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2014年に書かれたパンデミック後の世界

『2074年、夢の世界ーフランスのリュクスから生まれたユートピアー』

2014年に開かれたコミテ・コルベール主催のアートイベントで、パンデミックを超えた世界のことが描かれているのをご存じですか?
6人のSF小説家によって書かれた短編集が今でも無料公開されています。
先日、松木君のnoteで「アート思考」が取り上げられていたことですし、美術館になかなか行けない今、家で未来を描いた過去の作品を鑑賞してみましょう。

コミテ・コルベールとは

81のフランスブランドと14の文化機構による、フランス流の美しい暮らしを世界中に広げることを目的に活動している団体。「コミテ」は「委員会」、「コルベール」は歴史上有名な人物の名前を表します。
世界史選択だった人はこの名前に聞き覚えがあるのではないでしょうか。そうです、財務総監で宰相のマゼランやリシュリューと共にルイ14世のフランス絶対王政を支えた人物として紹介された人です。コルベールは文化人でもあり、財政管理をする傍らフランスの美術品の管理も行いフランスの技術の高さや美意識を世界に広めました。この功績から、1954年のコミテ・コルベール設立時に名前に用いられました。

コミテ・コルベールのメンバーにはCHANEL、Dior、エルメス、ラコステ、ダロワイヨなど、生活全般に関するブランドが選ばれています。どの企業でも入れるわけではなく、毎年選定が行われ、理念に背いた活動を行うとメンバーから外されることもあるそうです。

1954年の設立から60周年を迎える2014年に、メンバーが集い、60年後つまり2074年のラグジュアリーブランドのあるべき姿を、何カ月にも渡り会議をもち夢想しました。ここで生まれた理念をもとに、依頼を受けた6人のSF作家が「ユートピア」「※リュクスから生まれた夢の世界」つまり、楽観的な未来を物語化しました。この作品をもとに作られた絵画などの作品が東京藝術大学で展示されるなど、SFで長い歴史のある国として日本も深く関わりました。

※リュクス・・・真の贅沢。もとは「」という意味。ここでは豊なエネルギーや創造性といった価値観の大元となるもの。


では、この活動で生まれた『2074、夢の世界』という短編集のうち2編と、後にこれらの物語を題材に作られた作品を紹介します。

『ポルピュリオスの樹』 作:Xavier Mauméjean

2074年のパリが舞台。主人公のポールは、依頼人の望む人物に本当の幸福を思い出させる「14番」と呼ばれる仕事を行っています。

ある日、WHOのセガル代表から、数十年前に起こったパンデミック後、世界の人々に希望を与え救世主となった芸術家のアコスという女性の幸せを取り戻すことを依頼されます。色覚障害になり絶望を抱えるアコスにどのように幸福を思い出させるか。世界の構造や幸福とは何かを考えさせられる、静かな引き込まれる物語です。

決してパンデミックが物語のメインではありませんが、パンデミックによる後遺症について書かれていたりと、今だからこそ面白いと感じる部分が多々ありました。20ページ程度という短さですが十分世界観を楽しむことができます。

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小幡知世「フォア ハピネス」2017 
『ポルピュリオスの樹』を題材に作成された油彩画。


『ファセット』 作:Samantha Bailly 

2074年、数十年前にパンデミックが発生したことがここでも前提となっています。脳科学者のリュンヌ・ゲノンは、「エモティッシュ」と呼ばれる、その時の感情によって模様や色が変化する服を開発しました。例えば不安な時は黄土色に変化し、落ち着いている時は白く変化するといったような。「エモティッシュ」は世界中に広まり、これまでのコミュニケーションの方法を変化させました。

しかし、生みの親であるリュンヌの「エモティッシュ」はいつの間にか黒く染まり、変化を見せなくなっていました。開発当初の生き生きとした輝きが消えたことに悩む彼女のもとに、老舗のアパレルブランドから転職してきたマチュー・リンレーという新入社員がやって来ます。彼との出会いにより自分が真に求めているものを発見していく様が描かれていきます。

車が空を飛ぶようになり道路を走ることが禁止された様子など、ありそうでまだ実現していない設定が多く、SFとは言ってもかなりリアルに感じられました。


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王木易「Calligraphe  CALLIGRAPH」2017 
6編全てを題材に作成された作品。音声認識が発達したことで手で字を書くことがなくなり、書く行為がもはや芸術的行為の範疇になっている。人が字に求めるのはその内容ではなく人の筋肉が生む行為の美しさとその結果の形であった。


いかがでしょうか。二つの文章と作品を紹介しました。少しだけでもアートへの教養が深まったのではないでしょうか。
しかし作家本人の文章を見なければその作品を鑑賞したことにはなりませんから、下にリンクを貼ったのでぜひ飛んで読んでみて下さい。登場する世界は全て「ユートピア」です。現実逃避するのにちょうどいいかもしれませんよ。



著:よしかわ



タイトル画像 坂口真理子「きまぶり」2017

↓短編集『2074、夢の世界』pdf (無料ダウンロード可)

↓コミテ・コルベールアワード ホームページ(一部日本語解説あり)

↓コミテ・コルベール日本 ホームページ


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