父のこと

アル中で、飲むと荒れた。
いつものんでいたから、いつも荒れていた。
私の大学時代には、いつもどおり荒れて、椅子で殴られた。
朝から酒に酔っていて、電話をかけてきて無理難題をふっかけられた。
頼むから死んでくれ、と、思ったこともある。

不思議なことに、1年に2~3日しらふなときがあって、そのときの父のセリフが私の人生を左右する。
酒さえのまなければ気の合う親だったが、なんせ人生の90%がへべれけの状態なので、落ち着いて話し合いができない。
でも・・・・・・

教養という言葉を聞くと、父を思い出す。
達筆だった。
いつも本を読んでいた。
時代小説、官能小説、推理小説、SF小説などなど
たくさんの本がまわりに転がっていて、整理もしないで放置されていて、私もそれを拾って読んでいた。
杜甫、李白なども、原文で読んでいた。
詩を書いていた。ほとんど漢詩だった。
神田の古書街に行くと、いまでも父の匂いがする。

私が30代になったころに、父が折り入って話があるから、3日くらい帰ってこい、という。
個人投資家になっていることは知っていたが、投資状況を見ておけ、といってきた。
金とはなにか、ということをたたき込まれた。

金(かね)は、本来、金(きん)だ。
経済を回しているのは、人の貯蓄であり、それがmoneyだ。
しかし、貯蓄とはgoldなのだ。金本位制が本来の経済である。
今の経済、金融はまやかし、だ。

銀行通帳の金額は、数字、だ。
紙幣は、紙、だ。
数字よりも、まだ、紙のほうが価値がある。
それよりも、貯蓄は、GOLDであるべきだ。

そのときは腑に落ちなかったが、父のいうとおりに、月々の金の積み立てを始めることにした。
3~4ヶ月に一日、父といっしょに、証券会社や銀行をまわることになった。
私は親孝行のつもりで父の投資につきあっていたのだが、長い年月をかけて、投資とはどういうものか、資産管理とはどうするべきか、を、教わっていたのだ。
それがわかったのは、父が亡くなって15年以上たった、今、である。

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