事業会社での経験を強みにプロジェクトを成功に導くビジネスデザイナーの現在地
自社が直面するあらゆる課題に対し、企業は日々対策を模索し取り組みを進めている。しかし、社会や業界を俯瞰してみると、多くの企業で似たような課題に直面し、同じような対策を講じていることに気付かされる。
このような状況下において、「企業の垣根をこえ、集合知で課題解決に取り組むことができれば、ユーザにとってよりよいサービスを実現できるのではないか」と考え、キャリアチェンジを行った人物がいる。
企業の新規事業・サービス開発に特化したデザインコンサルティング企業 NEWh(ニュー)でビジネスデザイナーとして活躍する谷口 洋(以下、谷口)だ。それまで事業会社でキャリアを積んできた谷口が、なぜ支援企業側に身を転じたのか。その真意を探る。
事業者側にいたからこそ感じた違和感
現在、ビジネスデザイナーとして、数々の企業でアイデアを発想し具現化する仕組みを構築している谷口のキャリアは、ITベンダーで大企業向けの業務システム開発を行うエンジニアからスタートした。
その後、かねてから実現させたかったブラジルへ留学。帰国後に入社した企業でブラジルブランドのECサイトの立ち上げに取り組んだ。そのとき谷口は、生活者に近い領域で仕事ができるECサイトに魅力を感じたという。
以来、10年以上に渡り小売企業やECプラットフォーム提供企業で、プロダクト・マネージメントに従事。有形物だけでなく、飲食や旅行といった無形物などの商材を扱いながら多面的にECに関わってきたが、実績を重ねるにつれ、谷口の中である思いが強くなっていった。
「ECサイトを運営している企業では、提供するサービスに違いがあっても、相対するユーザーによりよい体験を届けるため、UXの改善など似たような課題を抱え、日々取り組んでいるという、当たり前のことに気がつきました。そこで、集合知で課題解決に取り組むことができれば、ユーザーによりよいサービスを提供できるのではと考えるようになりました」
その思いを実現するため、谷口は事業者側ではなく、企業を支援する側で自分のスキルや知見をいかそうと動き出す。そこでたどり着いたのがNEWhだった。
「NEWhはさまざまな企業の新規事業開発を支援しているので、企業規模や業種ごとの課題を把握することができます。さらに少数精鋭だからこそのスピード感をもって活動していることに魅力を感じました。また、代表の神谷(NEWh 代表取締役 神谷憲司)から聞いた、『事業開発支援を通じて世の中をよくしたい』という考えに共感し、一緒に働きたいという思いを強くしたことを覚えています」
NEWhにジョインして以降、谷口は業種ごとの共通課題はもちろん、企業特有の課題解決や新規事業の立ち上げに奔走している。
自身の経験をもとに企業成長へと導く
企業の新規事業に伴走するNEWhにおいて、事業者側で経験を積んできた谷口の存在は大きい。
同社が手掛けるプロジェクトは大企業を対象としているが、規模が大きいほど新規事業に対する考え方は、それを担う立場によって異なることがある。
例えば、経営層が事業継続のために必要不可欠だと考えて新規事業を立ち上げたとしよう。この時、現場の担当者からすれば新規事業に取り組むことは、既存業務を圧迫するものと捉えられてしまうことは珍しくない。しかし、新規事業を成功に導くには、こうしたギャップを取り除き、実際に運用していく現場担当者のやる気を引き出すことが必要不可欠となる。
このようなシーンにおいて、谷口の経験が大いに役立つ。現場担当者の気持ちに寄り添うことができる谷口にしかできないアプローチで、コミュニケーションを深め、状況を改善。また、NEWhに入社する前に勤めてきた事業会社がベンチャーだったことも好影響を及ぼしていると谷口はいう。
「少々大胆なアイデアでも仮説を立ててプランニングし、周りの意見を聞きながらブラッシュアップしていくノウハウを得られたのは、ベンチャー企業で仕事をしてきたからだと考えています。そして、プラン作成後は実現に向けてすべきことを具体化することも同様です。多くのベンチャーでは、『世の中にカタチとして出してみなければ意味がない』というマインドが根付いているので、こうしたノウハウやマインドが新規事業開発支援に役立っていると実感しています」
ビジネスデザイナーでありながら、プロジェクトマネージャーが行うようなステークホルダーとの関係づくりが自然に行えることが谷口の強みの1つだ。しかし、それには高いコミュニケーション能力が必要となる。だが谷口は、自身を「コミュニケーション能力が優れているわけではない」と分析する。
「関わってくださる方々の思いや悩みを汲み取れているか、ということには常に気をつけていますが、裏表なく、お互いを尊重しながら、ストレートに本音で話し合うことができるようにしたい。大切にしているのはそれだけです」
質問の意図を慮りながら、穏やかかつ理知的に話す谷口が、高いコミュニケーション能力があるのは間違いないが、こうした謙虚さも、谷口が人を惹きつける要因の1つといえそうだ。
ビジネスデザイナーのスキルを結集し、世の中を変えていく
「ビジネスデザイナーに求められることは?」という問いに、「好奇心と探求心、そしてリアルな事業経験と伝える力」と答えた谷口。そんな彼が仕事をする上で特に心がけていることが、情報のインプットに対する精度を高めることだ。
「事業開発を実現していくためには、支援する私たちもクライアントの知識レベルと同じであることが求められます。それ故、顧客側が有する情報をいかに細かい粒度で理解し、最適な解決策を引き出すかが、プロジェクトの成否を分けるポイントになります。そのため、情報のインプットからアウトプットまで、できることすべてに対する努力は惜しまないようにしています」
ビジネスデザイナーとして活躍できる人材について、谷口は次のように語る。
「新しいことが好きで、『世の中を少しでもよくしたい』と思える人が向いていると思います。NEWhのメンバーはみんなこの思いを胸に仕事をしていますが、現在はメンバーの数も増え、組織として対応できる幅が広がっていることを実感しています。これからさらに新しい仲間が増えれば、より多くの企業と共創する機会が生まれ、新しいサービスやプロダクトを世の中に届けることが可能になります。
また、今後は大企業だけでなく、意欲的な中小企業やベンチャー企業の方々とも、新しい価値創造に向け、邁進していければと思っています」
組織内のギャップを埋めながら、新規事業を創出する環境を整えていく谷口。彼の活躍が、支援先企業だけでなく、広く世の中に好影響を与えることに期待したい。
制作・Forbes JAPAN CAREER
文・本間幹 写真・小田駿一
編集・CRAING