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モンスターを描き続けて初めての挫折を通して創作活動の源泉を見つけた話

はじめてのTシャツ販売

学生の頃、僕はFacebook上に自作のモンスターを描いては日々投稿していた。継続して投稿していくうちに徐々に反応も得られるようになった。初めの頃こそモチベーションにもなったが、そのうちただ描き続けているだけではダメだ、という漠然とした危機感が襲ってきた。

あなたが転んでしまったことに関心はない。そこから立ち上がることに関心があるのだ。
I am not concerned that you have fallen – I am concerned that you arise. by Abraham Lincoln

そこで、当時一緒にTOMASON活動をしていた友人と協力してオリジナルのTシャツを作ることにした。そこで僕はTOMASONというモンスターがリンカーンの格好をしているTシャツをデザインした。なぜリンカーンなのかというと、彼の名言が当時の僕に深く突き刺さっていたからだ。早速Facebookで呼びかけて販売した。

学生が呼びかけて自身のTシャツを販売することが当時は珍しかったのか、50枚作ったTシャツはすぐになくなった。だが、このTシャツはシルクプリントで多色刷りな上に、技術的に難しい写真的な表現もあり、ブランドのタグもつけてボディも1番高いものを選んだら原価が3000円くらいになっていた。それを3500円くらいで販売していたのだからビジネスセンスが皆無だったことは言うまでもない。友人の協力もありTシャツをなんとか用意できた。(今更だけどありがとう。。)

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初めてのTシャツ販売は利益こそなかったものの、完売したことが何より嬉しかった。

僕のやることは絵を描くことには変わりないが、Tシャツというアイテムにすることで、僕の創作活動を受け取ってもらえる相手の幅が広がった。自分が提供するモノの向こう側にいる相手のことを意識できるようになった。このTシャツがあったからこそ、今の創作活動に繋がっていると思う。

第2弾として販売したTシャツは、前回の反省を生かし原価を抑えて製作することに成功し、しかも完売することができた。今でこそTシャツは誰でも気軽に作れるが、当時やはり無名の学生が作って販売していたのは珍しく、それが田舎なら尚更だった。

お客さんの顔を見て販売してみたい

思いつきで友人と始めたTOMASONのTシャツは幸先の良いスタートを切った。そしてFacebook中心の販売スタイルから手売りに変えることにした。オンラインだけのやりとりにどこか違和感のある田舎者はアナログスタイルで勝負したかったのだ。

そんなことを考えている矢先、名古屋最大規模のデザインマーケット“クリエイターズマーケット”の存在を友人から聞く。このクリエイターズマーケットというのは全国各地のアーティストが集結し、とてつもない規模でとてつもない数の人々が訪れるイベントだ。しかもクリスマス開催でめちゃくちゃモノが売れるらしい。自分を試すには絶好の機会だと思った。

僕はすぐに行動に移した。友人宅にこもって、手刷りで100枚のTシャツを作った。ブースの装飾も100均でそろえた素材を中心に手作り感満載で作った。(改めて写真で見ると本当に怪しさ満点のブースだ、こんなの誰も近寄りたくない)

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クリエイターズマーケット当日

世の中はクリスマス。僕たちはクリエイターズマーケットを迎える。お気楽なことに、会場に向かう行きの車で、友人と売り上げで焼肉を食べにいく話をしていた。終わった後のことばかり考えていた。

現実はとても残酷なもので、蓋を開けてみると100枚用意したTシャツはたったの3枚しか売れなかった。しかも、その内の2枚は身内が買ったものだ。
売り上げで焼肉どころかラーメンも食べられない結果となった。

あの日の光景は今でもトラウマのように脳裏に焼き付いている。何千人というお客さんが自分たちのブースを素通りし、100枚作ったTシャツがそっくりそのまま残り続ける悪夢。しかも僕らはサンタの格好で完全に浮かれている。悪夢でしかなかった。夢なら覚めてくれ。でも夢は覚めなかった。人生で1番辛いクリスマスとなった。

それ以降、僕はクリエイター向けのイベントに参加することはなかった。

アルバイトの先輩がくれたきっかけ

散々な結果で幕を閉じたクリエイターズマーケット。用意して大量に売れ残ったTシャツも、別の機会で販売する気にもなれずずっと家に残っていた。

少しずつ傷が癒えてきた頃、僕はいろんな人の落書きを集める活動をしていた。友人だけに留まらず、近所の幼稚園やいろんな施設にもお願いし、とにかくありとあらゆる人が描く落書きを集めていた。

そんな時、アルバイトの先輩にもお願いしたところ、ボランティアでカンボジアの孤児院を訪問するという話をされた。僕はその先輩に子どもたちの落書きをもらってきてほしい、と頼んだ。同時に僕にも子どもたちに出来ることはないか考えた。

そうだ、あの日売れ残ったTシャツがあった。

僕は売れ残ったTシャツを先輩に渡した。カンボジアのボランティア活動で役に立ててほしい、と。先輩は快く引き受けてくれた。

挫折から気づかされた創作活動の源泉

そして、数ヶ月後に写真と落書きを先輩からいただいた。そしてこう言われた。「お前のTシャツを着た子どもたちや、その様子を見た親たちも、みんな喜んでたぞ。なにより、自分もその様子を見て感動したよ。ありがとう。」 と。

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心の底が熱くなるのを感じた。

そして僕は思った。

消費されるものでなく人の心に残るものをつくりたい

のだと。

あの日3枚しか売れなかったTシャツは、僕にモノが売れることの尊さやありがたさを身に染みるほど分からせてくれたし、もっと言えば、売れることよりも、人の心を動かすことそのものにやりがいがあるのだと気付かせてくれた。

奇しくもそのTシャツのテーマはLOVE IS EVOLUTION 愛は進化、まさにそれだった。

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僕は今ありがたいことにいろんな創作活動に携わらせてもらっている。10年間毎日、自作のモンスターイラストを描くのをやめたことはない。
モンスターを描くことは本当に自分が好きなこと。それでも、なかなか気分が乗らない時や、仕事や他のことが忙しくてどうしても後回しになってしまうこともある。

どんなに好きなことでも、好きな気持ちだけでは物事は続かない。そんなとき、カンボジアの子どもたちが気付かせてくれた、僕にとって大切なことで自分を奮い立たせ、今日もなんとかアーティストをやれている。


ご覧いただきありがとうございます。頂いたサポートは創作活動に充てさせていただきます。