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芝国際の騒動に思うこと

こんにちは。予備校講師・受験コンサルタントのシンノです。
今年の中学受験では芝国際中学校が良くも悪くも話題をさらいました。2/1から2/5までのすべての入試が実質倍率10倍以上。入試の不手際も相まっ
て、受験生の保護者の方を中心に「怨嗟の声」が漏れてきています。

今回の騒動について、塾屋の立場で(ただし、中学受験は担当していないので当事者ではない「外野」の立場で)言わせていただくと、学校側が批判される面は、言われているほど多くはないと思います。ただ1点を除いては。

入試の出題ミスや合格発表の遅れ、あるいは受験生と入学手続者が鉢合わせするような導線といった、入試当日の運営の拙さというのは芝国際だけに限った話ではありません。近年は武蔵中で出題ミスもありましたし、ネット発表が一般化する前には桜蔭中でも合格発表時刻がずれたこともありました。ただ、それについて学校側がそれほど批判されたわけでもないと思います。

今回の騒動で特徴的なのは「倍率が高いこと」に批判的論調が目立つという点です。本来倍率が高いことは学校側の落ち度ではありません。芝国際中でも全ての入試回で定員を超える合格者をきちんと出しています。合格者を不当に絞ったから倍率が高かったというよりも、単純に出願者が多かったから倍率が高かったというべきであり、これは学校の責任ではありません。

ただ、ここで芝国際が問題になるのは、学校説明会で「合格者を多く出す」と言ってしまっていたことです。私もこの動画を事後で確認しましたが、定員が少なくて不安だという質問に対し、「教室の方は中2・中3・高2・高3の方がまだ空いていますので、比較的ゆとりをもって合格を差し上げることができるのではないか」と開校準備室長の方が明言されています(29.30くらい)。これ以外の説明会でも同趣旨のお話があったようです。

2023.01.28説明会動画 - YouTube

たとえ新設校で教室にゆとりがあったとしても、私学が事前に設定した入学者定員を超える生徒を入学させることは基本的に許されません。理由の1つは、他の私学の経営を圧迫することにつながりかねないこと。入学者を増やした私学は儲かるかもしれませんが、その分、近隣の他の私学の入学者が減少するかもしれません。実際に、こういった私学にはペナルティとして私学助成を減らすという県もあります。東京の私学は割と横のつながりもありますので、他の私学に迷惑をかけるような募集行動は行わないのが普通です。2つめは、教育の質の低下につながりかねないこと。定員に応じて教職員を確保しているわけですから、クラスを増設するということは教職員の負担が増えるか、臨時の教員を今から雇うかの2択がせまられることになります。いずれにしても、当初の定員で運営した場合よりも教育の質は下がりますよね。このように、私学にとって定員を超える生徒を入学させるというのは内外で諸問題を引き起こしかねず、担当者の責任問題にもなる話なんです。

おそらく芝国際の方はより多くの生徒を集めたいという一心でこういうことをおっしゃったのでしょう。でも、現実にはそんなことをするはずがないんですよ。経験のある塾講師であればこの一言がリップサービスだと思うでしょう。でも、受験生の保護者の方にとっては「倍率が高くても心配ない」と文字通り受け取ってしまう可能性が高い。私が最初に述べた「学校が批判されるただ1つの側面」というのはまさにこの点であり、ここについて学校側は大いに反省されるべきではないかと思います。

ただ同時に思うのは、どうして実績のないリブランドの中学校にこれほどの受験生が集まってしまったのか、という点です。
私はもともと、共学化して国際教育を訴求すると急に受験生が集まってしまう今の中学受験の現状には批判的な立場です。以前はこんなことも呟いていました。


広尾学園、広尾学園小石川、三田国際、そして今回の芝国際と、いずれも定員割れをしていた女子校がリブランドして共学化し、国際教育への強みを訴求し、人気を集めた学校です。学校側がいわば「企業努力」によってより良い学校に変えていくことは素晴らしいことだし、その未来像に期待してお子さんを預けようという保護者の方の選択もまた理解できるものです。
しかし一方で、新設校では表面的なものしか見えないのも事実です。私はよく「学校説明会や文化祭よりも、普段の登下校の様子を見に行った方がその学校のことはよくわかる」とお話します。例えば、プレゼンテーションのプロが指南し、ムービーやスライドなどを駆使した学校説明会を行えば、ただ先生が話すだけの説明会よりも参加した保護者の方の満足度は上がるかもしれません。でも、普段の授業や登下校でそういった「装飾」はできない。ありのままの学校を知ることができるのはそういうときではないかと思うですね。でも、新設校ではそれを見ることさえできない。学校の掲げる理想が理想で終わってしまい、現実は違うものになる可能性だってあるわけです。


いわば、新設校とはリターンが明確でない投資です。既存の伝統ある学校であれば、そこでどんな教育が行われ、卒業生としてどんな人間が輩出されているかがわかりますし、それなりに学校やお子さんの将来も予想できるでしょう。一方で、新設校はどんな校風になるかもわからない。ひょっとしたら6年後にすごい結果を残すかもしれないし、開講初年度が一番人気だったということになるかもしれない。新設校に入学するというのは伝統校の場合以上に、入学する生徒・保護者もまた学校を作っていく当事者であり、学校側とともに理念を実現していく主体になっていかなければならないと思うのです。

今回不幸にして、芝国際が過去の同種のリブランド校よりも高倍率になってしまったのにはいくつもの要因があります。
・当初の予想難易度が低めに設定され受けやすい印象を与えたこと
・同ランクの私学の中では国際教育へのアピールが圧倒的に強かったこと
・三田駅徒歩2分という抜群のアクセスの良さ
・東京東部地域の私学の少なさ、特に共学校の少なさ
・東京湾岸地域での中学受験熱の高まり 
 →需要と供給がアンバランスだった状態に魅力的な学校が生まれたこと

このような状況下で人気が出る理由はよくわかります。ただ、もっと学校の中身、学校の中の「人」を見てもよいのではないでしょうか。どんなに見事な校舎を作って、素晴らしい教育理念を掲げたとしても、そこに集まる人がきちんとしていなければ素晴らしい学校にはならないはず。古いと思われるかもしれませんが、私は「教育は人」であると信じています。今回の学校説明会での発言が、果たして教育者として妥当なものと言えるでしょうか。
今回の騒動を期に、国際教育というブームに過度に流されず、学校の中身を慎重に見極める学校選びが広がっていくことを切に望みます。

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