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国連防護軍の将校たち-2

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のロシア軍機がサラエヴォ空港に着き、パイロットに別れを告げて機を下りる。小さな空港で、ターミナルもたかだか2階建ての雑居ビルの雰囲気だった。

 エプロンを歩いていると、行く手に仁王立ちする兵士が見える。呼び止められるな、と思った。案の定、近づくと怒りの表情が見て取れ、「こっちに来い」と命令された。腕にはデンマークの国旗。今度の相手はデンマーク人将校だ。

「どうやって機に乗った」。

と、頭ごなしに尋問。かくかくしかじか、カナダ人将校に泣きついたと話す。デンマーク人将校は頭を抱え込んでしまった。

 「15分だけ猶予を与える。その間に空港を出ていく手段を探せ。さもなくば今乗ってきた機でザグレブに戻れ。15分後というのは機の離陸時刻だ」。

 追い返されると思っていたので、意外だった。またもやチャンスが与えられた。と、一瞬思ったものの、帰るしかないと再び諦めた。サラエヴォの町はセルビア軍に包囲された陸の孤島。さらにサラエヴォ空港は、その陸の孤島から飛び石状態。すなわち、サラエヴォの町とサラエヴォ空港は大小の陸の孤島で、空港から町までセルビア軍陣地を通らなければならない。距離的に徒歩はきついが、体力があったとしてもセルビア軍陣地など歩いて通過できない。行き来が許されているのは、国連防護軍(UNHCR)、国連関係者、メディア関係者のみ。現地の身元引受人が必要というのは、このためなのだ。

 ロシア軍機に戻るなんて、パイロットたちに笑われるな。そんなことを思って立ちすくんでいたら、カメラマンが近づいてきた。BBCという自己紹介を受けた。さすが英国人、礼儀正しく自己紹介から始まる。

「何をしている」。

かくかくしかじか、行き当たりばったりの道中を話す。

「オレはあのロシア軍機に乗ってザグレブに戻る。いいか、ターミナルの入り口にオレをここまで送ってきたCNNのストリンガーがいる、ボスニア人だ。そいつに町まで乗せていってもらえ」。

人生、なかなか甘い。行き当たりばったりでも、行動すれば何とかなるのだ。BBCのカメラマンに礼を言うと、

「分かったから、とにかく急げ。防弾チョッキも着ないで、気を付けろ」。

こんないい加減な東洋人の心配をしてくれて、恐縮なのだ。

 ハンガリー人と走ってターミナルの正面に回ると、20~30年落ちのボロい車が停まっていて、CNNのストリンガーであろうボスニア人がちょうど、運転席に乗り込んでドアを閉めるところだった。車の前に走り出てボンネットを両手で制する仕草をし、彼の注意を促す。「BBCのカメラマンに紹介された、乗せていってくれ」と頼み込むと、無言で首を後部座席に向けた。無愛想だが優しいのだ。

 「サラエヴォに行こう」。

連れのハンガリー人の気軽な誘い。気が付けば、サラエヴォまで来ていた。

サラエヴォの民兵。写真は全て当時のポジをスキャンしたもの。

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