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[レポート]京都・奈良の土壁めぐり ②京都編「職人がつくった土壁めぐり」(京都市内)

社寺や茶室など、京都の歴史文化を彩るさまざまな建築。そこに欠かせない土壁は、熟練した職人たちが代々継承してきた技術と美的価値観により、ほかにはない彩りを見せています。このツアーは、地域の素材「土」を使ったものづくりを歩いて学ぶ土壁巡りの2回目です。野良仕事の素朴さを感じた1回目とは対比的に、職人が培った技術にであう機会となりました。案内人は、左官職人としての修行を経て、建築家として京都を拠点に活動する森田一弥さん(森田一弥建築設計事務所代表)です。建立700年近くを経た寺社からつい近年改装された住宅までめぐり、土壁の種類やその技術の生まれた経緯を教えてくださいました。

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龍宝山大徳寺(京都市)に集まった参加者に、森田さんは「今日は土の工夫についてお伝えできたらと思います」とお話を始めてくださいました。

まずは正面に構えられた総門。漆喰で横線の装飾が施された筋塀です。五本は最高の格式を表すのだそう。

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薄いグレー(浅葱色)は大津壁。表面はつるつるしています。土と漆喰のあいのこです。高価な石灰を土でかさ増しする方法で、町屋によく見られます。
実はこの色は、混ぜる色土の種類で変わります。そこに地域性が出るのが大津壁の面白いところです。
森田さんは、大学生のころ世界各地の民家を研究する中で、家の材料としては、木の方が貴重で、多くはより入手し易い土でできていることに興味を惹かれたそうです。

奥へ進み塔頭「瑞峯院」の中へ。重森三玲が作庭した石庭や茶室を有します。土を突き固めた版築(はんちく)の壁の向こうに、土蔵の白い壁が見えました。

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振り返ると、建具の上に白い漆喰の壁があります。もともとは浄土の世界を表す絵を描くためで、それが建築様式として残ったのだそうです。

ツアーのなかでも全員が嘆息したのは、茶室でした。しっくい未満の荒々しい仕上げ。ぽつぽつと点が浮かぶのは「蛍壁」といい、鉄粉が混ぜられています。錆が時間とともに違った表情をもたらします。千利休が提唱した、古びたものを愛でる趣向を体現した壁です。

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くぐり入った瞬間は、薄暗に足元を確かめてしまうほどの室内。目が慣れるにつれ、壁の色や質感の違いが美しく感じられてきます。釜から湯気が上がり空気が湿り気を帯びてゆくところを想像します。
*茶室「安勝軒」は1928年建造

ふたたび外に出ると、足元で色土を発見!京都は盆地のため、浅い場所で地層が複雑に露出しています。これが、近郊で採れる土にさまざまな彩りがある理由のひとつです。

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古い瓦をあつめた楽しい壁には、みんなの顔がほころびました。不揃いさをわざと意匠にしています。にぎやかな作業風景が思い浮かびます。

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町屋へ移動します。織屋(おりや)建てと言われる、布作り工場の建築を、森田さんが依頼を受け改装しました。

アラ壁という、仕上げの左官の塗りの前の段階の、そぼくなものにとどめています。森田さんも以前はペンキと見分けがつかない壁を目指していましが、素材そのものを出すことにも魅力を感じ、依頼主に提案したのだそうです。塗って5、6年ですが、すでに錆が浮かび味わいが増してきています。

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床は、石灰などを混ぜて固めた三和土(たたき)でなく、土を敷いただけのの土間です。意外なほどに居住性が高いそう。土が含む空気により断熱性があり、夏は気化熱で涼しい。適度な湿り気で埃も立ちづらく、プロのメンテナンスが不要です。そういった快適性のおかげか人が集まりやすい場になったと、施主さんも大満足だそうです。

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さいごに、この素敵な土間で感想を交換しました。
・土の色を見るという新しい楽しみができた
・すぐ足元のものからできているという驚き。実際に作ってみたい
・昔の人の遊びごごろ、もったいないという気持ち、発想の柔軟性に触れた
・風土と壁の関係性に気づいた。壁は地面から生える植物の「背景」として風景のひとつであるとともに、材料そのものが風土と密接である
・職場ではデジタルの仕事をしていても、通勤路に歴史があると気づいた
・壁=通過点、分断 といった印象が変化した。作り方をしれば、人間味や、拒絶よりもむしろ歓迎するものであるように感じた。やわらかい社会の鍵になるかもしれない

なかでも、障害のある人のものづくりを日々直接手伝う人たちからは、
・誰もが作ってたといこと、自分の近くの土で作れるということ
・驚きと感動にふるえた。民の作ったものを愛でるということが、今自分の携わっている仕事とつながっているそのよろこび
といった声が聞かれました。

森田さん、ご案内ありがとうございました。
∴∵∴∵
催行日:2021年12月12日(日)
写真:衣笠名津美

* 参考書籍『京都土壁案内 塚本由晴 森田一弥著』(学芸出版)
* 令和3年度 文化庁委託事業「障害者による芸術文化活動推進事業(文化芸術による共生社会の推進を含む)」の一環で実施しました


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