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人の褒め方 色々

ある日、幼稚園年長の太郎君が珍しく宿題をしてこなかった。

「先生、そろばん塾に問題集を忘れていたから宿題が出来なかった。だから今からします」

そう言って椅子に腰掛ける後ろ姿は、実直な大人の雰囲気だった。教室に忘れていた問題集を渡しながら、少し甘い考えをした。

「練習時間が始まるまでに終わらせたら、宿題をやってきたことでいいよ。ご褒美シールを貼ってね」

「でも、宿題というのは家でするものだからシールは要らないよ、先生」

なんて大人なんだろう、その小さき背中に感心し恥じ入った。彼は真面目な大人になるだろう。

「じゅくちょー」

「はい」

「太郎君は偉いですよ」

塾長に事の一部始終を話すと、彼は教室の片隅にサッと移動し、90度の角に身を隠し、頭を少し下げて壁に向かって立った。今度の背中は褒められて照れていた。

「先生、もう海に行ったらいけないんだよ」

「あら、なんで」

「だって、クラゲとかいるから泳げないんだよ」

「そうなの、クラゲに刺されたら痛いしね。先生も気をつけなくちゃ、ありがとう」
問題集の添削をする時にこっそり教えてくれた。

「今日も良くできたね。花丸を8個ゲット、凄い天才、中学生みたい」
オーバーな褒め方に、はにかみながら『やめてー』と言わんばかりに右手を振った。

某日、4年生の愛ちゃんがかなり進歩していたので褒めちぎると、満面の笑みだった。

「褒め方がオーバーだったかな、太郎君は嫌がるのよねー」

「なに」と太郎君が頭をもたげた。

ヒソヒソ話の苦手な私の言葉が漏れて彼に届いてしまった。

「太郎君は、オーバーな褒め方が苦手なんだよね」と少し離れた所に座る彼の方を向いて問うてみた。

『その通り』と言わんばかりに頷いた笑顔が印象的だった。
まさか、こんなにしっかりした幼稚園児がいるとは、親御さんも徳の高い方だろう。

それにしても、教えることの難しさを痛感した。
生徒は園児から高校生まで在籍している。年齢によって褒めたり励ましたり注意するのだが、魂年齢の高い子供が存在することを知り、学びを得たりである。

それにしても最近の小学生は、毎日学校の宿題や他の習い事も多く、スケジュール調整に忙しい。それを鑑みて宿題の無い算盤塾もあると聞く。
こんなに忙しくて良いのか、今時の子供たち。


塾長の自宅庭で育てられたフェイジョアを頂いた。
ピンポン玉程の大きさで、半分に切りスプーンですくって食べる。
奄美のガバジュースを彷彿とさせるトロピカルな美味しさに何度も手が伸びた。

フェイジョア
皿に乗るように縦長に切った

  Wikipediaよりお借りしました。

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