き)は、佐藤さんが焼きものと子供とをつなぐ学芸員として約20年間かけて洗練させていったプログラムのひとつです。どういう方法なら、子供たちがつくるものを制約せずに焼きものづくりを深く体験してもらえるか、試行錯誤を重ねました。

スクリーンショット 2021-02-03 17.19.57佐藤さんプレゼンテーションスライドより 野焼き体験事業にあつまる子供たち

乳児(0歳)から参加できる美術鑑賞プログラムも、佐藤さんの情熱の賜物です。「子供にあらゆるあそびを経験させよう」という愛知県児童総合センターからの提案を正面から受け入れ、ベビーカーツアーなどの踏み込んだプログラムが実現・定着しました。

スクリーンショット 2021-02-03 17.20.47佐藤さんプレゼンテーションスライドより ベビーカーツアー

福祉との具体的な関わりをお話くださった佐藤さんですが、取組みはまだまだ点であり、継続的にしていくことが課題と考えているそうす。

おわりに

高橋)鯉江良二さん、八木一夫さんなど、陶芸を日本でいち領域として大成させる役を担っていた人が、障害のある人ともわけへだてなく活動していたことを知り心が温まった。自身も、もっともっと、ワークセンターかじまのメンバーたちとお互いに刺激しあう時間を過ごしたい。

佐藤)展覧会への感想。愛知の色と物語がしっかりと捉えられていて驚いている。NEW TRADITIONALと聞いたときに抱いた疑問が晴れて腑に落ちた。あたりまえのように地面を掘れば粘土が出てくるのは、実は世界的に当たり前でないこと。気づかないほど溶け込んでいることを気づかせてくれた。強く迫ってきた。

鯉江)「伝統」に積み重なっているものがどこに残っているのかを考えたときに、このごく便利な世の中では、「こういう作業しかできない」人ーー言うなれば障害のある人や職人の中にのこっているのではないか。小さい範囲のことをこだわって続けてる人・場に、持続可能性があるかもしれない。
ふだん美術展覧会に来ないような人が会場に来ているのを繁く見かけた。境目が無くなっていくということがここで起きているな、と感じた。

岡部)「NEW TRADITIONALは固まったものでなく議論しつづける、実験することを大切にしている。今回の高橋さんの展覧会は、決して新しいものを並べるのにこだわるのではなく、すでにやっていることを改めて見せたり、近くに居たが今まで交わらなかった人やものの組み合わせを試している。 

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談義内では、ご来場のみなさんと一緒に土・どろんこ館の中庭に出て、まさに中で陶器が焼成されつつある土器焼き窯を観察する時間帯もありました。その様子もこちらのアーカイブ動画よりご覧いだけます。ぜひご視聴ください。
ほかほかと愛らしいおまんじゅうのようでもある窯の姿に、リアルタイム配信をご覧になった方々も喜んでくださったようです。

▽アーカイブ動画

《ニュートラ談義②概要》
日時:2021年1月30日(土)18:00​~19:30​
場所:INAXライブミュージアム  土・どろんこ館 +YouTube Live 配信
テーマ:ものをとおして人がつながる、人をとおしてものがつながる
出演:佐藤一信(愛知県陶磁美術館副館長)、鯉江明(陶芸家)、高橋孝治(デザイナー)
進行:岡部太郎(一般財団法人たんぽぽの家常務理事)


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