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芯のある音

先生がお手本を弾いてくださったとき、音が全然違う、と思った。

もちろん、プロと素人の違いはある。
先生と同じように弾けるわけがない。
先生には微妙な表情のつけ方などの上手さもある。
でも、そういう表現の巧拙ではない違いがあるような気がした。

最初は音量の違いだと思った。
私はもともとあまり大きな音を出せない。
なにかの本で、普段何も考えずに出す音がだいたいmf、というのを読んだのだけど、私のそれはよくてmp、とてもmfとは言い難い。
大きい音を出すのが苦手で、いまだにfの弾き方はよくわかっていない。
音が縮こまっていることは先生にもよく指摘される。

音が小さいから先生のお手本と違って聞こえるのかと最初は思っていた。
でも、音量の差ではなかった。

次に自分が弾いたとき、それがわかった。
自分の出す音は、頼りなくふわふわとして、意思がなかった。
なんとなく指を動かして、なんとなく音が出ていただけ。
ピアノを鳴らしていなかった。
ただ鍵盤を撫でていただけだと思った。

例えばpであっても、先生の音には固くしっかりした芯があった。
その芯の周りを強弱やニュアンスが覆って音の表情を変えていた。

そして、一番最初のレッスンから繰り返し言われていたことを思い出した。
「鍵盤の底を掴まえるように」
自分では掴まえているつもりだったけど、全然掴まえていなかった。
さわさわと鍵盤を触っているだけで、ちゃんと弾いていなかった。

ずっと大きい音を出せないと思っていたのも、そうじゃなくて、ちゃんと弾いていなかったからなのかもしれない。
芯のないふわふわした音だから、いつも弱めでfも出せない。

そろそろBEYERも終わりに近づいているというのに、いまさらそんなことに気づいたのだった。
1年半も何をやっていたのだろうか。

まだ自分でもよくわかっていないけど、力を抜くことを意識するとふわふわな弾き方になってしまう。
でも、鍵盤の底を掴まえるとき、どの筋肉が動いているべきなのかよくわからない。

筋肉を使って、力を抜いて…ピアノには相反するような表現が多い。
解剖学的・運動機能的な齟齬がワーッと頭に浮かんでくる。
youtubeでよく見る、子どものパキパキした弾き方は案外正しいんだろうな、鍵盤の底を掴まえていそうだもの。
むぅ、頭でっかちにピアノは難しい。



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