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[レポート] ニュートラの学校 ラーニングプログラム Vol.01:美濃地方の土をあじわい、オリジナルの陶土バッグをつくろう!

2023年7月17日(月・祝)、多治見市美濃焼ミュージアムにて、ニュートラの学校 ラーニングプログラム Vol.01「美濃地方の土をあじわい、オリジナルの陶土バッグをつくろう!」を行いました。当日の外気温はなんと38度。記録的な猛暑日だったのですが、実施から2ヶ月経っても、暑さ冷めやらぬ充実のワークショップでした。

本レポートでは、そのホカホカの内容をお届けします!
Photo: Hidenao Kawai

ファッシリテータ―は、常滑を拠点に活動するデザイナーの高橋孝治さんで、土の様々な可能性を追求するCLAY WORKSに一緒に取り組んでいます。今回は、多治見市美濃焼ミュージアムと連携し、美濃地方初となるCLAY WORKS、美濃地方の土を使って布を染めるワークショップに挑戦しました。果たしてどんな色に染まるんだろうと、始まる前からわくわくどきどきしていましたが、予想していた以上に美しい色に染まり、青空のもと中庭の竹林に吊るした染め上がりほやほやのバッグをみんなでうっとり眺めました。


巨大絵本「やきものの土で染めてみようー土ができるまでー」

ワークショップでは、まず最初に、高橋さん特製の巨大絵本をつかって、いま足元にある土がどうやって生まれたのか、地球と土と人の関係について学びました。日本最大の窯業地、美濃地域の土の成り立ちについても分かりやすく解説していただきました。

目線は低く、小さな子どもでもわかるように、漢字にはひらがなのルビがふってあります。

創作ワークショップ「美濃地方の土をあじわい、オリジナルの陶土バッグをつくろう!」

使用した原土は全部で8種類。事前のスタディツアーでお話を伺った地元の水月窯さんとカネ利陶料さんからご提供いただきました。参加者はお気に入りの土を1種類選び、それを細かく砕いて、水を加え、顔料にして、布にもみ込み、洗って乾かす。夢中で取り組んでいるとあっという間に時間がたちました。

色も硬さもそれぞれに違う、8種類の原土。ここからお気に入りの土をひとり1種類選びます。原土を提供いただいたのは、水月窯さんとカネ利陶料さん。水月窯さんからは敷地内でとれた2種類(写真、中列奥の黄土と、右列奥の赤土)の土を、カネ利陶料さんからは6種類(写真、左列手前の遠山もぐさ、左列中央の恵那もぐさ、左列奥の奈々、中列手前の美濃木節、右列手前の美濃蛙目、右列中央のアーモンド)の土を用意していただきました。
まずはハンマーで粗く砕ききます。砕いたところからどんどん酸化して、もともとの原土表面の色とは違う色になっていきます。面白い!
砕いた土をふるっては、乳鉢と乳棒でさらに細かく砕いていく、の繰り返しです。
高橋さんの粋な計らいで、原土を細かくしていく途中、参加者がすりつぶしたさらさらの土をお互いに分けてもらって小瓶につめて、お持ち帰りいただきました。星砂を瓶につめるかのような、美しいひと夏の思い出の品ができました。
小休止のあと、作業再開です。
すりつぶして粉状になった土に、水を少しずつ加えながら、練っていき、顔料にします。
布に隅々までもみ込みます。裏返したり、また表に返したり。マチの部分にもたっぷりともみ込んでいきます。なんとも気持ちよさそう。
水で余分な泥を洗い流してから、干します。
いろんな色に染まりました。

参加者のみなさんの様子

今回ワークショップには、午後の部、午前の部、あわせて20組24名が参加されました。岐阜県下から11名(うち地元の多治見市から4名)、おとなり愛知県から7名、奈良県から4名、茨城県笠間市と岡山県からもそれぞれ1名、地元の方だけでなく全国各地からお集りいただきました。

参加動機としては、やきものに関心のある人(原土や顔料ができる過程に興味ありなど)、染めに関心のある人(藍染や草木染だけでなく、泥染のことを知りたいなど)、土に関心のある人(土絵具をつくりたい、など)、地元の文化に関心のある人(公民館関係者)、福祉と伝統工芸、伝統産業との連携事業に興味ある人(美術館関係者)、等々、みなさん興味関心がいいバランスにばらけていました。

さいわい?猛暑日だったのであっという間に乾いた陶土バッグ。最後みんなで記念撮影しました! こちらは午前の回のみなさん。
こちらは午後の回に参加されたみなさんです。

美濃焼ミュージアムに来るのは初めての方が大半で、かつ、ほとんどお互い初対面の間柄で行ったワークショップでしたが、みなさん一連の作業をしながら(=いろんな状態の土をさわりながら)、ずっとなごやかにお話をしておられた姿が印象的でした。

参加者のおひとりから、「ワークショップを通じて、初対面の方と打ちとけられたこと。土の力でしょうか。」という感想をいただいたように、足元にある土は、一部の人の占有物ではなく、いろんな人がさわることができて、こころを開かせていくものなんだなあとあらためて思いました。

また、土を砕いていく、加水しながら練っていくなど、ひとつひとつの作業内容がとてもシンプルだったため、あんなにみんな仲良くおしゃべりするような雰囲気になれたのではないかという意見も、あとからいただきました。平行してみんなで同じ作業をしているので、自然と何かしゃべりたくなったそうです。

時にはファッシリテータ―の高橋さんを質問責めにしたりしていて、傍から聞いていて、スタッフ自身もとても勉強になりました。

竹に干して乾かしているあいだもおしゃべりが続き、お茶やお菓子をいただきながらゆったりとした時間が流れていました。そんななかアンケートにもご協力いただいたのですが、回収率はなんと100%。びっしりていねいに感想を書いてくださいました。回収したアンケート用紙は私どもにとっても宝物となりました。

今後、ご自分の持ち場でどう展開していくかなどのプランもお聞きできました。いただいた感想を一部、ご紹介します。

・陶器問屋をやっています。“土”を知りたくて参加しました。

・自分の育った(住んでいる)土地の土の色を見てみたくなりました。微生物の仕事の大切さも実感できたワークショップとなりました。この世界の美しさをさらに知ることができました。

・陶芸家のタマゴ/アーティストとして活動していますが、陶芸を普段する・しないに関わらず“土”を通してみんなで遊んで学んで楽しかったです。

・どんな方でも一緒に何かに取り組める、そんな社会であるために、こうした活動がもっと各地で広がっていくべきだと思いました。

・地域のことはもちろん、土そのもの、酸化していく様子、化学?地学?も一緒に学べた体験となりました。また違う場所の土を使って染めてみたいです。夏、子どもたちと水と土であそぶようにワークショップがやってみたいです。

・今後の公民館講座の参考にしたいです。単発の講座としてもおもしろかったですが、他の要素と組み合わせてストーリー性のある展開にできると良いと思います。土の染め+美濃の土の話+実際の見学など。

・友人といっしょに染めもの、いろいろ体験会みたいな事をしたいと思います。草木染を中心に今までやってきましたが、それに泥染めも加えてできるとステキだと思っています!! 無限の種類の色が出せると思いました。

いただいたアンケートの回答より

美濃地方の土を使って染めたことで、地元の方はもちろん、それ以外の土地に住まわれている方からも、次は自分の住んでいる場所の土を使って染めてみたいという感想が何件も寄せられました。足元の土を見つめるというCLAY WORKSの意図を、土自身がメディウムとなって伝えてくれたのだと思うと、とても嬉しくなりました。

デザイナー・高橋孝治さんと多治見市美濃焼ミュージアム学芸員・岩城鮎美さんからのコメント

今回のワークショップは、ニュートラの学校 ラーニングプログラムの一環として、多治見市美濃焼ミュージアムと連携し、美濃地方初となるCLAY WORKSに挑戦しました。

CLAY WORKSとは?
CLAY WORKSとは、デザイナーの高橋孝治さんと協働して取り組んでいる、土と人との関係を、ものづくりや地域の文化とともに学ぶプロジェクトです。福祉と伝統のものづくりの相互発展や、それらが息づく生活文化を提案する「NEW TRADITIONAL(ニュートラ)」の一環として、2020年に愛知県常滑市の障害のある人たちとともに試行錯誤をしながら生まれたのが始まりでした。

関連レポート(ニュートラin常滑展ニュートラ談義①ニュートラ談義②

ニュートラの学校 ラーニングプログラムとは?
ニュートラの学校とは、福祉と伝統のものづくりの可能性を探る学び合いの場。そのなかのひとつとして、伝統工芸・伝統産業等にかかわるミュージアムと連携し、地域の多様な背景をもつ人たちと伝統的なものづくりを学んだり、地域の歴史文化に触れることができるラーニングプログラムの開発を行っています。

参考(ニュートラWebサイトニュートラnote )

ニュートラの学校 ラーニングプログラムは、たんぽぽの家とミュージアムのみなさんと一緒にプログラムを実施することで、プログラム参加者だけでなく、実施者も互いに学び合うことが目的のひとつとなっています。

そこでデザイナーの高橋孝治さんと多治見市美濃焼ミュージアム学芸員の岩城鮎美さんにそれぞれ今回のワークショップのポイントを振り返っていただきました。

--ワークショップを実際にやってみて感じたことは?

高橋さん:事前に鉱山をフィールドワークしたり、集まった多種多様な原土をとおして、美濃地方が国内最大規模の窯業地であることを実際に体感することができました。自ずと参加者の好奇心も強かったように思います。

岩城さん:白いバッグを泥で染めて、水で洗い流して、干した時に、子どもに戻ったような、素直な驚きを感じました。参加者とそれを共有できたのも嬉しかったです。

写っているのは、多治見市美濃焼ミュージアム学芸員の岩城鮎美さん。岩城さんはワークショップ全過程を実際に体験されました!

--ワークショップを実際にやってみて気づいた課題とは?

高橋さん:自分自身の素材の理解が不足している。やきものの素材としての特長の話ができていない。

ニュートラ事務局注:好奇心いっぱいの質問が多数飛び交った今回のワークショップ。参加者の方からは「先生の知識の豊富さに感動!もっと色んなお話しがききたくなりました。」など、とても勉強になったという感想が多数寄せられていたのですが、高橋さんには、さらなる深みを自分に求めるきっかけになったようです! 酸化や微生物の働きがテーマになってくるのでしょうか。これからの展開がますます楽しみです!)

岩城さん:広い洗い場が無い施設では実施が難しいということ。特に、泥の処理方法。また、今回は参加者2~3人に対してスタッフ1名の人数で、なんとか対応できましたが、工程が多いため、かなりサポートスタッフが必要なワークショップであると感じました。

使用する原土の説明をする高橋さん。熱心に耳を傾ける参加者のみなさん。
中庭に水を張ったバケツを並べ、比較的大きな砂粒を落としているところ。このあと、シャワーの水で細かい泥をさらに洗い流してから、干しました。美濃焼ミュージアムには、広い洗い場があって助かりました。

--今回の体験を今後の活動に活かすとしたら?

高橋さん:最初の巨大絵本のブラッシュアップの必要性。また、やきものの素材としての土の理解を深めていくという課題が明確になりました。土を焼いてみるというのもしていきたいと思いました。焼いたらどうなるのか?というのもやはり面白い課題だと思います。

岩城さん:これまで地域で活動している美濃焼の作家にワークショップの講師を依頼することはありましたが、地域性にフォーカスしたことはなかったかもしれません。「何を作れる」といったプログラムではなく、「美濃地域にはどんな土が使われているのかを知る」プログラムであることが重要だと感じました。この土地だからできること、地域の特性を生かすこと、参加者に何を体験してほしいかを考えることが今後につながっていくように思います。

--そのほかに、何かあれば。

高橋さん:美濃焼ミュージアムさんが、事前の準備など含めて大変協力的で、一緒に作っていくイメージがありました。地元の水月窯さん、カネ利陶料さんをご紹介いただけたのも大きいですね。今回参加されたカネ利陶料の岩島さんの、土を砕きながらの「酸化していってるな〜」の解説が良かったですね。土が長い眠りから覚めて、空気に触れたわけですものね。

岩城さん:昨年度、たんぽぽの家さんからこのお話をいただいたとき、年度途中ということもあり、最初受けるかどうか迷ったのですが、館長からの後押しもあって実現できました。中庭を自由に使っていい、竹に吊るせばいいというアイデアも館長から出たんですよ。今回のワークショップに関しては、「異なるサイドからの、より深い内容を有する取り組みが、新しい視点をもたらす機会となると思料」と評していました。

高橋さん:恐れ多いですね。ナイスチームということで、ニュートラ、CLAY WORKS、今後もよろしくお願いします笑

岩城さん:はい笑 あと、高橋さんに、ファシリテーターとして気を付けていること、心掛けていることはどんなことか聞いてみたいです。

高橋さん:ご質問ありがとうございます。子どもにも楽しく学んでほしいので、極力専門的な言葉を使わずに、必要な時は解説を添えて伝えることでしょうか。

岩城さん:そうですね。一方的な説明ではなく、絵本にしたのも幅広い人に伝わりやすくて良かったと思いました。それと、今回は障害の有無によるサポートは必要なかった印象でしたが、細やかな気配りなどは、参考にしたいです。

ニュートラ事務局注:アンケートの回答のなかに「足や腰が悪く、調子の悪い方の為に低い台やイスがあるとやりやすいかと思いましたが、特に問題は感じませんでした」というご意見がありました。今回は特に問題にならなかったかもしれませんが、床に座るのが難しい方も参加しやすい場のしつらえ方については、今後検討していく必要があると感じました。)

美濃地方でのCLAY WORKS/ニュートラの学校 ラーニングプログラムの連携協力者のみなさん

ワークショップ実施にあたって、お世話になった方々を紹介します。

高橋孝治さん(デザイナー)

大分県別府市生まれ。株式会社良品計画 生活雑貨部企画デザイン室に12年所属し主に無印良品の生活雑貨のデザインを行う。2015年より、中世より窯業が続くやきもののまち愛知県常滑市に拠点を置き、様々な人の生業や活動に伴走する。2016-2018年常滑市陶業陶芸振興事業推進コーディネーター。2017-2019年六古窯日本遺産活用協議会クリエイティブ・ディレクター。
高橋孝治デザイン事務所 
・特集「千年に点を打つ 土のデザイン」, webマガジン『アネモメトリ』
 1 土という素材に潜る 高橋孝治と常滑
2 土から生み直す 常滑の底力 
 3 焼きもの×福祉×場 千年の先へ 

岩城鮎美さん(多治見市美濃焼ミュージアム学芸員)

静岡県出身 2019年から多治見市美濃焼ミュージアム勤務。教育普及を担当している。多治見市内に工房を構え、主にデザイン性のあるインテリア小物などを制作している。
多治見市美濃焼ミュージアム Webサイト

岩井利美さん(多治見市美濃焼ミュージアム館長)

多治見市美濃焼ミュージアムで、粘土を握りしめて「今、この時を刻む」独自の体験型講座や、収蔵品を直接手にとって鑑賞する特別鑑賞など動的な鑑賞方法を提供する。自身の窯をもつ制作者でもある。昨年度、ニュートラの学校で行った、伝統工芸・伝統産業などに関わるミュージアムでの障害者等のアクセシビリティと教育普及プログラムに関する調査に積極的に協力し、本ワークショップ実現のきっかけをつくった。
・多治見市美濃焼ミュージアム コンセプト&プログラム 
・ニュートラの学校、ミュージアムに関する調査報告書(2022年度刊行物

岩島利幸さん(カネ利陶料有限会社 代表取締役会長)

陶土の製造、販売を手掛ける。土のことを誰よりも深く知り、つくり手のつくりたいものを聞き出す力をもつ。岩島さんを慕う若い陶芸家も多い(今回のワークショップでも遠方から駆け付けた参加者がいた)。ワークショップ準備段階で、鉱山を案内し、湖の底にたまった1000万年から500万年前の土に包まれ、直に触れる機会をつくった。ワークショップ用に6種類の原土を提供した。
カネ利陶料 Webサイト
・「土と手を合わせる カネ利陶料」, エルメス財団 編『Savoir&Faire 土』 
対談「月と地球。それぞれの大地に想いを馳せて」, JAXA公式コミュニティサイト『ファン!ファン!JAXA!』

ワークショップ準備のために出かけた事前スタディツアー。2023年1月26日、真冬の鉱山見学の様子。幻想的な光景に圧倒され心震えました。
ご自分で染めた陶土バッグを干す岩島さん。ワークショップ会場でも土についていろいろお話くださいました。

水野繁樹さん(水月窯)

人間国宝・荒川豊蔵の意匠を受け継ぎ、桃山時代の技法を伝承する水月窯で、電気やガスを使わないやきものづくりに今もなお取り組んでいる。ワークショップ準備のための事前スタディツアーの受け入れ先となり、作業場や、穴窯・登り窯を案内する。また、窯の設立以来変わらない、敷地内で採取した原土を使ってやきもの用の粘土をつくる水簸(すいひ)の過程も解説した。本ワークショップのために、黄土と赤土、2種類の原土を提供した。
水月窯 Webサイト 

ワークショップ準備のために出かけた事前スタディツアー。水簸(すいひ)中の水槽を前にして、その原理を説明する水野さん。水簸とは、原土に水を加えて攪拌し、粒子の細かい部分だけを沈殿させて採取する、粘土づくりの工程のことを指します。この日は水が凍っていましたが、下のほうから泥をすくって見せてくれました。
見よ、これぞ足元の土! 木の根も交じる生生しい原土(赤土)が、あんなにきれいに染まるのを見るのは、神秘的な体験でした。

美濃地方でのCLAY WORKS/ニュートラの学校 ラーニングプログラムは、以上にお名前を挙げた連携協力者のおかげで実行することができました。ありがとうございました!

Photo: Hidenao Kawai

ちょっと宣伝させてください! 
高橋孝治さんと岩城鮎美さんは、11月より始まる「ニュートラの学校〈実践編〉in 愛知」の講師として、引き続きニュートラプロジェクトにご参画いただいています。現在参加者募集中です。伝統のものづくりをとおして地域とのつながりをより深めるプランニング方法が学べるチャンス! ふるってご応募ください! お申し込み、詳細は→こちらをご覧ください。

本イベントは、文化厅委託事業 「令和5年度 障害者等による文化芸術活動推進事業」の一環で実施しました。

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