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君が5歳若くならなくても。

相方が、入院することになってしまった。


約3週間の入院が必要な程の大怪我で、心から心配だ。
直接は言えていないが、心から申し訳なく思っている。

なんせ私のせいで入院するようなものだ。
初めてこんなに離れる事にも、多少の不安を覚える。

相方と一緒に病院に着いた時から、正直君のことは目に入ってた。

“あの子も綺麗だけど、やっぱりウチのがいいな”
こう思っていたのは嘘じゃない。

別に驚かせたい訳じゃないから言っとくが、相方とは愛車の事だ。
もうひとつ言っとくと、本当は愛車の事じゃないかもしれない。

ともあれ、色々な説明と手続きを済ませた後、店の外に出た。

案の定、お店の方から君のことを紹介された。
「実はこの子は5才若いピチピチの子です」

それ以外にもあれこれ教えてくれたからフンフンと耳には入れたが、別にどうと言うことはない。
少なくとも借り物だから、大切に乗ろうと私は思う。

ただ。
乗り込んだ瞬間、数年ぶりにこう思ってしまった。
「久々の新車の匂いだな。いい香りだ。」
この話はあっさりここで終わりで、今日はその翌日だった。

汚さないように、傷付けないように乗せてもらってはいるが、
毎朝相方にしていたように、心の中で
“おはよう。今日も頼むぜ”
なんて言うのは少々躊躇うし、今のところ言う気になれない。
相方の顔がちらつく。

ただ、今日も新車のいい香りがする。
“よ、よろしく”
なんて、言ってしまいそうになる。

今日は早くに用事も終わり、別の事をしていた。
子供と遊んだり、仕事をしたりといった、まぁ至って普通の日常だ。

夕方涼しくなった頃を見計らい、犬を散歩に連れ出し君の横を通り過ぎた時、私は君の事を考えていたが、ふとこう思ってしまった。

「......?」

「“新車の匂い”って、本当にいい香りなのか?」

香りを思い出すのは難しいが、今日はとても暑かった。
暑い日差しに暖められた君に乗った時、少しだけピリッとした事を思い出した。

目が一瞬しばしばするような、深呼吸をためらうような、そんな匂いだったように思う。

決して嫌な匂いという訳ではなかったし、一瞬の事だったが、
“相方だとこんな事はなかったな”
と思った。

“新車の匂いだからいい香り”なのか
“実体として新車はいい香り”なのかに疑問をもったという、
長々と書いた割にはその程度の話だ。

“それがどうした”という話なのかも知れないが、私は考えてしまう。

今の素直な気持ちは
“やっぱり相方がいいな”
といった所だが、普段思わなかった気持ちにもなっている。

・この子ほど大事にしてあげられてないな。
・いつの間にか相方は傷だらけにしちゃったな。
・慣れていただけで次に乗った時に“嫌な匂い”だと思わないかな。

この気持ちを忘れずに大切に取っておきたい。
3週間もあれば、慣れるには十分過ぎるだろう。

意地悪な書き方をしたが、これはやっぱり愛車の話だ。
でも、そうじゃない風に捉えるのにもそこそこの話だったろう。

相方は喋れないし自分では何も出来ないから、やはり私がしっかり面倒を見る責任がある。
いつも安全に快適に運んでくれる事にも、改めて感謝しよう。
そして、少しでも一緒に走れるようにもっと大事にしてやろう。

言うまでもなく、この話の延長線上には、家族を思う時間もあった。
相方が帰ってきたら、家族みんなで写真を撮って飾ろうと思う。

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