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小さな物語たち

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ちょっとした瞬間の心の揺らぎの物語
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記事一覧

一瞬みたいな永遠【小さな物語】

ポケットに2000円 そのぐらいあれば大丈夫 ラーメン屋にいくんだよ チャーシューメンにチャーシュー もう子供じゃないし そのぐらいいいよね いつもの道を歩いてさ 昔住んでた家の前を通り抜ける 「虫除けしなさいね」ってやさしそうなお母さん 「大丈夫だよ!」って駆け出す小学生ぐらいの子 いつかの頃が浮かんできては 大人みたいにふりかえる 確かにたくさんのことが 色々なことがあったけど それについてどう受け止めたら いいのかわからないまま また日が暮れて僕は流れていく 風が

オワリマタアサガキテ【小さな物語】

狭い東京の片隅ニュータウン 作られた団地の灯りに守られていた 閉じ込められたような感覚はもう小さな頃から 四角い五階の窓から沢山の無限をイメージしてた 偽物と知っていたけど 愛したから それが僕の本物になった 放たれなかった光は心の奥を照らし続けた それだけで十分たどり着けたよ 何もいらない 僕は知ってた 君も知ってた だから僕らはここでキスをするんだ 何回もリフレインしているいつかの夏の終わり

星の海、神様がくれたチケット【小さな物語】

遠くにぼんやり灯りが揺れてるのが見える このバスは灯り行き、きっと希望行き 差し出されたチケットは贈り物 神様のサインがはいっている 本物 受けとるべきもの 僕は受け取らなかった 受け取れなかった 変わりにひどい猫背の女の子がやってきて 僕にこういった 「あなたに見せたいものがある」 僕は導かれるまま最上階へ そこには夜の海が広がっていて、星が瞬いていた 「だからなに!」 そう心のなかで叫んだけれど 口からでたのは全然別の言葉 何時もの繰り返し これは物語であ

真夜中からやってくる列車【小さな物語】

突っ立て夜の方へ落ちていく照明 水の中から証明君の何かを信じて 東京のライトが夢も現実も包みゆく頃 どこかの誰かが僕らは離れ離れと呟く 一つになってなくしていく 甘すぎる果実は明日をなくすから 盲目だからよりわかることがあるんだと TVショーが言ってる 馬鹿げてるが真実みたいに聴こえる 繰り返しなってる音現代的なビート 柱が崩れたら後は一瞬だと歴史が証明 同じ部分を叩いてくる君は確信犯 何かが変わろうとしている分水嶺はここか フィルターの数が増えていく それが幸せのいや

いつのまにかだれもみな【小さな物語】

すぐにそれはやってくるけど 今はなんとなくハッピーなんだよ 雨降りでも笑えたり 晴れの日に辛かったり そんなふうに歩いてきた日々が ふっと浮かんでは消えた 2022年なんて想像できなかった だけど今その場所に立ってる いつだったか覚えてないけど たしかに幸せはあったし 背中合わせのかなしみも だけど今は手を繋いでる 2人は友達になった 時々息切れをしたり 若くはないなあと思ったりする でも昔もそうだったなあ 多分気分のせいだろうなあ それでいいよ君も僕も いろいろな気持ち

運命【小さな物語】

「ねえどうして朝がくるの」 君はずっと眠そうなのになぜか起きている 僕は今日4度目のコーヒーを落とす マグカップにして8杯 「そんな夜もあるさ」 僕は言う 「どんな夜?」 君は首を傾げる 「コーヒーを夜から朝にかけて4度も落とす夜」 僕はそう言ってなぜかもらった 塩の使い道について考えてみた 「焼き鳥は塩が美味しいよね」 君はなぜか僕の頭の中を軽々とハッキングして 鳥の真似をした やれやれ たまたまという名の奇跡に 人生を振り回されてきた僕は 脈略のないことを 運命と呼ぶこと

7月【小さな物語】

ぼーっと街の向こうに海がある それは揺れては近づいて、また離れていく 「ノベルズが入り口だとしたら出口は何かしら?」 君が言う 「わからないけど、置きざりにしてくれるものならなんであっても好きだよ 君は本当に僕のことを置いて帰っちゃったことがあったけどね、あのあと僕は高くてやたらに濃いコーヒーを3杯もおかわりしたんだよ 結局僕らはあれから会わなくなったわけだけれど」 僕は笑った 君もクスクスっと笑った 「あの頃のまま」 そう言いかけて それはないなって思って 僕はなんとなく海

あけるまてきてとうきょう【小さな物語】

昨日の夜夢を見たよ 君がでできて君が去っていった それは何を意味してるんだろう きっと少しさみしいだろうな 冷蔵庫の音がやたらに大きくて 灯りは物を言わず 苦し紛れのBGMは無駄に音数が多くて 少しシャープしてる 長い旅に出る 今東京の上空をこえて 大気圏に突入して 燃え尽きるみたいに 落ちてくるその軌道に 星がまとわりついて 綺麗な光になったならいい あともう少し 夜が明けるまで ハッピーエンドが当たり前に 用意されてるとどこかで思ってた どんな人にも光が当たる そう

さよならTV【小さな物語】

いつもそこで灯ってて なんでもないふうに笑わしてくれる そんな君の存在は いなくなってはじめて気がつく 何がみたいってわけじゃない でもいろんなことを教えてくれる あったかいんだよな ぬくもりは冷たくなってあったと気がつく また次を求めるだろう きっと君より綺麗で新しくて洗練されてて そして僕は愚かだからすぐに 君のことを忘れてしまうだろう AM6:30のリビングでボタンを押しても 君は笑った顔のまんま動かない 何もみたいものなんてないけど も一度笑ってよ 時には喜び

例えばある朝にいつものように【小さな物語】

「少しだけ昔の話になる」 そう僕は僕に言っていたら6月が言った 「そろそろ次のページを 歩き始める頃なんじゃないかい」 そんなふうにして僕の右手は夏の入り口に触れた 君はいつもよくわからない文字の 書かれた服やスリッパなんかを買う よくある、どこにでもありそうな いわゆるなんとなくオシャレに見える そういうやつを それが玄関に無造作に置かれている 朝は早いからきちんと並べることができないのだ その横に燃えるゴミの袋が置いてある 「捨てて欲しいってことだよな」 そうわかるよ

ハレルヤ【小さな物語】

粘着力をなくした磁石が愛おしい 少し湿気ってしまった煎餅も好き 雨降りの日には考えたりしない 今のままを世界は多分待っている 音を立てる生活音何気ない鳥の声 さしづめ問題はない適応している よく忘れんだ考えすぎては 必要のない機能まで付与しようとする 雲が流れて僕らはそれを見上げる その顔の角度が雨を降らせる うつむいて反射した水たまり 然るべき時を待って虹は描かれる 明日は必ず晴れるんだ 歩き出した日は覚えてない 確かよく晴れた空の下 雨がふるのも知らずに泣いてた 何

アノコロミライゲンザイチ【小さな物語】

さりげなくふつうに じつはとてつもなくありがとう なだらかな丘をのぼると森のトンネルがある 40年前は幼木だった彼らがいまはどうどうとそこに立っている 僕はあの頃みたいに、そうあのニュータウンを朝から夕まで走りまわったあの頃みたいな気持ちで自転車をこぐ みあげるとあの日となんら変わってない様にみえる空が「永遠に」と言っている 少年がサッカーボールを蹴る 一心不乱に 彼の中のゴールがあって、そこに行き着かない限り、家には帰らないだろう 僕は少年に手を振る ニュータウンの少年た

六月【小さな物語】

「何度でもそれと今から」 そんな気持ちがふわっとやってくる きっと多分自分の中の一番素敵な部分に 気がついてる瞬間 少し緩めて草や花みたいに呼吸して 一番下の階まで無重力で落ちてく 僕らは言ってみればみんな宇宙のカケラ 無限を持ってる 届いたらラッキーだなってなくらいで 僕らは心の信号を夜空に放つ 何かの運命みたいにぶつかって 出逢えるのを夢みてる 「できるだけ楽に」それがやけに人間らしくて でもずっと同じ姿勢でいたら何処かが歪んでくるんだ 左の胸に手を当ててみる 僕ら

サイクリングリンク【小さな物語】

自転車はただ風をきる 懐かしい景色を少し憶いださせて いつかの友達のアパートから 若い家族の笑い声 自転車は少し立ち止まる 何かの間違いじゃないかと周りを見渡す 1000年ぐらい前からありそうな木がある たしかにここに違いない 自転車はまた風になる 思い出ばかり増えていくのが人生で なくすことの方がはるかに多くて 今でもあるものは奇跡なんだ 元気にしてるといいなとただ思う あの頃目を逸らしてしまったもの 今の僕ならどうだろう 答えは今日も風の中 そのダメさが季節の風に