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共通テストはどの日程を選ぶべきか

こんにちは。予備校講師・受験コンサルタントのシンノです。
6/30に2021年実施の共通テスト実施要項が公表されましたが、新しい試験になることと、新型コロナウィルス対応の特例が盛り込まれて複雑化したことから、受験生だけでなく教育関係者にもかなりの混乱が見られます。この記事では、今回の要項のポイントを整理すると同時に、高校3年生が、共通テストをどちらの日程で受験すればよいのか、その考え方をまとめてみます。

1.共通テスト・3回の対象と内容

共通テストは従来のセンター試験と同じように、本試験と、その本試験を欠席した生徒だけが受験する追試験という2回日程で実施予定でした。しかし、新型コロナウィルスの休校期間の影響で学習の遅れがみられる高校3年生を救済するという名目から、追試験を1週間遅くし、高校3年生は本試験と追試験のいずれかの日程を選択して受験できることになりました。ところが、本試験を選択した生徒が欠席した場合は追試験を受けることができますが、追試験を選択した生徒が欠席した場合は救済される試験がないという新たな問題が生じました。そこで追試験の2週間後に行うことになったのが特例追試験です。結果的に、共通テストは3回の日程が生じることになりました。まとめたものが下の表になります(追試験と特例追試験の区別がついていないツイートが散見されるのでご注意ください…)。

制度的に大きな欠陥の1つは、この特例追試験(第3日程)が本試験・追試験の問題とまったく違う「旧センター試験」型の問題が出題されるという点です。急きょ追加された日程なので、問題作成が間に合わないということなのでしょう。浪人生は日程の選択ができませんので、全員が本試験(第1日程)で出願し、欠席しても追試験(第2日程)に回りますから、特例追試験(第3日程)を受験する可能性は原則としてありません。特例追試験(第3日程)を受験する可能性があるのは、追試験(第2日程)を選択した高3生のみです。つまり、旧センター試験型は一切経験なく、受験する予定も全くなかった人しか特例追試験を受ける可能性はないということです

特例追試験(第3日程)に回る人数ですが、これは旧センター試験の追試験受験者(本試験の欠席者)数とほぼ同率と考えると、追試験(第2日程)選択者の0.1%~0.01%程度と推定されます。仮に高3生の半数が追試験(第2日程)を選択したとすると、多くて250人弱、少ないと20人強といったところで、各大学の志願者数にすると、いても1人か2人くらいになるでしょう。文部科学省は特例追試験に回った生徒も救済するように各大学へ求めていますが、その程度の受験者しかいないと比較のしようがないのではないか…という疑問も生じます。

ただ、本稿では制度の良し悪しを議論するつもりはありません。以上の条件から、高3生や進路指導の先生方が頭を悩ますことになる日程選択について、検討してみたいと思います。

2.本試験と追試験、どちらを選ぶべきか。

高校3年生がそれぞれの日程を選んだ場合のメリットとデメリットを表にまとめると以下のようになります。なお、本試験と追試験が別問題で実施される以上、難易度の違いは生じる可能性が高いですが、どの教科でどちらが難しいかはふたを開けてみないとわからないため、これは考えても仕方がない事情です(よく追試験の方が難しいと言われていますが、これを証明するためには同じ学力層が2つの試験を受けて平均点を出さないといけません。今のところそんな資料はないので、科学的に実証された説とはいえません)。とりあえず、この点は考慮に入れずに別の要素から検討すべきでしょう。

共通テストのことだけ考えるなら、追試験(第2日程)の方が有利であるように見えます。何といっても共通テストは初めての試験です。いくら試行調査があるとはいえ、試行調査は英語の民間試験や記述問題が予定されていた時代に行われているもので、実際の出題内容には不透明な部分があります。したがって、本試験(第1日程)の問題を見てから受験できるという点は非常に大きなメリットだと言えます。2週間というのは短い時間ではありますが、何らかの対応ができるだけの時間でもあり、共通テストに万全の対策をとりたいなら追試験(第2日程)を選ぶのも1つの方法です。

一方、東工大など共通テストの比重が大きくない大学を志望する受験生や、私大を中心に考えている受験生にとっては本試験(第1日程)のメリットは小さくありません。従来の日程で行われる本試験(第1日程)であれば、国公立2次まで1か月以上の準備期間が取れますが、追試験(第2日程)だとその期間は縮小し、私大の一般選抜に至っては共通テスト翌日から本格化してしまい、共通テスト後に準備できる時間は0です(私大側が日程を変更する可能性はありますが、そう簡単に動かせない事情もあります)。

このように考えると、学校における学習の遅れ以外に、各受験生の共通テストの重要度も大事な要素だと言えるでしょう(ですから、学校単位でどちらの日程で受験するかを決定するというのは、受験生にとっては望ましくない対応です)。ただ、これ以外にもいくつか考えなければいけない点があります。

1つは受験会場の問題です。すでに会場が押さえられている本試験(第1日程)と違い、追試験(第2日程)の受験会場はこれから押さえていくことになりますので、本試験会場より数が限られることが予想されます。追試験(第2日程)も各都道府県に必ず会場を設置すると大学入試センターは言うものの、例えば「北海道は札幌市だけ」でもこの条件は満たされることになります。都道府県庁所在地以外に居住する人が本試験より遠い会場になる可能性は否定できません

そして、追試験(第2日程)を選択した場合の最大の懸案は、万が一欠席した場合に特例追試験(第3日程)になるということです。これは断言できると思いますが、特例追試験に回って得することは何一つありません。上述したように特例追試験はセンター試験型で行われますので、過去問題がある点は一見有利に見えるかもしれませんが、つい2週間前までは共通テストを受ける予定だった受験生が突然センター試験型の対策をしなければならず、しかもそれを私大の入試が進行していく中で並行して行わなければいけないので、負担は非常に大きいものです。また、過去問題はあると言っても、2013~2015年の中で出題形式が変わっている教科もあり(例えば、英語なら第3問の不要文選択は2015年からの出題で、2014・2013年には出題されていません)、どんな形式が出るかはふたを開けてみないとわからない面もあります。そして何より、特例追試験受験者の合否判定は(場合によっては出願さえ)、本試験(第1日程)・追試験(第2日程)受験者と同一に行うことが困難で、各大学がどう対応するかまだまったくわかりません。

結局、この特例追試験という最大のリスクを許容できるかどうかが、日程選択の最大のポイントだと私は考えます。追試験(第2日程)を選んでも、特例追試験に回る可能性は大きく見ても0.1%です。それを無視でき、共通テストの重要性が高い受験生なら追試験(第2日程)を選んだ方がいいでしょう。でも、そのリスクを無視できないなら、追試験(第2日程)の選択は避け、本試験(第1日程)を選ぶべきです。そして、このように考えると、多くの受験生が本試験(第1日程)を選ばざるを得ないことになる、ということを大学入試センターは見越しているようにも思います。

ただでさえ新しい入試で制度が複雑化するところに、今回の特例で悩む要素が増えてしまい、2021年入試の受験生は本当に大変ですが、本記事でその悩みが少しでも晴れ、勉強に集中できることを祈っています。

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