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[レポート]ニュートラ談義①「やきものの産地で試みる、福祉とものづくりのあたらしい関係」

「NEW TRADITIONAL展 in 常滑」2日目の1月23日(土)、ニュートラについて実践者たちが語り合い深めるこころみ「ニュートラ談義」を開催しました。
ニュートラのプロジェクトを常滑で実施するにあたり、ディレクターの高橋孝治さんが考えたのは、地域のさまざまな活動を、つくることをとおしてつなげることでした。障害のある人たちの仕事を支えるワークセンターかじまの桜庭幸恵さんと、なりわいとしての窯業を営む伊奈幸洋さん(有限会社丸安)、水野太史さん(水野製陶園ラボ・水野太史建築設計事務所)のお二人の話を聞きながら、産地における障害のある人新しいものづくりの可能性のヒントを語りました。

まずは本展示のディレクターを務める高橋さんの説明とともに展示をぐるりと一周鑑賞した後、オンライントークが始まります。会場入り口でまず一番にお客さんを迎えるのが常滑の粘土。去年の5月、ワークセンターかじまの敷地内を掘ったら出てきたものだそうです。不意に深掘りしたら出てきた「土」という素材。これを使ったものづくりに挑みたいという高橋さんの純粋な衝動から始まったニュートラ in 常滑。足下を深く掘ったら出てきた素材が、その土地に生きる人たちを結びつけました。今回のプロジェクトに関わる人たちをつないだ高橋さんの「いい土に恵まれたからだよね」という言葉から、土に対する感謝の気持ちを感じます。

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トークでは「福祉のものづくりと地域のものづくりがどう一緒にやっていけるか」について、今回の協働の中でどういった経験をし、どのような発見があったかそれぞれの立場からの話が展開されました。常滑は窯業地ならではの製作環境があり全国の福祉施設で行われているような陶芸制作とは背景が全く違う。その中で障害を持つ人たちとの協働がどう活用される可能性があるのか、高橋さんは「ゴールは利用者さんの仕事になること」と明言。展示を経ての具体的なアイデアとして利用者さんの出向ができないか、と言及されていました。
作り手の立場として伊奈さんは、障がいのある人との協働の中「彼らには迷いがない」ことが一番の発見だったと言います。自分たちは売れるかどうかといった思考になるが彼らにはそれがない。また一度焼きあがったタイルをもう一度焼く、といった普段あまり行わない工程があったことも新たな体験だった、と。混ざり合うことで自然と生まれる歪みが、純粋に新たなものづくりの可能性を広げているように感じられます。

画像3△昨年末、ワークセンターかじまでのタイル絵付けのようす。伊奈さんが計画から焼成まで行なった

一方、水野さんは普段行なっているアーティストのサポートと比べて、関係性、工程に関して特に変わりはなく、問題はどういう体制で作るかだけなので協働の可能性は大きい、とも。
福祉施設側の意見として桜庭さんは、体制として諸々の問題はあるにせよチャレンジとしてはぜひやっていきたい、と言います。昔は農業や様々な産業の中で障害など区別なく緩やかな協働作業が行われていた。今回の協働作業を通して思いがけない発見や出会いがあり「これが先の伝統になっていけば」という言葉も飛び出しました。

画像4△水野製陶園のタイルにワークセンターかじまで絵付けしたもの

後半の質問ではその継続性を問う声もありましたが、今回のコラボレーションは、まず関わっている人たちが積み重ねた時間の上に築いた関係性があり、それを下支えする「土」の存在がある。その関係性から発する連携は継続しやすいように感じます。そこで素材が手に入り、作り、展示する(共有する)、のすべてを小さなエリアでできること、岡部もそれらが最小単位で成立することの強みについて言及します。この場所の文脈があるからこそ、日々土に囲まれているはずの地元の人も見えていなかった「土」の存在が見えてくる。その事実を見える化したことも今回の役割として大きいのではないか、と。
また、製品のクオリティが落ちることで素材感がより出てくるという高橋さんの指摘も重要な気がします。技術の高さは時に素材の生(なま)っぽさを消してしまう。伊奈さんもまたタイルの味わいを大切にしたいが、普段の量産品だとその実現が難しい、と言います。そこに障害のある人と一緒に素材の魅力を辿る余地が出てくる。今まで飛び越えられなかったハードルをぴょんと軽く飛び越えられることもまた、普段交わらない人たちの「関わり」が生む大きな産物と言えます。

「NEW TRADITIONAL(ニュートラ)」に明確な定義はないというが、多様な人たちが関わりあって作業する場を生み出すという意味において、昔の農業にあった協働の風景を彷彿とさせる、新たに掘り起こされるトラディショナルなのかもしれない。そんなことを感じるトークでした。

画像3正面左より岡部、水野さん、桜庭さん、高橋さん、鯉江明さん(展示協力)、伊奈さん

《ニュートラ談義①概要》
日時:2021年1月23日(土)18:00​~19:30​
場所:INAXライブミュージアム  土・どろんこ館 +YouTube Live 配信
テーマ:やきものの産地で試みる、福祉とものづくりのあたらしい関係
出演:伊奈幸洋(有限会社丸安)、桜庭幸恵(ワークセンターかじま)、水野太史(水野製陶園ラボ・水野太史建築設計事務所)、高橋孝治(デザイナー)
進行:岡部太郎(一般財団法人たんぽぽの家常務理事)

▽アーカイブ動画はこちらよりご覧いただけます。

写真:河合秀尚


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