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こんな職業がまだ残っていた

 衣料を黒く染める商売がある。熱した黒い液に服などを思いっきり浸し、乾かして終わり。黒い液というのは、日本の墨汁によく似ている。黒色が褪せてしまった服などを出すと真っ黒になって戻ってくるが、洗濯するとけっこう色落ちしてしまう。

 20年も前、自宅の軒先でそんな商売をしている人を地方で見たことがあった。最近は前国王の死去に伴う服喪で、黒服を買うのもままならない庶民に対して、服を黒く染めるサービスをしていた役所があった。そのニュースを聞いて、懐かしいなと思っていた。

 それが今日、会社がある建物の前の通りを、自転車に乗ってその商売をしている人を見かけた。ドラム缶に黒い液を入れて下から炭で熱し、日本でいうでんでん太鼓を鳴らして、のんびりを走っていた。タイ人でさえも「あんな商売まだあるんだ」と言いながら眺めていた。

 残念ながら、お客はいなかった。

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