[レポート]障害のある人の表現と伝統工芸をめぐるリサーチシリーズ|木工②
2021年9月26日。昨日に続き、ろくろ舎の酒井義夫さんとともに奈良県内の木工にかかわる場所を2つ訪ねました。
◉ 阪本修さん(Urushi no Irodori /漆芸)
1つ目は、漆作家として活動し日常使いの器やお茶道具などの制作をしつつ、デザインプロダクト「Urushi no Irodori」の企画・制作も行う阪本修さんの工房です。
阪本さんは、差物、輪島塗り、螺鈿といった背景をもちつつも、それと並行して、安全で使い心地のよい日用品としての漆器を製造・提案しています。
工房をご案内くださる阪本修さん
色うるし(顔料を混ぜた漆)を使った製品をつくりはじめたのは、多くの人に漆器を気軽に使ってほしいという気持ちからでした。「脆い、扱いづらい」という印象はまったくの誤解であるし、口や手のひらに肌馴染みのいい漆はまさに普段使いの食器に好ましいものなのだそう。
木地を生かした掻き合わせという塗り方で仕上げられたカップ
阪本さんは私たちの相談を聞き、乾漆、指塗り、掻き合わせなど、障害のある人が、ご当人の作業しやすい範囲に応じてお仕事に取り入れられそうな技法を紹介してくだいました。酒井さんもその場で、漆の塗膜にわざと障害のある人たちの手仕事の跡をつけられないか、下地にこういった木目を使ってはどうか、といろいろな案を出されていました。
阪本さんから製品の工夫や漆の技法を伺うことで、必ずしも典型的な手法にこだわることなく、漆の性質や現代の生活に沿ったもので私たちも取り組めるかもしれないと感じました。障害のある人の表現とお仕事とを融合させるよきヒントを得ました。
阪本さんの漆芸作品
◉ 山と漆プロジェクト
山と漆と暮らしプロジェクトは、奈良県曽爾(そに)村にて「漆とともにある里山の暮らしと風景」を取り戻すことを目指す取り組みです。曽爾は、古来は日本における漆塗りのはじまりの場所、現在は漆文化復興の取り組みで知られています。今回は、プロジェクトの拠点である曽爾村漆復興拠点施設(ねんりん舎 通称NENRIN)にお邪魔しました。
お話を聞かせてくださったのは、コーディネーターの並木美佳さんと、プロジェクト事務局である曽爾村役場企画課の高松和弘さんです。
並木さん、高松さんともに、数年前に関東から移住してきました。今では、曽爾の漆育成にかかせないキーパーソンです。プロジェクトでは、年2回の植樹、漆かき、塗り体験や製品販売、漆をつかった染色などを行っています。
実際に漆掻きに使っている道具や、作業工程、育樹の失敗談、村内の人たちに漆に親しんでもらう取り組み、未来の話など、さまざまなことを聞かせてくださいました。
漆を植える、採る、ひろめる。どれをとってもその苦労は並大抵のことではないとわかります。しかしながら並木さん、高松さんのお話で更に印象的だったのは、曽爾村の漆の産地としての力を高めたり、移住促進しようとするに尽きず、人と地域とのつながりや物事のきっかけづくりを重視している点です。
左:高松和弘さん 右:並木美佳さん
酒井さんは、近い内にこの場所に障害のある人たちに来てもらい、土地のめぐみと自然の厳しさの両方が感じられる環境のなかで一緒に植樹や製品開発の実験を行いたいと提案してくれました。また、この土地でともにこの取り組みを育ててみることへの魅力を感じたそうです。そうすることでより開けた発想や中期的な見通しを得られる時間に繋がりそうだという予感を、私たちも感じました。
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この取り組みは日本財団の助成(「障害のある人の表現と伝統工芸の発展と仕事づくり」)で実施しています。
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