見出し画像

a(n)action山下莉奈さんインタビュー

プロフィール

山下莉奈さん

慶應義塾大学総合政策学部の2年生で、現在はa(n)action(読みは”アナクション”)というチームで環境問題に取り組んでおり、Climate Clockという気候変動のタイムリミットを表す時計を日本中に設置する取り組みを行っている。Climate Clockを設置することによって数字として環境問題を可視化し、自分の未来として実感を持ってもらうことで環境問題により関心を持ってもらいたいそうだ。


環境問題への興味、そして行動へ

社会問題のひとつである環境問題に興味をもったのは受験生のときで、今では同じ総合政策学部に通う幼なじみが環境問題について活動していたことがきっかけだったそうだ。そのため興味を持った環境問題についてより深く学ぶために自身もこの学部を選んだという。

山下さん
「総合政策学部って社会イノベーションだったり、環境問題を学べるというのもあったので選択しました。環境問題についての授業だったり、ソーシャルイノベーションという社会運動がどうやってうまくいくかであったり、ソーシャルビジネスといってビジネスと社会課題の両立をどうやってするかという勉強をしています」

大学でソーシャルビジネスについて学んでいく上で、課題も見えてきているそうだ。NPOや学生団体という枠組みは大きな力はあるものの、社会を変革するという点においては非営利以外の分野も重要になってくるため、地域や企業、若者など環境問題の界隈にいない人たちを巻き込んで取り組んでいくことの必要さを感じているという。そのためにビジネスとの両立や、アイディアを社会問題とかけ合わせていく、そういったことに興味があるそうだ。中学や高校時代の友人よりも現在の学部では周囲に環境問題やその他の社会課題にも関心が高い友人が多いようで、そういった点でもより多くの刺激を受けているという。

山下さん
「私の周りで環境問題に興味がある人は、自分が実際に災害で被害を受けたり、ドイツでの環境問題に対する対策を求めるマーチに参加したりして影響を受けた人もいれば、台風などのニュースを見て最近災害が多いなという印象を受けてFridays for Future Japanの団体に参加する人もいます。なのできっかけとしては色々あるんですけど、それを自分ごととして捉えられるかというのはそれぞれの興味関心や趣味趣向によるのかなと思います」


ともに活動する仲間たち

山下さんはFridays for Future Japan(※)という運動に取り組む学生団体で活動しており、そのなかでa(n)actionというチームを作りClimate Clockを広める活動に取り組んでいるという。チームは現在8人で活動しており、8人それぞれ明確に役割が決まっているわけではないそうで、高校2年生から大学3年生までと所属や学年も様々だそうだ。

山下さん
「a(n)actionっていうチームを立ち上げた背景としては、グレタ・トゥーンベリさんっていうスウェーデンの環境活動家の方がいるんですけど、その方の環境団体でもともと活動していて、アプローチ方法がデモとかストライキとか、学校を休んで経済産業省の前でスタンディングしたりとか感じで、一般的には意識が高いとか過激だとか捉えられてしまうアクションの形をとっていたんですね。それだとより多くの人を巻き込めないんじゃないかっていうふうに考えて、もっと自分たちも楽しいし他の人も興味を持ってもらえるようなアクションの形をとりたいということで、今のa(n)actionという団体を立ち上げました」

※2018年8月に当時15歳のグレタ・トゥーンベリさんが、気候変動に対する行動の欠如に抗議するために、一人でスウェーデンの国会前に座り込みをしたことをきっかけに始まった運動


Climate Clockを広める

Climate Clockは2020年にニューヨークで初めて設置されたそうだ。現在はスコットランドのグラスゴーや韓国のソウルにも設置されており、そういった海外で設置されているものを参考にして日本でも広げるための活動をしているという。公式の「Climate Clock World」というところでClimate Clockの作り方は公開されており、その作り方をもとにしてClimate Clockを制作し設置を進めているそうだ。Climate Clockは現在の二酸化炭素の排出ペースで、産業革命以前と比べて地球の平均気温が1.5度上昇するまでの二酸化炭素排出量(炭素予算と呼ばれる)に至るまでのタイムリミットを表しており、この1.5度を超えてしまうと地球環境が以前の状況に戻せなくなってしまうことがIPCC(気候変動に関する政府間パネル)によって報告されている。

現在チームでClimate Clockの設置に取り組んでいる山下さんだが、実際にClimate Clockを設置する理由についてこう語る。

山下さん
「環境問題を自分ごととして捉えてもらうため、Climate Clockを設置することでより多くの人に気づいてもらいたいっていうのがあるんですけど、ポイントとしては気候変動xアートや気候変動x音楽といったいろんなカルチャーと融合させて、そのカルチャーのお店や商業施設とコラボすることですでにそこにいた人たちを巻き込んでいくという風に考えています」

実際にClimate Clockを設置しているライブハウスや子育て支援施設では「初めて気候変動にタイムリミットがあることを知った」や「時計を見たことで自分の問題として考えられるようになった」といった声をもらうこともあるという。時計を設置したことで、環境問題にタイムリミットがあることを知ってもらうことができ、興味や関心を持ってもらえたそうだ。

また日本国内で独自に設置活動を行っている理由としては、このように語っている。

山下さん
「海外の公式のものってなると英語だけだったり、個人的な印象としては結構怖い印象があって、ホームページにカウントダウンが大きく表示されていて、切迫感や脅迫感みたいなものを覚える印象があって、それは危機を伝えるためにやってるとは思うんですけど、それよりも楽しそうとかかっこいいとか、この時計イケてるけどなんだろうみたいな、ポジティブな動機で気づいてもらいたいっていう理由があって日本独自で作っています」


理想は意識を変えて行動まで変えること

Climate Clockの設置のイメージとして山下さんは、「気付きの種を蒔いているイメージ」だという。設置したClimate Clockと設置した場所やアーティストなどとのコラボレーションによって気候変動と絡めたイベントなどを実現し、それが新たな花を咲かせていくという感覚だそうだ。そういったイベントに参加することによって知識がなくてもちょっとしたことから行動することが大事だということを伝えたいという。好きなことや興味のあることで選択を変えてみるというアクション、例えば洋服を買うとしても再利用率の高いものを選んでみたりといったことでも、実際に行動に移すことが大切だという。Climate Clockには二次元バーコードがついており、それをスマホなどで読み取るとホームページが表示され、環境を守るための行動の指針として様々なアクションを提示しているそうだ。

山下さん
「環境問題はそれなりの知識がないと行動しちゃだめなのかって考えている人だったり、アクションを起こすのに抵抗があるっていう人がたくさんいるんですけど、ちょっとでも消費の選択を変えてみるとか自分が好きなことだったり興味のある分野でちっちゃなアクションでもいいということを伝えたいです。パワーシフトと行ってエネルギーを再生可能エネルギーに変えてみるとか、古着を着てみるとかちっちゃいアクションから影響力の大きいアクションまでホームページでは紹介していて、全然知識がなかったりそういったアクションが初めての人でも、何をしたらいいかというのがわかるように導線を作っています」

若い人々にアプローチをしていきたいとの思いから、より関心を持ってもらうために心がけていることがいくつかあるそうだ。InstagramやTikTokなどのSNSを通じて広報活動をしており、動画を投稿する際などにはポップな感じのトーンや音楽を使用して、環境問題というテーマに対して堅苦しいイメージを与えないよう純粋に楽しんでもらえる動画にすることを心がけているという。またClimate Clockの最初の設置場所として渋谷を選んだ理由も若者を意識しており、様々な流行が渋谷から始まっていることから渋谷を起点にして日本全体に広めていきたいそうだ。気候変動カルチャーがイケているもの、かっこいいものという流れを作り、若者から日本全体やすべての世代へと伝播させていくことを目標としているという。そのため、イベントを開催する際もカラフルでファションを楽しんでいるような服装を意識したり、まずはコンテンツとして楽しい、デザインとしてかっこいいものであることを重視し工夫を凝らしているそうだ。

もちろん独自のイベントだけではなく、より問題意識に重点を置いている団体とのコラボレーションもあるそうで、そういった団体とはインスタライブやフリーマーケットといった様々なジャンルとコラボレーションしているという。またこれからアーティストなどとコラボレーションして、アーティストなりのClimate Clockを作るなどのプロジェクトも予定しているそうだ。


システムチェンジをめざして

Climate Clockを広め気候変動を乗り越える上で、特に企業や政府の動きによって抜本的な対策を行うことのできる行動につなげるための「システムチェンジ」という考え方を大切にしているそうだ。Climate Clockの指し示している炭素予算の期限において、日本における二酸化炭素排出量の多くはエネルギーや産業、輸送といった大企業の活動によって消費されている。そのため大きな力を持っている企業や政府に対してのアプローチが必要だと考えているという。

そういう理由から一人ひとりの小さなアクションがシステムチェンジへとつながっていく、自分たちの力でシステムチェンジを起こしていくんだという意識を持ってもらうため、Climate Clockについている二次元バーコードからホームページを開き、ページ内のボタンを押すことで環境省へ通知が行くようなシステムを構築しているそうだ。現代では若者の政治に対する無関心や、諦めがあると言われていることに問題意識を持っており、なにか問題があれば自分たちで変えていくという意識や、実際にアクションを起こして自分の理想や願いを叶えていくといったところまで人々が行動できるようになって欲しいとの思いもあるという。


活動の難しさ

初めのうちは資金の確保で苦労したそうだ。企業などにアピールして設置をお願いする際などは、Climate Clockを設置したい、社会課題に対してなにかしたいと言ってくれる担当者はいるけれど、その気持ちとは裏腹に予算の都合上お金を割くことができないというもどかしさにぶつかったこともあったという。

またClimate Clockを設置することによってグリーンウォッシュに使われないように設置場所に関しても入念な議論を行っているそうだ。グリーンウォッシュとは企業などによって実態が伴っていないにも関わらずイメージ的に環境に配慮しているように装うことであり、こういったことにClimate Clockが利用されないように配慮しているという。

上の世代の方々にも意識を持ってもらうという点についても、現状では考えてもらえるきっかけを提供している段階であり、地道ではあるけれども将来を見据えて協働していきませんかというふうに伝え方を工夫しているそうだ。きっかけを提供するという点では、危機感を共有しても具体的な行動をイメージしづらいため、相手が好きなことや得意な領域で取れるアクションを提案したり、ポジティブなメッセージの発信をするように心がけているという。

そういった中でも徐々に環境問題への取り組みの輪は広がっており、目に見える企業の取り組みとしてはコーヒーショップで紙ストローの提供が始まったことや、ファストファッションブランドを持つ企業がリサイクルの取組みを始めたりと、少しずつ変わっている実感を得ているそうだ。またこの活動がメンズファッションライフスタイルメディアであるHIGHSNOBIETYの雑誌の10月号にも取り上げられたという。

この活動の現在の目標について山下さんはこう語る。

山下さん
「大学だったらキャンパスの中で友達とこういう選択をしたとか、アクションをとったとかが当たり前にできることや、3人に1人がClimate Clockっていう名前を知ってる状態というのが理想の状態です。」


むすびに

地道な活動から大きなシステムチェンジへとつなげていくために行動する。普段の生活でできることをやっていく。そんな小さなアクションの積み重ねが大切で、それをもっと多くの人が当たり前のようにできる社会を目指したい。そんな思いがとても伝わってくるインタビューだった。Climate Clockは一つのきっかけや自分がどんな事ができるかという気づきであり、これをきっかけによりよい環境と社会を実現できるのではないかと感じることができた。

インタビュー:茶谷力丸
文章:尾本将太

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?