Cross Album Notes for "DOOM"

家主 2nd Album "DOOM"へのショートライナーノーツです。(以下、敬称略)

・20世紀を迎えてからの約20年間が丁度10代から20代の時期にあたる私が、おそらく同世代であろう家主が鳴らす音楽を聴くと、きっと彼らも自分と同じような音楽を聴いてきたのだろうと思う。2000年代前半に一斉を風靡した日本語詩を中心とするポップ・パンクが持っていた危うさと混沌。今や省みられなくなってしまったギター・ロックの誠実さと詩情。それらのバンドやミュージシャンが敬愛しているというきっかけで手を伸ばした90年代USオルタナティヴ・ロックの輝きと情熱。上京してきた都会の地で出会った所謂“東京インディー”以降のインディー・ロックが持っていた軽やかさと底流にある憂い。本作『DOOM』を聴くとそれらの音楽と情感が次々と脳裏に浮かんでは消えていく。

素肌を時には削り取り、時には柔らかく包み込むような緩急自在のギター・オリエンテッドなバンド・サウンドが、曇りなき青空へと舞い上がるように爽やかで鈍色の空の下を埋め尽くすようにメランコリックでもあるメロディーに乗って心を揺さぶる。季節感を色濃く感じさせる風景描写を下地に、モノクロームな日々のただ中で生じる衝動や葛藤、憂鬱、孤独を肯定するのでも否定するのでもなく、常にはぐらかし続けるリリックも特徴的だ。そのような家主の音楽が持つ揺れ幅(せわしなさや落ち着きのなさと言い換えてもよい)は、どうしてか目を向け、耳を傾けずにはいられないいかがわしさや得体の知れなさというロック・ミュージックが持つ根源的な魅力を本作にもたらしている。本作を聴いて冒頭に述べたような様々な音や情感がごちゃ混ぜになって体を突き抜けていくのは、そのように一つでは掴みきれない家主の音楽をどうにか自分の中で“理解”しようとしているからだ。

言い切ろう。今、いや過去を見てもこれほどまでに開放的で内省的で衝動的で、優しく麗しく怪しいロック・アルバムはどこにもない。このアルバムで私はロックと出会いたかった。それほどまでに本作に詰め込まれた家主の音楽は透明で混乱し、美しく澱み、誠実で不真面目だ。ロックの魅力と理想を不格好に詰め込んだこの『DOOM』に拍手と喝采を。少なくとも私はずっと、ずっとそうしていたい。
-尾野泰幸


・11月にサブスクリプション・サービス「AWA」で公開された、“DOOMな時に聴きたい曲”というプレイリストが最高に面白い。セレクトしたのはもちろん本作『DOOM』を制作・発表した家主の面々。並んでいるのは、ミスチル、マイラバ、ル・クプル、岡村靖幸、中谷美紀、トゥール、レディオヘッド、ツェッペリン、ローラ・ニーロ、ジョン・フェイヒィ……という、“DOOMな時”ってそもそもどういう時なんだ? という突っ込みを入れたくなる選曲であることに、なるほど彼らが“自分の運命を変えた”と思う曲なのだろうと極めて凡庸に納得しつつも、いやこれは単純に嗜好の異なるメンバー4人が思いついたまま好きな曲を持ち寄っただけではないのか、なんて夢のないことも言いたくなったりもするのだが、ともあれ、まあ、家主とはそういうバンドなのだ、そしてこれはそういうアルバムなのだ、と、この『DOOM』を聴きながらとりあえずは納得してみているところである。DOOMって言葉は、音楽好きならそのあとにMETALという言葉が大概はくっついて、あの激ヤバな感じの音が頭にガンガン鳴り響くわけだが、つまりは“悪い運命”という絶望的なニュアンスのもと、ミスチルからジョン・フェイヒィに至る曲によって家主は悪の道へと引き込まれたのだという解釈になってしまうのであって、そして、そんな家主に夢中になってしまったあなたや私もまたもはや後の祭りのごとく破滅的なまでに悪の道の突き当たりで最後の審判がくだされようとしているということに、いい加減気づいた方がいいのかもしれないし、本当は気づかない方がいいような気もして、今の私にはどっちをとっていいかまだわからない。

ただ一つ言えるのは、3年前にリリースされた田中ヤコブのファースト・ソロ『お湯の中のナイフ』のラスト曲に、このアルバムのタイトル「DOOM」という曲があったこと、ジャケットのアートワークから灰野敬二や裸のラリーズの作品をなんとなく思い出すなどということは、まあ、悪の道に引きずりこまれてしまったが刹那、その音楽がドゥーム・メタルであろうとフォークであろうと、生きるか死ぬかにおいてはどうだっていいということだ。属性はかくも脆い。家主はかくも強い。嗚呼。
-岡村詩野


・私は家主の音楽を誤解していたようだ。捻くれ者の陰を漂わせつつも、大学の部室で鳴らされたモラトリアムの余韻を永遠に引き伸ばしたかのような甘美で危ういナイーブさに満ちたポップソングとして彼らの音楽を受け止め、楽しんできた。しかし今回の2nd album『DOOM』を聴いて、その印象は大きく変わった。彼らの深淵を覗く覚悟を甘くみていたのかもしれない。

破滅、死、最後の審判…避けられない悲運を感じさせるドス黒い言葉のタイトル。最初にそれを目にした時には、おいおい、いくらコロナ禍の鈍色の空気の中でのリリースだからといっても、流石に大仰すぎじゃないかと彼らの黒光りしたユーモアに思わず笑ってしまった。さて、どんな感じなのかとM1「近づく」のイントロを再生すると昨今のポップシーンではなかなか触れることがないようなハイゲインで重心の低いギターの渦が飛び込んできた。アルバムタイトルそのままに擬態した音に、笑いを堪えることができない…。しかし田中ヤコブが〈また崩れてしまった初めから始めなきゃ〉と最初の一節を歌い出した途端、ヘラヘラと笑ってもいられなくなったのだ。このコロナ禍2年弱の多くの人の苦しみ(もちろん自分も含む)をあまりにも端的に代弁してしまう完璧な歌い出しに緊張感が走った。〈要らなかった一日 重ね合わせて僕は終わりに近づく〉という締めくくりの言葉を聴いて、皮肉混じりのブラックジョークでもなんでもなく、彼らはひどく大真面目に自分たちの”DOOM”を見つめた音楽を提示してきているのではないのか?という想いが湧き、それが確信めいてくる。

実際に”DOOM”なサウンドを全面的にフィーチャーしたのは「近づく」のみで、以降は元来もつポップセンスの輪郭線をそのまま太くしたような愛すべきポップソングが続くのだが、冒頭で示された絶望感と諦観の余韻は終始、通奏低音として鳴り響き続ける。テンションコードに彩られた美しいコード進行の奥にも、カタルシスたっぷりのエンターテイナーなギタープレイの途切れ目にも”DOOM”な音が鳴っていないのに確かに鳴っているのだ!油断を許すと飲み込まれてしまう深淵を覗きながらも〈揺れる心なら好きにさせとけよ〉(M2)と刹那に身を任せる覚悟を決めたり、〈気楽にいこうぜ〉(M6)と開き直ってみたり、はたまた最後の日が近づくことをふやけたテンションで歌ってみたり(M10)(それをあくまで「老年の幻想」とタイトリングする冷めた視線があったり)様々な心情の移ろいが、このアルバムの楽曲には抵抗の痕跡のように刻まれている。”DOOM”な響きを感じながら何度もこのアルバムをリピートしていると、彼らの振り切れてバンド然としたロックサウンドが祭壇の前で奏でられる儀式的なものにすら思えてきた。音自体はこんなに煌きに満ちているのに。
-新美正城(Give me little more./ TANGINGUGUN)


・家主のことを「部室」みたいなバンドだと書いたことがある。失礼な!曲がりなりにもセカンド・アルバムをリリースしたバンドに対して、まるでアマチュアみたいな書き方するなんて。だけど、誤解しないでほしい。ぼくはそれを褒め言葉として書いた。別に部室から出なくたっていいじゃないか。よそ行きになることで、この言葉にできない空気をなくしてしまうくらいなら。

どこかを目指し、何かを成し遂げる意欲というモチベーションを否定はしない。だけど、ここで、こいつらと、このままで、と迷いなく願う心が放つ輝きが好きだ。早足に急ぎ去る時代を射程に狙い撃つ才能は素晴らしいものだが、ぐるぐるめぐる時やうつろう季節の美しさを見失っているとも思う。

家主には、この4人で出かけた合宿の最中に、遠くに見える鉄塔を目指して「おかしいな、まだ着かないな、この辺で休もうか」とか言いながら小さな街や原っぱをずっと歩き続けてるような印象がある。ちょっと道を間違えて行き止まり、雲行きもあやしくなり雨宿りする羽目になったとしても、不思議と泰然自若。なるようにしかならないなと苦笑いしながら、自分たちのそのままをあきらめずに、心の背をすくすくと伸ばす。
 朗らかっぽく書いているけど、ある程度生きてみたらわかるはず。そんなことなかなかできっこないって。「昔はよかったね」とか「あれは恥ずかしかったね」と若き日を恥ずかしそうに笑い合うのは誰にだってできても、そのままであり続けることは難しい。家主のライブを見ても、音楽を聴いても、いつも思うのはそんなことばっかりだ。でも、家主が最高なのは「過ぎた昔を思い出す」からじゃない。次の曲でも、その次の曲でも、その次の次の次の次の次の曲でも、この音楽が鳴っている最後の瞬間まで「忘れていたことをこれから先も思い続けられる」と信じられること。それが一瞬の夢だとしてもかまわない。PLAYボタンを押せば、またイチから始められるから。
-松永良平(リズム&ペンシル)


[家主”DOOM” Release Tour 2022]

-大阪公演- <One Man>
2022/2/19(土) at 心斎橋 ANIMA

-静岡公演-
2022/2/20(日) at 静岡 Freakyshow
Support Act:henpiano

-岡山公演-
2022/3/5(土) at 岡山 PEPPER LAND
Support Act:マドベ

-名古屋公演- <One Man>
2022/3/6(日) at 今池 得三

-青森公演-
2022/3/19(土) at 青森 SUBLIME

-仙台公演-
2022/3/20(日) at 仙台 FLYING SON

-東京公演- <One Man>
2022/4/3(日) at 渋谷 WWW X

-松本公演-
2022/4/9(土) at 松本 MOLE HALL
Support Act:コスモス鉄道,TANGINGUGUN

-札幌公演- <特別編>
2022/4/16(土) at 札幌 SPiCE
Guest:台風クラブ

-京都公演- <特別編>
2022/4/29(金・祝) at 京都 磔磔
Guest:台風クラブ

And More !


家主 2nd Full Album『DOOM』
2021.12.8 Release / NFD-001
01.近づく
02.NFP
03.にちおわ
04.夏の道路端
05.路地
06.たんぽぽ
07.めざめ
08.飛行塔入口
09.それだけ
10.老年の幻想
11.The Flutter
※CD版封入特典:「"DOOM"レコーディングドキュメンタリー」ダウンロードカード
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