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[レポート]福祉と伝統のものづくりから考える、人・もの・地域の新しい関係 Day2



『 福祉と伝統のものづくりから考える、人・もの・地域の新しい関係
Day2:概要 』
テーマ:福祉×伝統工芸 ものづくりの交流を通した学び
日時:2022.3.27(日)14:00-16:30
開催:① FabCafe Kyoto(MTRL KYOTO)
   ② YouTubeライブ配信
スピーカー:酒井義夫(ろくろ舎)、井上 愛(motif)、井澤葉子(高野竹工)、浅野 翔(ありまつ中心家守会社)、藤井克英(Goodjob!Center 香芝)、岡部太郎(一般財団法人たんぽぽの家)
進行:森下静香(Goodjob!Center 香芝)

このトークイベントでは、これまで実施してきた伝統工芸と地域・生活の関わりを考えるスタディツア ー や、ものづくりの現場と交流するレジデンスプログラムを通して見えてきた視点や感想を共有し話し合いました。

始めに、福井県鯖江市で丸物木地師(ろくろを用いて木材を加工し椀などの製品を作る職人)としてや、伝統を継承しながらも「価値の再定義」をコンセプトにした活動をしているろくろ舎の酒井さんと、Goodjob!Center 香芝(以下 GJ! センター)の藤井さんに,それぞれの活動や一緒に対話を重ねてきたた中で見えてきたものについてお話を伺いました。

障害のある人とともに分野をこえ、社会に新しい仕事をつくりだす活動をするGJ! センターは2020年5月、奈良の春日大社の境内で台風のため倒木した木材を使って燭台を作ったことをきっかけに木工の可能性に興味を感じ始めました。
その頃にリサーチツアーでろくろ舎へ訪問し、木地師の酒井さんと交流が始まりました。

交流を重ねる中で、木工に取り組むに際していくつかのポイントを掲げたのですが、その中に「障害のある人が専門技術を持たずとも参加できるものづくり」がありました。そして、木材を誰にでもできる「打刻」によって独特の質感や面白さの味わえるスツールやプレートを制作した時に、「誰でも作れるものづくりだと,誰が作っても同じものしか作れないのでは。」という疑問も生じたそうです。それに対し、作り手個人をしっかり押し出したらどうか、作り方を変えることで表現が変わらないか、異素材を組み合わせたり物語を見立てるといいのではないかなど、そのものに力をもたせ価値を付加できる可能性を考えるようになったそうです。

酒井さんは活動の中で、製品の素材として被災木や間伐材を使ったり、和紙など異素材を扱う職人と共同してあたらしいものを創造したり、通常は移動しない「工房」を車に設置して移動しながら人と交流するといった、素材や既存の価値観を横断したり飛び越える活動をしています。そこからは量産するだけではないものづくりの良さが生まれています。
今後両者の発想がクロスすることでどんなものが生まれるか、とても楽しみです。そして、酒井さんの言われた「ものづくりは正解も間違いもない世界。どこまで、とかゴールが定かではないところがいい」という言葉には工芸の未来があるように感じました。



続いて京都府長岡京市にある高野竹工の井澤さんと一般財団法人たんぽぽの家の岡部さんに福祉施設と竹工の可能性について伺いました。

高野竹工は竹林を整備し竹を育てるところから、材料として使えるようになるまで数年かけて乾燥・保管し、製品をつくり梱包、流通するまで、すべての工程を一貫して行っています。
また、竹工と木工により製品を作る以外に、以前から様々なクリエーターと職人が交差する取り組みもしていました。

その中で、福祉と一緒に何かしたいと思った高野竹工と、生活に身近だけど福祉施設で扱われることの少ない竹で何かできないだろうかと考えていたたんぽぽの家が、ほぼ同時期に一緒に何かしたいと思いあいワークショップを開催することとなりました。
竹について学び、製品を作る現場を見学し、実際にものを作ってみる。ワークショップを行ってみて福祉施設側が感じたのは、「竹でものづくり、特に商品になるものを作るって、意外と難しい」ということでした。
ただ、素材を育てるところからものを作る、その過程の中に障害のある人が関わる余地や可能性を感じることができたそうです。


休憩を挟んで、愛知県名古屋市の有松で活動するありまつ中心家守会社の浅野さんと、愛知県西春日井郡で生活介護事業所「FLAME」を営むNPO法人motifの井上さんに、それぞれの活動について伺いました。

浅野さんが代表を務めるありまつ中心家守会社は、空き家を活用する事業や地域を活性化させるためのイベント等の企画運営、ブランディング事業をする会社です。
所在地である有松は、伝統工芸品の有松絞りで有名な地域です。
浅野さんたちは、その有松絞りなどの伝統工芸を旧来的な方法を用いながらもテクノロジーなど現代の技術を取り入れて、何がどのように残っていくか、産地らしさを見いだせないかを探る等の取り組みを行っているそうです。
自然から生まれる素材+人が生み出した素材、業(わざ)を継ぐ人+テクノロジーとアーカイブ(生物/非生物)、脈々と継続されてきた時間や文化+AIによる時間の圧縮 … といった従来にとらわれないかけ合わせをすることで産地らしさを創出できないか、という浅野さんお話には、守り続けるためにはあえて、その時時の生活や仕様に沿って変化していかないと途絶えてしまう可能性があるという事について改めて思いを巡らせることができました。

続いて、motifの井上さんに活動について紹介していただきました。motifが運営する生活介護事業所FLAMEでは、最新テクノロジーを用いたデジタル刺繍機を導入したり、地域の伝統産業と障害のある人の手仕事を結びつけたり、地域の人との交流を通して新しい仕事を創出したりと、間口の広い活動をしています。

以前、産地ありまつで、絞り職人さんが作業所で仕事をしておられるメンバーさんの絞りの様子をみて「おっ!」と面白がられたことがあったそうです。それをみた井上さんは職人を面白がらせることができるほどに「福祉のものづくりって面白いのだな」と実感したのだそうです。また同時に、つなげる事の魅力を感じたそうです。
ただ、「つなげる」というと、福祉の側が相手に何かを委ねることで可能性を広げるというような印象もあるように思いますが、井上さんは「個人の力が大事」と言い切られていました。
FLAMEに来るといつも寝ていたメンバーが、最近になって「ずっと寝ているのもなんだから何かやってみたいな」と言ったそうです。そんな風に、「個人から始まる活動の作り方をしたい」と言われていました。


今回のトークイベントでは、ものづくりについて、試したり、実験したり、出会うことの可能性を探ってきたそれぞれの活動を振り返りましたが、最後にそれぞれの登壇者の感想や意見を話し合いました。
そこに出されたいくつかの意見を以下に列挙します。

・伝統工芸の職人にしろ、産地にしろ、一定の価値観がずっと続いているが、時に長い歴史の中で色々なしがらみが生じることがある。それを取り払う第三者として、福祉施設が関わって乗り越えられると面白いのでは。
・福祉施設には場所や人が在る。それを、地域の工房として機能させられる可能性があるし、それが地域貢献につながる可能性もある。
・ものづくりのヒントとして、分野を横断したり幅広い視野が必要。
・ものづくりなどについて問題意識を持って(近郊・遠方問わず)繋がれる人と繋がりながら取り組みを進めていたが、地元地域の中で自然に作り手と福祉がつながり目に見える関係をこれからどうしたら作れるかが課題。
・自分たちが地元のことを知らないことに、酒井さんの促しによって気付いた。
・いつも持て余している端材を活用してワークショップができたのでよかった。

今後については

・例えば有松絞りの浴衣を作って売り切るのには3年かかる。この3年を長過ぎると捉えるか、3年も関われると捉えるか。それによってその先が決まってくるだろう。
・綿など、素材を収穫するところから関わったり、アップサイクル(ゴミの再利用)を産地の取り組みに取り入れていきたい。
・ものづくりは人から始まる。今いるメンバーと絶えず話をし、その言葉を大事にしながらものづくりを続けたい。
・普段黙々と仕事をしている職人が、ワークショップなどで人から見られたり技術を教えることで活き活きしている。今後も色んな人とつながりたい。
・(協働して)何かが完成したというわけでは無いので、これからもいい形でつながっていきたい。
・ものづくりにおいて知らない事やできない事というのに障害があるないは関係ないが、障害のある人との体験をきっかけにしつつ、ものづくり、伝統文化や体験などをいかに取り戻したり先に進んでいけるか、というところに今自分たちは居るのだと感じた。

今年度実施した「福祉と伝統のものづくりから考える、人・もの・地域の新しい関係」の取り組みの中で「ものづくりの交流を通した学び」をテーマにゲストと共に振り返りました。
改めて、福祉施設にとっても工芸や地域づくりに取り組むひとたちにとっても、お互いに学びがあることを感じました。また、そこから生じた気づきが双方に作用することで、さらに新しい展開が生まれてきていることを実感しました。


== アーカイブ配信のご案内 ==
「福祉と伝統のものづくりから考える、人・もの・地域の新しい関係」
のアーカイブ配信を、こちらからご視聴いただけます。▼▼

https://www.youtube.com/watch?v=LTzv5LlxSHg

ご興味をお持ちいただけましたら是非御覧ください!


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