映画『工作 黒金星と呼ばれた男』

映画『工作 黒金星と呼ばれた男』の試写を見てきた。

特殊メイクの金正日や、ニュース映像の金大中が出演する、韓国お得意の現代史ドラマ。そしてイ・ヒョリも本人役で出演しているのがポイント。

ストーリーは1990年代が舞台。韓国・金泳三政権の情報機関「国家安全企画部」の情報員が、北朝鮮に潜入するために主に北京で繰り広げる工作の数々を描いたフィクション。

北朝鮮の幹部同士が盗聴し合う権力闘争、韓国の選挙情勢を与党有利に仕向ける「北風」を起こそうと、北朝鮮に武力挑発を依頼する韓国の情報機関。敵同士、味方同士がだましあい、敵と味方が手を組む。誰が誰をだまし、だまされているのか。壮絶なスパイ戦の駆け引きがものすごいスピードで展開する。

大統領選の結果などベースは史実に基づいているだけに、結末はある程度予測できるのだが、このままなんの色気もないスパイ戦を描くのかと思わせておいて、最後はなんだか胸を打たれた。

   ★★★

政権交代して安企部の情報員が「私はなんのために工作員になったんだ」と自問する場面がラスト付近で出てくる。この場面を見て、昔よくお酒を一緒に飲んだ国情院出身の外交官を思い出した。

彼とは歌舞伎町の韓国バーで偶然出会い、名刺を交換した。東京の韓国大使館に勤める国家情報院出身の外交官だった。その直後に大阪に転勤したのだけど、偶然、彼も大阪総領事館に転勤してきた。大阪の仕事はあまり忙しくなかったようで、私はときどき呼び出されては、酒に付き合った。

一言で言うと、国家情報院というスパイ組織出身らしからぬ、抜けた人だった。

目つきが悪いけどやたらめったら愛想がいいのは、公安組織によくあるタイプだが、飲んだ後はかなりの確率で酔っ払って我を失い、私が芦屋の自宅まで送り届けた。大阪には北朝鮮と深いつながりのある在日コリアンも多かったが、そういう人との飲み会にやってきて、お互いの体制を血相を変えてけなしあい、最後はぐでぐでになって床に倒れてしまった。

あるとき、私と2人で深夜まで飲みながら、彼は自分の生い立ちについて語り出した。光州出身で、1980年の光州事件のときはソウルで学生運動をしていたこと。安企部に就職したことで、兄弟からなかば縁を切られたこと。1990年代前半の南北高位級接触で、相手をした北朝鮮の官僚から、ホテルの部屋にあった果物を「君が食べなさい」と渡され、逆に北朝鮮の厳しい食糧事情を垣間見たこと。金大中政権になって北朝鮮は壊滅させる敵から交流相手になり「自分のやってきたことはなんだったのかと思った」とアイデンティティークライシスになったこと。それでも公務員として「太陽政策は支持している」こと。

べろべろに酔っ払って、彼は私に「俺の正体はなんだと思う?」と聞いてきた。何を今更、と思い「そうですね、情報員かもね」と言うと、彼は「情報員さ」と答えた。そんなことはずっと前から知っているのだが、その日も結局、正体を失い、芦屋までタクシーに乗せた。

その後、離任あいさつの電話とともに、彼はソウルに戻り、連絡は途絶えた。国情院出身の外交官は、偽名で活動することが多い。おそらく私がもらった名刺も本名ではない。ソウルで探そうとしても、名前が変わっているだろう。でも、もう一度ぐらい、一緒に酒を飲んでみたい。

   ★★★

映画は1990年代の韓国を描いたという意味で、私のストライクゾーンど真ん中の作品のはずなのに、ストーリーがほとんど北京で展開するので、さほど懐かしさは感じなかった。1997年の大統領選のときは大邱で仕事していて、あんな熱狂はなかったこととか、仕事で大失敗した思い出が蘇った。何よりも平壌の場面はとてもよく再現されていて、仕事で訪ねたときの重苦しい気分が蘇って、なんだか胸や胃が痛くなった。

早口な北朝鮮なまりと、字幕の字数の限界、ストーリーのディテールはもはや追いきれないが、大まかな流れさえ掴んでおけば楽しめる。この日は仕事が忙しくて、正直、見に行けるかかなり微妙だったけど、間違いなく仕事を放り出して見に行ってよかった。(よっしー)

   ★★★

そんな話を、Podcast「ニュースde韓国語」#069の冒頭で雑談しています。

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