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組曲《大峡谷》より『山道をゆく』

新日本フィルnoteではダントツの情報量「岡田友弘《オトの楽園》」。《たまに指揮者》の岡田友弘が新日本フィルの定期に絡めたり絡めなかったりしながら「広く浅い内容・読み応えだけを追求」をモットーにお送りしております。今回は定期に絡まない回ですが、懐かしい話にあー!となりますよ。

学校の音楽の授業で知る作曲家や作品は多い。グローフェ作曲の『山道をゆく』もそのようにして知った曲の一つだ。確か中学2、3年生の頃だと記憶している。14歳の頃に聴いた音楽がその人に大きな影響を及ぼすという説もあるらしいが、確かにこの曲は僕にとって印象深い作品となっている。

作曲者のグローフェはポール・ホワイトマン楽団のアレンジャー兼ピアニスストとして活躍していた音楽家である。ガーシュウィンの《ラプソディ・イン・ブルー》のオーケストラアレンジを担当した人物としても知られている。また《大峡谷》の他にもアメリカの「アメリカらしい場所」をテーマにした多くの管弦楽作品を作曲している。《デスバレー組曲》《ナイアガラの滝組曲》《ハドソン川組曲》《ハリウッド組曲》そして《ミシシッピ組曲》だ。グローフェの楽曲を聴いていくことで、アメリカ横断旅行を脳内で楽しめるに違いない。

1977年から17年間にわたり放送された、日本テレビ系のテレビ番組『アメリカ横断ウルトラクイズ』でクイズの解答者が勝ち抜ける際に流れる音楽は、グローフェの《ミシシッピ組曲》の中の楽曲である。一番有名な勝ち抜け音楽が4曲目の『マルティ・グラ』、準決勝などの勝ち抜け音楽は2曲目の『ハックルベリー・フィン』だ。アメリカ的な明るいサウンドと親しみやすい音楽がグローフェの特徴といえよう。機会があれば他のグローフェ作品も聴いてみてはいかがだろうか。

『アメリカ横断ウルトラクイズ』の第8回までの決勝戦は、経営破綻して現在は存在しない航空会社「パンアメリカン航空(パンナム航空)」の本社ビルの屋上で行われていた。決勝進出した2名がヘリコプターでパンナムビルの屋上に降り立つ姿は、ニューヨークの摩天楼の景色とともに小学生の僕の目にも鮮明に焼き付いている。現在ビルは「メットライフビル」と名称が変わっているが、現在もニューヨークにある。パンナムといえばもう一つ思い出すのが大相撲の表彰式の際の「ヒョーショージョー!」と流暢な日本語で土俵上の優勝力士にトロフィを渡していたアメリカ人、パンアメリカン航空極東地区広報担当支配人であったデビット・ジョーンズさんの姿を思い出す方も少なくないだろう。「飛行機つながり」でいえばグローフェの管弦楽作品に『航空組曲』というものもある。

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《大峡谷》とは有名なアリゾナ州北部の『グランドキャニオン国立公園』の風景を描いた全5楽章からなる管絃楽組曲である。『夜明け』『赤い砂漠』『山道をゆく』『日没』『豪雨』という構成で、グランドキャニオンの風景を見事にオーケストラのサウンドで描き出している。

自然を描写した有名オーケストラ作品といえばベートーヴェンの《交響曲第6番『田園』》やリヒャルト・シュトラウスの《アルプス交響曲》などが知られている。このような自然の風景を描写する音楽には共通する部分も多い。「夜明け」や「日没」の描写もそうだが、「嵐」や「豪雨」の描写は欠かせないものとなっている。《大峡谷》も第5楽章で豪雨を表現している。打楽器を効果的に使用して見事に嵐と豪雨の風景描写に成功しているが、その表現はリヒャルト・シュトラウスの《アルプス交響曲》とよく似ている。《アルプス交響曲》では嵐や豪雨の表現のために「ウインドマシン」や「サンダーシート」という新しい「楽器」を取り入れた。また山中の滝の描写においてはチェレスタを効果的に使用している。 

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『山道をゆく』でも効果的な楽器使用が多く見られる。山道を行くロバの足音を描写したココナッツシェルや山小屋で流れるオルゴールを再現したと言われるチェレスタなどだ。アメリカの「フィドル」音楽を彷彿とさせるコンサートマスターのソロも非常に印象的な部分といえよう。エリック・カンゼル指揮、シンシナティ・ポップス管弦楽団が録音した『豪雨』の部分では本物の雷音が演奏に合わせて録音されており、迫力満点だ。当時のCDの注意書きには「スピーカーの音量に注意!」と真面目に書かれていたことを思い出す。「スピーカーが壊れる恐れがあります」という恐ろしい注意書きとともに・・・。

この『大峡谷』を使用した実写映画をディズニーが製作している。1959年の短編映画『グランド・キャニオン』だ。アカデミ短編実写賞も受賞した作品で、同時上映された作品はチャイコフスキーのバレエ音楽を題材としたアニメ『眠れる森の美女』である。この短編映画は現在『眠れる森の美女』の D V Dやブルーレィの特典映像として収録され、今も視聴することができる。当作品では峡谷にいる動物たち(冒頭と終盤のヤマネコをはじめ、サソリやヘビなど)のコミカルな動きや生態を撮影し、それと音楽を融合させている。

(文・岡田友弘(指揮者))

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「オトの楽園」
岡田友弘(おかだともひろ)

1974年秋田県由利本荘市出身。秋田県立本荘高等学校卒業後、中央大学文学部文学科ドイツ文学専攻卒業。その後色々あって桐朋学園大学において指揮を学び、渡欧。キジアーナ音楽院(イタリア)を研鑽の拠点とし、ヨーロッパ各地で研鑚を積む。これまでに、セントラル愛知交響楽団などをはじめ、各地の主要オーケストラと共演するほか、小学生からシルバー団体まで幅広く、全国各地のアマテュア・オーケストラや吹奏楽団の指導にも尽力。また、児童のための音楽イヴェントにも積極的に関わった。指揮者としてのレパートリーは古典から現代音楽まで多岐にわたり、ドイツ・オーストリア系の作曲家の管弦楽作品を主軸とし、ロシア音楽、北欧音楽の演奏にも定評がある。また近年では、イギリス音楽やフランス音楽、エストニア音楽などにもフォーカスを当て、研究を深めている。また、各ジャンルのソリストとの共演においても、その温かくユーモア溢れる人柄と音楽性によって多くの信頼を集めている。演奏会での軽妙なトークは特に中高年のファン層に人気があり、それを目的で演奏会に足を運ぶファンもいるとのこと。最近はクラシック音楽や指揮に関する執筆も行っている。日本リヒャルト・シュトラウス協会会員。英国レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ・ソサエティ会員。マルコム・アーノルドソサエティ会員。

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