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人生を迷路にしてるのはだーれだ?

ふと目が覚めると、迷路に立っていた。

暑い。屋根はなく今日は晴天だ。背丈よりも高い壁の上を風が吹き抜ける。その風を感じようと手を伸ばす。
ちなみに、ここが外なのに迷路だと分かったのは、さっき通りすがりの人が、親切にそう教えてくれたからだ。

他にも何人かの人がいて、どうやらここは広く、多くの人が迷い込んでいるようだ。
汗だくの人や、昼寝している人までいて、話し合っている人たちもいる。
「東京ドーム○○個分の広さらしいぞ」
「あちこちにヒントがあるらしい」
「ゴールには塔が立っていて、ゴールした人が道を説明してくれるんだ」

どこから得た情報なのか知らないが、こっそり聞き耳を立てる。

少しずつ思い出してきた。
そういえば眠る前からここにいた。
同じスタートから入った仲間たちとも、いつの間にかはぐれてしまったようだ。
そのことに落ち込んだ事もあったように思うが、今はもうどうでもいい。

そういえばこの迷路には、あちこちにアイテムも落ちていた。
手元には飲み物も食べ物もそれなりに残っている。
運良くそれらを手に入れた私は、いつしかこの迷路の居心地にも慣れ、くつろいで眠くなり、長い間眠ってしまっていたようだ。

よっぽど死ぬことはないと思うが、いつまでもここにいてはいけないと、目が覚めた私は思う。
ゴールを目指そうかと思い、周りを見渡す。

遠くの方に、何かがそびえ立っているのを見つけた。
あれは大きな塔だ。しかも大きなモニターまである。
噂は本当だった。
というか、そういや最初から見えてたなあのモニター。
目を凝らし、耳をすませてみる。

「ここに辿り着くにはそこを右!いや左!違う違うこっちだって!」
みたいな事を、入れ替わり立ち代わり色んな人が延々と喋っている。
そうだった。
そういえば、うんざりして見なくなっていたのを思い出した。
迷路の中にいる私からすると、高い所からされる説明は、ただの呪文だったから、聞くのをやめたんだった。

よく眠ったからか、やけに頭がすっきりしている。
眠ってしまう前、がむしゃらに走り回っていたのが他人事みたいだ。
そういえば、ゴールを目指さずアイテムを求めて走り回っていた事も同時に思い出し、誰にもバレないように一人で笑ってしまう。

その時偶然、同じスタートから入った仲間に会う。
「調子はどう?」誤魔化すように私は尋ねる。
「もうちょっとだと思うんだよね。ただ、手に入れたアイテムが重くて困っている」
「まぁ、頑張ろうぜ。」
「そうだな、一緒にゴールを目指そうな」

あれ?なんでゴールを目指していたんだっけ?
あそこには何があるのか、もう忘れてしまった。
そこに辿り着いても、あの人たちしかいないんだったら、別に行かなくてもいいや。
そう思った私は、なんだかバカバカしくなった。

ゴールに何があるのか、多少後ろ髪を引かれつつ、私はスタートに戻る決心をする。
ここが嫌になり、リセットしたくなったからだ。
さっき会った仲間が言っていたように、私にもそれなりの荷物があったが、今となっては邪魔だった。どうして大事に持っていたんだろう。
欲しい人にあげたり、どうしても必要なもの以外は捨てることにした。

眠ってしまってはいたが、忘れてしまった訳ではない。
ここまで来た道くらいは覚えている。
ここに来るまでかかった時間の何分の一かで、スタートまで戻れそうだ。

すれ違う人たちは皆、怪奇な顔で私を見る。
「なんで戻ってんの?」
「なんで手ぶらなの?」

そんな事を言いたげにこちらを見ていた。

思った通り、来た道を戻るのは大して大変ではなかった。
次の角を曲がったらスタートだった筈だ。

その角を曲がった瞬間、目の前に広がる景色に、思わず涙が出そうになる。
きれいな空が、風が、景色がそこには広がっていたからだ。

いかんいかん。泣いてる場合じゃない。
私はスタートに戻って来ただけなのだからと、一度その迷路の周りを歩いてみることにした。
少なくとも、今はまだもう一度チャレンジする気にはなれない。

やたらと広い迷路のようだ。
「東京ドーム○○個分の広さらしいぞ」も、あながち嘘ではなさそうだ。
全然知らなかった。

ここを歩いていると、さっき目覚めた場所から戻ってこれた事に心から安堵しつつ、よくもまあこんな迷路にチャレンジしてたなと思う。
頑張っていた自分を褒めてやりたいし、今も頑張っている人にはエールを送りたいと素直に思う。

しかも驚いたことに、少し歩くごとに、違うスタートがあった事にも気付く。無数と言ってもいい。
「みんなは知ってるのかな」こんな気持ちにもなる。

そうこうしていると、あるスタートの前で足が止まった。
大きな声で叫びたかったが、皆を惑わすだけになりそうで、ぐっと堪える。

「こっちにただの坂道があるぞー!」そう叫びたかった。
上り坂で遠くはあるが、緩やかで壁などない。
さっきの塔もここに建っているが、やたらと大きく見える。
すぐそこに建っているからだ。
塔に登っている人もいるが、その先にも坂道は延々と続いている。
そして、その道を行く人たちは、黙って前を向いて黙々と歩いている。
地平線の先まで伸びているようで、その先に何があるのかはここからは分からない。
私はこの道を行ってみようと決心する。

これが、2020年5月頃の話だ。
「こっちに来ればいい」なんて、大きな声で言わなくて本当によかった。

だって最近まで、また迷路に迷い込んでいたから笑
自分なりの歩みは止めずに歩き続けていたつもりだったけど、下向いてたのかな?
気がつくと「あれ?ここどこだ?」ってなってた。

改めて前を向いてみると、周りを見渡してみると、やっぱり坂道だったことに安堵している。

さぁもう一度この坂道を登り始めないとなと思っている、そんな作り話。

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