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MRIからのフルーツサンド

・今日はMRI。

・MRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像診断)

・顎関節症の治療経過確認のためなので、命に別状どころか、毎日階段を使うぐらい元気ですので心配しないでください。

・とはいえ、これが本当に気が重い。

・半年ほど前、治療開始したときにもMRIをやったが、とにかく辛かった。

・なぜなら、顎関節ということで頭部MRIをとるのだが、顎の状態がわかりやすいように、口を開けたまま撮影する必要がある。

・そのため、奥歯にマウスピースをはめなければならない。

・口を大きく開けさせるためのものなので、かなり大きなマウスピース。

・それだけなら別にいいけど、撮影には15分ぐらいかかる。

・その間、仰向けにベッドに寝転んで、じっとしている必要がある。

・頭を動かしてはいけない。

・動かないように、固定するための鉄仮面のようなプラスチックの器具を被せられる。

・一切頭を動せない状態で、口がマウスピースで強制的に開いており、上を向いて寝ている。

・なにが起こるか?

・息苦しい。

・むちゃくちゃ息苦しい。

・これで15分ほど。考えただけでやばい。

・『寝てるうちに終わるんじゃない?』

・そんなことはできない。息苦しいんだから。

・ふつう、人間は息苦しくなると呼吸をする。

・マウスピースをしていても呼吸はできるのだが、実は、呼吸だけでは息苦しさは解消されない。

・ここが盲点だ。

・人間はときどき「嚥下」する必要がある。「息を呑む」という動きだ。

・そして、人間は口を大きく開けたまま嚥下できるようにはできていない。

・単純に思った。

・もし、鼻が詰まっていたら死ぬんじゃないか?

・病気治しに来てるのに、死ぬんじゃないか?

・しかし、死に直面すると、なんとか頑張れば口を開けたまま嚥下っぽいことができることに気付く。人間とは不思議な生き物だ。

・でもそれで15分を騙し騙しやり過ごすのは本当にきつい。

・という思い出が半年前にあるので、今日も憂鬱だった。

・今日も同じようにマウスピースを噛み、覚悟してベッドに寝転んだ。

・そしてふと気付いた。

・(このマウスピース、硬めのゴム製だけど、力を入れて噛み込んだらやや口が閉じられる・・・)

・これに気付いたら、少し楽に嚥下ができるようになった。

・このおかげで、今日は前回よりも全然楽だった。

・こういうこと、技師の方が教えてくれるわけでもないので、おなじ症状で来た患者さんは一体どうしているのだろう。

・みんな死にそうなギリギリの線でやり過ごしているのではないだろうか?

・検査前に問診があり、先生に『なにか気になる点はありますか?』ときかれたので、恥ずかしいけど思い切って言ってみた。

・前回、口を開けたままで息が苦しくて辛かったんですけど、あれはなんとかなるもんなのでしょうか?

・『ああ、、そうですか。頑張っていただくしかないと思うんですが、一応技師には伝えておきます。』

・やっぱり解決策はなかった。頼りになるのは自分だけだ。

・そしてマウスピース噛み込み作戦を編み出した。

・そんなこんなでなんとかMRIを終えた僕は、病院を出たあと、その頑張りを伝えたくて奥様に電話した。

・『ふーん』ぐらいの反応だった。まあそうだろう。この緊迫感は経験者以外には伝わらない。

・『そんなことより、せっかく新宿にいるなら南口の〇〇っていうお店のフルーツサンドを買って帰ってほしい。』

・ああ、これこそが日常だ。さっきは死ぬかと思ったけど、日常に帰ってきた。と思うと気持ちも晴れた。

・ところで、奥様をはじめ多くの人は「〇〇のあれが美味しい」という情報を持っている。

・僕はあまりない。

・高円寺のたんぽぽハウスの古着はやばい、とか、方南町のブックオフは結構アツい、とかならたくさんあるけど、食べ物はあまり持ち駒がない。

・フルーツサンドなど、コンビニのものでも感動できる。

・とはいえ、日常を取り戻すためお遣いを引き受けた。

・新宿の「果実園リーベル」というお店だった。

・ここのフルーツサンド。

・確かに、コンビニのよりも100倍ぐらい美味しかった。

・大人にになったら少しぐらい「〇〇のあれが美味しい」というものを持っておいたほうがいいんだろうな、と思った。

・お土産を持って家に帰る道すがら、MRIのことなど、すっかり忘れていた。

(end)

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